一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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最終章

第十八話 間違っている

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 ──ザッ

 騎士の一人に先導されて逃げようとしていたブレイドは急ブレーキを掛けた。

「何してるんだ!早く来い!」

 せっかく連れ出した保護対象が立ち止まってはバクス団長の意向に反する。騎士は焦るがブレイドは動かない。
 ブレイドの硬直にアルルも振り返った。そこには敵を取り巻いたはずの黒曜騎士団が一発の蹴りで形勢逆転しているのを見てしまう。部下はぐっと奥歯を噛み締めて焦る気持ちを抑え、冷静に語り掛ける。

「……行くぞ少年。バクス団長の……俺たちの犠牲を無駄にするな」

「違う」

 ブレイドは全身に力を入れる。ザワザワと髪が逆立ち、じわじわと肌が浅黒く変色する。

「誰も犠牲になんてさせない」

 体から魔力が立ち上り、電気がまとわりつく。ブレイドの目は金色に輝き、縦長の動向がまるで爬虫類のような無機質さを漂わせる。睨まれた騎士は恐怖に慄き、冷や汗をかいて佇んだ。それは天敵に睨まれた非捕食者のようだった。

 ドンッ

 ブレイドは地面を蹴ってバクスの元へと向かう。黒曜騎士団にとっては本末転倒の惨事。これでは関わったことが丸々無駄。放っておいた方が面倒がなくて良かったとさえ言える。

 だがブレイドには必要な事だった。人間をどの程度まで攻撃して良いものなのか、その判断が下せなかった。自分に危害を加えようとしてくるなら最悪殺してしまっても仕方がないと考えていた小屋での生活と違い、ラルフたちによって良し悪しを学んだブレイドは、魔族以外には極力攻撃してはいけないと答えを導き出していた。
 ソフィーを除いて初めて出会った人たちが多い。強いことも知っているので警戒していたが、他の連中に関しては今一歩踏み切れない線引きがあったのだ。だからバクスの横入りは渡りに舟だった。戦わない口実を手に入れたのだから。

「ドウシタ?モウ終ワリカ?」

 グランツは倒れた二人を一瞥して呆れがちに質問する。最初からこうしておけば良かったのだ。黒曜騎士団の介入などちょっと小突けば瓦解する。言って聞かないのであれば叩いて従わせる。
 弱肉強食。常に強いものが勝つのだ。

 ブレイドの踏み切れない線を軽々と踏み越えたのは獣人族アニマンのグランツ。ソフィーたちに比べ、気性の荒いグランツが手を出すのは客観的に見たら自明。しかしバクスがソフィーを全力で警戒したのは周りに比べ、圧倒的に強かったからに他ならない。
 結果は散々だったものの、バクスの警戒が正解だっただけに誰も彼を咎められない。

 踏ん反り返るグランツ。当然だ。誰も手が出せなかった状況にいち早く対応し、強さを見せつけることで黙らせた。魔力や不可思議な力ではない純粋な腕力。後先を考えない行動が場を支配する。たとえこの行動の責任が取り返しのつかないことに繋がるとしても、そんなことは考えない。いや、考えられない。
 思考能力の欠如した暴力という名の天災は、生き物の痛覚を利用して自分の思い通りに支配してしまうのだ。魔族が純粋な力を信奉するのは必然と言えよう。
 そして、無敵と思われがちな暴力にも欠点が存在する。それは──。

 ──ゴッ

 グランツの顔が歪む。
 いつ殴られたのか、どうして吹き飛んでいるのか、訳が分からなかった。
 急に横から硬い何かを豪速球で食らわされたなど比ではない威力。本来であれば絶命しそうな一撃に首が耐えられたのは、ひとえに神から力を授かったお陰だろう。年単位で眠っていた彼の体は既に相当衰えていた。叔父であるベリアを一撃でせたのも、実は全てアトムのお陰である。

 空になった多くの暮石にぶつかりながらようやく地面に落下する。身体中が痛くて立つのも一苦労だが、これだけの傷を負いながらも生きているのは幸運であると言える。

「グッ……油断シタカ……」

 グランツは立ち上がるために手に力を入れた。しかし……。

 ゴキッ

 手は指が曲がってはいけない方向に曲がってしうほど踏みつけられた。

「グアァァッ!!」

 神からもらった耐久力など意味がない。グランツは何とか首と目を動かして上を見上げる。そこにはすっかり魔族と化したブレイドが拳を握りしめて立っていた。その拳が振り上がったのを見てグランツは必死に叫んだ。

「ヤメロ!ヤメテクレ!!頼ム!!」

 その言葉にブレイドの拳がピタッと止まった。悲痛な叫びが届いたことを悟り思わず笑みが溢れたが、次の言葉で一気に沈む。

「……勉強になったか?」

 無敵と思われがちな暴力にも欠点が存在する。それは暴力を行使する者である。
 どれだけイキがってもそれ以上の力を持つ者には屈せざるを得ない。
 弱肉強食の縮図である。

 ボッ

 この瞬間、合計三発の打撃がほぼ時間差なく顔面に叩き込まれた。グランツの顔は見るも無残にへし曲がった。
 もう起き上がれない。死んではいないが、完全に気絶した。今度はいつ目覚めることか分かったものではない。 

 ブレイドはグランツの沈黙を確認し、すぐさまバスクに駆け寄る。グランツの回し蹴りでひん曲がった鎧を引っぺがす。ブレイドの力なら鎧の金具など無いも同じである。魔法をかけるなり、回復剤を使用するなり、とにかく回復しやすい形に持っていった。

「カヒュッ……はぁ、はぁ……す、すまない。助けに来たのは俺だというのに……」

「困っている時はお互い様ですよ。アルル!」

 ブレイドはアルルを呼んで回復魔法をかけてもらおうとする。

「はぁ、はぁ……お、俺のことは気にするな。回復剤を使うから……」

 苦しそうにしているバクスを見ていると申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになってしまうが、後ろ髪を引かれる気持ちを振り切ってソフィーとイザベルを見た。二人の様子は変わっていない。ガンブレイド部隊も特に動こうとしていないので、黒曜騎士団に剣を突きつけられて脅された状態のままだと考える。

「全く忌々しい。素でその力を発揮されているのであれば半人半魔ハーフこそがこの世界の到達すべき道では無いかと錯覚させられます」

 生き物は交わってより強固な遺伝子をもつ子孫を産む。ならば人間と魔族が交わったハーフと呼ばれる異形が強いのも納得のいく話。

「ですが、こちらもただ黙ってやられるわけにはいきません。さぁ、とことん殺し合いましょうブレイド……」
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