【〝惑星〟転生】異世界そのもの(星)に転生した少年が無能ポーターと罵られ勇者パーティーから追放された後に真の力に目覚め無自覚ざまぁする

お餅ミトコンドリア

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7.「決着」

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「ゴファファファファ! 一ヶ所にまとめたのは悪手だったゴン! 守れるもんなら守ってみろゴン! 一つでも後ろに逸らしたら、氷漬けの奴らが串刺しになるゴン!」

 再び四天王アイスドラゴンが、自分の周囲に幾多の氷柱を出現させる。

「お姉ちゃん、もしものために、みんなを守ってあげて!」
「分かったわ!」

 お姉ちゃんが、氷漬けにされた人々の前に立ち、長剣を斜めに構える。

「ゴファファファファ! 死ねゴン!」

 飛ばされてくる数多の氷柱を、僕はパンチで迎撃する。

「たあああああああああ! よし! 全部撃ち落とせてる!」
「いやいやいや! 当たってる当たってる! 全身に当たってるゴン! 胸も腹も頭も! っていうか、目に当たってるのに、なんで平気ゴン!? 吾輩の氷柱は一つ一つが最上級氷魔法の威力ゴン! 刺さらないどころか氷柱の方が砕け散るって、貴様の目玉はオリハルコンかなんかで出来てるゴン!?」

 〝お祈り〟で強化したパンチのおかげで全て迎え撃つことに成功した僕に、アイスドラゴンが怒りを爆発させる。

「ふざけるのもいい加減にするゴン! こちとら四天王ゴン! しかもモンスター最強種のドラゴンだゴン! もうこうなったら、本気を出すゴン!」

 アイスドラゴンの身体が光り輝く。

「『絶対零度氷結アブソリュート・ゼロ・フリーズ』!」

 大口を開けて後ろに仰け反った彼が、反動をつけて吐いたのは〝冷気のドラゴンブレス〟。

 触れるもの全てを凍てつかせる、究極の冷気だ。

「うわああああああ!」
「ルドく――」

 僕も、後ろにいたお姉ちゃんも、村の人たちや兵隊さんたちと同じように、四角い氷塊に閉じ込められてしまった。

「ゴファファファファ! ちょっと――いや、かなり化物だったけど、漸く殺せたゴン! これで心置きなく人間どもを喰らうことが出来――」
「へっちゃらだもーん!」
「何しれっと復活してるゴオオオオオオオン!?」

 氷塊を粉々にして両手を突き上げる僕に、アイスドラゴンの目玉が飛び出す。

「一体どんな魔法を使ったゴン!? それとも、固有スキルゴン!?」
「あっ。よだれ出ちゃった」
「いや、それ涎じゃなくて〝マグマ〟ゴン! 地面に落ちて、雪どころか土までジュウジュウ焼いてるゴン! って、え!? 貴様、体内に〝マグマ〟があるゴン!? そんな奴、この世界にいる訳――いや、もしいるとしたら……まさか、貴様は――」
「たあああああああああ!」
「ぐぁっ!」

 アイスドラゴンが喋ってる間に近付いた僕は、パンチで彼の右前脚を吹っ飛ばす。

 バランスを崩したアイスドラゴンの巨大な顔面が、小さな僕の前まで倒れてきて。

「食らえ! 〝お祈り〟の力! たあああああああああ! 」
「ギャアアアアア! だから、それはただの〝パンチ〟って言ってるゴオオオオオオオン!!!」

 〝お祈り〟で強化された僕の拳で、アイスドラゴンは空の彼方へと吹っ飛び、消えた。

「お姉ちゃん! グレースちゃん!」

 振り返った僕は、必死に呼び掛ける。
 
 術者であるアイスドラゴンを倒したことで、お姉ちゃんたちを閉じ込めていた氷塊は溶けてなくなった。

「お姉ちゃん!」
「……倒したのね、ルド君。私は大丈夫よ。ありがとうね」
「……良かった!」

 涙ぐむ僕に、しかしお姉ちゃんが悲しい顔をして、首を横に振る。

「私は短時間だったから良かったけど、みんなはちょっと氷の中に長く閉じ込められ過ぎたみたいね……」

 地面に倒れたグレースちゃんたちは、誰一人として動く気配はなかった。

「そんな……! 嫌だ! 死なないで! 神さま! お願いします! みんなを元気にして下さい! どうか、神さま! 神さまああああああああ!」

 絶叫が響くと、みんなの身体を温かい光が包み込む。

 光が消えると。

「……なんで、あたし生きてるの? 絶対に死んじゃったって思ったの……」

 グレースちゃんがゆっくりと上体を起こした。

「良かった! うわあああん!」
「ルドくん?」
「あのね、ルド君がアイスドラゴンを倒して、衰弱していたみんなのことも、助けてくれたのよ」
「!」

 立ち上がり、目を見開いた彼女に両親が近付いて、「グレース!」「奇跡だわ!」と、その存在を確かめるかのように、ギュッと抱き締める。

「パパ……ママ……!」

 グレースちゃんの綺麗な瞳から、大粒の涙が溢れてくる。

「ルドくん、ありがとうなの!! 本当にありがとうなの!!! うわあああん!」
「うわあああん!」

 僕らはしばらく泣き続けた。

※―※―※

「氷雪神さま――アイスドラゴンを倒しただけでなく、命まで救って下さったとは……本当に何とお礼申し上げれば良いやら」
「いえいえ!」

 村長さんが頭を下げて感謝を述べてくれる。

 他の村人たちも、あと兵隊さんたちも、「ありがとう!」「どれだけ感謝しても感謝しきれん!」と、言ってくれた。

「お家は壊れちゃったけど、生きてれば何とかなるの! 本当にありがとうなの!」

 グレースちゃんがニカッと白い歯を見せる。

「あ、壊れた家のことを忘れてた! 神さま、お願いします! 壊れた家を直して下さい!」

 僕が〝お祈り〟すると。

「え!?」

 アイスドラゴンによって破壊された複数の家が全て元に戻った。

「なんと!? そんなことまで!? 〝奇跡〟じゃ……!」
「いえ、すごいのは僕じゃなくて神さまです! 僕は〝お祈り〟しただけなので!」

 すると、グレースちゃんが駆け寄ってきて。

「ルドくん、ありがとう! 大好き!」

 チュッ

 抱き着いて、頬にチューしてくれた。

「どういたしまして!」

 僕とグレースちゃんは、見つめ合ってにっこりと笑った。

※―※―※

「なんでみんなキスしちゃうのかしら? 世間ではあれが普通なの? 私がおかしいの? それに、『大好き』って、あれ愛の告白よね? まだあんなに幼いのに? 私だってまだしたことないし、されたこともないのに……」

 村を後にして、馬車で南下している最中。
 僕を膝の上に乗せているお姉ちゃんが、何やらブツブツつぶやいていた。

「これでグレースちゃんは、お腹一杯食べれるよね!」
「……え? ああ、そうね」
「良かった!」
「くすっ。全部ルド君のおかげよ」
「ううん、お姉ちゃんと神さまのおかげだよ! 僕はまだまだ泣き虫で弱いし。でも、本当に良かった! グレースちゃん、お父さんとお母さんと一緒にたくさん食べて欲しいなぁ」

 「きっと今頃、みんなで美味しいご飯をたくさん食べて笑顔になってるわよ」と、お姉ちゃんが優しい声で語り掛けながら、頭を撫でてくれる。

「あ! そう言えば、ルド君、またレベルアップしてたわよ。LV 200になってたわ!」
「ほんと!? また上がった! やったああああああ!」
「くすっ。MPが999になっていて、更に固有スキル〝呼吸<LV 1>〟っていうのを獲得しているわ。どういう風に使うのかは分からないけど、ルド君のことだから、すごい能力なのは間違いないわ。あと、私もLV 148になっていたわ」
「二人とも上がった! わ~い!」

※―※―※

 野営を挟みながら南へと向かっている最中。

「そう言えば、この辺だったわね。西部にある墓地って」
「あ! そう言えばそうだった!」

 村の人たちをアイスドラゴンから救うことばかり考えていて、忘れてた!

※―※―※

 夜間に僕たちが訪れた墓地は。

「「「「「……う゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」」」」」

 ゾンビで一杯だった。
 僕らに向かってゆっくりと近付いてくる。

「……このリア充があああ……!」
「……しかも、おねショタだと……!」
「……憎い……恨めしい……!」
「……俺には、そんな青春は一ミリもなかったのに……!」

 よく分からなくて、僕は小首を傾げた。

「お姉ちゃん、〝りあじゅう〟と〝おねしょた〟ってなぁに?」
「他の異世界転生者から聞いたことあるけど、ルド君は知らなくても良いことよ。くだらないことだから」

 なんか、お姉ちゃんがゲンナリしてる。

「……俺らにとっては、くだらないことじゃない……!」
「「「「「……う゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」」」」」

 急にスピードが速くなった彼らを見て、慌てて僕は〝お祈り〟した。

「神さま、お願いします! 彼らを天国に送って下さい!」

 一瞬で墓地に光が満ち溢れて。

「……ええええええ……!? ……こんなあっさりいいいい……!?」
「……しかも、俺たちだけじゃなくて、墓地全体が浄化されてるからも、もう仲間が湧き出てくることも出来ない……!」
「……信じられない……!」
「……なんて浄化パワーだ……!」

 ゾンビたちは、天へ昇っていった。

「……こんな俺たちなのに、天国に送ってくれてありがとう……!」
「……恩に着るぜ……!」
「……二人とも、末永くお幸せに……!」
「……おねショタ万歳……!」
「……〝おねショタ〟……いや、もしかして、〝ショタおね〟……?」
「やかましいわ! 早く逝きなさい!」

 お姉ちゃんの叫び声が響いた。

※―※―※

「お腹減ったー!」
「くすっ。そうね、私もポトフが食べたいわ。じゃあ、王城に報告にいく前に、ご飯にしましょうか」

 村を出立して三日後、皇都ゴールドバージェンまで戻ってきた。

「わぁ~! 来たわ! オースバーグ王国ほどじゃないけど、ここのポトフも美味しいのよね!」

 レストランで、お姉ちゃんが満面の笑みを浮かべ、フォークに突き刺したウィンナーを口許に運ぶ。

 お姉ちゃんが幸せそうだと、僕も嬉しい!

 僕も、ポトフを食べ始める。

「ん?」

 こんな感じだったっけ?
 なんか、変な味がするような。

「ぐっ!」
「お姉ちゃん!?」

 お姉ちゃんが胸を押さえ、テーブルの上に突っ伏した。
 苦悶の表情で、口の端からは血が伝う。

「……毒よ……油断したわ……」
「毒!?」
「……ルド君は……大丈夫……?」
「僕は平気だよ!」
「……そう……それなら……良かった……がはっ……!」
 
 微笑を浮かべたお姉ちゃんが吐血、意識を失う。

「お姉ちゃん!? お姉ちゃん!」

 事態は一刻を争う。

「神さま、お願いします! 毒を、仕掛けた人の〝中〟に戻して下さい!」

 必死の声に呼応して、僕とお姉ちゃんの口から毒が外へ排出される。

 紫色のおどろおどろしい色をしたそれは、二人前のポトフ内に混ざっていた分も完璧に分離すると、一緒になって、レストランの窓から外へと飛んでいった。

「……あれ? 生きてる……」
「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんが意識を取り戻し、僕は椅子から飛び降りて、お姉ちゃんに抱き着く。

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!!」
「ふふっ。私は大丈夫よ。ルド君、助けてくれてありがとうね」
「お姉ちゃんが生きてて良かった! うわあああん!」

 僕は泣き続け、お姉ちゃんは優しく抱き締めながら、頭と背中を撫でてくれた。

※―※―※

「早速アイスドラゴンを討伐してくれたとのこと、心から礼を言う。また、死に掛けていた村人たちと、兵士たちの命さえも救ってくれたとのこと、深く感謝する」

 皇帝さまは、「君たちならやってくれるとは思っていたが、墓地のアンデッド討伐までもこの短期間でやり遂げるとは。期待以上だ」と、驚いていた。

「では、約束通り、褒賞を与えよう」

 僕たちが宰相らしき人から受け取った、ずっしりと重い革袋には。

「金貨二千枚だ」
「二億円!?」

 ヴァウスデラリア帝国の時よりも更に大金が入っていた。

 更に、ここでも公爵の地位を得て、豪邸も貰っちゃった!

「皇帝さま、ありがとう!」
「こちらこそ、礼を言う。我が国を救ってくれてありがとう」

 僕らは、豪邸で一泊した後、今度は、オースバーグ王国経由で、南東にあるキングマイルズ共和国に行くことにした。

 本当はどこも経由せずに直接行った方が近いのかもしれないけど、途中に山脈があって通行し辛いことと、あとは、お姉ちゃんがオースバーグ王国のポトフを何よりも好きだから、それもあって、少し遠回りしているんだ。

 ちなみに、今回も、貰った金貨のほとんどを銀行に預けておいた。

※―※―※

 皇都ゴールドバージェンを出発して数日後の朝。

「お姉ちゃん、おはよう!」
「おはよう、ルド君」

 いつも通り、野営中馬車の外で見張りをしながら寝ていたお姉ちゃんが、笑顔を返してくれる。

「それ、なぁに?」

 見ると、真っ二つにされた氷塊が計四個、地面に転がっている。

「なんか、アイスドラゴンみたい」
「そうね、ちょっと思い出しちゃうわね。でも、アイスドラゴンはもう倒したし、これは多分人間による魔法よ」

 お姉ちゃんが言うには、以前の矢を同じように、野営している最中にどこかから大きな氷の塊が二個飛んできたらしくて、とっさにお姉ちゃんが剣で叩き斬ったとのことだった。

「お姉ちゃん、こんなおっきな氷も斬っちゃうなんて、すごい! カッコ良い!」
「くすっ。ありがとう」

 僕も頑張って泣き虫を卒業して、お姉ちゃんみたいに強くなるんだ!

「じゃあ、今回も、ちゃんと、〝ゴミを出した人〟に責任を取ってもらうね!」
「え?」

 僕は、「神さま! お願いします! この氷の塊を元に戻して、持ち主に返して下さい!」と〝お祈り〟した。

 淡い光に包まれた計四個の氷塊の欠片が修復され、フワリと舞い上がったかと思うと、猛スピードでどこかに飛んでいく。

「良かった、これで今日も綺麗になった!」
「……そ、そうね……」

※―※―※

「やっぱりロマノシリングのポトフが一番ね!」

 皇都を出立して六日後、僕らは馬車でオースバーグ王国に戻ってきた。

 王都ロマノシリングのポトフを堪能するお姉ちゃんは、目尻がとろんと垂れ下がって、すっごく幸せそうだ。

 一度毒を盛られたことで、トラウマになっちゃうんじゃないかと心配していたんだけど、どうやら今でもちゃんとポトフが大好きみたいで、正直ホッとした。

※―※―※

 九日後。

「クラクラクラ! 海中でこのクラーケンに戦いを挑むとは、無謀にも程があるクラ! お前らはもう終わりクラ!」

 キングマイルズ共和国東の海中にて、僕らは四天王クラーケンと対峙していた。
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