一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
686 / 718
最終章

第二十一話 やるか、やられるか

しおりを挟む
『この体を破壊したところで意味はないぞ……我ら神は肉体のない力の集合体……何度でもこの世界に降りて貴様らを狙う……命が続くのも残り僅かと知れ』

 せっかく作成したイーリス=ベリタージュの体が半分となり、抵抗するための手も消滅した。首を吊るすように掴むミーシャは敗色濃厚なくせに何故か凄むアトムを冷ややかに見据える。

「何度来ても同じことだ。私には勝てない。それでも諦めず戦い続けるというなら……何度でも相手になってやる。容赦はしない。……お前に永遠の敗北を味合わせてやる」

 金色の瞳に燃える真紅の闘志。純粋とさえ言えるその眼差しにアトムは恐怖を感じた。
 今この場で攻撃を仕掛けることだって出来る。ちょっと手を生やすだけで良いのだ。でもそれが出来ない。
 ほんのちょっとした抵抗すらする気の起きない心からの敗北。アトムはミーシャの目を見たまま固まっていた。

『ふふふっ……ふははっ!はぁーっはっはっは!!』

 もう笑うしかなかった。発狂したアトムを見てミーシャは魔力砲を撃った。首根っこから放たれた魔力砲は一瞬にしてアトムの作った体を粉微塵に吹き飛ばす。

「あ、終わった?」

 ラルフはミーシャがアトムとやりあっている間、レギオンと戦っていた。いや、正確には戦ってはいない。レギオンを次元の穴に入れては上空一万メートルから落としていた。重さで複数体ひき潰し、無事だったアンデッドも同じように上空から落としていた。最後の一体もラルフの目の前で落ちて弾けた。
 ミーシャは先のアトムの言動を思い出しため息をついた。

「全くしつこい奴だ。もし次があるとしたら今度は何で来ると思う?」

「さぁな。どうせ巨大な何かだろうけど、出来ればもう会いたくねぇな……よしっ!じゃブレイドたちのところに行くか!」

 ラルフは重い空気にさせないようにニカッと笑顔を作った。ミーシャはそんなラルフを見て肩を竦めると「うん」と一つ頷いた。



 次元の穴を跨いだラルフはイザベルとアルルの間に挟まれるように出て来た。
 この世界の創造主を相手にしていたはずの男がまるで何事も無かったかのようにそこにいるのは何かの冗談のようにさえ思えた。

「ちょっ……おいおい、取り込み中だったか?頼むから攻撃はしないでくれよ?」

 軽口を叩いたラルフを見てソフィーが怒り狂った。

「ラルフ!!」

 血管が浮き出るほどの力が入った全身から発せられる爆発力は地面を抉り、消えるように移動を開始した。心の底から愛していた昔の仲間、イーリスの持っていた槍を覚えている範囲で復元した特注の槍。この自慢の槍を突進の勢いと共に突き出してラルフに迫る。

 何がそこまで腹に据えかねたのか。正直、当事者であるはずのソフィーですら正確に把握していない。どうしてゼアルやマクマイン公爵、鋼王やアロンツォ等の実力者や有力者たち、神ですらがこの草臥れたハットの男に注目するのか全くの謎だった。今の状況はまさにそれ。

 だが理解した。頭ではなく心で理解した。
 こいつは全てを台無しにする生きていてはいけない男だ。この世に居るはずのない存在だ。居てはいけない矛盾に満ちた異端者だ。

 この瞬間、彼女はアンデッドキラーでも復讐者でもなくなった。神の名の下にラルフという世界の歪を消すためだけに力を使う正義と化した。

 ──ィィィィンッ

 しかし思いも信念も神の御技も、唯一王の前には紙くず同然。ミーシャに握り止められた槍は元からそうであったかのようにピタリと固定される。ソフィーが残像すら残さず飛び込んだ勢いも、まるで時が止まったかのようだ。背後から押し寄せる風圧だけが彼女が動いていたことを証明していた。

「私を出し抜いてラルフを殺せるとでも思った?」

みなごろし……!?」

 その言葉にミーシャの眉間にシワが入る。

「私はその名が嫌いだ」

 パァンッ

 ミーシャはソフィーの胸を叩いた。張り手の如く突き出された攻撃に、ソフィーは槍を保持してられずに吹き飛ばされた。ここで一度も倒れなかったソフィーの体は地面に転がり、新品同然の服が砂まみれになった。恨みがましい目でミーシャを見上げる。その顔にかつて完膚無きまでに叩き潰した女の顔が被った。

「ん?お前よく見たら戦ったことがあるな。手足がなくなって虫の息だった奴とそっくりだ」

「ふふ……まさにそれが私ですよ。覚えていませんか?あなた方が殺しを必要と感じるか、私があなた方を殺すのか、二つに一つ……この文言を」

「あ、なんか聞いたような……聞いてないような……」

 ミーシャは腕を組んで唸った。

「覚えていなくて結構。どの道ここで答えが出ます」

 ソフィーはゆっくりと立ち上がる。よっぽど痛かったのか、突っ張られた胸を押さえて少し苦しそうだ。

「……ただ残念なことに私の力ではこれ以上のパフォーマンスを見せることは適いません。あなたの命に少しでも近づこうと思うならば、覚悟を決めなければ……」

「?……何の覚悟?」

 ミーシャの疑問にソフィーは口角を上げて不敵に笑う。

「……この身を捧げる覚悟ですよ。アトム様!!」

 バッと両手を横に開いて上空を見上げる。何もない虚空に構わず語りかける。

「私の体を使い!この者に裁きをお与えください!!あなたのためならばこの身を永遠に捧げます!!」

 自分を犠牲に世界を救おうと考えているようだ。自己犠牲の精神を振りかざしているが本心は違う。彼女は自殺願望があるので実際はヤケになっているだけだ。
 ソフィーの懇願するかのような祈りは空中に溶け、場はしんっと静まり返る。彼女は首を傾げながら空を見続ける。アトムは彼女の覚悟に答えなかった。
 ソフィーの頭によぎったのはエレクトラだ。最初に力を与えてくれた神様。ミーシャに勝てなかったソフィーに愛想を尽かし、与えた力を回収していった。
 今回も同じか。今はまだ力を回収された気配はないが、肝心のアトムも見当たらない。また裏切られたのだ。結局自分が戦うしかないのか。

『良い心がけだね。さすがは信心深い一角人ホーン

 傷心のソフィーに話しかけたのはアシュタロトだった。

「おいおい、待てよアシュタロト。まさかお前……」

『だったら……どうする?ラルフ』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...