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9.「vsクラーケン(四天王)」
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少し時は遡って。
「遠くに山が見える! たくさん!」
「北と南両方にあるのね」
僕とお姉ちゃんは、オースバーグ王国王都ロマノシリングを出発して、東にあるキングマイルズ共和国を目指して、馬車で旅を続けていた。
噂通り、キングマイルズ共和国には北部と南部それぞれの中間辺りに、国を東西に横切る山脈があり、それがホワイトフローレス皇国とヴァウスデラリア帝国からの最短距離での旅を困難にしていた。
野営を挟みながら進むこと、六日。
「青色ー!」
「何だか新鮮ね」
キングマイルズ共和国の都、ウォレアスに到着した。
東部が海に接しており漁業が盛んであるイメージからか、都の外壁も城の壁も青色で、爽やかなイメージだ。
気温はオースバーグ王国王都ロマノシリングと同じくらいだが、湿度は少し高い。
そんなウォレアスの冒険者ギルドへと情報収集に向かうと。
「〝ルドメア〟のお二人ですね! どうぞこちらへ!」
「いつの間にかコンビ名が出来ていたのね……私たちの知らないところで……」
「何だかお笑い芸人さんみたい!」
僕の名前とお姉ちゃんの偽名であるメアリーを組み合わせて、短くしたんだね!
その後は、いつもの流れだった。
ギルド長室へと案内されて、
「是非とも我が国の代表者と会って欲しい」
と言われて、お城にいる代表者さんと会うことになった。
「我が国は四天王クラーケンによって、漁業に深刻な影響を受けている。また、漁師たちが襲われ、何人も命を落としているのだ。どうか、クラーケンを討伐してもらえないだろうか?」
「うん、分かった!」
「おお! 早速の快諾、痛み入る。どうか、宜しく頼む。そうそう、それと、東海岸に行く途中、街道からほど近くにある小高い丘に、聖剣が刺さっている。大昔に倒された魔王が二年前に復活するまで、この千年間、誰一人として引き抜けた者はいないのだが、お前たちならば、もしかしたら手にすることが出来るかもしれん。クラーケン退治の力としてくれ」
「分かった! ありがとう!」
「ああ、ちなみに、〝守護者〟がいるのだが、まぁ、お前たちならば問題ないだろう」
「〝守護者〟?」
よく分からない言葉に、僕は首を傾げた。
※―※―※
ということで、僕らはウォレアスを出立、野営を挟みながら東へと向かった。
「お姉ちゃん、なんかあるー!」
「多分あの丘ね」
代表者さんが言っていた通り、街道の北側に小高い丘があった。
丘の頂上へと続く道の入り口には。
「ゴオオオオオオオ」
ゴーレムがいた。
岩で出来た、巨躯を誇るモンスター。
きっとこれが〝守護者〟だ!
「ルド君、ゴーレムは、物理攻撃も魔法も効き辛いの。ゴーレムの額に古代文字が三文字書いてあるでしょ? あの一番右の文字を消せば、ゴーレムは倒せるはずよ! 逆に言うと、それ以外の方法だと攻略は難し――」
「たあああああああああ!」
「って、何真正面から打ち合ってんのよ!?」
「ゴオオオオオオオォォォォォォォ………………」
「しかも勝てるんかい!」
上から打ち下ろしてきた拳に対して、僕がパンチすると、ゴーレムは空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「〝お祈り〟で勝てた!」
「……相変わらずすごいわね、〝お祈り〟……」
丘の頂上には、祭壇があったが。
「あれ? ないよ!」
聖剣はどこにも無かった。
祭壇の中心には、確かに剣が突き刺さっていたであろう、横に細長い穴が見える。
「誰かが抜いたのかしら? 勇者とか?」
「ううん、シュウキさんの剣は聖剣じゃなかったよ!」
「そうなの? じゃあ、一体誰が……?」
疑問は残ったけど、取り敢えず僕らはその場を後にした。
※―※―※
ウォレアスを出発してから三日後。
「着いたー!」
「不思議な匂いがするわ……」
「えっとね、〝潮風〟って言うんだよ!」
「そう、これが噂に聞く〝潮風〟なのね……」
僕らは、漁村ロットクルーズに着いた。
波止場には木造船がいくつも停泊していて、何人か作業している人たちがいる。
「あんたたち、ここらじゃ見ない顔だね」
僕らに声を掛けてきたのは、お姉ちゃんと同い年くらいの少女だった。
褐色の肌に野性味溢れる瞳をした、ウェーブの掛かった長い黒髪の綺麗な人だ。
「僕、ルド!」
「私はマリ――メアリー。冒険者よ」
「へぇ~。冒険者ねぇ」
「私たちはここへ、クラーケン退治に来たの」
「ハッ! あんたらがクラーケン退治? 本気で言ってんのかい? そんなこと出来る訳ないだろ?」
肩を竦める彼女を見上げて、僕は叫んだ。
「出来るもん!」
「! ……そうかい、悪かった。本気なんだね」
少女は謝ってくれた後、「あたいはフィーマ。ここで漁師をやってる」と、自己紹介した。
「絶好の漁日和だし、本当は今日も漁に出たかったんだけど、何故か父さんが、『今日は家で大人しくしてろ。お前もたまには休息が必要だ」とか言って、連れてってくれなかったのさ」
首を傾げたフィーマさんが、「お! 噂をすれば。父さんの船だ」と、海の方に目を向ける。
「ん!? 何か様子がおかしい!」
波止場につけた木造船にフィーマさんが走っていき、僕らも後を追いかけた。
「父さん!?」
漁師たちが運び出し、波止場に寝かせたのは、全身が紫色に染まり、意識を失った中年男性だった。
「すまねぇ、フィーマ……俺たちがついていながら」
がたいの良い漁師たちが、皆項垂れる。
「一体何があったんだい!?」
「マルティスは、どうしても今日スパークリングフィッシュを獲りたいって言ってさ。知っての通りかなりレアな魚だから中々見つからなくて。漁網でも全然引っ掛からなかったのに、マルティスは『諦めてたまるか!』って、銛を持って一人海に潜っちまったんだ。そしたら、運悪くクラーケンが現れて……マルティスは毒にやられて……俺たちは何とかマルティスを引き上げて、命からがら逃げ帰ってきたんだ」
フィーマさんが必死に問い掛ける。
「げ、解毒薬があっただろ! 毒を持ってる魚対策でさ!」
「クラーケンの毒は特殊なんだ。通常の解毒薬じゃ効果がない。クラーケンの肝を使った薬じゃないと効かないんだ」
「そんな……!?」
愕然とするフィーマさんは、崩れ落ちかけるが、歯を食い縛って踏ん張ると、船に乗り込んだ。
「どこに行くんだ、フィーマ!」
「決まってるだろ! クラーケンを倒してくるんだ! そして、父さんを助ける!」
「馬鹿! やめろ! お前さんまでやられたらどうするんだ!」
「でも、このままじゃ!」
居ても立っても居られず、僕は声を上げた。
「僕たちも一緒に行く! そして、クラーケンを倒す!」
「あんたが本気なのは分かった。でも、実際に出来るかどうかは、別問題だよ」
「僕はLV 200だし、お姉ちゃんはLV148だよ! ほら、これ!」
「冒険者カードかい? いや、そんなもの見せられても、その歳でLV 200ってのはちょっとね」
「本当だもん! 嘘言ってないもん!」
うーん、どうしたら信じてもらえるんだろう?
「えっと、わ、私たちは、〝ルドメア〟よ!」
「なっ!? あの〝ルドメア〟か!」
「言われてみたら、特徴がそのままじゃねぇか!」
「まさかこんな小さな漁村に来てくれるとは!」
あ、何か信じてくれたみたい。
その芸名、結構有名になってるんだね! 良かった!
「フィーマさん! 僕たちも連れてって! フィーマさんのお父さんを助けたい!」
「……分かったよ。正直、あの有名な二人組の力を借りられるなんて、すごく助かるよ。じゃあ、行くよ!」
フィーマさんが、係留杭に引っ掛けておいた綱を外すと、帆で風を受けた船は波止場から離岸した。
こうして、僕らはフィーマさんと一緒に沖へと向かった。
※―※―※
フィーマさんいわく、クラーケンの毒にやられた人は、長くても一日、短いと数時間で命を落とすらしい。
「クラーケンって、どこにいるの?」
「ハッ! 簡単なことだよ。あの野郎は、普段は神出鬼没の癖に、〝人間に危害を加えた直後〟は、自分がいる居場所を、わざわざ教えてくれるのさ」
フィーマさんの言葉通り、前方に、海面から巨大な触手が突き出しているのが見える。
「〝復讐出来るもんならしてみろ〟って言ってんのさ。バカにしやがって!」
銛を持つフィーマさんの肩が震える。
「フィーマさん。クラーケン退治は僕たちに任せて、フィーマさんは船の上で待ってて!」
「なっ!? あたいにここで指をくわえて見てろってのかい!?」
「私からもお願いするわ。ルド君――と私は、今までに四天王を二人倒してきたの」
「! ……そう言えばそうだったね……あたいがいない方が、二人も戦いやすいよな……」
俯いて唇を噛んだフィーマさんは、バッと顔を上げた。
「頼んだよ、二人とも! 絶対に倒しておくれ!」
「うん、分かった!」
「任せて!」
僕は神さまに「船を守って下さい」と〝お祈り〟して淡い光で包んだ後、お姉ちゃんと一緒に海に潜った。
そこに待っていたのは、想像を遥かに超える大きさのイカのモンスターだった。
アイスドラゴンも十分に大きかったが、クラーケンと比べると小さく見えてしまう程に、今目の前にしている存在の大きさは、常軌を逸している。
「クラクラクラ! 海中でこのクラーケンに戦いを挑むとは、無謀にも程があるクラ! お前らはもう終わりクラ!」
〝念話〟というやつだろうか、海の中でも声が聞こえる。
すごくおっきくて、怖い……!
涙が出て来ちゃう……
「クラクラクラ! 海だからバレないとでも思ったクラ? 泣いてるのがバレバレクラ! 怖いクラ? 怖いクラ? そのまま震えてろクラ! 海の藻屑にしてやるクラ!」
怖い……けど……!
フィーマさんとフィーマさんのお父さんのためだもん!
頑張る……!
固有スキル〝呼吸〟!
心の中で念じると、僕たちは、一時的に水中で〝呼吸〟出来るようになった。
「良かった! 空気が吸える! あれ? なんか知らないけど、普通に喋れる!」
「なっ!? 二人とも一瞬で首にエラが出来たクラ!? それに、ヒレも出来てるクラ!? お前ら一体何者クラ!?」
「固有スキルの〝呼吸〟のおかげだよ!」
「〝呼吸〟て! 身体の構造まで変わるクラ!?」
クラーケンは、「……まぁ良いクラ」と、目を細める。
「どちらにしろ同じことクラ。さっきの人間同様、お前らもこのクラーケンの猛毒の餌食になるクラ!」
クラーケンは、口から大量の毒を撒き散らす。
紫色のそれは、一気に周囲を埋め尽くした。
「クラクラクラ! これで終わり――」
「固有スキル〝呼吸〟! これで僕たち二人ともへっちゃらだもーん!」
「………………へ? 何したクラ!?」
「固有スキル〝呼吸〟だよ!」
「いやいやいや! 百歩譲ってエラが出来たのが〝呼吸スキル〟だとしても、これだけ毒だらけなら、そのエラに毒が触れるはずクラ! そもそも肌だって触れてるクラ! おかしいクラ!」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
「行くよじゃないクラ! 無視するなクラ!」
こうして、僕らと四天王クラーケンの戦いが始まった。
「遠くに山が見える! たくさん!」
「北と南両方にあるのね」
僕とお姉ちゃんは、オースバーグ王国王都ロマノシリングを出発して、東にあるキングマイルズ共和国を目指して、馬車で旅を続けていた。
噂通り、キングマイルズ共和国には北部と南部それぞれの中間辺りに、国を東西に横切る山脈があり、それがホワイトフローレス皇国とヴァウスデラリア帝国からの最短距離での旅を困難にしていた。
野営を挟みながら進むこと、六日。
「青色ー!」
「何だか新鮮ね」
キングマイルズ共和国の都、ウォレアスに到着した。
東部が海に接しており漁業が盛んであるイメージからか、都の外壁も城の壁も青色で、爽やかなイメージだ。
気温はオースバーグ王国王都ロマノシリングと同じくらいだが、湿度は少し高い。
そんなウォレアスの冒険者ギルドへと情報収集に向かうと。
「〝ルドメア〟のお二人ですね! どうぞこちらへ!」
「いつの間にかコンビ名が出来ていたのね……私たちの知らないところで……」
「何だかお笑い芸人さんみたい!」
僕の名前とお姉ちゃんの偽名であるメアリーを組み合わせて、短くしたんだね!
その後は、いつもの流れだった。
ギルド長室へと案内されて、
「是非とも我が国の代表者と会って欲しい」
と言われて、お城にいる代表者さんと会うことになった。
「我が国は四天王クラーケンによって、漁業に深刻な影響を受けている。また、漁師たちが襲われ、何人も命を落としているのだ。どうか、クラーケンを討伐してもらえないだろうか?」
「うん、分かった!」
「おお! 早速の快諾、痛み入る。どうか、宜しく頼む。そうそう、それと、東海岸に行く途中、街道からほど近くにある小高い丘に、聖剣が刺さっている。大昔に倒された魔王が二年前に復活するまで、この千年間、誰一人として引き抜けた者はいないのだが、お前たちならば、もしかしたら手にすることが出来るかもしれん。クラーケン退治の力としてくれ」
「分かった! ありがとう!」
「ああ、ちなみに、〝守護者〟がいるのだが、まぁ、お前たちならば問題ないだろう」
「〝守護者〟?」
よく分からない言葉に、僕は首を傾げた。
※―※―※
ということで、僕らはウォレアスを出立、野営を挟みながら東へと向かった。
「お姉ちゃん、なんかあるー!」
「多分あの丘ね」
代表者さんが言っていた通り、街道の北側に小高い丘があった。
丘の頂上へと続く道の入り口には。
「ゴオオオオオオオ」
ゴーレムがいた。
岩で出来た、巨躯を誇るモンスター。
きっとこれが〝守護者〟だ!
「ルド君、ゴーレムは、物理攻撃も魔法も効き辛いの。ゴーレムの額に古代文字が三文字書いてあるでしょ? あの一番右の文字を消せば、ゴーレムは倒せるはずよ! 逆に言うと、それ以外の方法だと攻略は難し――」
「たあああああああああ!」
「って、何真正面から打ち合ってんのよ!?」
「ゴオオオオオオオォォォォォォォ………………」
「しかも勝てるんかい!」
上から打ち下ろしてきた拳に対して、僕がパンチすると、ゴーレムは空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「〝お祈り〟で勝てた!」
「……相変わらずすごいわね、〝お祈り〟……」
丘の頂上には、祭壇があったが。
「あれ? ないよ!」
聖剣はどこにも無かった。
祭壇の中心には、確かに剣が突き刺さっていたであろう、横に細長い穴が見える。
「誰かが抜いたのかしら? 勇者とか?」
「ううん、シュウキさんの剣は聖剣じゃなかったよ!」
「そうなの? じゃあ、一体誰が……?」
疑問は残ったけど、取り敢えず僕らはその場を後にした。
※―※―※
ウォレアスを出発してから三日後。
「着いたー!」
「不思議な匂いがするわ……」
「えっとね、〝潮風〟って言うんだよ!」
「そう、これが噂に聞く〝潮風〟なのね……」
僕らは、漁村ロットクルーズに着いた。
波止場には木造船がいくつも停泊していて、何人か作業している人たちがいる。
「あんたたち、ここらじゃ見ない顔だね」
僕らに声を掛けてきたのは、お姉ちゃんと同い年くらいの少女だった。
褐色の肌に野性味溢れる瞳をした、ウェーブの掛かった長い黒髪の綺麗な人だ。
「僕、ルド!」
「私はマリ――メアリー。冒険者よ」
「へぇ~。冒険者ねぇ」
「私たちはここへ、クラーケン退治に来たの」
「ハッ! あんたらがクラーケン退治? 本気で言ってんのかい? そんなこと出来る訳ないだろ?」
肩を竦める彼女を見上げて、僕は叫んだ。
「出来るもん!」
「! ……そうかい、悪かった。本気なんだね」
少女は謝ってくれた後、「あたいはフィーマ。ここで漁師をやってる」と、自己紹介した。
「絶好の漁日和だし、本当は今日も漁に出たかったんだけど、何故か父さんが、『今日は家で大人しくしてろ。お前もたまには休息が必要だ」とか言って、連れてってくれなかったのさ」
首を傾げたフィーマさんが、「お! 噂をすれば。父さんの船だ」と、海の方に目を向ける。
「ん!? 何か様子がおかしい!」
波止場につけた木造船にフィーマさんが走っていき、僕らも後を追いかけた。
「父さん!?」
漁師たちが運び出し、波止場に寝かせたのは、全身が紫色に染まり、意識を失った中年男性だった。
「すまねぇ、フィーマ……俺たちがついていながら」
がたいの良い漁師たちが、皆項垂れる。
「一体何があったんだい!?」
「マルティスは、どうしても今日スパークリングフィッシュを獲りたいって言ってさ。知っての通りかなりレアな魚だから中々見つからなくて。漁網でも全然引っ掛からなかったのに、マルティスは『諦めてたまるか!』って、銛を持って一人海に潜っちまったんだ。そしたら、運悪くクラーケンが現れて……マルティスは毒にやられて……俺たちは何とかマルティスを引き上げて、命からがら逃げ帰ってきたんだ」
フィーマさんが必死に問い掛ける。
「げ、解毒薬があっただろ! 毒を持ってる魚対策でさ!」
「クラーケンの毒は特殊なんだ。通常の解毒薬じゃ効果がない。クラーケンの肝を使った薬じゃないと効かないんだ」
「そんな……!?」
愕然とするフィーマさんは、崩れ落ちかけるが、歯を食い縛って踏ん張ると、船に乗り込んだ。
「どこに行くんだ、フィーマ!」
「決まってるだろ! クラーケンを倒してくるんだ! そして、父さんを助ける!」
「馬鹿! やめろ! お前さんまでやられたらどうするんだ!」
「でも、このままじゃ!」
居ても立っても居られず、僕は声を上げた。
「僕たちも一緒に行く! そして、クラーケンを倒す!」
「あんたが本気なのは分かった。でも、実際に出来るかどうかは、別問題だよ」
「僕はLV 200だし、お姉ちゃんはLV148だよ! ほら、これ!」
「冒険者カードかい? いや、そんなもの見せられても、その歳でLV 200ってのはちょっとね」
「本当だもん! 嘘言ってないもん!」
うーん、どうしたら信じてもらえるんだろう?
「えっと、わ、私たちは、〝ルドメア〟よ!」
「なっ!? あの〝ルドメア〟か!」
「言われてみたら、特徴がそのままじゃねぇか!」
「まさかこんな小さな漁村に来てくれるとは!」
あ、何か信じてくれたみたい。
その芸名、結構有名になってるんだね! 良かった!
「フィーマさん! 僕たちも連れてって! フィーマさんのお父さんを助けたい!」
「……分かったよ。正直、あの有名な二人組の力を借りられるなんて、すごく助かるよ。じゃあ、行くよ!」
フィーマさんが、係留杭に引っ掛けておいた綱を外すと、帆で風を受けた船は波止場から離岸した。
こうして、僕らはフィーマさんと一緒に沖へと向かった。
※―※―※
フィーマさんいわく、クラーケンの毒にやられた人は、長くても一日、短いと数時間で命を落とすらしい。
「クラーケンって、どこにいるの?」
「ハッ! 簡単なことだよ。あの野郎は、普段は神出鬼没の癖に、〝人間に危害を加えた直後〟は、自分がいる居場所を、わざわざ教えてくれるのさ」
フィーマさんの言葉通り、前方に、海面から巨大な触手が突き出しているのが見える。
「〝復讐出来るもんならしてみろ〟って言ってんのさ。バカにしやがって!」
銛を持つフィーマさんの肩が震える。
「フィーマさん。クラーケン退治は僕たちに任せて、フィーマさんは船の上で待ってて!」
「なっ!? あたいにここで指をくわえて見てろってのかい!?」
「私からもお願いするわ。ルド君――と私は、今までに四天王を二人倒してきたの」
「! ……そう言えばそうだったね……あたいがいない方が、二人も戦いやすいよな……」
俯いて唇を噛んだフィーマさんは、バッと顔を上げた。
「頼んだよ、二人とも! 絶対に倒しておくれ!」
「うん、分かった!」
「任せて!」
僕は神さまに「船を守って下さい」と〝お祈り〟して淡い光で包んだ後、お姉ちゃんと一緒に海に潜った。
そこに待っていたのは、想像を遥かに超える大きさのイカのモンスターだった。
アイスドラゴンも十分に大きかったが、クラーケンと比べると小さく見えてしまう程に、今目の前にしている存在の大きさは、常軌を逸している。
「クラクラクラ! 海中でこのクラーケンに戦いを挑むとは、無謀にも程があるクラ! お前らはもう終わりクラ!」
〝念話〟というやつだろうか、海の中でも声が聞こえる。
すごくおっきくて、怖い……!
涙が出て来ちゃう……
「クラクラクラ! 海だからバレないとでも思ったクラ? 泣いてるのがバレバレクラ! 怖いクラ? 怖いクラ? そのまま震えてろクラ! 海の藻屑にしてやるクラ!」
怖い……けど……!
フィーマさんとフィーマさんのお父さんのためだもん!
頑張る……!
固有スキル〝呼吸〟!
心の中で念じると、僕たちは、一時的に水中で〝呼吸〟出来るようになった。
「良かった! 空気が吸える! あれ? なんか知らないけど、普通に喋れる!」
「なっ!? 二人とも一瞬で首にエラが出来たクラ!? それに、ヒレも出来てるクラ!? お前ら一体何者クラ!?」
「固有スキルの〝呼吸〟のおかげだよ!」
「〝呼吸〟て! 身体の構造まで変わるクラ!?」
クラーケンは、「……まぁ良いクラ」と、目を細める。
「どちらにしろ同じことクラ。さっきの人間同様、お前らもこのクラーケンの猛毒の餌食になるクラ!」
クラーケンは、口から大量の毒を撒き散らす。
紫色のそれは、一気に周囲を埋め尽くした。
「クラクラクラ! これで終わり――」
「固有スキル〝呼吸〟! これで僕たち二人ともへっちゃらだもーん!」
「………………へ? 何したクラ!?」
「固有スキル〝呼吸〟だよ!」
「いやいやいや! 百歩譲ってエラが出来たのが〝呼吸スキル〟だとしても、これだけ毒だらけなら、そのエラに毒が触れるはずクラ! そもそも肌だって触れてるクラ! おかしいクラ!」
「ここからが本番だ! 行くよ!」
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