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十二話 作戦会議と選手宣誓
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夕食の時間が過ぎた食堂。私たち第一分隊のメンバーは、ルゥが集めてきた情報に耳を傾ける。
「決闘は団体戦方式で行われるみたい。向こうの先鋒・次鋒・中堅・副将・大将が、どんな順番で組むつもりなのかも調べてきたよ。大将を務めるのはエリックくん。彼が第二分隊のリーダーで、剣術が得意みたいだね。自主訓練でも剣術の稽古ばかりしているよ」
「あいつと戦うのは私ね。ケンカを売られたのは私なんだから」
「うむ、異論はない。他の面子はどうする予定だ?」
「えっとね――」
先鋒は鞭、次鋒は弓、中堅は魔法、副将は槍が得意とのことだった。それぞれの得意武器に合わせて第一分隊の順番も決まる。
先鋒はルゥ、次鋒はヴィンセント、中堅はマギー、副将はディランだ。
といっても、ルゥとヴィンセントは消去法みたいなノリで決定されたんだけど。
ルゥは戦闘が全然ダメだから、チーム全体の勝敗を決するような場面で投入しない。
ヴィンセントはオールマイティーに武器を扱えるから、どんな相手にも対処できる。
マギーは魔法全般が得意だから、同じく魔法が得意な相手にぶつける。
ディランは槍が得意だというから、この組み合わせになった。
「決闘では模造武器が使われるそうですわね。けれど魔法に関しては、自前の魔導書を持ち込んでもよろしいそうね。わたくし、大叔母から専用の魔導書をいただいておりますのよ。ベイカー家は、代々魔法の才能を持つ人間を多く輩出している家柄ですわ。わたくしの魔導書は、ベイカー家の血を引く淑女にしか使いこなせない特別仕様でしてよ」
「待ってくれ、マギー! あ、あの禁書を使うつもりなのか!?」
「禁書?」
ヴィンセントは真っ青な顔で叫ぶ。魔法使いの家系の人間にしか使いこなせない魔導書って聞くと、確かに危なさそうだけど。マギーは涼しい顔でころころ笑う。
「まあヴィンセントったら、大袈裟ですわね。あまりヴィンセントの言うことを真に受けないでくださいね。大丈夫、人死にが出るような代物ではありませんわ。ただヴィンセントにとって苦手なタイプの魔法だから、必要以上に恐れているだけですのよ」
「……一体どんな魔法なの?」
「うふふ、それは当日のお愉しみ――ですわ」
人差し指を唇にあてて微笑むマギー。たおやかな淑女然とした笑顔だけど、そこはかとなく恐ろしいものを感じた。隣ではヴィンセントがガクガクブルブル震えている。
作戦会議が終わり、解散した直後にヴィンセントを呼び止めて尋ねてみる。
「ねえヴィンセント。マギーの魔法って……」
「僕の口からは、とても……」
「その様子だと、ヴィンセントはマギーの魔法をくらったことがありそうだね」
「余計なことを聞かないでくれ! ああ、女の人は恐ろしい……!」
最後は涙目になって走り去って行った。……すごく気になるんだけど!
それと最近気付いたんだけど、ヴィンセントは女の人が苦手みたいだ。苦手っていうか、恐れていると言った方が近いかも。
ディランのようにグイグイ来られるのも困るけど、ヴィンセントみたいに露骨に避けられるのも困る。
……なんで私の分隊にはマトモな男がいないんだろう……。
横目でルゥを見やる。可愛らしい女の子の恰好をしたルゥは、騎士学校の人気者だ。廊下を歩いていると、声をかけてくる男子も少なくない。
たぶん、騎士学校で一番人気が高い女生徒はルゥだ。でもルゥの正体は男だ。そしてこの国の王子様だ。
「どうしたの、アイリ?」
私の視線に気付いたルゥが小首を傾げる。
その仕草は完璧に女の子だ。それもとびっきり可愛い女の子。正体を知っている私でも、たまにルゥが男の子だということを忘れそうになるぐらい。
やっぱり私の周りにいる男は変人揃いだと、改めて痛感した。
***
日数が経過する。ますます厳しくなる日々の訓練を、私は難なくこなしていった。
そして、決闘の当日がやって来た。決闘は訓練が休みの日曜正午。入学試験が行われた闘技場で開催される。
闘技場に入った私は、第一分隊の面々と控室で顔を合わせる。ぱっと見たところ、ディランとマギーに問題はない。
一方でヴィンセントには溜息が多い。もともと決闘に乗り気じゃなかった上に、マギーの魔導書の話を聞いて以来、さらに気持ちが沈んでいるようだった。
「はあ……戦うべきか、戦わざるべきか」
まるで詩人みたいなことを言っている。
「戦うのはあまり得意じゃないけど、精一杯頑張るよ!」
ルゥはいつもと変わらない。可愛らしくガッツポーズを決める。
「ひどい怪我はしないでよ。でないと、私がレスターさんに毒殺されちゃう……」
昨日の夜、夜食をつまみに食堂へ行くと待ち構えていたレスターさんに睨まれた。そして彼はこう言った。
『あの方に万一のことがあれば、お前の食事に毎日少量の毒を盛る。心しておけ』
私は体を鍛えているから、肉体的なことで脅されるのは怖くない。でも食事に毒を混ぜられるのは勘弁してほしい。
避けようがない。というか避けようと思えば、毎日の楽しみがなくなってしまう。
「時間いっぱい逃げ回って! 絶対に怪我はしないでね!」
「分かってるよ。昨夜から何十回も、繰り返し聞かされているもん」
何十回でも繰り返したくなる。私の豊かな食生活がかかっているんだから!
「選手宣誓!」
「我々一同は、日頃の訓練の成果を発揮すると同時に、支えてくださる教官方、仲間達に感謝し、対戦相手との交流を深め、正々堂々と戦いに挑むことを誓います!」
清々しい騎士道精神に則った選手宣誓が終わると、それぞれの陣営に戻る。
――かと思いきや、第二分隊のエリックが私に近付いてくると、短く耳打ちをした。
「お前のような下品な女に、今の言葉の意味が理解できるとは思えないがな」
それだけ言い捨てると自分のチームに戻っていった。
『バカにしないでよ! こっちは現代日本で教養を培ってきた身なんだから! そっちこそ、さっきの選手宣誓の意味をちっとも理解していないじゃない! あんな嫌味をこっそり耳打ちしてくるなんて、騎士に相応しくない陰湿さだよ!』
――と言ってやりたいところだけど、我慢して飲み込んだ。
決闘前に口論で争っても意味がない。そもそもわざと怒らせて、冷静さを失わせて楽に勝ってやろうって作戦かもしれない。だから絶対に乗ってやらない。
「よく我慢したね。偉いよ、アイリ」
「ここで言い返したら相手の思うツボだもん」
「うん、相手もそのつもりで挑発してきたんだと思う。乗せられているようなら忠告しようと思ったけど、余計なお世話だったね」
「ううん、そんなこと。でもルゥはそろそろ試合が始まるから、私のことより自分のことを心配して」
「あ、そうだね」
私の言葉に、ルゥは闘技場の方へと向き直った。
「決闘は団体戦方式で行われるみたい。向こうの先鋒・次鋒・中堅・副将・大将が、どんな順番で組むつもりなのかも調べてきたよ。大将を務めるのはエリックくん。彼が第二分隊のリーダーで、剣術が得意みたいだね。自主訓練でも剣術の稽古ばかりしているよ」
「あいつと戦うのは私ね。ケンカを売られたのは私なんだから」
「うむ、異論はない。他の面子はどうする予定だ?」
「えっとね――」
先鋒は鞭、次鋒は弓、中堅は魔法、副将は槍が得意とのことだった。それぞれの得意武器に合わせて第一分隊の順番も決まる。
先鋒はルゥ、次鋒はヴィンセント、中堅はマギー、副将はディランだ。
といっても、ルゥとヴィンセントは消去法みたいなノリで決定されたんだけど。
ルゥは戦闘が全然ダメだから、チーム全体の勝敗を決するような場面で投入しない。
ヴィンセントはオールマイティーに武器を扱えるから、どんな相手にも対処できる。
マギーは魔法全般が得意だから、同じく魔法が得意な相手にぶつける。
ディランは槍が得意だというから、この組み合わせになった。
「決闘では模造武器が使われるそうですわね。けれど魔法に関しては、自前の魔導書を持ち込んでもよろしいそうね。わたくし、大叔母から専用の魔導書をいただいておりますのよ。ベイカー家は、代々魔法の才能を持つ人間を多く輩出している家柄ですわ。わたくしの魔導書は、ベイカー家の血を引く淑女にしか使いこなせない特別仕様でしてよ」
「待ってくれ、マギー! あ、あの禁書を使うつもりなのか!?」
「禁書?」
ヴィンセントは真っ青な顔で叫ぶ。魔法使いの家系の人間にしか使いこなせない魔導書って聞くと、確かに危なさそうだけど。マギーは涼しい顔でころころ笑う。
「まあヴィンセントったら、大袈裟ですわね。あまりヴィンセントの言うことを真に受けないでくださいね。大丈夫、人死にが出るような代物ではありませんわ。ただヴィンセントにとって苦手なタイプの魔法だから、必要以上に恐れているだけですのよ」
「……一体どんな魔法なの?」
「うふふ、それは当日のお愉しみ――ですわ」
人差し指を唇にあてて微笑むマギー。たおやかな淑女然とした笑顔だけど、そこはかとなく恐ろしいものを感じた。隣ではヴィンセントがガクガクブルブル震えている。
作戦会議が終わり、解散した直後にヴィンセントを呼び止めて尋ねてみる。
「ねえヴィンセント。マギーの魔法って……」
「僕の口からは、とても……」
「その様子だと、ヴィンセントはマギーの魔法をくらったことがありそうだね」
「余計なことを聞かないでくれ! ああ、女の人は恐ろしい……!」
最後は涙目になって走り去って行った。……すごく気になるんだけど!
それと最近気付いたんだけど、ヴィンセントは女の人が苦手みたいだ。苦手っていうか、恐れていると言った方が近いかも。
ディランのようにグイグイ来られるのも困るけど、ヴィンセントみたいに露骨に避けられるのも困る。
……なんで私の分隊にはマトモな男がいないんだろう……。
横目でルゥを見やる。可愛らしい女の子の恰好をしたルゥは、騎士学校の人気者だ。廊下を歩いていると、声をかけてくる男子も少なくない。
たぶん、騎士学校で一番人気が高い女生徒はルゥだ。でもルゥの正体は男だ。そしてこの国の王子様だ。
「どうしたの、アイリ?」
私の視線に気付いたルゥが小首を傾げる。
その仕草は完璧に女の子だ。それもとびっきり可愛い女の子。正体を知っている私でも、たまにルゥが男の子だということを忘れそうになるぐらい。
やっぱり私の周りにいる男は変人揃いだと、改めて痛感した。
***
日数が経過する。ますます厳しくなる日々の訓練を、私は難なくこなしていった。
そして、決闘の当日がやって来た。決闘は訓練が休みの日曜正午。入学試験が行われた闘技場で開催される。
闘技場に入った私は、第一分隊の面々と控室で顔を合わせる。ぱっと見たところ、ディランとマギーに問題はない。
一方でヴィンセントには溜息が多い。もともと決闘に乗り気じゃなかった上に、マギーの魔導書の話を聞いて以来、さらに気持ちが沈んでいるようだった。
「はあ……戦うべきか、戦わざるべきか」
まるで詩人みたいなことを言っている。
「戦うのはあまり得意じゃないけど、精一杯頑張るよ!」
ルゥはいつもと変わらない。可愛らしくガッツポーズを決める。
「ひどい怪我はしないでよ。でないと、私がレスターさんに毒殺されちゃう……」
昨日の夜、夜食をつまみに食堂へ行くと待ち構えていたレスターさんに睨まれた。そして彼はこう言った。
『あの方に万一のことがあれば、お前の食事に毎日少量の毒を盛る。心しておけ』
私は体を鍛えているから、肉体的なことで脅されるのは怖くない。でも食事に毒を混ぜられるのは勘弁してほしい。
避けようがない。というか避けようと思えば、毎日の楽しみがなくなってしまう。
「時間いっぱい逃げ回って! 絶対に怪我はしないでね!」
「分かってるよ。昨夜から何十回も、繰り返し聞かされているもん」
何十回でも繰り返したくなる。私の豊かな食生活がかかっているんだから!
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――かと思いきや、第二分隊のエリックが私に近付いてくると、短く耳打ちをした。
「お前のような下品な女に、今の言葉の意味が理解できるとは思えないがな」
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『バカにしないでよ! こっちは現代日本で教養を培ってきた身なんだから! そっちこそ、さっきの選手宣誓の意味をちっとも理解していないじゃない! あんな嫌味をこっそり耳打ちしてくるなんて、騎士に相応しくない陰湿さだよ!』
――と言ってやりたいところだけど、我慢して飲み込んだ。
決闘前に口論で争っても意味がない。そもそもわざと怒らせて、冷静さを失わせて楽に勝ってやろうって作戦かもしれない。だから絶対に乗ってやらない。
「よく我慢したね。偉いよ、アイリ」
「ここで言い返したら相手の思うツボだもん」
「うん、相手もそのつもりで挑発してきたんだと思う。乗せられているようなら忠告しようと思ったけど、余計なお世話だったね」
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