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最終章
第二十六話 阻んで見せろ
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(まだ魔力はある。戦えるだけの体力も有り余っているくらい。でも……)
ソフィーは魔力で作った槍を振り回し、ミーシャの魔力砲を弾く。完璧に対処しているソフィーの戦闘能力にミーシャはニヤリと笑った。
「ふふっ……いいね。まだついてくるんだ」
ミーシャは魔力を追加で全身に送る。さらに鋭敏に、さらに強力に。
(いったい……いつまで続ければいいの?)
ソフィーの心は少し折れかかっていた。
アトムとアシュタロトのお陰で想像を絶する力手に入れた。この力があれば魔族の大群だろうが古代種だろうが一蹴出来る。それほどの自信がある。なのに……。
──ドンッ
ミーシャに一気に間合いを詰められ、拳を振るわれた。すぐさま槍を交差させて拳を受けるが、その威力に槍は耐えきれずに折れる。顔面に迫った拳に戦慄する。
ゴッ
ソフィーの顔面にミーシャの拳が入る。いや、正確には額だ。ソフィーは避けられないと見るや、拳に合わせて頭突きを放った。
額から生まれつきある角と、ミーシャの魔力で固めた拳。押し負けたのは互いの皮膚である。手の甲と額から止め処なく溢れる血液。痛みと苛立ちから歯を食いしばったその表情はまるで”鬼の形相”。
「……まだいけるでしょ?」
ミーシャの無邪気な質問。それと同時に皮膚の破れた拳の傷が瞬時に治り、血が単なる汚れとして付着している。
それはソフィー側も一緒で、額から吹き出していた血がいつの間にか止まり、これから行われるであろう究極の戦いに思いを馳せる。
背筋の凍る質問だったが、ソフィーは極めて短くその意思を汲んだ。
「……はい」
覚悟に満ちた目だ。ソフィーは自身の額を切った痛みと共に精神の限界を超えた。
どちらかが死ぬまで終われないのであれば、死ぬまで戦い続ける。例え自分が死ぬことになろうとも、戦って戦って、戦い抜いて力を出し切れば良い。
勝てそうで勝てない、その上無限再生する戦闘狂の敵を相手にどうすれば良いのかと心が疲弊していたが、何の事は無い自分も同じ領域に立てば良い。
ただあれをしたら勝てたとか、こうしたら大丈夫だったとか、そんな悔いのある戦い方だけはしない。全身全霊に真っ向から叩き潰す。
折れた骨が再生と共に強度を増すように、折れた精神もまた強度を増すのだ。
誰も追いつけない果てなき戦いへと二つの最強の世界に入ろうとお互いを確認し合うこの一瞬、止まった二人に対してラルフが動き出す。
「今だ!」
その掛け声に合わせたように発動する魔法は、ミーシャの楽しみとソフィーの覚悟をぶち壊すものだった。
──ブワァッ
足元に突如として広がる魔法陣。急に現れた紅い魔法陣に二人の動きが止まり、何が起こったのかと驚愕に彩られた表情で辺りを見渡す。
「……全く。うるさいですよラルフ。回避されでもしたらどうするつもりだったのです?」
赤いドレスに身を包んだ白い肌の魔族。何よりも目立つその姿に気づけなかったのは命の取り合いという極限状態の集中力が周りに向かわなかったためだ。
「……イミーナ?」
ミーシャもようやくその存在に気づく。同時に何が起こったのかも察した。
反転魔法”アンチフィールド”。
紅い魔法陣が意味するのは阻害。今回の術式は魔法や魔力の一切を阻害し、純粋な身体能力だけに絞られた。
「本当にこれで良かったんですか?ラルフさん」
アルルも阻害魔法の一端を担う。この魔法はイミーナの紅い槍と呼ばれる魔法を応用したアスロンのオリジナル魔法だ。孫のアルルにはもちろん、派生元であるイミーナにもやり方を教えていたようだ。
困惑するアルルにラルフは答える。
「良いんだよ。俺たちの目的はあくまで魔鉱石の取得だからな。元々の用事を忘れていつまでも戦ってなんていられないんだよ」
その返答にアルルは唇を尖らせた。
確かにその通りなのだが、アシュタロトとのやり取りを目の前で見せられた一人として、相手の覚悟に泥を塗るやり方はあんまりではないだろうかと感情的に思う。ブレイドはそんなアルルの気持ちを察して肩を叩いた。
「理屈の上ではラルフさんの言う通りだけど、アルルには腑に落ちないよな。……ふっ、心配するなアルル。だってラルフさんだぞ?」
ブレイドの言葉にアルルもハッとする。ラルフは理屈をこねくり回して相手を諭そうとするが、その根底にあるのはいつだって仲間を思う感情である。
実際横やりを入れることにしたのは、ソフィーが思った以上に強かったためである。ミーシャなら一度の攻防である程度の格付けを終わらせるのだが、今回はほぼ同等の力であることが傍目でも分かったので、命の取り合いを考慮して万が一を警戒したのだ。
「私たちの邪魔をするな!今一番ノリに乗ったところだったんだから!!」
ミーシャはソフィーとの戦いを気に入っていたらしい。しかしラルフはこれを否定する。
「嫌なこった!!もう疲れたんだよ!さっさと終わらせて帰らせてもらうぜ!!」
ラルフは二人に向かって歩き出す。どうやったら相手を無力化出来るだろうと考え、ふと良いことを思いついたラルフは急ぎソフィーのもとに向かおうとする。
しかし──。
『それはちょっとないんじゃないかな?』
アシュタロトに阻まれる。
「は?何だよ。マクマインの時やゼアルの時にも邪魔しなかった癖にソフィーは別だってのか?」
『あれとは根本的に違うでしょ。せっかく僕が力を分け与えたってのに、それを蔑ろにされちゃ困るって言うか?いい感じだったのに水を差してさ……僕を怒らせないでよ』
女児から発せられる殺気がある種の恐怖を掻き立てる。
可愛さの中にある狂気。幼さで誤魔化された鋭利な刃物。抗えない圧倒的な力。
全てが合わさった絶対強者の存在を前にしてラルフはニヤリと笑った。
「そこを退けとは言わねぇよ。俺を阻んで見せろよ。アシュタロト」
『見上げた度胸だね。可愛げのあったあの頃に戻してあげたいなぁ……でもダメだよね。一度知ってしまった飴の味を忘れることなんて出来ないから』
ソフィーは魔力で作った槍を振り回し、ミーシャの魔力砲を弾く。完璧に対処しているソフィーの戦闘能力にミーシャはニヤリと笑った。
「ふふっ……いいね。まだついてくるんだ」
ミーシャは魔力を追加で全身に送る。さらに鋭敏に、さらに強力に。
(いったい……いつまで続ければいいの?)
ソフィーの心は少し折れかかっていた。
アトムとアシュタロトのお陰で想像を絶する力手に入れた。この力があれば魔族の大群だろうが古代種だろうが一蹴出来る。それほどの自信がある。なのに……。
──ドンッ
ミーシャに一気に間合いを詰められ、拳を振るわれた。すぐさま槍を交差させて拳を受けるが、その威力に槍は耐えきれずに折れる。顔面に迫った拳に戦慄する。
ゴッ
ソフィーの顔面にミーシャの拳が入る。いや、正確には額だ。ソフィーは避けられないと見るや、拳に合わせて頭突きを放った。
額から生まれつきある角と、ミーシャの魔力で固めた拳。押し負けたのは互いの皮膚である。手の甲と額から止め処なく溢れる血液。痛みと苛立ちから歯を食いしばったその表情はまるで”鬼の形相”。
「……まだいけるでしょ?」
ミーシャの無邪気な質問。それと同時に皮膚の破れた拳の傷が瞬時に治り、血が単なる汚れとして付着している。
それはソフィー側も一緒で、額から吹き出していた血がいつの間にか止まり、これから行われるであろう究極の戦いに思いを馳せる。
背筋の凍る質問だったが、ソフィーは極めて短くその意思を汲んだ。
「……はい」
覚悟に満ちた目だ。ソフィーは自身の額を切った痛みと共に精神の限界を超えた。
どちらかが死ぬまで終われないのであれば、死ぬまで戦い続ける。例え自分が死ぬことになろうとも、戦って戦って、戦い抜いて力を出し切れば良い。
勝てそうで勝てない、その上無限再生する戦闘狂の敵を相手にどうすれば良いのかと心が疲弊していたが、何の事は無い自分も同じ領域に立てば良い。
ただあれをしたら勝てたとか、こうしたら大丈夫だったとか、そんな悔いのある戦い方だけはしない。全身全霊に真っ向から叩き潰す。
折れた骨が再生と共に強度を増すように、折れた精神もまた強度を増すのだ。
誰も追いつけない果てなき戦いへと二つの最強の世界に入ろうとお互いを確認し合うこの一瞬、止まった二人に対してラルフが動き出す。
「今だ!」
その掛け声に合わせたように発動する魔法は、ミーシャの楽しみとソフィーの覚悟をぶち壊すものだった。
──ブワァッ
足元に突如として広がる魔法陣。急に現れた紅い魔法陣に二人の動きが止まり、何が起こったのかと驚愕に彩られた表情で辺りを見渡す。
「……全く。うるさいですよラルフ。回避されでもしたらどうするつもりだったのです?」
赤いドレスに身を包んだ白い肌の魔族。何よりも目立つその姿に気づけなかったのは命の取り合いという極限状態の集中力が周りに向かわなかったためだ。
「……イミーナ?」
ミーシャもようやくその存在に気づく。同時に何が起こったのかも察した。
反転魔法”アンチフィールド”。
紅い魔法陣が意味するのは阻害。今回の術式は魔法や魔力の一切を阻害し、純粋な身体能力だけに絞られた。
「本当にこれで良かったんですか?ラルフさん」
アルルも阻害魔法の一端を担う。この魔法はイミーナの紅い槍と呼ばれる魔法を応用したアスロンのオリジナル魔法だ。孫のアルルにはもちろん、派生元であるイミーナにもやり方を教えていたようだ。
困惑するアルルにラルフは答える。
「良いんだよ。俺たちの目的はあくまで魔鉱石の取得だからな。元々の用事を忘れていつまでも戦ってなんていられないんだよ」
その返答にアルルは唇を尖らせた。
確かにその通りなのだが、アシュタロトとのやり取りを目の前で見せられた一人として、相手の覚悟に泥を塗るやり方はあんまりではないだろうかと感情的に思う。ブレイドはそんなアルルの気持ちを察して肩を叩いた。
「理屈の上ではラルフさんの言う通りだけど、アルルには腑に落ちないよな。……ふっ、心配するなアルル。だってラルフさんだぞ?」
ブレイドの言葉にアルルもハッとする。ラルフは理屈をこねくり回して相手を諭そうとするが、その根底にあるのはいつだって仲間を思う感情である。
実際横やりを入れることにしたのは、ソフィーが思った以上に強かったためである。ミーシャなら一度の攻防である程度の格付けを終わらせるのだが、今回はほぼ同等の力であることが傍目でも分かったので、命の取り合いを考慮して万が一を警戒したのだ。
「私たちの邪魔をするな!今一番ノリに乗ったところだったんだから!!」
ミーシャはソフィーとの戦いを気に入っていたらしい。しかしラルフはこれを否定する。
「嫌なこった!!もう疲れたんだよ!さっさと終わらせて帰らせてもらうぜ!!」
ラルフは二人に向かって歩き出す。どうやったら相手を無力化出来るだろうと考え、ふと良いことを思いついたラルフは急ぎソフィーのもとに向かおうとする。
しかし──。
『それはちょっとないんじゃないかな?』
アシュタロトに阻まれる。
「は?何だよ。マクマインの時やゼアルの時にも邪魔しなかった癖にソフィーは別だってのか?」
『あれとは根本的に違うでしょ。せっかく僕が力を分け与えたってのに、それを蔑ろにされちゃ困るって言うか?いい感じだったのに水を差してさ……僕を怒らせないでよ』
女児から発せられる殺気がある種の恐怖を掻き立てる。
可愛さの中にある狂気。幼さで誤魔化された鋭利な刃物。抗えない圧倒的な力。
全てが合わさった絶対強者の存在を前にしてラルフはニヤリと笑った。
「そこを退けとは言わねぇよ。俺を阻んで見せろよ。アシュタロト」
『見上げた度胸だね。可愛げのあったあの頃に戻してあげたいなぁ……でもダメだよね。一度知ってしまった飴の味を忘れることなんて出来ないから』
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