「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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8話 異世界トロッコ問題

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 時系列は少し遡る。
 エリカとシオンが異世界に召喚されてから3日目の昼。
 フレイは王城にて、王子ザカリアスと対峙していた。
 王子はシオンに朝からつきっきりだったが、フレイが聖女について話があると言伝を頼むと、指定の場所である城の北塔を訪れた。
 辺りは人払いをしてある。聖女の話を聞かれたくなかったので、ザカリアスは1人でやって来た。
 塔の最上階にてフレイの姿を認めると、ザカリアスは口を開く。

「フレイ=パーシヴァル。このような場所に呼び出すとは、何のつもりだ? そもそも貴様が何故、聖女のことを知っている?」
「3日前の夜半、王都北の裏通りにて、異世界より召喚された聖女を名乗る少女を保護しました」
「何?」
「彼女は魔族に襲われていました。魔王四天王を名乗るバフォメットという魔族です。救助の際に、我が剣の錆にしましたが」
「ほう……貴様が魔族を始末し、あの娘を保護したのか。なるほど、貴様ほどの実力者であれば納得だ」

 ザカリアスはフレイに一目置いている。
 今もフレイに苛立った様子を見せつつも、声を荒げないのは彼の実力を恐れているからである。
 稽古以外で剣を持ったことのないザカリアスにとって、己の手で魔物や魔族を仕留めるフレイは脅威だった。
 ましてやフレイは王国主催の剣術大会で5年連続優勝を果たし、王家に伝わる聖剣ブルトガングに選ばれた騎士である。
 古の聖騎士の愛剣だったというブルトガングは、選ばれた者でなければ力を発揮しない。
 選ばれし者が手に取れば光り輝くが、そうでなければ固く重いだけの剣だ。ザカリアスはろくに振り回すことすらできなかった。

「魔族は他にも数体、王都に潜入していました。すべて見つけて駆除しましたが。その後、王都城壁の北にある【結界】を確認したところ、意図的に緩められているのを発見しました。すぐに術師を呼び張り直させましたが……あの夜の魔族は、内通者が手引きしたと判断して良いでしょう」
「ほう」
「殿下。つかぬことをお尋ねしてよろしいでしょうか」
「内容にもよるが、何だ?」
「保護した少女は、聖女が2人召喚され能力の低い方が追放されたと言っていました。彼女は手違いのようだと言っていましたが……実際は手違いではありませんね?」
「何故そう思う?」
「以前、聖女召喚の儀について記された文献に目を通したことがあります。聖女召喚に必要な物は、召喚魔方陣、高度な術を習得した魔術師、そして召喚石です。儀式用に集められた召喚石の数は、既に調査済みです。初めから2人召喚することを目的とされていたのでしょう」
「そこまで把握されているとなると、知らぬ存ぜぬで通すのは無理筋か。お前の言う通りだ。私は確かに聖女を2人召喚するよう臣下に命じた」
「では何故、片方を追い出すような真似をなさったのですか?」
「簡単なことよ。聖女は魔王の天敵。聖女召喚は魔王に感知される。並々ならぬ聖力が発生するからな」

 聖力。それは聖女に発現する特殊な力であり、この世で唯一魔王を倒し得る力だ。聖力を持たない者では、せいぜい魔王を封印するのが精一杯だ。
 魔族はこの聖力を敏感に察知する。聖女召喚の儀の際には、膨大な聖力が発生すると言われている。
 王都および王城には幾重もの結界が張られているが、さすがに聖女召喚となると発生する聖力は誤魔化せないだろう。

「古代文献には、聖女召喚の儀が魔族に感知されたという記述もある。苦労して召喚した聖女が覚醒する前に魔族に殺された、ともな」
「やはりあなたは――! エリカ殿の話を聞いた時から奇妙だと思っていました。意図的に結界を緩めたのは、殿下の差し金ですね。あなたは――彼女を、エリカ殿を殺すつもりで召喚したのでしょう」
「その言い方は語弊がある。正確には2人召喚したうちの片方を――だ。犠牲となるのはエリカでもシオンでも構わなかった。結果的にシオンが聖女に相応しく、エリカが生贄に相応しかったというだけだ。魔王とて聖女召喚そのものは感知できても、何人召喚したかまでは分かるまい。私は能力が高い方の聖女を選び、能力が低い方は魔族にくれてやるつもりでいたのだ」
「殿下! 何を言っているのか理解しているのですか? 何の罪もない少女を勝手に巻き込み、異世界に召喚した挙句、命を奪おうとするとは――しかも王都に入り込んだ魔族が民を殺めないという保証もなかったのですよ! 言語道断です!」
「すべてはこの国、いや、この世界の為だ。魔王を倒さねば、より多くの人間が死ぬであろう。異世界より招いた聖女と数人――多くて数十人規模の犠牲を出すよりも、将来的に見れば得ではないか」
「……それは人間の命を、数字や損得勘定でしか計算しない者の発想です。自分が切り捨てられる側にいないと確信しているから出る言葉です。失礼ながら殿下は、今まで一度も戦場に出られた試しがない。1人でモンスターを倒された経験もない。人の上に立つ者が、自らの身を安全圏に置きながら、下々の者に犠牲を強いるのは――はっきり申し上げましょう、醜悪です」
「……ッ!」
「殿下が今回の件で犠牲に織り込んだのは、何も知らぬ少女と丸腰の王都民です。どちらも戦闘員ではありません。俺は騎士として、力なき民を守る者として、今回の件は看過できません」
「……貴様ッ! では貴様は目先の犠牲を出さぬ代わりに、全人類が魔王の脅威に晒され続ける道を選ぶというのか!?」
「いいえ。俺は無辜の少女や非戦闘員に犠牲を強いず、自らが矢面に立って戦う道を選びます。自分自身が最前線に立ち、聖女と民を守る為に戦いましょう。自らが持てる最善を尽くして、最良の結果を求めます」

 ザカリアスは紅潮させた顔を歪めてフレイを睨む。
 しかしフレイは臆した様子もなく、先を続けた。

「そもそも先程の発言とて、建前でありましょう。国の為、世界の為と嘯きながら、一連の行動はすべてご自身の為ではないのですか」
「何だと!?」
「 古の聖女を起源に持つルイン王家では、女系優先が慣習です。女王が国を治め、女王が崩御なされた時に王配おうはいたる夫が国王として就任できる」

 ルイン王国は、古の聖女が興した国である。崇拝対象の女神スフィアも女性神だ。
 女王が生んだ子供は、確実に王家の血を引いている。そうした理由から、王家では女系継承が慣習だった。
 もちろん必ず女児が生まれる保証はない。長い歴史の中では、王子が国王に就任した事例もある。
 だがそれは、あくまで女児が生まれなかった時の例外だ。今の時代は違う。

「現在のルイン王国では、殿下の妹君であらせられるアルメリア王女が王位継承権第一位です。しかし殿下が聖女を妻に迎え入れるのであれば、王配たる殿下が優位となるでしょう。ルイン王国はその成り立ちからして、聖女に対する信仰が篤い国ですからね。他のどのような工作よりも、有効な一手となるでしょう。あなたは――」
「っ、口を慎め、下郎が!! この私を誰だと思っている! 貴様如きがつまらぬ勘繰りをして良い相手ではないぞ!!」

 ザカリアスは王家の紋章が刻まれた剣を抜く。本気で戦うつもりはなく、脅すつもりだった。
 王子たる自分が抜刀すれば、目の前の者は血相を変えて謝罪する。そんな相手を心ゆくまで罵倒し、罰を与えるのがザカリアスの常だった。
 だが今、フレイは顔色一つ変えずにいる。それどころか彼もまた剣を抜き、その切っ先をザカリアスに突き付けていた。
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