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6.「vsアイスドラゴン(四天王)」
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時は少し遡って。
オースバーグ王国の王都ロマノシリングから馬車で北上した僕たちは、三日後にはホワイトフローレス皇国へと入った。
皇都の北には雪原地帯があるこの国は、南部はまだ荒野や草原といった、オースバーグ王国と同じような景色が広がっている。
途中で、お馬さんがお水をたくさん飲んだり草を食べたりするのと、僕たちの休憩も兼ねて、川近くの草原で休憩することにした。
「はい、お姉ちゃん! プレゼント!」
僕は、元々いた世界でお姉ちゃんに作り方を教えてもらった〝花かんむり〟を、草原に座り革製の水筒で水を飲んでいたお姉ちゃんの頭に乗せた。
「え? 私に?」
「うん、これでお姉ちゃんは、女王さま!」
「女王……」
川に近付いたお姉ちゃんは、水面で自身の姿を映す。
「……ありがとう……すごいわ。どっからどう見ても、素敵な女王ね」
「うん! 素敵な女王さま! だって、お姉ちゃんはとっても優しいから!」
「……私は、優しくなんてないわ……」
お姉ちゃんが、目を逸らす。
「お姉ちゃん?」
「ううん、何でもないわ! 素敵なプレゼントをありがとうね、ルド君!」
「えへへ」
お姉ちゃんは、手に取った花かんむりをじっと見つめた後、顔を上げた。
「ねぇ、ルド君。この花かんむりが永遠に枯れないように、〝お祈り〟してもらえないかな?」
「いいよ! やってみる! 神さま、お姉ちゃんの花かんむりが永遠に枯れないようにして下さい。出来た!」
「ありがとうね。これで本当に枯れなくなるんだから、すごいわよね……」
お姉ちゃんは、花かんむりを胸元にしまいながら、ボソッとつぶやいた。
「それにしても、あなたみたいな小さな男の子が、その顔とその表情で、花かんむり作ってプレゼントとか、可愛過ぎてちょっと危険ね……」
「危険?」
「いい? 知らない人にはついていっちゃ駄目よ? 男の人でも女の人でも。お菓子あげるとか何か良いものあげるとか言われても」
「うん、分かった!」
僕のことをすごく心配してくれる。
やっぱり、お姉ちゃんはとっても優しい!
※―※―※
「着いたー!」
「旅にも大分慣れてきたわね」
オースバーグ王国王都を出発してから六日後、ホワイトフローレス皇国の皇都ゴールドバージェンに到着した。
国名からか、皇都の外壁は白亜で、その中心にある王城はそこに皇都名の色も追加して、純白と金色で美しい外観をしている。
「冒険者は情報が命よ。まぁ、冒険者だけじゃないけどね」
ということで、僕らは冒険者ギルドへと向かった。
「ルドさまとメアリーさま!? どうぞ、こちらにお越しくださいませ!」
受付嬢さんによって、僕らはギルド長室へと案内された。
あれ? この流れ、どっかで見たことあるかも。
「よくぞ来てくれた! 早速だが、我が国の皇帝に会って欲しい」
僕らは、皇帝さまに会うことになった。
「ルドとメアリーよ。君たち二人の噂は聞いているぞ。何でも、ヴァウスデラリア帝国にて、長らく人々を苦しめていた四天王が一人、ヴィシャススコーピオンを討伐したとか」
皇帝さまも知ってるんだ!
あ、もしかしたら、音声やメッセージを送るための魔導具を使ってるのかも。
「是非私たちの国も救ってもらえないだろうか。北部の雪原地帯にて、村人たちが四天王アイスドラゴンの脅威に日々怯えながら暮らしているのだ。無論、謝礼は弾むぞ」
「うん、分かった! 僕たちがアイスドラゴンを倒して、村の人たちを助ける!」
「そうそう、悪いが、ついでに、途中、西部にある墓地に出没するアンデッドたちも討伐してもらえると助かる」
「分かった!」
僕たちは、アイスドラゴンと戦うことを決断した。
※―※―※
野営を挟みながら、僕らは皇都から北上していった。
すぐに雪が降り始めて、白銀の世界へと一変した。
お馬さんたちは寒さに強いらしくて、問題なく走ってくれている。
お馬さんたち、ありがとう!
一方、人間は寒いのは苦手なので、〝お祈り〟によって、僕たちは温かい空気で身体を包んでいる。
ちなみに、ヴァウスデラリア帝国と違って、この国は、北部の村に軍隊を派遣しているようだ。
「この国の方が、国民を守る気持ちがあるようね。良いことだわ」
お姉ちゃんが、うんうんと頷いた。
※―※―※
皇都を出立して三日後。
僕たちは、シュレイティスという村に到着した。
「ようこそ、シュレイティスへ!」
「よくぞお越し下さった!」
村人たちは、笑顔で歓迎してくれたけど。
「……みんなガリガリだね」
「ちゃんと食べているのかしら?」
百人いるらしい村人たち全員が、心配になっちゃうくらい細かった。
「何と、儂らを助けるために来て下さったのか! 感謝いたしますぞ」
村長さんもすごく痩せていた。
「〝氷雪神さま〟は、食べ物は要求するけど、命は奪わないの! 良い神さまなの!」
僕と同い年くらいの可愛い女の子が教えてくれる。
彼女はグレースちゃん。
まるで雪みたいな綺麗な白髪で、すごく痩せているけど、明るくて元気一杯な女の子だ。
「また〝神さま〟なのね……」
お姉ちゃんが、どこかうんざりした表情を浮かべる。
「それに、ちょっと前から、国の兵隊さんたちが来て警戒してくれているの! だから、大丈夫なの!」
グレースちゃんの言葉に、剣や弓を持った兵隊さんたちが、「おう、任せろ、嬢ちゃん!」「守ってみせるぜ!」と、白い歯を見せる。
「……十人だけなのね。見たところB級三人にC級七人って感じかしら。確実にS級モンスターである四天王を相手に、心許無いわね……」
「この国はもう少し本気で国民を救う気があると思っていたのだけれど」と、残念そうにお姉ちゃんが溜め息をついた。
グレースちゃんは、『食べ物しか要求しないから良い神さま』と言うけど。
「もっとたくさんご飯食べれた方が絶対に嬉しいよね、グレースちゃん?」
「え? そりゃそうだけど……それは無理なの。あたしにはパパとママがいるし、十分幸せなの。これ以上望んだら、それは〝高望み〟なの、ルドくん」
手を繋ぐグレースちゃんのお父さんとお母さんも、すごく痩せている。
現実を受け入れて、諦めているんだ。
自分たちがどれだけ頑張ったって、何も変わりはしないって。
確かに、普通の人が四天王を倒すのは難しいかもしれない。
でも! 僕には〝お祈り〟とお姉ちゃんがいる!
「待ってて、グレースちゃん! 僕たちが、アイスドラゴンを倒してくるから!」
「え? 本気なの? えっと……無理しないでなの、ルドくん……」
「ルド君は別に無理はしていないわ。ただ、困っている人がいたら、放っておけないだけなのよ」
「そ、そうなの?」
目の前の現実を変えられる可能性があるとは微塵も思えないらしく、グレースちゃんはずっと戸惑ったままだった。
※―※―※
村長さんに教えてもらったのは、村から北東にある小さな山だった。
麓まで馬車で行き、そこからは歩いていく。
「小さな山で良かった!」
「本当ね」
山というよりも、どちらかと言うと小高い丘という感じだ。
村から二時間ほどで山頂まで到達した僕らが見たのは。
「「!」」
もぬけの殻となった、アイスドラゴンの巣だった。
「いつ行ってもいる」という情報だったのに、これは一体……?
「嫌な予感がする!」
「戻りましょう!」
※―※―※
「ゴファファファファ! 遅かったゴン! もう手遅れゴン!」
「「!」」
村に戻ると、そこには白銀のドラゴンがいた。
巨躯を誇る彼の眼前には、たくさんの〝四角い氷〟によって閉じ込められた村人たちと兵隊さんたちがいる。
「グレースちゃん!」
必死に逃げようとしたであろう彼女が、泣き叫んだ表情のまま、氷塊に閉じ込められていた。
「今までは食べ物だけで勘弁してやってたけど、気が変わったゴン! 吾輩は無性に人間が喰いたくなったゴン。『氷雪神さま、どうか御慈悲を!』とか言って土下座する奴を氷漬けにするのも、悲鳴を上げながら逃げ惑う奴らを氷漬けにするのも楽しくてしょうがなかったゴン! そして、これから食事タイムゴン。氷漬けにした人間を喰うと、これがまた冷たくて独特の歯応えがあって美味しいゴン! ゴファファファファ!」
腹を抱えて笑うアイスドラゴン。
すごく大きいし、怖い……
涙が出てくる……
「ぐすっ……」
でも! そんなことより!
「絶対に許さない!」
怒りが込み上げる。
「ゴファファファファ! 泣きながら言われても説得力ないゴン! それに、ただのガキに何が出来るっていうゴン? ……いや、そっちの女の方は、そこそこやりそうゴン。スピード特化型ゴン?」
「! ただ見ただけで私の武器を見抜いたの!?」
「そんなのお見通しゴン! じゃあ、自慢のスピードで守ってみせろゴン!」
アイスドラゴンの巨体が発光、空中に無数の氷柱が出現した。
鋭い尖端が日光を浴びて鈍く光る。
「『アイシクル』!」
「! マズいわ!」
氷柱が一斉に放たれた。
兵隊さんたちを含めて、百十人全員に向かって。
「くっ!」
跳躍したお姉ちゃんが猛スピードで氷柱を叩き折っていくけど、流石のお姉ちゃんでも、全員を救うなんて無理だ。
僕も、お姉ちゃんみたいに動けたら、助けられるのに……!
「ルド君! あなたはレベルアップしたのよ! 今のあなたは、私なんかよりもずっと速いのよ! 自信を持って!」
「!」
そうだ!
お姉ちゃんがそう言うなら!
その言葉に突き動かされた僕は。
「ゴファファファファ! これで人間どもはみんな串刺しに……へ? 誰も貫かれていないゴン!?」
一瞬で百十人全員を閉じ込めている氷塊を回収した。
「人間がそんなスピードで動けるはずないゴン!」
「頑張って走ったから!」
「そんなんで奇跡を起こせるなら、誰も苦労はしないゴン! っていうか、何か大道芸みたいになってるゴン!」
超スピードで回収した四角い氷塊を両手で堆く積み上げた僕に、アイスドラゴンが突っ込む。
「よいしょ。グレースちゃん、みんな、ちょっと待っててね」
氷塊を全て一ヶ所にまとめて地面に下ろす。
「な、中々やるゴン! こうなったら、圧倒的な戦闘能力の差を見せ付けてやるゴン! 貴様には逆立ちしても出来ない、空からの攻撃ゴン!」
アイスドラゴンが翼を広げると、ふわりと浮き上がる。
「ゴファファファファ! そっちからの攻撃は届かない高所から、一方的に嬲り殺してやるから、覚悟す――ギャアアア!」
ボッという音と共にアイスドラゴンの右翼に穴が開き、落下。
「さっき吾輩が飛ばした氷柱を投げたゴン!? その小さな身体でそんなこと不可能ゴン! どんなカラクリゴン!?」
「〝僕が元々いた世界のスポーツ選手みたいに投げられますように〟って、神さまに〝お祈り〟したから!」
「いやいや、貴様の世界のスポーツ選手の腕力はどうなってるゴン!? 今のは明らかに音速を超えてたゴン! しかも〝お祈り〟て。それで何とかなるなら、巫女が最強になっちゃうゴン!」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
「行くよじゃないゴン! 無視するなゴン!」
こうして、僕らと四天王アイスドラゴンの戦いが始まった。
オースバーグ王国の王都ロマノシリングから馬車で北上した僕たちは、三日後にはホワイトフローレス皇国へと入った。
皇都の北には雪原地帯があるこの国は、南部はまだ荒野や草原といった、オースバーグ王国と同じような景色が広がっている。
途中で、お馬さんがお水をたくさん飲んだり草を食べたりするのと、僕たちの休憩も兼ねて、川近くの草原で休憩することにした。
「はい、お姉ちゃん! プレゼント!」
僕は、元々いた世界でお姉ちゃんに作り方を教えてもらった〝花かんむり〟を、草原に座り革製の水筒で水を飲んでいたお姉ちゃんの頭に乗せた。
「え? 私に?」
「うん、これでお姉ちゃんは、女王さま!」
「女王……」
川に近付いたお姉ちゃんは、水面で自身の姿を映す。
「……ありがとう……すごいわ。どっからどう見ても、素敵な女王ね」
「うん! 素敵な女王さま! だって、お姉ちゃんはとっても優しいから!」
「……私は、優しくなんてないわ……」
お姉ちゃんが、目を逸らす。
「お姉ちゃん?」
「ううん、何でもないわ! 素敵なプレゼントをありがとうね、ルド君!」
「えへへ」
お姉ちゃんは、手に取った花かんむりをじっと見つめた後、顔を上げた。
「ねぇ、ルド君。この花かんむりが永遠に枯れないように、〝お祈り〟してもらえないかな?」
「いいよ! やってみる! 神さま、お姉ちゃんの花かんむりが永遠に枯れないようにして下さい。出来た!」
「ありがとうね。これで本当に枯れなくなるんだから、すごいわよね……」
お姉ちゃんは、花かんむりを胸元にしまいながら、ボソッとつぶやいた。
「それにしても、あなたみたいな小さな男の子が、その顔とその表情で、花かんむり作ってプレゼントとか、可愛過ぎてちょっと危険ね……」
「危険?」
「いい? 知らない人にはついていっちゃ駄目よ? 男の人でも女の人でも。お菓子あげるとか何か良いものあげるとか言われても」
「うん、分かった!」
僕のことをすごく心配してくれる。
やっぱり、お姉ちゃんはとっても優しい!
※―※―※
「着いたー!」
「旅にも大分慣れてきたわね」
オースバーグ王国王都を出発してから六日後、ホワイトフローレス皇国の皇都ゴールドバージェンに到着した。
国名からか、皇都の外壁は白亜で、その中心にある王城はそこに皇都名の色も追加して、純白と金色で美しい外観をしている。
「冒険者は情報が命よ。まぁ、冒険者だけじゃないけどね」
ということで、僕らは冒険者ギルドへと向かった。
「ルドさまとメアリーさま!? どうぞ、こちらにお越しくださいませ!」
受付嬢さんによって、僕らはギルド長室へと案内された。
あれ? この流れ、どっかで見たことあるかも。
「よくぞ来てくれた! 早速だが、我が国の皇帝に会って欲しい」
僕らは、皇帝さまに会うことになった。
「ルドとメアリーよ。君たち二人の噂は聞いているぞ。何でも、ヴァウスデラリア帝国にて、長らく人々を苦しめていた四天王が一人、ヴィシャススコーピオンを討伐したとか」
皇帝さまも知ってるんだ!
あ、もしかしたら、音声やメッセージを送るための魔導具を使ってるのかも。
「是非私たちの国も救ってもらえないだろうか。北部の雪原地帯にて、村人たちが四天王アイスドラゴンの脅威に日々怯えながら暮らしているのだ。無論、謝礼は弾むぞ」
「うん、分かった! 僕たちがアイスドラゴンを倒して、村の人たちを助ける!」
「そうそう、悪いが、ついでに、途中、西部にある墓地に出没するアンデッドたちも討伐してもらえると助かる」
「分かった!」
僕たちは、アイスドラゴンと戦うことを決断した。
※―※―※
野営を挟みながら、僕らは皇都から北上していった。
すぐに雪が降り始めて、白銀の世界へと一変した。
お馬さんたちは寒さに強いらしくて、問題なく走ってくれている。
お馬さんたち、ありがとう!
一方、人間は寒いのは苦手なので、〝お祈り〟によって、僕たちは温かい空気で身体を包んでいる。
ちなみに、ヴァウスデラリア帝国と違って、この国は、北部の村に軍隊を派遣しているようだ。
「この国の方が、国民を守る気持ちがあるようね。良いことだわ」
お姉ちゃんが、うんうんと頷いた。
※―※―※
皇都を出立して三日後。
僕たちは、シュレイティスという村に到着した。
「ようこそ、シュレイティスへ!」
「よくぞお越し下さった!」
村人たちは、笑顔で歓迎してくれたけど。
「……みんなガリガリだね」
「ちゃんと食べているのかしら?」
百人いるらしい村人たち全員が、心配になっちゃうくらい細かった。
「何と、儂らを助けるために来て下さったのか! 感謝いたしますぞ」
村長さんもすごく痩せていた。
「〝氷雪神さま〟は、食べ物は要求するけど、命は奪わないの! 良い神さまなの!」
僕と同い年くらいの可愛い女の子が教えてくれる。
彼女はグレースちゃん。
まるで雪みたいな綺麗な白髪で、すごく痩せているけど、明るくて元気一杯な女の子だ。
「また〝神さま〟なのね……」
お姉ちゃんが、どこかうんざりした表情を浮かべる。
「それに、ちょっと前から、国の兵隊さんたちが来て警戒してくれているの! だから、大丈夫なの!」
グレースちゃんの言葉に、剣や弓を持った兵隊さんたちが、「おう、任せろ、嬢ちゃん!」「守ってみせるぜ!」と、白い歯を見せる。
「……十人だけなのね。見たところB級三人にC級七人って感じかしら。確実にS級モンスターである四天王を相手に、心許無いわね……」
「この国はもう少し本気で国民を救う気があると思っていたのだけれど」と、残念そうにお姉ちゃんが溜め息をついた。
グレースちゃんは、『食べ物しか要求しないから良い神さま』と言うけど。
「もっとたくさんご飯食べれた方が絶対に嬉しいよね、グレースちゃん?」
「え? そりゃそうだけど……それは無理なの。あたしにはパパとママがいるし、十分幸せなの。これ以上望んだら、それは〝高望み〟なの、ルドくん」
手を繋ぐグレースちゃんのお父さんとお母さんも、すごく痩せている。
現実を受け入れて、諦めているんだ。
自分たちがどれだけ頑張ったって、何も変わりはしないって。
確かに、普通の人が四天王を倒すのは難しいかもしれない。
でも! 僕には〝お祈り〟とお姉ちゃんがいる!
「待ってて、グレースちゃん! 僕たちが、アイスドラゴンを倒してくるから!」
「え? 本気なの? えっと……無理しないでなの、ルドくん……」
「ルド君は別に無理はしていないわ。ただ、困っている人がいたら、放っておけないだけなのよ」
「そ、そうなの?」
目の前の現実を変えられる可能性があるとは微塵も思えないらしく、グレースちゃんはずっと戸惑ったままだった。
※―※―※
村長さんに教えてもらったのは、村から北東にある小さな山だった。
麓まで馬車で行き、そこからは歩いていく。
「小さな山で良かった!」
「本当ね」
山というよりも、どちらかと言うと小高い丘という感じだ。
村から二時間ほどで山頂まで到達した僕らが見たのは。
「「!」」
もぬけの殻となった、アイスドラゴンの巣だった。
「いつ行ってもいる」という情報だったのに、これは一体……?
「嫌な予感がする!」
「戻りましょう!」
※―※―※
「ゴファファファファ! 遅かったゴン! もう手遅れゴン!」
「「!」」
村に戻ると、そこには白銀のドラゴンがいた。
巨躯を誇る彼の眼前には、たくさんの〝四角い氷〟によって閉じ込められた村人たちと兵隊さんたちがいる。
「グレースちゃん!」
必死に逃げようとしたであろう彼女が、泣き叫んだ表情のまま、氷塊に閉じ込められていた。
「今までは食べ物だけで勘弁してやってたけど、気が変わったゴン! 吾輩は無性に人間が喰いたくなったゴン。『氷雪神さま、どうか御慈悲を!』とか言って土下座する奴を氷漬けにするのも、悲鳴を上げながら逃げ惑う奴らを氷漬けにするのも楽しくてしょうがなかったゴン! そして、これから食事タイムゴン。氷漬けにした人間を喰うと、これがまた冷たくて独特の歯応えがあって美味しいゴン! ゴファファファファ!」
腹を抱えて笑うアイスドラゴン。
すごく大きいし、怖い……
涙が出てくる……
「ぐすっ……」
でも! そんなことより!
「絶対に許さない!」
怒りが込み上げる。
「ゴファファファファ! 泣きながら言われても説得力ないゴン! それに、ただのガキに何が出来るっていうゴン? ……いや、そっちの女の方は、そこそこやりそうゴン。スピード特化型ゴン?」
「! ただ見ただけで私の武器を見抜いたの!?」
「そんなのお見通しゴン! じゃあ、自慢のスピードで守ってみせろゴン!」
アイスドラゴンの巨体が発光、空中に無数の氷柱が出現した。
鋭い尖端が日光を浴びて鈍く光る。
「『アイシクル』!」
「! マズいわ!」
氷柱が一斉に放たれた。
兵隊さんたちを含めて、百十人全員に向かって。
「くっ!」
跳躍したお姉ちゃんが猛スピードで氷柱を叩き折っていくけど、流石のお姉ちゃんでも、全員を救うなんて無理だ。
僕も、お姉ちゃんみたいに動けたら、助けられるのに……!
「ルド君! あなたはレベルアップしたのよ! 今のあなたは、私なんかよりもずっと速いのよ! 自信を持って!」
「!」
そうだ!
お姉ちゃんがそう言うなら!
その言葉に突き動かされた僕は。
「ゴファファファファ! これで人間どもはみんな串刺しに……へ? 誰も貫かれていないゴン!?」
一瞬で百十人全員を閉じ込めている氷塊を回収した。
「人間がそんなスピードで動けるはずないゴン!」
「頑張って走ったから!」
「そんなんで奇跡を起こせるなら、誰も苦労はしないゴン! っていうか、何か大道芸みたいになってるゴン!」
超スピードで回収した四角い氷塊を両手で堆く積み上げた僕に、アイスドラゴンが突っ込む。
「よいしょ。グレースちゃん、みんな、ちょっと待っててね」
氷塊を全て一ヶ所にまとめて地面に下ろす。
「な、中々やるゴン! こうなったら、圧倒的な戦闘能力の差を見せ付けてやるゴン! 貴様には逆立ちしても出来ない、空からの攻撃ゴン!」
アイスドラゴンが翼を広げると、ふわりと浮き上がる。
「ゴファファファファ! そっちからの攻撃は届かない高所から、一方的に嬲り殺してやるから、覚悟す――ギャアアア!」
ボッという音と共にアイスドラゴンの右翼に穴が開き、落下。
「さっき吾輩が飛ばした氷柱を投げたゴン!? その小さな身体でそんなこと不可能ゴン! どんなカラクリゴン!?」
「〝僕が元々いた世界のスポーツ選手みたいに投げられますように〟って、神さまに〝お祈り〟したから!」
「いやいや、貴様の世界のスポーツ選手の腕力はどうなってるゴン!? 今のは明らかに音速を超えてたゴン! しかも〝お祈り〟て。それで何とかなるなら、巫女が最強になっちゃうゴン!」
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