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最終章
第二十七話 決別
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「イミーナ!この魔法を今すぐやめろ!私には必要ないものだ!」
ミーシャは喚く。せっかくソフィーとの戦いに白熱し始めた頃だというのに、今止められては欲求不満ということか。
いや、そうではない。ミーシャは焦っていた。アシュタロトと名乗る神の存在に。ラルフとイミーナをチラチラと交互に見ているミーシャを見れば一目瞭然だ。
イミーナは眉をへの字に曲げながら苦笑する。
「いいえ。ミーシャに必要なくとも、私は必要であると認識しています」
「お前は私の命令に背けないはずだ!今すぐにこの魔法を解け!」
ミーシャとイミーナの間で取り決められた”血の契約”。これを一度結べば、主に定めた者がその契約を破棄するまで主従の関係となり、その者のいいなりとなる絶対忠義の証。
だがイミーナは即座に否定する。
「解きません。確かに血の契約によってあなたとは完全な主従関係にあり、命令は絶対です。しかし一つだけ主従関係の垣根を取っ払って命令であれ実行しないで良い事象があります。それは主人の命が危険に晒されている時です」
「命の危機?」
ミーシャはパッとソフィーを見た。魔力増幅のために8本の角を生やすことになったソフィーは、遠くで見れば女王のように荘厳に見えなくもないが、近くで見たら不気味である。取り付けたのではなく生やしているのだから尚のこと心に来るものがある。
無理矢理でも強くなるためには多少のリスクは追うべきなのだろうか……。そんな風に考えながら首を振った。
「……いや、私が負ける訳がないだろう?!どんなに敵が強くなったっていつだって私の方が強いんだから!」
至極当たり前であると豪語するミーシャにイミーナはニヤリと笑った。
「ふふっ、傲慢ですよミーシャ。どれほどあなたが強かろうとも死は唐突に訪れます。私があなたの背後に一発お見舞いしたことを忘れたとは言わせませんよ?」
ミーシャは顔を顰める。第二魔王”鏖”を名乗らされていた当時、古代竜関連の任務での一幕。
そんなこともあるにはあったようだが全く思い出せない。何せ第五魔王”蒼玉”の特異能力で記憶を消されてからか、裏切られた辺りがピンポイントで抜け落ちている。どのように裏切られたのか、その時の心情などが想像出来ない。
ミーシャはイミーナの言葉に口を噤み、その様子にイミーナは一つ頷く。
「まぁそういうことです。せっかくだからラルフの奇策を観賞しましょう。きっと楽しいですよ?」
ミーシャにとっては楽しくない。ソフィーと赤いドーム状の術式に捕らえられ、動けずにいるのだ。正確には身体能力同士で戦えば良いのだが、それで決着というのは味気ないし、何よりソフィーが戦意を喪失している。
神によりせっかく強化されたというのに、何でこんなにも簡単に力を押さえ込まれたのか。ソフィーには意味が分からない。状況が飲み込めずに佇んでいる。
「……ラルフ……」
そんなソフィーを視界の隅に追いやり、ラルフとアシュタロトの対立を見守る。
『はぁ……たく、これじゃただの弱いものいじめじゃないか。ほら、出てきなよサトリ。君くらいじゃないと話になんないよ?このまま僕とラルフの逢瀬を見守るっていうならそのままでもいいけどさ……』
アシュタロトは呆れたようにため息をつき、ラルフの中に滞在しているであろうサトリを呼ぶ。
「おいやめろ。サトリに出て来られたら俺の意識が持っていかれるんだよ。しかも何が逢瀬だ。俺と蜜月の夜を過ごしたいってんなら、俺が寂しさから枕を濡らしている時にそっと現れろ。そんくらいしないと俺の心は微動だにしないぜ?」
『どうだか。僕の記憶じゃ君の方から肉体関係を迫ってきたと思うけど?』
場が凍りつく。アシュタロトに対するラルフの突っかかっていった返事にも場が冷える勢いだというのに、肉体関係を迫ったなど生々しい表現が出たら周りがどう思うかなど分かりそうなものだ。
「……ラルフ?」
ミーシャの顔に生気が抜ける。ラルフはヒュンッと玉が縮み上がる感覚を覚え、即座に訂正する。
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!逆だ逆っ!お前が迫って来たじゃねぇかよ!!忘れたとは言わせねぇぞ!!」
ラルフの必死な抵抗。アシュタロトは鈴の音のようにコロコロと笑った。
ペースを乱されている。このままではアシュタロトに場を支配されると思ったラルフは、おもむろに右手をかざした。
『お?本気で僕とやり合う気かい?そんなことしなくたって、あの娘たちの魔法を解除してくれるだけで良いんだよ?そしたら僕だって何もしないさ。ほらほら~今ならまだ間に合うよ?』
ひらひらと手を振ってラルフに選択の機会を与える。
「お前は優しいなアシュタロト。問答無用でアルルとイミーナを狙えたってのに、そういうことをせずに選択肢を与えるなんてさ……」
『ふっふ~ん。そうでしょ?僕は慈悲深いからね。でもさ、本気で対立したいってんならやりたいことをやりなよ。けどそれは今の僕との決別を意味してるけどね』
ラルフの頬に一筋の汗がこぼれ落ちる。
「お前を敵に回したかねぇが、それ以上に誰も死んでほしくねぇのよ。だからさ、俺の行為を許してくれとは言わねぇぜ」
ギュっと拳を握る。それと同時にバキンッとガラスを踏んだような音が響いた。
「きゃああぁぁっ!!」
絶叫が鳴り響く。その叫び声にアシュタロトは思わず振り返った。
ソフィーが頭を抱えて苦しんでいる。元々あった額の角以外の8本の角が半分くらい折れて失くなっているのが目に飛び込んだ。いきなりのことに全員が驚愕している。
キィンッ
その音はラルフから鳴った。その手に握られていたのはソフィーの角と思しき尖った水晶。
こっそりソフィーの頭の上に次元の穴を出現させ、穴の開閉で角を切断したようだ。それも8本同時に。
”次元断”。現段階において場所や距離、魔力や身体能力等を一切考慮せずに使用出来るのはラルフのみ。理論上使用可能なのはラルフを除くミーシャとゼアルの二人のみとされる。
『……やったなぁ?』
アシュタロトはラルフを睨み付ける。その目は目玉がこぼれ落ちそうなほど見開き、亀裂が入ったような笑みを浮かべ、狂気に満ちた表情をしていた。何を考えているのか読めない。少なくとも怒っていることだけは確かだ。
「ああ、これが俺の答えだ」
ラルフはソフィーの声に顔を顰めながら真剣にアシュタロトとの対立を望んだ。
ミーシャは喚く。せっかくソフィーとの戦いに白熱し始めた頃だというのに、今止められては欲求不満ということか。
いや、そうではない。ミーシャは焦っていた。アシュタロトと名乗る神の存在に。ラルフとイミーナをチラチラと交互に見ているミーシャを見れば一目瞭然だ。
イミーナは眉をへの字に曲げながら苦笑する。
「いいえ。ミーシャに必要なくとも、私は必要であると認識しています」
「お前は私の命令に背けないはずだ!今すぐにこの魔法を解け!」
ミーシャとイミーナの間で取り決められた”血の契約”。これを一度結べば、主に定めた者がその契約を破棄するまで主従の関係となり、その者のいいなりとなる絶対忠義の証。
だがイミーナは即座に否定する。
「解きません。確かに血の契約によってあなたとは完全な主従関係にあり、命令は絶対です。しかし一つだけ主従関係の垣根を取っ払って命令であれ実行しないで良い事象があります。それは主人の命が危険に晒されている時です」
「命の危機?」
ミーシャはパッとソフィーを見た。魔力増幅のために8本の角を生やすことになったソフィーは、遠くで見れば女王のように荘厳に見えなくもないが、近くで見たら不気味である。取り付けたのではなく生やしているのだから尚のこと心に来るものがある。
無理矢理でも強くなるためには多少のリスクは追うべきなのだろうか……。そんな風に考えながら首を振った。
「……いや、私が負ける訳がないだろう?!どんなに敵が強くなったっていつだって私の方が強いんだから!」
至極当たり前であると豪語するミーシャにイミーナはニヤリと笑った。
「ふふっ、傲慢ですよミーシャ。どれほどあなたが強かろうとも死は唐突に訪れます。私があなたの背後に一発お見舞いしたことを忘れたとは言わせませんよ?」
ミーシャは顔を顰める。第二魔王”鏖”を名乗らされていた当時、古代竜関連の任務での一幕。
そんなこともあるにはあったようだが全く思い出せない。何せ第五魔王”蒼玉”の特異能力で記憶を消されてからか、裏切られた辺りがピンポイントで抜け落ちている。どのように裏切られたのか、その時の心情などが想像出来ない。
ミーシャはイミーナの言葉に口を噤み、その様子にイミーナは一つ頷く。
「まぁそういうことです。せっかくだからラルフの奇策を観賞しましょう。きっと楽しいですよ?」
ミーシャにとっては楽しくない。ソフィーと赤いドーム状の術式に捕らえられ、動けずにいるのだ。正確には身体能力同士で戦えば良いのだが、それで決着というのは味気ないし、何よりソフィーが戦意を喪失している。
神によりせっかく強化されたというのに、何でこんなにも簡単に力を押さえ込まれたのか。ソフィーには意味が分からない。状況が飲み込めずに佇んでいる。
「……ラルフ……」
そんなソフィーを視界の隅に追いやり、ラルフとアシュタロトの対立を見守る。
『はぁ……たく、これじゃただの弱いものいじめじゃないか。ほら、出てきなよサトリ。君くらいじゃないと話になんないよ?このまま僕とラルフの逢瀬を見守るっていうならそのままでもいいけどさ……』
アシュタロトは呆れたようにため息をつき、ラルフの中に滞在しているであろうサトリを呼ぶ。
「おいやめろ。サトリに出て来られたら俺の意識が持っていかれるんだよ。しかも何が逢瀬だ。俺と蜜月の夜を過ごしたいってんなら、俺が寂しさから枕を濡らしている時にそっと現れろ。そんくらいしないと俺の心は微動だにしないぜ?」
『どうだか。僕の記憶じゃ君の方から肉体関係を迫ってきたと思うけど?』
場が凍りつく。アシュタロトに対するラルフの突っかかっていった返事にも場が冷える勢いだというのに、肉体関係を迫ったなど生々しい表現が出たら周りがどう思うかなど分かりそうなものだ。
「……ラルフ?」
ミーシャの顔に生気が抜ける。ラルフはヒュンッと玉が縮み上がる感覚を覚え、即座に訂正する。
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!逆だ逆っ!お前が迫って来たじゃねぇかよ!!忘れたとは言わせねぇぞ!!」
ラルフの必死な抵抗。アシュタロトは鈴の音のようにコロコロと笑った。
ペースを乱されている。このままではアシュタロトに場を支配されると思ったラルフは、おもむろに右手をかざした。
『お?本気で僕とやり合う気かい?そんなことしなくたって、あの娘たちの魔法を解除してくれるだけで良いんだよ?そしたら僕だって何もしないさ。ほらほら~今ならまだ間に合うよ?』
ひらひらと手を振ってラルフに選択の機会を与える。
「お前は優しいなアシュタロト。問答無用でアルルとイミーナを狙えたってのに、そういうことをせずに選択肢を与えるなんてさ……」
『ふっふ~ん。そうでしょ?僕は慈悲深いからね。でもさ、本気で対立したいってんならやりたいことをやりなよ。けどそれは今の僕との決別を意味してるけどね』
ラルフの頬に一筋の汗がこぼれ落ちる。
「お前を敵に回したかねぇが、それ以上に誰も死んでほしくねぇのよ。だからさ、俺の行為を許してくれとは言わねぇぜ」
ギュっと拳を握る。それと同時にバキンッとガラスを踏んだような音が響いた。
「きゃああぁぁっ!!」
絶叫が鳴り響く。その叫び声にアシュタロトは思わず振り返った。
ソフィーが頭を抱えて苦しんでいる。元々あった額の角以外の8本の角が半分くらい折れて失くなっているのが目に飛び込んだ。いきなりのことに全員が驚愕している。
キィンッ
その音はラルフから鳴った。その手に握られていたのはソフィーの角と思しき尖った水晶。
こっそりソフィーの頭の上に次元の穴を出現させ、穴の開閉で角を切断したようだ。それも8本同時に。
”次元断”。現段階において場所や距離、魔力や身体能力等を一切考慮せずに使用出来るのはラルフのみ。理論上使用可能なのはラルフを除くミーシャとゼアルの二人のみとされる。
『……やったなぁ?』
アシュタロトはラルフを睨み付ける。その目は目玉がこぼれ落ちそうなほど見開き、亀裂が入ったような笑みを浮かべ、狂気に満ちた表情をしていた。何を考えているのか読めない。少なくとも怒っていることだけは確かだ。
「ああ、これが俺の答えだ」
ラルフはソフィーの声に顔を顰めながら真剣にアシュタロトとの対立を望んだ。
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