【〝惑星〟転生】異世界そのもの(星)に転生した少年が無能ポーターと罵られ勇者パーティーから追放された後に真の力に目覚め無自覚ざまぁする

お餅ミトコンドリア

文字の大きさ
16 / 19

16.「勇者とヴィンスと魔王」

しおりを挟む
「……まぁよい。じゃが、魔王城に乗り込んできたからといって、いきなり直接儂と戦えるとは思わんことじゃ。ぬんっ!」

 巨躯を誇る魔王が無造作に手を翳すと、床に魔法陣が出現、そこから現れたのは。

「……ギギ……ギ……」
「シュウキさん!」

 勇者シュウキさんだった。
 ただし、〝男版ラミア〟とでも呼ぶべき〝蛇男〟と化している

 上半身は人間だが、耳は尖り口は大きく裂け、二股に裂けた長い舌がチロチロと覗く。
 しかも、その腹部にはハラトさんの顔が、胸部にはムネナオさんの顔が埋め込まれている。

「なんてことをするんだ!」
「おや? お主はこやつらに毎日酷い目に遭わされていたのじゃろう? 『ざまぁ見ろ』とか『いい気味だ』とは思わんのかのう?」
「確かに、ひどいことはされたよ。でも、だからと言って、こんな風になって欲しいだなんて思ってない! 僕は強くなって、シュウキさんたちに認めて欲しかったんだ!」

 拳を握り怒る僕に、魔王は、「まぁ、いずれにしろ、こやつらをこんな姿にする提案をしたのは、儂ではないんじゃがな」と頭を振ると、再び手を翳して、新たな魔法陣を床に描いた。

「久しいな、マリア」
「ヴィンス!」

 現れたのは、端整な顔立ちの少年だった。
 見たことある! 確か、オースバーグ王国の王子さまだ!
 ってことは、お姉ちゃんの弟だ!

「確かに、勇者たちを使って貴様らの暗殺を企てたのも、モンスター化させて戦わせようと提案したのも俺だ。が、俺と手を組もうと誘ってきたのは、魔王の方だがな。〝闇の商人〟とか言って、近付いてきてな。まぁ、すぐに魔導具で看破してやったが」

 お姉ちゃんが、ショックで肩を震わせる。

「ヴィンス……魔王と手を組んでまで国が欲しかったの?」
「ハッ。国? 俺が手に入れたいのは、そんな小さなもんじゃない。〝この世界そのもの〟だ」
「この世界そのもの!?」
「ああ、そうだ。我が国の王位を継いだ後、俺はモンスター軍団の力も借りつつ他国を全て侵略し、世界征服する。そして、その半分を俺が統治して、残り半分が魔王のものとなる。そういう算段だ」

 僕は、「そんなことさせない!」と、叫んだ。

 脳裏を過ぎるのは、リンジーちゃん、グレースちゃん、フィーマさん、フィオレラさん、リーフィーさんたちの顔だ。

 モンスターのせいで苦しんできた人たちが大勢いる。

 そのモンスターの力を借りて、世界征服!?
 しかも、世界の半分をモンスターのものにする!?

「もう、モンスターに誰かを襲わせたりしない! 誰も傷つけさせない! 誰も泣かせない!」

 角と牙が四本ずつ、黒翼が二対、二本の長い黒尻尾があり、目は血のように赤い巨大な魔王に対して、声を震わせながらも、僕はそう宣言する。

 怖くて涙が出ちゃうけど、今はそんなのどうでも良い!

「ククク。怖いのじゃろう? 無理するでない。じゃが、中々大した決意じゃのう。誰も傷つけさせない、か」

 徐に魔王が胸元から取り出したのは。

「!?」

 まだ幼い女の子の〝生首〟だった。
 恐怖と苦痛に歪んだまま絶命した彼女の耳を噛み千切った魔王は、邪悪な笑みを浮かべて問い掛けた。

「〝傷つける〟とは、例えば、こういうことかのう?」
「ああああああああああああ!」

 怒りを爆発させた僕は、跳躍して魔王に飛び掛かる。
 少女の頭部を後ろに放り投げた魔王は、防御の姿勢も魔法も使わず、ただ立ち上がり、その場に佇む。

「ギギギ!」
「!」

 そこに割って入ったのは、シュウキさんだった。

 魔王に操られているらしく、その目は虚ろで、正気を失っているのが一目でわかる。

「どうじゃ? お主に人間を殺すことが出来――」
「邪魔!」
「うそおおおん!?」

 間髪入れずに僕がぶん殴ると、シュウキさんは「ぼがぶっ!」と、左へと吹っ飛んで壁にぶつかり、吐血した。

「しかも、〝モンスター化〟と〝精神操作〟まで解除じゃと!?」

 と同時に、シュウキさんは人間の姿に戻り、更に、「……クソガキ……!?」「……ドハ……ハ……ッ……ここは……?」「……ワタシは……一体……!?」と、吸収されていた他の二人も元の姿に戻った。まだ動けないみたいだけど。

「絶対に許さない! 覚悟しろ、魔王!」

 着地と同時に再び跳躍、魔王に渾身の一撃を食らわせんとするが。

「まぁ待て。魔王に死んでもらっては、俺の計画が狂う」
「!」

 ヴィンスさんが立ちはだかり、僕は思わず後方へと跳躍、距離を取った。

 お姉ちゃんの弟さんを傷付ける訳にはいかない……
 どうすれば……?

「ヴィンス。あなた、その剣はまさか……?」

 ヴィンスさんは、禍々しいオーラを放つ剣を手に持っている。
 でも、よく見るとそれは。

「ああ、そうだ。聖剣だ。いや、正確には〝聖剣だったもの〟だな」
「儂が復活するまでの千年間ずっと、密かに闇の魔力を注入し続けたのじゃ。そのおかげで儂も触ることが出来るようになったという訳じゃ。更に言えば、これは世界最高硬度と言われるエクスカリバーと合体させた、究極の〝聖魔剣〟じゃ。この剣に貫けぬものなど、この世にないのじゃ。しかも、貫かれた相手は、その間、魔法とスキルを発動出来なくなるからのう。正に最強じゃ」

 得意気に滔々と語る魔王に対して、ヴィンスさんが横から口を挟む。

「感謝しているぞ、魔王」
「お互い様じゃ」
「いやいや、本当に感謝しているんだ」

 そう言ったヴィンスさんは、口角を上げた。

「何せ、〝世界最強の剣〟まで俺にくれて、更には、俺の〝手駒〟にすらなってくれるんだからな!」
「!」

 何かを察した魔王が、「裏切る気か! させぬわ! 『精神操作マインドコントロール』!」と、先手を打つ。

「『拒絶リジェクション』!」
「なっ!?」

 ヴィンスさんの左手の中指に嵌められた翡翠の指輪が光り輝き、魔王が目を見開く。

「こちらの番だ。『精神操作マインドコントロール』!」

 今度は、ヴィンスさんの右手の中指に嵌められた深紅の指輪が怪しげな光を放つ。

「ヴィンス……お主……うぐっ!」
「フッ。悪く思うな。〝相手が裏切ること〟なんて、お互い分かり切っていたことだろ? 俺は世界の半分なんかで満足は出来ない。それは貴様も同様。ならば、どのタイミングで裏切りを実行するか。あとはそれだけだ」
「許さぬぞ! ぐああああああ!」
「フハハハハハハ!」
「な~んてのう」
「………………ハ?」

 頭を抱えて苦しんでいた魔王が、顔を上げて舌を出す。

「な、何故だ!? 『精神操作マインドコントロール』! 『精神操作マインドコントロール』! 『精神操作マインドコントロール』!」
「無駄じゃ。その魔導具は、この〝儂〟が作ったものじゃからな。儂が作った魔導具が儂自身に効く訳がなかろうて」
「なっ!? だが、俺に直接会いにきて売った闇商人は、確かに人間だったし、『人間が作った魔導具だ』と証言していたぞ!?」
「そんなもの、モンスターに変化魔法を使って人間の姿にしても良いじゃろう。それに、人間を精神操作して都合の良いことを言わせることも容易い。何とでもなるのじゃ」
「そんな……!?」

 愕然とするヴィンスさんが、頭を掻きむしり、苦しみ始める。

「ぐぁっ! あぁ!?」
「効いてきたようじゃな。製作者である〝儂自身〟の『精神操作』を、たかが人間が魔導具で『拒絶』出来る訳はない、ということじゃ」

 「まぁ、『精神操作』以外にも色々行うがのう」と言いながら、魔王が手を翳すと、ヴィンスさんに牙と角が生えて、耳が尖り、黒翼と尻尾が生えて、目が赤くなる。

「……ギギギ……」
「ククク。これで部下のモンスターが一匹増えたのう」

 「命令じゃ。あやつらを殺して――」とつぶやき掛けた魔王は、「いや、更に手駒を増やすのも悪くはないのう。二人ともかなりの強者じゃからのう」と、考え直した。

「喜ぶが良い。お主らも、儂の手下にしてやるのじゃ! 『精神操作マインドコントロール』!」

 僕らに手を翳す魔王が、邪な笑みを浮かべるが。

「………………あれ? えっと、精神操作されたかのう?」
「ううん、全然!」
「お、おかしいのう。『精神操作マインドコントロール』!」
「へっちゃらだもーん!」
「何でじゃ!? 『精神操作マインドコントロール』!」
「効かないもーん!」
「何でええええええええええ!?」
「神さまに〝お祈り〟したから!」
「じゃから、そんなん出来たら夢破れて涙する者などおらんと言っておるのじゃ!」

 ぜぇ、ぜぇ、ぜぇと肩で息をした魔王は、「こ、こうなったら、一か八かじゃ! ルドよ、見るのじゃ!」と、糸を縛り付けた銅貨を、ゆらゆらと揺らしながら、僕に向けた。

「お主はだんだん眠くな~る、だんだん眠くな~る、だんだん眠くな~る……」
「バカね! ルド君がそんな古典的な催眠術に掛かる訳ないでしょ!」
「……なんか……僕……眠くなって……きちゃった……」
「「効くんかーい!」」

 僕は、大ピンチに陥ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...