一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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最終章

第三十八話 理不尽極まる

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 共同墓地を改装中のイルレアンにある報告が入った。

「陛下!」

 走ってくる大臣を目にして何とは言わずため息が漏れる。破壊された共同墓地の視察という公務を終えて戻ってきたばかりのことだ。親族に対するお悔やみと侵入者たちの排除から国内の安全への取り組みに従事する旨をスピーチさせられたばかりだというのに。

「そう急くな!儂は今帰ってきたばかりじゃぞ?全く……ジラルの奴はどこじゃ!忙しくてかなわんわ!!」

 イルレアン国の国王はわがままいっぱい騒ぎ立てる。国王は催事にのみ現れてほんの2分スピーチをするだけという為体で日々を生きてきた。全てはジラル=ヘンリー=マクマイン公爵が事を勧めて来たので、公爵が”王の集い”から外されて以降、国王のやるべきことが激増したのだ。
 最終決定を王がやるのは当然のことなのだが、一度公爵に目を通させ、判断を仰いでから決断するのが常態化していたので、それが使えなくなった現状仕事が滞って山積みとなっている。そんな中にやって来た報告など聞きたくもないと思うのは当然のこと。
 しかし大臣はそんなことなど御構い無しに報告を続ける。

「陛下。西の大陸にて何やら動きがあるとの情報が入ってまいりました。ジュードで救援要請を受けたとも報告が入っております」

「救援要請だと?そんなものヴォルケインの王に任せておけ。どうせここからじゃ救援なんぞ間に合わんわ」

 国王は蓄えた白いヒゲと皮下脂肪を揺らしながらドカドカと歩く。それに付き従うように大臣は背後から進言する。

「しかし陛下。ジュードとの国交を結んだ時に支援を約束しております。ここで見捨てては国の威信に関わるものと愚考します。何卒ご検討ください」

「なにぃ?全く何処のどいつだ!ジュードなんぞと国交を結ぼうなどと言い出した奴は!!」

「ジラル=ヘンリー=マクマイン公爵にございます」

「ジラル……!?余計なことをしおって!……で?!どういう訳で救援要請を掛けとるんじゃ?魔族侵攻ならとっとと軍を率いて……」

「それが……無断で森林伐採をしたものがいて、それを武力鎮圧して欲しいということでして……」

 この言葉には国王も憤慨する。

「ふざけるな!!その程度のことで救援要請などこの儂を試しているつもりか!!居住区風情が生意気な!!そんなものは無視しろ!!」



「やはりダメか……」

 議長は頭を抱える。すぐ側にあった森林が瞬時に切り倒され、切り株だらけになるという珍事。自然豊かな土地の崩壊は居住区全土を揺るがせた。
 口々に魔族の仕業だと言ったり、新たな魔獣の到来を吹聴する者もいたが、中にはラルフというヒューマンの仕業であることを仄めかす声があった。
 近隣諸国から同盟を結んだありとあらゆる国に救援を要請したが、皆ラルフという名前で口籠もり、挙句は運が悪かったのだと見捨てられた。イルレアンには敢えてラルフの名を出さなかったが、たかが森林伐採と国王にすら繋いでもらえない始末。
 後ろ盾を得られなかったジュードは孤立無援となり、犠牲覚悟で原因の究明に乗り出すことになった。

「あの草臥れたハットの男。どれほど危険な男なのか……各国の王が口を閉ざす個人とはいったい……」

 議長の心は戦々恐々としている。いや、ジュードの民全員が同じ気持ちだ。オークが滅んで平和を掴んだと思った矢先の出来事に肩を落とす。「平和」とは”安心安全”と書かれた薄氷の上でダンスを踊るほどに嘘にまみれ、脆く危険で儚いものなのだと実感した。いつ崩壊しても文句は言えない。

 そんなジュードの人々を絶望させたのはジニオンである。
 オークを絶滅に追い込むのに健闘したのもジニオン。森林を問答無用に伐採したのもジニオン。ジュードの安寧は八大地獄が居なくならない限り訪れることはない。

「……おいおい、やってくれたなぁ……」

 館長から聞いた木々を見つけたラルフたちは早速確認のために樹脂を採取しようとしたが、それをジニオンが静止した。「まぁ見とけって」そういって取り出した無骨な大斧を振り回し、一気に木々を伐採した。得意満面なジニオンにラルフは詰め寄る。

「何だよ?俺が何か間違ったか?木を伐採するんだろ?」

「加減しろよ!この街の生活基盤でもあるんだぞ!」

 ラルフはほとんど伐り倒された木々を指さしながら抗議した。ジニオンは目を白黒させる。自分は仕事をこなしただけなのに本気でここまで怒られる理由が思い当たらない。民草の生活にまで配慮する意図がジニオンには理解出来ないのだ。
 何故なら、どうせこの世界から出て行くのだから、そんな目先のことに囚われるのは馬鹿馬鹿しいだろうという見解から。

「ラルフ。伐採したものは仕方がありませんわ。こうなったら使ってあげるのが木々の供養にもなります」

「そうよ。とっとと回収して絵の具作んないとダメなんでしょ?それでどれが材料になるの?」

 メラとノーンは即刻切り替えて諦めを口にし、それに賛同したウィー以外の全員が木を集め始める。

「手間が省けただろ?ちまちまやってる暇がねぇって言ったのはオメーさんだってことを忘れたとは言わせねぇぞ?」

 ジニオンも笑いながらラルフの頭を叩き、回収に参加する。

「お、お前らなぁっ!もっと原住民のことを考えなきゃダメだぜ!ちょっ……おい!聞いてんのか?!」

 ラルフは一人騒がしくしているが、内心吹っ切れている。メラやノーンの言う通り、もう伐れてしまったものはしょうがない。元に戻す術もないのだから回収するのがベスト。
 ジュリアや歩がテキパキと目的の木に印をつけ、それを一箇所に運ぶ。あとはラルフが異次元に放り込んで終了だ。

「連れて行く人員は性格で選ぶべきだな……今後の課題だぜ。なぁウィー」

「ウィー!」

 ウィーは今回の木々の捜索から持ち運びに関して一切力にはならなかったが、ラルフの唯一の心の清涼剤になった。

 木々の発見から回収までを四半刻と掛からず遂行出来た一行は早速拠点に戻って樹脂作りに入る。
 といっても全くの初心者である彼らに塗料製作は不可能である。ここはやはりいつもの手を使わざるを得ない。

「アンノウン。塗料作りに適した召喚獣を頼むぜ」

「何それ。すっごい限定的な召喚獣になるじゃん。製作だけならヘパイストスに任せて良さそうだけど、塗料となれば芸術の神様とか良さそうだね。誰が司ってたかな……」

 唸るアンノウンにおずおずと歩が手を挙げた。

「あ、あの……アポロンとかどうです?」

「へ?太陽神アポロンってそっちもいけるの?」

「た、確かそうだったと……」

 アンノウンはニヤリと笑った。ヘパイストスとアポロン。二つの召喚獣の合わせ技なら出来るのではないかと踏んだのだ。

「よーし!出でよ!召喚獣”アポロン”!!」

 魔法陣が形成され、そこから現れたのは金髪碧眼の美少年。鼻持ちならない雰囲気を醸し出すが、それが不快に感じない。イケメンとは斯くもお得なのかと鼻で笑う。

「要は魔鉱石を合わせたペンキ作りってことでしょ?戦艦を格好良く塗り上げて最後の仕上げに移るよ」

 アンノウンは託された木々を前に意気込む。魔鉱石を粉末にし、ソフィーから頂戴した7本の角も同時に砕く。一本は魔法伝達をスムーズに行うために制御装置であるアスロンに付属させる。
 ここから三日と経たずに戦艦は完成を見る。
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