「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃

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10話 追放聖女、伯爵家で生活する①

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 お屋敷に来て、2日目の夜。
 フレイさんの部屋に招かれた私は、どきどきしながら訪問した。
 偽装とはいえ婚約者である以上、夜に相手の部屋を訪問するというのは……でもフレイさんは、私を傷つけるような真似はしないと言ってくれたし……。
 悶々としながら訪問した私を待っていたのは、温かいお茶と夜食。
 それと改めての現状の説明だった。

「じゃあフレイさんは、王子を敵に回すかもしれないリスクを犯して、私を助けてくれたんですか?」
「はい」

 聖女召喚の本当の目的や、フレイさんがザカリアスと交わしたやり取りを教えてもらった私は、素っ頓狂な声をあげた。
 あの王子……最初から私を魔族の生贄にするつもりだったんだ。
 初めて会った時に、何となく怖い人だと感じた直感は当たっていた。

「私がここにいることで、魔族が攻めてくるかもしれないんですね……」
「俺が最前線に立って戦います。エリカ殿はご安心ください」
「いいえ、そんな話を聞いた以上、黙ってお世話になっていられません。フレイさん、私に戦い方を教えてください!」
「戦い方を、ですか?」
「私だって守られるだけじゃなくて、力になりたいんです!」
「しかしエリカ殿は、支援魔法しか使えない筈ではありませんか?」
「支援魔法だって鍛えれば、味方を強化したり、敵を弱体化させたりできるようになりますよ。それにレベルが上がれば、攻撃魔法や回復魔法だって習得できるかもしれないです! お願いします、最低限自分の身を守れるようになりたいんです!」

 ただ守られているだけなんて嫌だ。
 もしもの時に何もできず、誰も守れず、大切な人々が死んでいくのを見守るだけ――そんな事態になるのだけは、我慢できない。
 私には戦う力が必要だ。戦って未来を切り開く力が、大切な人たちを守れる力が必要なんだ。
 切実な想いを込めてフレイさんを見つける。やがて彼は、溜息と共に小さく頷いた。

「……本気のようですね。分かりました。執事の中に地属性魔法に詳しいクレイトンという男がいるので、その者に指導を頼みましょう」
「! ありがとうございます!」

 意外とあっさり許可が下りた。フレイさんのことだから、もう少し渋られるかと思ったんだけど、いい意味で予想外だった。
 この人はちゃんと私の意志を尊重してくれる。私の中で、さらにフレイさんへの好感度が上がった。
 そして翌日から、私の修行が始まった。

***

 日々が過ぎていく。
 私がパーシヴァルの屋敷に来て、1週間が経過した。
 昨日私は、客室から専用の部屋へと居室を移された。
 つまりどういうことかというと、私がフレイさんの婚約者だと発表された――という意味だ。
 客人ではなく婚約者になったから、部屋も専用に用意された個室に移されたのだ。

「はあ……」

 朝。真新しいベッドの天蓋を見つめ、溜息を一つ。
 昨夜は大騒ぎだったな……お屋敷の使用人はもちろん、近隣の街や村から領民が集められての祝宴だった。
 フレイさんは強くて優しいし美青年だし、おまけに人望もある。それなのに今まで縁談話を受ける気配もなく、恋人もいなかったそうだ。
 そんなところに私という婚約者が現れたのだから、もう領民は大騒ぎだった。しかも概ね大歓迎ムード。
 執事バトラーのコリンズ=クレイトンさんという人が、裏工作で私の身分を偽装してくれたみたいだ。

『エリカ=ハザマ様は、異国の貴人に身を連ねる尊きお方――という身分を偽装しました。エリカ様は聖女であらせられるようなので、まんざら嘘とは言えますまい』

 クレイトンさんにはすべての事情を明かしている。彼はフレイさんにとって腹心的な部下だから、私が聖女であるということも教えてあった。
 伯爵領に来る途中で言っていた裏工作が得意な部下とは、クレイトンさんのことで間違いないようだ。
 昨夜はお屋敷の庭で、婚約お披露目のガーデンパーティーが行われた。使用人も集められた領民の人々も、皆が祝福してくれた。
 私たちの婚約は、偽装婚約だ。そのことを思うと一抹の罪悪感が湧く。
 それでもパーシヴァル伯爵領の人々に祝福されて、心の底から満たされていた。

「なんであんな気持ちになったんだろ、私……」

 いくらなんでも情緒不安定すぎない?
 一晩明けて冷静に、客観的に昨夜の心境を振り返ると、いささかオーバーな気がする。
 慣れない異世界で不安だとはいえ……いや、そうじゃない。
 私の日々の心境は、いきなり異世界召喚された割には落ち着いている。ホームシックにすらかかっていない。
 元の世界には、家族や友達がいたのに。
 懐かしい、また会いたいという気持ちはある。でも今となっては、それほど強い感情ではなかった。
 故郷の風景や、人々の顔を思い浮かべようとする。……まだ2週間と経っていない筈なのに、ぼんやりとしたイメージしか浮かばなかった。

「私って薄情だったのかな……」

 落ち着いて今の状況や心境を振り返ると、些か釈然としないものがある。
 ——けどそれも、起床時間にやって来るメイドが訪れるまでの、ほんのひと時の話。
 控え目なノックの音が3回響くと体を起こす。数秒置いて、部屋の扉が開く。
 すっかり顔馴染となったメイドさんは、私が起きている姿を見ると控え目な微笑を浮かべた。

「おはようございます、エリカ様。本日も素晴らしい1日になりますように」
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