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第2章【日常の安定と広がる噂】
第7話「噂は風に乗って」
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いつもの朝。
鳥の声で目が覚める。
窓を開けると、清々しい空気が流れ込む。
「今日もいい天気だな」
伸びをする。
畑に水をやって、温泉に入って、昼寝して。
いつものルーティンだ。
悪くない。
ドアをノックする音。
「アキトさん、朝ごはんです」
ユイの声だ。
「はい」
扉を開ける。
でも、ユイの後ろに人がいた。
見知らぬ顔。
三人ほど。
「え?」
「あの、この方たちは……」
ユイが困った顔をしてる。
「隣村から来たんです」
「隣村?」
一人の男が前に出た。
中年の農夫みたいな格好。
「初めまして。私、隣のミルトン村から来ました」
「あ、どうも」
「噂を聞いて、ぜひ一度見たいと思いまして」
「噂?」
「はい。この村が豊かになったと」
男は目を輝かせた。
「野菜が一晩で育つとか、温泉が湧いたとか」
「あー……」
「本当なんですか?」
「まあ、野菜は育ってますけど」
「見せていただけませんか!」
断れる雰囲気じゃない。
「……分かりました」
畑に案内した。
緑が広がってる。
人参、玉ねぎ、キャベツ。
どれも元気に育ってる。
「これは……」
男たちが固まった。
「すごい」
「こんなに立派な野菜……」
「土も、豊かそうだ」
一人が土を触った。
「柔らかい。水分もたっぷりだ」
「私たちの村とは、全然違う」
男たちは興奮してる。
「どうやって育てたんですか?」
「いや、普通に種蒔いて、水やって」
「それだけで?」
「それだけです」
「信じられない……」
男は俺を見た。
「あなたが、噂の……」
「いや、俺はただの……」
「謙遜なさらずとも」
男は深々と頭を下げた。
「教えてください。どうすれば、こんな野菜が育つのか」
「いや、だから普通に……」
「普通じゃないんです!」
男は真剣な顔をした。
「私たちの村も、土が痩せてる。雨も少ない」
「……」
「でも、ここは違う。緑が溢れてる」
男は畑を見渡した。
「何か、秘密があるはずです」
「秘密なんてないですよ」
「では、なぜ?」
「分かりません」
本当に分からない。
俺はただ、適当にやってるだけだ。
「……そうですか」
男は少し残念そうな顔をした。
でも、すぐに笑った。
「分かりました。では、せめて野菜を分けていただけませんか?」
「それは村長に聞いてください」
「村長さんに?」
「はい。俺じゃ勝手に決められないので」
「分かりました。ありがとうございます」
男たちは頭を下げて、村長のところに向かった。
小屋に戻る。
ユイが心配そうな顔をしてる。
「大丈夫でしたか?」
「まあ、なんとか」
「最近、こういう人が増えてるんです」
「そうなの?」
「はい」
ユイは頷いた。
「噂が広がってるみたいで」
「噂、か」
「『奇跡の村』って呼ばれてるらしいです」
「大げさだな」
「でも、事実ですから」
ユイは畑を見た。
「この豊かさ、普通じゃないです」
「……まあね」
「アキトさんは気にしてないみたいですけど」
「気にしても仕方ないし」
ユイは笑った。
「そういうところ、好きです」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
ユイは少し照れた顔をした。
「朝ごはん、食べましょう」
「うん」
その日の午後。
村の広場が賑やかだった。
見学者が増えてる。
十人ほど。
みんな、畑や温泉を見て回ってる。
「すごい」
「本当に温泉が湧いてる」
「花畑まである」
村人が対応に追われてる。
村長も忙しそうだ。
「アキト」
村長が俺を呼んだ。
「なんですか?」
「お前、少し顔を出してくれないか」
「え?」
「見学者が、お前に会いたいと言ってる」
「めんどくさいな……」
「すまん。でも、村のためだ」
村長は頭を下げた。
「頼む」
断れない。
「……分かりました」
広場に行くと、見学者が集まってきた。
「あの方ですか!」
「噂の……」
「お会いできて光栄です!」
みんな、興奮してる。
めんどくさい。
「あの、俺は特に何も……」
「謙遜なさらずとも!」
「この村を救った方だと聞いてます!」
「いや、救ってないです」
「では、なぜこんなに豊かに?」
「分かりません」
「分からない?」
「はい」
みんな、困った顔をした。
「でも、何かしたんでしょう?」
「種蒔いて、水やっただけです」
「それだけで?」
「それだけです」
「……」
静かになった。
みんな、俺を見てる。
「何も、特別なことはしてないです。本当に」
「しかし、結果は出てる」
一人の男が言った。
「それは、あなたの力ではないのですか?」
「力なんてないです」
「では、なぜ?」
「偶然です」
「偶然が、ここまで続きますか?」
「……知りません」
本当に知らない。
俺はただ、普通に生きてるだけだ。
「あの……」
ユイが割って入った。
「アキトさんは、本当に何もしてないと思ってるんです」
「何もしてない?」
「はい。でも、結果が出てる。それが全てです」
ユイは笑った。
「理由は分かりません。でも、アキトさんがいるから、村が変わった」
「……なるほど」
見学者たちは頷いた。
「では、あなたは無自覚なのですね」
「無自覚?」
「自分の力に、気づいていない」
「いや、だから力なんて……」
「謙虚な方だ」
「本当に聖人なのかもしれない」
話が勝手に進んでる。
めんどくさい。
「あの、俺はもう……」
「待ってください!」
大きな声が響いた。
振り返ると、
見たことない男が立っていた。
派手な服を着てる。
赤と金の刺繍が入った上着。
羽根のついた帽子。
商人だ。
「初めまして!」
男は大げさに帽子を取った。
「私、グラドと申します。行商人です」
「あ、どうも」
「噂を聞いて、はるばるやってまいりました!」
グラドは目を輝かせた。
「奇跡の村、と!」
「奇跡なんて……」
「いやいや、謙遜なさらずとも!」
グラドは俺の肩を掴んだ。
「あなたが、その奇跡の主ですね!」
「いや、俺は……」
「素晴らしい!こんな謙虚な方は初めてだ!」
グラドは村長に向き直った。
「村長さん!ぜひ、この村の野菜を取り引きさせてください!」
「取引?」
「はい!こんな立派な野菜、他では見たことがない!」
グラドは畑を指さした。
「きっと、王都でも評判になりますぞ!」
「王都……」
村長は困った顔をした。
「まあ、話は聞きますが」
「ありがとうございます!」
グラドは嬉しそうに笑った。
「では、後ほどゆっくりと」
夕方になって、ようやく見学者たちは帰っていった。
疲れた。
人と話すのは、やっぱり疲れる。
小屋に戻る。
ユイが待っていた。
「お疲れさまでした」
「ああ、疲れた」
「大変でしたね」
「うん」
椅子に座る。
ユイがお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
温かいお茶を飲む。
ほっとする。
「……静かになるといいんだけどな」
「そうですね」
ユイは微笑んだ。
「でも、難しいかもしれません」
「なんで?」
「だって、アキトさんがいる限り、奇跡は続きますから」
「奇跡なんて起こしてないけど」
「分かってます」
ユイは笑った。
「でも、みんなはそう思ってる。それが現実です」
「……めんどくさいな」
「ふふ、アキトさんらしいです」
ユイはお茶を飲んだ。
「でも、大丈夫です」
「何が?」
「私が、アキトさんを守りますから」
「守る?」
「はい」
ユイは真剣な顔をした。
「アキトさんが静かに過ごせるように、私がサポートします」
「……ありがとう」
「いえ。当然です」
ユイは微笑んだ。
「だって、アキトさんは大切な人ですから」
「……」
何て返せばいいか分からない。
でも、嬉しい。
「ユイさんも、俺にとって大切だよ」
「本当ですか?」
「本当」
ユイは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
その夜。
一人になって、窓の外を見る。
村は静かになった。
星が出てる。
「噂、か」
呟く。
広がってるらしい。
この村のこと。
俺のこと。
「めんどくさいな」
でも、仕方ない。
止められない。
「まあ、いいか」
村は豊かだ。
みんな幸せそうだ。
ユイもいる。
それで十分だ。
噂が広がろうが、
俺は俺のペースで生きる。
美味いもん食って、気持ちよく寝る。
それだけだ。
「明日も、いつも通りにしよう」
呟く。
目を閉じる。
すぐに、眠りが訪れた。
でも、世界は動き始めていた。
商人グラドは、村を後にしながら呟いた。
「素晴らしい。本当に素晴らしい」
彼は野菜の入った袋を抱えている。
村長が、サンプルとして分けてくれたものだ。
「こんな謙虚で、力のある方がいたとは」
グラドは星空を見上げた。
「王都で、この話をしなければ」
「奇跡の村と、その主のことを」
彼は馬車に乗り込んだ。
「きっと、大騒ぎになるぞ」
そう言って、笑った。
噂は、風に乗って広がっていく。
アキトの知らないところで。
静かに、確実に。
鳥の声で目が覚める。
窓を開けると、清々しい空気が流れ込む。
「今日もいい天気だな」
伸びをする。
畑に水をやって、温泉に入って、昼寝して。
いつものルーティンだ。
悪くない。
ドアをノックする音。
「アキトさん、朝ごはんです」
ユイの声だ。
「はい」
扉を開ける。
でも、ユイの後ろに人がいた。
見知らぬ顔。
三人ほど。
「え?」
「あの、この方たちは……」
ユイが困った顔をしてる。
「隣村から来たんです」
「隣村?」
一人の男が前に出た。
中年の農夫みたいな格好。
「初めまして。私、隣のミルトン村から来ました」
「あ、どうも」
「噂を聞いて、ぜひ一度見たいと思いまして」
「噂?」
「はい。この村が豊かになったと」
男は目を輝かせた。
「野菜が一晩で育つとか、温泉が湧いたとか」
「あー……」
「本当なんですか?」
「まあ、野菜は育ってますけど」
「見せていただけませんか!」
断れる雰囲気じゃない。
「……分かりました」
畑に案内した。
緑が広がってる。
人参、玉ねぎ、キャベツ。
どれも元気に育ってる。
「これは……」
男たちが固まった。
「すごい」
「こんなに立派な野菜……」
「土も、豊かそうだ」
一人が土を触った。
「柔らかい。水分もたっぷりだ」
「私たちの村とは、全然違う」
男たちは興奮してる。
「どうやって育てたんですか?」
「いや、普通に種蒔いて、水やって」
「それだけで?」
「それだけです」
「信じられない……」
男は俺を見た。
「あなたが、噂の……」
「いや、俺はただの……」
「謙遜なさらずとも」
男は深々と頭を下げた。
「教えてください。どうすれば、こんな野菜が育つのか」
「いや、だから普通に……」
「普通じゃないんです!」
男は真剣な顔をした。
「私たちの村も、土が痩せてる。雨も少ない」
「……」
「でも、ここは違う。緑が溢れてる」
男は畑を見渡した。
「何か、秘密があるはずです」
「秘密なんてないですよ」
「では、なぜ?」
「分かりません」
本当に分からない。
俺はただ、適当にやってるだけだ。
「……そうですか」
男は少し残念そうな顔をした。
でも、すぐに笑った。
「分かりました。では、せめて野菜を分けていただけませんか?」
「それは村長に聞いてください」
「村長さんに?」
「はい。俺じゃ勝手に決められないので」
「分かりました。ありがとうございます」
男たちは頭を下げて、村長のところに向かった。
小屋に戻る。
ユイが心配そうな顔をしてる。
「大丈夫でしたか?」
「まあ、なんとか」
「最近、こういう人が増えてるんです」
「そうなの?」
「はい」
ユイは頷いた。
「噂が広がってるみたいで」
「噂、か」
「『奇跡の村』って呼ばれてるらしいです」
「大げさだな」
「でも、事実ですから」
ユイは畑を見た。
「この豊かさ、普通じゃないです」
「……まあね」
「アキトさんは気にしてないみたいですけど」
「気にしても仕方ないし」
ユイは笑った。
「そういうところ、好きです」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
ユイは少し照れた顔をした。
「朝ごはん、食べましょう」
「うん」
その日の午後。
村の広場が賑やかだった。
見学者が増えてる。
十人ほど。
みんな、畑や温泉を見て回ってる。
「すごい」
「本当に温泉が湧いてる」
「花畑まである」
村人が対応に追われてる。
村長も忙しそうだ。
「アキト」
村長が俺を呼んだ。
「なんですか?」
「お前、少し顔を出してくれないか」
「え?」
「見学者が、お前に会いたいと言ってる」
「めんどくさいな……」
「すまん。でも、村のためだ」
村長は頭を下げた。
「頼む」
断れない。
「……分かりました」
広場に行くと、見学者が集まってきた。
「あの方ですか!」
「噂の……」
「お会いできて光栄です!」
みんな、興奮してる。
めんどくさい。
「あの、俺は特に何も……」
「謙遜なさらずとも!」
「この村を救った方だと聞いてます!」
「いや、救ってないです」
「では、なぜこんなに豊かに?」
「分かりません」
「分からない?」
「はい」
みんな、困った顔をした。
「でも、何かしたんでしょう?」
「種蒔いて、水やっただけです」
「それだけで?」
「それだけです」
「……」
静かになった。
みんな、俺を見てる。
「何も、特別なことはしてないです。本当に」
「しかし、結果は出てる」
一人の男が言った。
「それは、あなたの力ではないのですか?」
「力なんてないです」
「では、なぜ?」
「偶然です」
「偶然が、ここまで続きますか?」
「……知りません」
本当に知らない。
俺はただ、普通に生きてるだけだ。
「あの……」
ユイが割って入った。
「アキトさんは、本当に何もしてないと思ってるんです」
「何もしてない?」
「はい。でも、結果が出てる。それが全てです」
ユイは笑った。
「理由は分かりません。でも、アキトさんがいるから、村が変わった」
「……なるほど」
見学者たちは頷いた。
「では、あなたは無自覚なのですね」
「無自覚?」
「自分の力に、気づいていない」
「いや、だから力なんて……」
「謙虚な方だ」
「本当に聖人なのかもしれない」
話が勝手に進んでる。
めんどくさい。
「あの、俺はもう……」
「待ってください!」
大きな声が響いた。
振り返ると、
見たことない男が立っていた。
派手な服を着てる。
赤と金の刺繍が入った上着。
羽根のついた帽子。
商人だ。
「初めまして!」
男は大げさに帽子を取った。
「私、グラドと申します。行商人です」
「あ、どうも」
「噂を聞いて、はるばるやってまいりました!」
グラドは目を輝かせた。
「奇跡の村、と!」
「奇跡なんて……」
「いやいや、謙遜なさらずとも!」
グラドは俺の肩を掴んだ。
「あなたが、その奇跡の主ですね!」
「いや、俺は……」
「素晴らしい!こんな謙虚な方は初めてだ!」
グラドは村長に向き直った。
「村長さん!ぜひ、この村の野菜を取り引きさせてください!」
「取引?」
「はい!こんな立派な野菜、他では見たことがない!」
グラドは畑を指さした。
「きっと、王都でも評判になりますぞ!」
「王都……」
村長は困った顔をした。
「まあ、話は聞きますが」
「ありがとうございます!」
グラドは嬉しそうに笑った。
「では、後ほどゆっくりと」
夕方になって、ようやく見学者たちは帰っていった。
疲れた。
人と話すのは、やっぱり疲れる。
小屋に戻る。
ユイが待っていた。
「お疲れさまでした」
「ああ、疲れた」
「大変でしたね」
「うん」
椅子に座る。
ユイがお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう」
温かいお茶を飲む。
ほっとする。
「……静かになるといいんだけどな」
「そうですね」
ユイは微笑んだ。
「でも、難しいかもしれません」
「なんで?」
「だって、アキトさんがいる限り、奇跡は続きますから」
「奇跡なんて起こしてないけど」
「分かってます」
ユイは笑った。
「でも、みんなはそう思ってる。それが現実です」
「……めんどくさいな」
「ふふ、アキトさんらしいです」
ユイはお茶を飲んだ。
「でも、大丈夫です」
「何が?」
「私が、アキトさんを守りますから」
「守る?」
「はい」
ユイは真剣な顔をした。
「アキトさんが静かに過ごせるように、私がサポートします」
「……ありがとう」
「いえ。当然です」
ユイは微笑んだ。
「だって、アキトさんは大切な人ですから」
「……」
何て返せばいいか分からない。
でも、嬉しい。
「ユイさんも、俺にとって大切だよ」
「本当ですか?」
「本当」
ユイは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
その夜。
一人になって、窓の外を見る。
村は静かになった。
星が出てる。
「噂、か」
呟く。
広がってるらしい。
この村のこと。
俺のこと。
「めんどくさいな」
でも、仕方ない。
止められない。
「まあ、いいか」
村は豊かだ。
みんな幸せそうだ。
ユイもいる。
それで十分だ。
噂が広がろうが、
俺は俺のペースで生きる。
美味いもん食って、気持ちよく寝る。
それだけだ。
「明日も、いつも通りにしよう」
呟く。
目を閉じる。
すぐに、眠りが訪れた。
でも、世界は動き始めていた。
商人グラドは、村を後にしながら呟いた。
「素晴らしい。本当に素晴らしい」
彼は野菜の入った袋を抱えている。
村長が、サンプルとして分けてくれたものだ。
「こんな謙虚で、力のある方がいたとは」
グラドは星空を見上げた。
「王都で、この話をしなければ」
「奇跡の村と、その主のことを」
彼は馬車に乗り込んだ。
「きっと、大騒ぎになるぞ」
そう言って、笑った。
噂は、風に乗って広がっていく。
アキトの知らないところで。
静かに、確実に。
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