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5.【一方勇者たちは(1)】
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「ぐぁっ! なんでコイツらこんなに強いんだよ! おかしいだろうが!」
「ドハハハハ! がはっ! 行きは楽勝で倒せたはずのモンスターに、こんなに苦戦するとはな!」
「ぐはっ! 一体何が起きているのですか!?」
ルドを追放した直後。
勇者のシュウキ、戦士のハラト、そして弓使いのムネナオは、ダンジョンの復路にて苦戦していた。
ポーターがいなくなったため自分たちで荷物を持たなければならなくなったのは正直面倒くさいし、突然モンスターが現れた場合など、荷物を地面に下ろすという今まで要らなかった動作が入ることから一瞬動きが遅れるため、そういう意味でも宜しくない。
だが、一番の問題は、明らかにルドがいた頃に比べて、モンスターたちが強くなったということだ。
「クソが! なんでこの勇者さまがこんな目に遭わないといけないんだよ!」
B級ダンジョンは既に他の場所で攻略済みだったため、このダンジョンは〝ルドを追放すること〟、ただそれだけのために今回潜ったのだ。
まぁ、B級と言いながら最下層にはボスとして物理攻撃に強いA級のクリスタルリザードがいるため、どちらにせよ魔法使いがいないシュウキたちにはこのダンジョンの攻略は難しかっただろうが。
しかし、最下層以外のB級モンスターたちは、今まで楽勝だったはずだ。
それが、オークも、ミノタウロスも、ハーピーもサラマンダーもダークベアも、皆いつもとは比べ物にならない程に手強い。
シュウキはLV56、ハラトはLV54、そしてムネナオはLV51というA級冒険者であり、本来ならば、苦戦するはずがないにもかかわらず、である。
「〝囮〟がいないだけでこんなに違うってのかよ!?」
シュウキたちは、この半年間、戦士がいるにもかかわらず、まるでタンクのような役回りを毎回ルドに押し付けていた。
否、タンクなどという生易しいものではなかった。
モンスターが出現すると、まずはルドをモンスターの目の前に放り投げるのだ。
そして、モンスターがルドを攻撃している隙に、モンスターに攻撃して倒し、また他のモンスターに対してもルドを眼前に放り投げて、同じことを繰り返して今まで勝利してきた。
「何故か毎回どれだけモンスターに攻撃されても、傷一つ負わなかったからな、あのガキは」
恐らくルドは、幸運値アップや回避率アップなどのスキルを持っているのだろう。
ステータス画面も冒険者カードもレベル以外読めないため、推測でしかないが、そうでないと説明がつかない。
そう思っていたのだが。
「なんだてめぇ、結局この勇者さまのおかげだったってことじゃねぇか!」
ある日、シュウキの〝隠しスキル〟が〝回避率アップ〟であることが判明した。
「荷物持ちしか出来ねぇ無能は要らねぇ! 追放してやる!」
そこで、彼らはルドをパーティーから追放した。
「ぐぉ! リーダー! 〝回避率アップ〟はどうなってるんだ?」
「がはっ! 常時発動してるはずだ! この勇者さまに頼ってんじゃねぇ! その無駄にでかい身体と自慢の大剣で防げ!」
「お前が『この勇者さまのスーパー隠しスキル〝回避率アップ〟に任せろ!』って言ったんだろうが!」
「あ? 喧嘩売ってんのかてめぇ――って、え? 何だこれ?」
シュウキの視界に文字が映った。
「はあああ!? <回避率アップ(1%)>だああああ!?」
<回避率アップ>の横に(1%)という数値が付け加わっていた。
「んなもん誤差じゃねぇかよ!」
「ドハハハハ! 大口を叩いておいて、そのザマか!」
「んだとてめぇ!?」
そこに、ムネナオが横から口を挟む。
「もしかしてですが……ルドは、本当に毎回モンスターの攻撃を食らっていたのではないでしょうか?」
「は? んな事あるわけねぇだろうが! アイツがいつも無傷だったのを見てただろ?」「そうなんですが。でも、そうでもないと、この状況に説明がつかないじゃないですか? 実際にモンスターが攻撃をして、ルドが食らう。そこに一瞬の隙が生まれて、ワタシたちは攻撃して倒すことが出来ていたんじゃないですか?」
「うっ……そうだが……」
ムネナオは言葉を継ぐ。
「更に言うと、ルドをモンスターたちが攻撃した場所って、後から見ると、牙・角、そして折れた棍棒や剣の一部が落ちていませんでしたか? 最初は偶々かと思いましたが、あれだけ毎回となると、ただの偶然とは思えません。そのおかげで、ワタシたちがモンスターに噛まれたり角で刺されそうになった時、または得物で攻撃されそうになった時には、既に牙も角も無く、武器も短くなっているので届かず、怪我せずに済んだ、ということも何度もあったかと」
そう言われてみると、シュウキも身に覚えがあった。
他メンバーの十分の一だとも知らずに、給料を貰う度に笑顔で礼を言っていた八歳のガキ。
ただのガキだと思っていたが、もしかしたら、ルドには、何か物凄い固有スキルか何かがあるのかもしれない。
「いや、んなことねぇ! ただの偶然だ! ぐはっ!」
オークの棍棒の一撃で、シュウキは吹っ飛ばされた。
※―※―※
ポーションを全て使い切り、這う這うの体でダンジョンから逃げ出して来たシュウキたちは、王都に戻り、宿で泥のように眠った。
翌日の朝。
「やっぱ魔法使いが要るな。あと、治癒師も」
シュウキたちは、冒険者ギルドへと向かった。
「勇者さまですね。どうぞこちらへ」
何故か受付嬢がギルド長室へと案内する。
お? この勇者さまの目覚ましい活躍に、褒賞でも与えようってか?
しょうがねぇなぁ。受け取ってやるか。
「勇者殿。貴公には、〝仲間に対する殺人未遂〟の容疑が掛かっている」
あれえええええ!?
思ってたのとちがあああああう!
何故かギルド長のみならず、宰相までいやがるし!
「ダンジョンにて、ルドを奈落へと突き落としたと聞いている」
「い、一体誰がそんなことを!?」
「本人だ」
生きてやがったのか、あのクソガキ!
いやでも、一体どうやって!?
あの高さから落ちたら、普通死ぬだろ!
「おいおい、どうするんだ?」
「ヤバいですよ、リーダー!」
うるせぇ、てめぇらは黙ってろ!
「い、いや、誤解です! えっと、その……そう! あのクソガ――ルドが、足を踏み外して、大穴に落ちてしまったんです。勿論すぐ助けに行きたかったんですが、御存じの通り、あのダンジョンは最下層にクリスタルリザードがいます。残念ながら、魔法使いがいない俺たちじゃ太刀打ち出来ず……泣く泣く諦めたんです」
とっさにしては完璧な言い訳だ!
よし、これで誤魔化すことが出来――
チーン
「え?」
見ると、ギルド長の高そうな机の上に置かれた、箱に嵌め込まれた魔石が赤く光っており、少しすると青色になった。
「これは、相手が嘘を言っているかどうかを見分けるための魔導具でね」
噓発見器じゃねぇか! ふざけんなよ!
「私は国王さまの名代としてこの場にいる。王の御前で嘘をつくということは、それだけで処罰の対象となるが、宜しいか?」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
宰相の重圧に、シュウキが慌てる。
「記憶違いでした! その……モンスターとの戦闘があったんです。それで、全員必死に戦っている最中に、ルドが大穴に落ちてしまったんです」
チーン
「……ではなくて、突然地面が陥没して、穴が出来たんです。恐らくトラップに掛かってしまったのでしょう。俺たちは何とか落ちずに済みましたが、残念ながら、ルドだけが落下してしまって」
チーン
「……もとい、他の冒険者パーティーが氷魔法を発動し、凍ってしまった地面を滑って、ルドはそのまま奈落に落ちて――」
チーン
「嘘を重ねるとは……国王に対する侮辱と受け取って宜しいか?」
「ま、待って下さい!」
ちくしょう!
こうなったら、正直に言うしかねぇ!
「……俺たちが、ルドを大穴に落としたんです。荷物持ちしか出来ない無能ポーターは要らないって言って」
………………
………………
………………
「今度は本当のようだな」
汗を拭うシュウキたちに、ギルド長が冷たい双眸を向ける。
「シュウキ、ハラト、ムネナオ。貴公らは、〝仲間に対する殺人未遂〟の罪により、冒険者資格を剥奪する」
「なっ!?」
シュウキは思わず声を上げた。
「ルドは生きていたんですよね!? それなら、もう良いじゃないですか!」
「貴公が元々いた世界では、誰かを殺そうとした際に、相手が生きていれば、それで無罪放免となるのか?」
「うっ……それは……」
「少なくともこの世界においては、殺人未遂は重罪だ」
歯噛みするシュウキに、追い打ちが掛かる。
「国王さまの名代として告げる。〝勇者〟の称号を剥奪、それに伴い、〝勇者パーティー〟に与えている毎月の補助金も打ち切る」
「はああああ!? ふざけんなよ!」
「……それは国王に対する侮辱か?」
「リーダー! マズいですよ! 堪えて下さい!」
「……いえ、申し訳ありませんでした……」
シュウキはプルプルと震えながら、何とか爆発寸前の怒りを抑えこんだ。
※―※―※
「ふざけんなよジジイどもが!」
「クソ! どうすりゃ良いってんだよ!」
「洒落になりませんね……」
シュウキたちが酒場で怒りをぶちまけ、「全部あのクソガキのせいだ……! ぶっ殺している……!」と、その瞳に暗い光を宿すと。
「勇者シュウキだな。仕事を依頼したい」
黒フードで顔を覆い黒マントに身を包んだ、見るからに怪しげな男が彼らのテーブルに近付き、シュウキの対面に座った。
「仕事だぁ? てめぇみたいな怪しい奴の話なんて誰が聞くかってんだ!」
「失礼。〝元〟勇者だったな」
「! てめぇ、なんでそれを知ってる!? まだ数時間しか経ってねぇのに! それに、あの場にいたのは、ギルド長と宰相だけだぞ!」
酔いが醒め、一気に警戒モードに入ったシュウキが、腰の長剣に手を当てながら問い詰める。
「自己紹介が遅くなった」
そう言った男が指に嵌めた指輪に触れると、周囲の音が一瞬で消える。
どうやら、内密の話、ということらしい。
「俺は、ヴィンス・フォン・オースバーグ。オースバーグ王国王子だ」
「「「!?」」」
顔も見せない男の言葉など、信じられないと思っていたのだが。
「自分で言うのもなんだが、俺は結構有名人でね。残念ながらここで顔を晒す訳にはいかない。が、これで信じてもらえないだろうか?」
「! これは!」
それは、没収されたシュウキたちの冒険者カードだった。
「取り敢えずまずはこれを取り返しておいた。俺の依頼を達成してもらえれば、勇者の称号と勇者パーティーに対する補助金も元通りにすると約束しよう」
「それだけか?」
「フッ。そう焦るな。無論それだけではない。金貨百枚を与えよう」
悪くない。
まぁ、依頼内容次第だが。
「で、何をして欲しいんだ?」
「マリア・フォン・オースバーグを暗殺して欲しい」
「「「!」」」
王女を……? 本気か……?
顔は見えない。
が、声色からは、確固たる意思を感じた。
否、執念と表現とした方が良いかもしれない。
「金貨百枚じゃ足りねぇな」
「千枚でどうだ?」
「……他国への亡命サポートもつけろ」
「分かった。交渉成立だな。これから宜しく頼む」
シュウキは、ヴィンスと握手を交わした。
※―※―※
「何が『全部後払い』だ! せめて前金で何割か渡しやがれってんだ! しかも、『元々は王女が所属していた冒険者パーティーに頼んでいたが、行方不明になってしまったから、新たに依頼出来る相手を探していた』って、一度暗殺未遂して、それが成功したと思い込んで、口封じのために処分したってことじゃねぇか! この勇者さまを甘く見るなよ! 俺様はぜってぇヤられたりなんかしねぇからな! 依頼達成したら、ちゃんと金ぶんどってトンズラしてやる!」
現在、シュウキたちは、馬車でひたすらルドとマリアを尾行している。
オースバーグ王国からヴァウスデラリア帝国の帝都マルグストンへ、そしてエルニコス村へ行ったルドたちが戻って来てからは、また帝都マルグストンへと至る道を。
ヴィンスは、その息が掛かった部下たちを各国に忍ばせているらしく、黒フードで顔を隠した黒ずくめの者が行きのマルグストンにて接触してきて、膂力増強剤を手渡してきた。
それにより、シュウキたちは格段に膂力がアップした。
ヴィンスは〝闇の商人〟と知り合いらしく、「儂の魔法薬は効果抜群じゃからのう」という、商人のお墨付きらしい。
「クックック。今のワタシなら、ここからでも狙えますよ」
視力アップの効果もあったらしく、夜間にもかかわらずクリアな視界を確保し、遥か遠くにて野営するルドたちの馬車に向けて弓を引くムネナオは、ポリシーなのか、眼鏡はつけたままだ(レンズが入ったままだと逆に見え辛いので、今は伊達メガネとなっている)。
幌馬車の中にはルドが眠っており、マリアは車輪にもたれかかって外で眠っている。
モンスターその他の敵襲を警戒してのことだろう。
「クックック。無駄ですよ。〝人の気配〟なんて全く感じない、超長距離からの狙撃ですからね」
「まずは見張りの剣士を射殺し、依頼を達成しますか」と、ムネナオの上がった口角は。
「なっ!? 馬鹿な!」
すぐに下がった。
高速で飛んでいった矢を、あろうことかマリアは剣で叩き落とした。
一瞬目を覚ましたかと思ったマリアは、また目を閉じて眠ってしまう。
「くっ! ぐ、偶然に決まっています!」
ムネナオが二の矢を番える。
再び放たれた矢は、夜闇を切り裂き、狙い違わず、マリアの頭部へと――
「!?」
再度、マリアの長剣で矢が真っ二つにされる。
鋭い太刀筋が嘘のように、再び船を漕ぐマリア。
「ま、まだです!」
だが。
「くっ! ああああ! 何故!? 何故ですか!?」
マリアの長剣が一閃、三の矢も斬り落とされて。
「……今回はここまでだ。確実に仕留める方法を改めて考えるぞ、てめぇら」
それ以上続けても無駄だと判断したシュウキが、苦虫を噛み潰したような顔で止めた。
※―※―※
翌日の朝。
「S級の凄腕とは聞いていたが、マジで厄介だぞあの女」
「ドハハハハ! 王女と聞いてチョロいかと思っていたが、思いのほか強敵だったな!」
「全くです。どうしたものか……」
馬車から出て来て、川で四つん這いになり、並んで顔を洗っている三人。
そこに、ルドが〝お祈り〟によって〝元に戻した〟矢が三本、飛んできて。
グサッ
グサッ
グサッ
「「「ぎゃあああああああああああああああ!」」」
彼らの尻の穴に突き刺さった。
「ドハハハハ! がはっ! 行きは楽勝で倒せたはずのモンスターに、こんなに苦戦するとはな!」
「ぐはっ! 一体何が起きているのですか!?」
ルドを追放した直後。
勇者のシュウキ、戦士のハラト、そして弓使いのムネナオは、ダンジョンの復路にて苦戦していた。
ポーターがいなくなったため自分たちで荷物を持たなければならなくなったのは正直面倒くさいし、突然モンスターが現れた場合など、荷物を地面に下ろすという今まで要らなかった動作が入ることから一瞬動きが遅れるため、そういう意味でも宜しくない。
だが、一番の問題は、明らかにルドがいた頃に比べて、モンスターたちが強くなったということだ。
「クソが! なんでこの勇者さまがこんな目に遭わないといけないんだよ!」
B級ダンジョンは既に他の場所で攻略済みだったため、このダンジョンは〝ルドを追放すること〟、ただそれだけのために今回潜ったのだ。
まぁ、B級と言いながら最下層にはボスとして物理攻撃に強いA級のクリスタルリザードがいるため、どちらにせよ魔法使いがいないシュウキたちにはこのダンジョンの攻略は難しかっただろうが。
しかし、最下層以外のB級モンスターたちは、今まで楽勝だったはずだ。
それが、オークも、ミノタウロスも、ハーピーもサラマンダーもダークベアも、皆いつもとは比べ物にならない程に手強い。
シュウキはLV56、ハラトはLV54、そしてムネナオはLV51というA級冒険者であり、本来ならば、苦戦するはずがないにもかかわらず、である。
「〝囮〟がいないだけでこんなに違うってのかよ!?」
シュウキたちは、この半年間、戦士がいるにもかかわらず、まるでタンクのような役回りを毎回ルドに押し付けていた。
否、タンクなどという生易しいものではなかった。
モンスターが出現すると、まずはルドをモンスターの目の前に放り投げるのだ。
そして、モンスターがルドを攻撃している隙に、モンスターに攻撃して倒し、また他のモンスターに対してもルドを眼前に放り投げて、同じことを繰り返して今まで勝利してきた。
「何故か毎回どれだけモンスターに攻撃されても、傷一つ負わなかったからな、あのガキは」
恐らくルドは、幸運値アップや回避率アップなどのスキルを持っているのだろう。
ステータス画面も冒険者カードもレベル以外読めないため、推測でしかないが、そうでないと説明がつかない。
そう思っていたのだが。
「なんだてめぇ、結局この勇者さまのおかげだったってことじゃねぇか!」
ある日、シュウキの〝隠しスキル〟が〝回避率アップ〟であることが判明した。
「荷物持ちしか出来ねぇ無能は要らねぇ! 追放してやる!」
そこで、彼らはルドをパーティーから追放した。
「ぐぉ! リーダー! 〝回避率アップ〟はどうなってるんだ?」
「がはっ! 常時発動してるはずだ! この勇者さまに頼ってんじゃねぇ! その無駄にでかい身体と自慢の大剣で防げ!」
「お前が『この勇者さまのスーパー隠しスキル〝回避率アップ〟に任せろ!』って言ったんだろうが!」
「あ? 喧嘩売ってんのかてめぇ――って、え? 何だこれ?」
シュウキの視界に文字が映った。
「はあああ!? <回避率アップ(1%)>だああああ!?」
<回避率アップ>の横に(1%)という数値が付け加わっていた。
「んなもん誤差じゃねぇかよ!」
「ドハハハハ! 大口を叩いておいて、そのザマか!」
「んだとてめぇ!?」
そこに、ムネナオが横から口を挟む。
「もしかしてですが……ルドは、本当に毎回モンスターの攻撃を食らっていたのではないでしょうか?」
「は? んな事あるわけねぇだろうが! アイツがいつも無傷だったのを見てただろ?」「そうなんですが。でも、そうでもないと、この状況に説明がつかないじゃないですか? 実際にモンスターが攻撃をして、ルドが食らう。そこに一瞬の隙が生まれて、ワタシたちは攻撃して倒すことが出来ていたんじゃないですか?」
「うっ……そうだが……」
ムネナオは言葉を継ぐ。
「更に言うと、ルドをモンスターたちが攻撃した場所って、後から見ると、牙・角、そして折れた棍棒や剣の一部が落ちていませんでしたか? 最初は偶々かと思いましたが、あれだけ毎回となると、ただの偶然とは思えません。そのおかげで、ワタシたちがモンスターに噛まれたり角で刺されそうになった時、または得物で攻撃されそうになった時には、既に牙も角も無く、武器も短くなっているので届かず、怪我せずに済んだ、ということも何度もあったかと」
そう言われてみると、シュウキも身に覚えがあった。
他メンバーの十分の一だとも知らずに、給料を貰う度に笑顔で礼を言っていた八歳のガキ。
ただのガキだと思っていたが、もしかしたら、ルドには、何か物凄い固有スキルか何かがあるのかもしれない。
「いや、んなことねぇ! ただの偶然だ! ぐはっ!」
オークの棍棒の一撃で、シュウキは吹っ飛ばされた。
※―※―※
ポーションを全て使い切り、這う這うの体でダンジョンから逃げ出して来たシュウキたちは、王都に戻り、宿で泥のように眠った。
翌日の朝。
「やっぱ魔法使いが要るな。あと、治癒師も」
シュウキたちは、冒険者ギルドへと向かった。
「勇者さまですね。どうぞこちらへ」
何故か受付嬢がギルド長室へと案内する。
お? この勇者さまの目覚ましい活躍に、褒賞でも与えようってか?
しょうがねぇなぁ。受け取ってやるか。
「勇者殿。貴公には、〝仲間に対する殺人未遂〟の容疑が掛かっている」
あれえええええ!?
思ってたのとちがあああああう!
何故かギルド長のみならず、宰相までいやがるし!
「ダンジョンにて、ルドを奈落へと突き落としたと聞いている」
「い、一体誰がそんなことを!?」
「本人だ」
生きてやがったのか、あのクソガキ!
いやでも、一体どうやって!?
あの高さから落ちたら、普通死ぬだろ!
「おいおい、どうするんだ?」
「ヤバいですよ、リーダー!」
うるせぇ、てめぇらは黙ってろ!
「い、いや、誤解です! えっと、その……そう! あのクソガ――ルドが、足を踏み外して、大穴に落ちてしまったんです。勿論すぐ助けに行きたかったんですが、御存じの通り、あのダンジョンは最下層にクリスタルリザードがいます。残念ながら、魔法使いがいない俺たちじゃ太刀打ち出来ず……泣く泣く諦めたんです」
とっさにしては完璧な言い訳だ!
よし、これで誤魔化すことが出来――
チーン
「え?」
見ると、ギルド長の高そうな机の上に置かれた、箱に嵌め込まれた魔石が赤く光っており、少しすると青色になった。
「これは、相手が嘘を言っているかどうかを見分けるための魔導具でね」
噓発見器じゃねぇか! ふざけんなよ!
「私は国王さまの名代としてこの場にいる。王の御前で嘘をつくということは、それだけで処罰の対象となるが、宜しいか?」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
宰相の重圧に、シュウキが慌てる。
「記憶違いでした! その……モンスターとの戦闘があったんです。それで、全員必死に戦っている最中に、ルドが大穴に落ちてしまったんです」
チーン
「……ではなくて、突然地面が陥没して、穴が出来たんです。恐らくトラップに掛かってしまったのでしょう。俺たちは何とか落ちずに済みましたが、残念ながら、ルドだけが落下してしまって」
チーン
「……もとい、他の冒険者パーティーが氷魔法を発動し、凍ってしまった地面を滑って、ルドはそのまま奈落に落ちて――」
チーン
「嘘を重ねるとは……国王に対する侮辱と受け取って宜しいか?」
「ま、待って下さい!」
ちくしょう!
こうなったら、正直に言うしかねぇ!
「……俺たちが、ルドを大穴に落としたんです。荷物持ちしか出来ない無能ポーターは要らないって言って」
………………
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………………
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「なっ!?」
シュウキは思わず声を上げた。
「ルドは生きていたんですよね!? それなら、もう良いじゃないですか!」
「貴公が元々いた世界では、誰かを殺そうとした際に、相手が生きていれば、それで無罪放免となるのか?」
「うっ……それは……」
「少なくともこの世界においては、殺人未遂は重罪だ」
歯噛みするシュウキに、追い打ちが掛かる。
「国王さまの名代として告げる。〝勇者〟の称号を剥奪、それに伴い、〝勇者パーティー〟に与えている毎月の補助金も打ち切る」
「はああああ!? ふざけんなよ!」
「……それは国王に対する侮辱か?」
「リーダー! マズいですよ! 堪えて下さい!」
「……いえ、申し訳ありませんでした……」
シュウキはプルプルと震えながら、何とか爆発寸前の怒りを抑えこんだ。
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「ふざけんなよジジイどもが!」
「クソ! どうすりゃ良いってんだよ!」
「洒落になりませんね……」
シュウキたちが酒場で怒りをぶちまけ、「全部あのクソガキのせいだ……! ぶっ殺している……!」と、その瞳に暗い光を宿すと。
「勇者シュウキだな。仕事を依頼したい」
黒フードで顔を覆い黒マントに身を包んだ、見るからに怪しげな男が彼らのテーブルに近付き、シュウキの対面に座った。
「仕事だぁ? てめぇみたいな怪しい奴の話なんて誰が聞くかってんだ!」
「失礼。〝元〟勇者だったな」
「! てめぇ、なんでそれを知ってる!? まだ数時間しか経ってねぇのに! それに、あの場にいたのは、ギルド長と宰相だけだぞ!」
酔いが醒め、一気に警戒モードに入ったシュウキが、腰の長剣に手を当てながら問い詰める。
「自己紹介が遅くなった」
そう言った男が指に嵌めた指輪に触れると、周囲の音が一瞬で消える。
どうやら、内密の話、ということらしい。
「俺は、ヴィンス・フォン・オースバーグ。オースバーグ王国王子だ」
「「「!?」」」
顔も見せない男の言葉など、信じられないと思っていたのだが。
「自分で言うのもなんだが、俺は結構有名人でね。残念ながらここで顔を晒す訳にはいかない。が、これで信じてもらえないだろうか?」
「! これは!」
それは、没収されたシュウキたちの冒険者カードだった。
「取り敢えずまずはこれを取り返しておいた。俺の依頼を達成してもらえれば、勇者の称号と勇者パーティーに対する補助金も元通りにすると約束しよう」
「それだけか?」
「フッ。そう焦るな。無論それだけではない。金貨百枚を与えよう」
悪くない。
まぁ、依頼内容次第だが。
「で、何をして欲しいんだ?」
「マリア・フォン・オースバーグを暗殺して欲しい」
「「「!」」」
王女を……? 本気か……?
顔は見えない。
が、声色からは、確固たる意思を感じた。
否、執念と表現とした方が良いかもしれない。
「金貨百枚じゃ足りねぇな」
「千枚でどうだ?」
「……他国への亡命サポートもつけろ」
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シュウキは、ヴィンスと握手を交わした。
※―※―※
「何が『全部後払い』だ! せめて前金で何割か渡しやがれってんだ! しかも、『元々は王女が所属していた冒険者パーティーに頼んでいたが、行方不明になってしまったから、新たに依頼出来る相手を探していた』って、一度暗殺未遂して、それが成功したと思い込んで、口封じのために処分したってことじゃねぇか! この勇者さまを甘く見るなよ! 俺様はぜってぇヤられたりなんかしねぇからな! 依頼達成したら、ちゃんと金ぶんどってトンズラしてやる!」
現在、シュウキたちは、馬車でひたすらルドとマリアを尾行している。
オースバーグ王国からヴァウスデラリア帝国の帝都マルグストンへ、そしてエルニコス村へ行ったルドたちが戻って来てからは、また帝都マルグストンへと至る道を。
ヴィンスは、その息が掛かった部下たちを各国に忍ばせているらしく、黒フードで顔を隠した黒ずくめの者が行きのマルグストンにて接触してきて、膂力増強剤を手渡してきた。
それにより、シュウキたちは格段に膂力がアップした。
ヴィンスは〝闇の商人〟と知り合いらしく、「儂の魔法薬は効果抜群じゃからのう」という、商人のお墨付きらしい。
「クックック。今のワタシなら、ここからでも狙えますよ」
視力アップの効果もあったらしく、夜間にもかかわらずクリアな視界を確保し、遥か遠くにて野営するルドたちの馬車に向けて弓を引くムネナオは、ポリシーなのか、眼鏡はつけたままだ(レンズが入ったままだと逆に見え辛いので、今は伊達メガネとなっている)。
幌馬車の中にはルドが眠っており、マリアは車輪にもたれかかって外で眠っている。
モンスターその他の敵襲を警戒してのことだろう。
「クックック。無駄ですよ。〝人の気配〟なんて全く感じない、超長距離からの狙撃ですからね」
「まずは見張りの剣士を射殺し、依頼を達成しますか」と、ムネナオの上がった口角は。
「なっ!? 馬鹿な!」
すぐに下がった。
高速で飛んでいった矢を、あろうことかマリアは剣で叩き落とした。
一瞬目を覚ましたかと思ったマリアは、また目を閉じて眠ってしまう。
「くっ! ぐ、偶然に決まっています!」
ムネナオが二の矢を番える。
再び放たれた矢は、夜闇を切り裂き、狙い違わず、マリアの頭部へと――
「!?」
再度、マリアの長剣で矢が真っ二つにされる。
鋭い太刀筋が嘘のように、再び船を漕ぐマリア。
「ま、まだです!」
だが。
「くっ! ああああ! 何故!? 何故ですか!?」
マリアの長剣が一閃、三の矢も斬り落とされて。
「……今回はここまでだ。確実に仕留める方法を改めて考えるぞ、てめぇら」
それ以上続けても無駄だと判断したシュウキが、苦虫を噛み潰したような顔で止めた。
※―※―※
翌日の朝。
「S級の凄腕とは聞いていたが、マジで厄介だぞあの女」
「ドハハハハ! 王女と聞いてチョロいかと思っていたが、思いのほか強敵だったな!」
「全くです。どうしたものか……」
馬車から出て来て、川で四つん這いになり、並んで顔を洗っている三人。
そこに、ルドが〝お祈り〟によって〝元に戻した〟矢が三本、飛んできて。
グサッ
グサッ
グサッ
「「「ぎゃあああああああああああああああ!」」」
彼らの尻の穴に突き刺さった。
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