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17.「vs魔王」
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「ダメだダメだ!」
頭をプルプル振って眠気を覚ます。
けど、催眠術は効果があることが分かった魔王が、糸を縛り付けた銅貨を振り子のように揺らしながら、更に追い打ちを掛ける。
「今度は、身体がだんだん重くな~る、だんだん重くな~る、」
「ううっ……身体が……重い……」
僕は、身動きが取れなくなってしまった。
しかも、最初の催眠術の効果もまだ残っていて、頭に靄が掛かっているような感じがする。上手く思考出来ない。
「ククク……これで、攻撃を外すことは無いのう」
「……ギギギ……」
魔王の声に呼応して、ヴィンスさんが聖魔剣を僕に向ける。
「頼みの綱であるルド君は動けず、しかもまだぼんやりしてるし、相手の武器は最強の剣。更に、魔王の精神操作も、今ならルド君が〝お祈り〟で防げないから、私にも掛かっちゃう。今は気付いていないようだけど、魔王もその内そのことに気付いてしまう。……どうやら、ここまでのようね」
小さな声でつぶやいたお姉ちゃんが、溜め息を一つ付いて、顔を上げると。
「あ~あ。せっかく〝最強の駒〟だったのに、こんな簡単に無力化されちゃうなんて」
「……お姉……ちゃん……?」
それは、〝初めて見る表情〟だった。何か吹っ切れたような顔。
「ねぇ、魔王。良いこと教えてあげるから、私だけは見逃してもらえないかしら?」
「!?」
お姉ちゃんが何を言っているのか、理解出来ない。
「ククク。寝惚けたことを言うのう。お主ら二人の命はもはや風前の灯。お主だけ生かしておく理由など無いとは思わんのか?」
「あら、そんなこと言って良いの? このままヴィンスが私たちを殺したら、あなたは一生後悔する、という話をしているのよ?」
「……何じゃと?」
挑発的なお姉ちゃんの言葉に、魔王が片方の眉毛を上げた。
「正確には、〝あなたはヴィンスに殺されてしまう〟が正しいかしら」
「ほう……詳しく述べてみよ。情報次第では、お主だけは助けてやらんでもない」
お姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべながら、説明を続ける。
「まず、最初に。あなたはルド君のことを、すっごく身体が硬くて戦闘能力がずば抜けている人間、と認識しているわよね?」
「うむ、その通りじゃ」
「でも、それが違うのよ。ルド君は……〝惑星〟よ」
「……は?」
「〝この星そのもの〟だって言ってるのよ。正確には、この星の〝分身〟だけどね」
「……まさか……そんな……」
魔王は言葉を失くした。
「だって、おかしいと思わない? ただの子どもが、しかもこんな幼い子が、魔王が誇る四天王を全て簡単に倒して、傷一つつかないのよ?」
「それは……まぁ、確かにそうじゃが……」
「それに、〝本人には見えなくて、他者には見えて、でもレベル以外は見えない〟というステータスも変じゃない? これは、〝元人間が転生する先としては規格外過ぎたが故のエラー〟だとすれば、説明がつくでしょ?」
「……むう……じゃが、何故お主はそのことを知っている? まさか、その小童が言ったから、等という曖昧な証拠ではあるまいな?」
「私だけは、ルド君のステータスを見ることが出来るのよ。〝とある条件〟をクリアした者だけが見ることが出来る、となっているの」
「その条件とは、何じゃ?」
「そ、それは良いでしょ! そこは大事な部分じゃないわ!」
何故かお姉ちゃんが、ほっぺを赤くする。
「そうじゃなくて、大事なのは、〝この星の分身〟なんていう規格外のルド君を倒した場合の〝経験値〟は一体どれほどのものか、という点よ」
「!」
「気付いたみたいね。そう。もし倒せば、それが誰であろうと、レベル999どころか、一気に9999まで上がってもおかしくない」
「なるほどのう。そこまで上がってしまうと――」
「恐らくヴィンスの〝精神操作〟が解けてしまうわ。いくら魔王でも、太刀打ちできなくなるでしょ、レベル9999なんて? そうすると、〝今打つべき手〟は見えてくるわ」
「そうじゃのう。選択肢は一つしか無いのう」
魔王が無造作に手を翳すと。
「ぐはっ!」
「まずはこれで、万に一つも、こやつがルドを倒してしまうという事は無くなったのう」
ヴィンスさんは聖魔剣で自らの腹を突き刺し、倒れた。
「……ぐっ……くそっ……俺と……したことが……こんな……無様な……姿を……!」
「ふむ。精神操作もモンスター化も解けてしまったが、虫の息じゃし、まぁ問題ないじゃろう」
聖魔剣をヴィンスさんから抜いて、スーッと自身の眼前まで移動させた魔王は、お姉ちゃんに問い掛ける。
「じゃが、ルドを殺してしまっても良いのかのう? 二ヶ月程度とは言え、共に旅をした冒険者仲間じゃろうに。少なからず情が湧いてるじゃろう?」
お姉ちゃんは、「仲間? 情が湧く? アハハハハハハハハ!」と、笑い声を上げた。
「大嫌いよ、こんな〝化け物〟」
「……お姉ちゃん……!?」
「最初からずっと、私が信じているのは私だけ。この子は手駒として利用していただけよ」
「……そんな……!?」
ショックで悲しくて、涙が出てくる。
「良いのう、お主。〝悪〟の言動に、戦闘能力も申し分なし。どうじゃ、儂の部下にならんか? 好待遇を約束するぞ?」
「遠慮しておくわ。私は自分の国の王位が欲しいだけだもの。そうそう、オースバーグ王国には手を出さないでね。私も今後は、どれだけモンスターが他国を侵略しようが、見て見ぬ振りするから」
「ククク。良いじゃろう。約束しよう」
魔王は、聖魔剣を僕に向けた。
「ルドよ。仲間選びを間違えたのう。恨むなら、人を見る目を持たなかった自分の愚かさを恨むことじゃ」
こんな状況なのに、動けない!
このままじゃ、殺されちゃう!
動け! 動け!! 動け!!!
魔王は、下卑た笑みを浮かべながら僕に向けて手を翳し、下ろした。
と同時に、聖魔剣が飛んでくる。
「これで儂は一気にレベルアップじゃ! 儂に勝てる存在など、この世に誰もいなくなるわい! これから先、何人勇者が転生してこようが、関係無い! 儂は真に最強の王となる! 究極の存在となるのじゃ! フハハハハハハハハハハ!」
ヤダ!
もう死にたくない!
でも、身体は動かず。
眼前に迫った聖魔剣が。
貫いた。
「がはっ!」
僕を庇ったお姉ちゃんの身体を。
「お姉ちゃん!!!」
気付くと催眠術が解けていて、僕は倒れたお姉ちゃんを抱き起こす。
「なんで……!? 僕のことを大っ嫌いって言ったのに!」
「……そうよ……! ……嫌いよ……! ……あなたなんて……大嫌い……!」
お姉ちゃんの口とお腹から、大量の血が流れ出す。
「……本気で……裏切る……つもり……だったのに……泣いてる……あなたを……見たら……咄嗟に……身体が……動いちゃった……じゃない……!」
苦し気に、お姉ちゃんは言葉を紡いだ。
「……もう誰も……信じないって……決めたのに……。……他者は皆……〝敵〟か〝駒〟の……どちらかだって……。……叩き潰すか……利用するかの……二択だって……思ってたのに……!」
お姉ちゃんが、声を震わせながら僕を見つめる。
「……あなたは……どこまでも……純粋で……人を疑うことを知らなくて……。……ずっとあなたを……良いように利用し続けていた……私のことも……優しいとか言って……笑顔を向けてきて……。……全部あなたのせいよ……。……私は……おかしくなってしまった……あれだけ固く決意したのに……また人を……信じてしまった……。……〝信じたい〟と……思ってしまった……」
お姉ちゃんが、血で真っ赤に濡れた手で、僕の頬に触れる。
「……絶対的な強者に……なろうとしてたのに……あなたのせいで……また私は……弱くなってしまった……。……全部……全部あなたのせいよ……。……だから……あなたなんて……大嫌い……!」
「……お姉ちゃん……」
お姉ちゃんは、震える手で、貫かれたお腹の少し上――胸元から、何かを取り出した。
「あっ! それは――」
以前僕があげた花かんむりだった。
「……良かった……無事だったわ……。……あなたは……大嫌いだけど……この花かんむりだけは……好き……。……あの時……〝永遠に枯れないように〟って……〝お祈り〟してもらったから……絶対に……枯れないのよね……本当……あなたの……〝お祈り〟は……すごい……のね……ルド……く……ん……」
お姉ちゃんの声が徐々に小さくなって、呼吸も弱くなり、瞳から光が失われていく。
「……お姉ちゃん……? ……お姉ちゃん……! ……お姉ちゃん……!!」
揺さ振りながら必死に語り掛けても、お姉ちゃんは反応しない。
「愚かな女じゃのう。〝手駒〟と呼んだ相手を庇うなどと。まぁ、どちらにしろ、小童を殺した後は、その女も殺すつもりじゃったがのう。魔王が約束など守る訳ないのじゃ。フハハハハハハハハハ!」
少しずつ冷たくなっていくお姉ちゃんの身体をギュッと抱き締める。
こんなの絶対にイヤだ!
イヤだ! イヤだ!! イヤだ!!!
イヤだあああああああ!!!
「お姉ちゃん!!! うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
泣きながら叫ぶと。
「何じゃ!?」
僕の身体から眩い光が放出された。
光は、お姉ちゃんを優しく包み込む。
一際明るく輝くと。
「……あれ? 私、生きてる……?」
「お姉ちゃん! うわあああん!」
お姉ちゃんが、目を覚ました。
見ると、聖魔剣は抜けて、傷口は完治している。
「死んじゃうかと思った! お姉ちゃん! お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!! うわあああん!!!!」
「くすっ。大丈夫。私は生きてるわ。治してくれてありがとうね、ルド君」
お姉ちゃんが優しく抱き締め返してくれる。
「はぁ。もう一度致命傷を与えなければならぬとは、面倒くさいのう。中途半端なダメージではなく、きちんと〝殺し切らねば〟ならんのう」
魔王が手を翳すと、床に転がっていた聖魔剣がスーッと浮き上がる。
「させない!」
飛び掛かった僕は、聖魔剣の柄の部分を持って、動きを止めようとする。
「無駄じゃ。世界一の膂力を持つ者であろうと、その聖魔剣の動きを封じることなど出来ん……って、あれ? もしかして、封じられちゃってる?」
「うんしょ! うんしょ!」
「ま、まぁ良い。ククク。まさか、聖剣に注ぎ込まれた儂の魔力を剥がそうとしておるのか? 無駄じゃ。洗脳された人間と違い、剣は、致命傷を与えるなどの方法での解除が出来ん。そもそも、仮にそのような行為が出来たとしても、儂が〝千年間〟掛けてじっくりと、とことん魔力を注ぎ込んだのじゃ。それをこんな短時間で剥がすことなど、誰にも出来な――」
「取れたあああああああ!」
「うそおおおおおおおん!? 儂の千年間の努力があああああああああああ!」
聖魔剣のどす黒いオーラを剥ぎ取ると、魔王が絶叫した。
頭をプルプル振って眠気を覚ます。
けど、催眠術は効果があることが分かった魔王が、糸を縛り付けた銅貨を振り子のように揺らしながら、更に追い打ちを掛ける。
「今度は、身体がだんだん重くな~る、だんだん重くな~る、」
「ううっ……身体が……重い……」
僕は、身動きが取れなくなってしまった。
しかも、最初の催眠術の効果もまだ残っていて、頭に靄が掛かっているような感じがする。上手く思考出来ない。
「ククク……これで、攻撃を外すことは無いのう」
「……ギギギ……」
魔王の声に呼応して、ヴィンスさんが聖魔剣を僕に向ける。
「頼みの綱であるルド君は動けず、しかもまだぼんやりしてるし、相手の武器は最強の剣。更に、魔王の精神操作も、今ならルド君が〝お祈り〟で防げないから、私にも掛かっちゃう。今は気付いていないようだけど、魔王もその内そのことに気付いてしまう。……どうやら、ここまでのようね」
小さな声でつぶやいたお姉ちゃんが、溜め息を一つ付いて、顔を上げると。
「あ~あ。せっかく〝最強の駒〟だったのに、こんな簡単に無力化されちゃうなんて」
「……お姉……ちゃん……?」
それは、〝初めて見る表情〟だった。何か吹っ切れたような顔。
「ねぇ、魔王。良いこと教えてあげるから、私だけは見逃してもらえないかしら?」
「!?」
お姉ちゃんが何を言っているのか、理解出来ない。
「ククク。寝惚けたことを言うのう。お主ら二人の命はもはや風前の灯。お主だけ生かしておく理由など無いとは思わんのか?」
「あら、そんなこと言って良いの? このままヴィンスが私たちを殺したら、あなたは一生後悔する、という話をしているのよ?」
「……何じゃと?」
挑発的なお姉ちゃんの言葉に、魔王が片方の眉毛を上げた。
「正確には、〝あなたはヴィンスに殺されてしまう〟が正しいかしら」
「ほう……詳しく述べてみよ。情報次第では、お主だけは助けてやらんでもない」
お姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべながら、説明を続ける。
「まず、最初に。あなたはルド君のことを、すっごく身体が硬くて戦闘能力がずば抜けている人間、と認識しているわよね?」
「うむ、その通りじゃ」
「でも、それが違うのよ。ルド君は……〝惑星〟よ」
「……は?」
「〝この星そのもの〟だって言ってるのよ。正確には、この星の〝分身〟だけどね」
「……まさか……そんな……」
魔王は言葉を失くした。
「だって、おかしいと思わない? ただの子どもが、しかもこんな幼い子が、魔王が誇る四天王を全て簡単に倒して、傷一つつかないのよ?」
「それは……まぁ、確かにそうじゃが……」
「それに、〝本人には見えなくて、他者には見えて、でもレベル以外は見えない〟というステータスも変じゃない? これは、〝元人間が転生する先としては規格外過ぎたが故のエラー〟だとすれば、説明がつくでしょ?」
「……むう……じゃが、何故お主はそのことを知っている? まさか、その小童が言ったから、等という曖昧な証拠ではあるまいな?」
「私だけは、ルド君のステータスを見ることが出来るのよ。〝とある条件〟をクリアした者だけが見ることが出来る、となっているの」
「その条件とは、何じゃ?」
「そ、それは良いでしょ! そこは大事な部分じゃないわ!」
何故かお姉ちゃんが、ほっぺを赤くする。
「そうじゃなくて、大事なのは、〝この星の分身〟なんていう規格外のルド君を倒した場合の〝経験値〟は一体どれほどのものか、という点よ」
「!」
「気付いたみたいね。そう。もし倒せば、それが誰であろうと、レベル999どころか、一気に9999まで上がってもおかしくない」
「なるほどのう。そこまで上がってしまうと――」
「恐らくヴィンスの〝精神操作〟が解けてしまうわ。いくら魔王でも、太刀打ちできなくなるでしょ、レベル9999なんて? そうすると、〝今打つべき手〟は見えてくるわ」
「そうじゃのう。選択肢は一つしか無いのう」
魔王が無造作に手を翳すと。
「ぐはっ!」
「まずはこれで、万に一つも、こやつがルドを倒してしまうという事は無くなったのう」
ヴィンスさんは聖魔剣で自らの腹を突き刺し、倒れた。
「……ぐっ……くそっ……俺と……したことが……こんな……無様な……姿を……!」
「ふむ。精神操作もモンスター化も解けてしまったが、虫の息じゃし、まぁ問題ないじゃろう」
聖魔剣をヴィンスさんから抜いて、スーッと自身の眼前まで移動させた魔王は、お姉ちゃんに問い掛ける。
「じゃが、ルドを殺してしまっても良いのかのう? 二ヶ月程度とは言え、共に旅をした冒険者仲間じゃろうに。少なからず情が湧いてるじゃろう?」
お姉ちゃんは、「仲間? 情が湧く? アハハハハハハハハ!」と、笑い声を上げた。
「大嫌いよ、こんな〝化け物〟」
「……お姉ちゃん……!?」
「最初からずっと、私が信じているのは私だけ。この子は手駒として利用していただけよ」
「……そんな……!?」
ショックで悲しくて、涙が出てくる。
「良いのう、お主。〝悪〟の言動に、戦闘能力も申し分なし。どうじゃ、儂の部下にならんか? 好待遇を約束するぞ?」
「遠慮しておくわ。私は自分の国の王位が欲しいだけだもの。そうそう、オースバーグ王国には手を出さないでね。私も今後は、どれだけモンスターが他国を侵略しようが、見て見ぬ振りするから」
「ククク。良いじゃろう。約束しよう」
魔王は、聖魔剣を僕に向けた。
「ルドよ。仲間選びを間違えたのう。恨むなら、人を見る目を持たなかった自分の愚かさを恨むことじゃ」
こんな状況なのに、動けない!
このままじゃ、殺されちゃう!
動け! 動け!! 動け!!!
魔王は、下卑た笑みを浮かべながら僕に向けて手を翳し、下ろした。
と同時に、聖魔剣が飛んでくる。
「これで儂は一気にレベルアップじゃ! 儂に勝てる存在など、この世に誰もいなくなるわい! これから先、何人勇者が転生してこようが、関係無い! 儂は真に最強の王となる! 究極の存在となるのじゃ! フハハハハハハハハハハ!」
ヤダ!
もう死にたくない!
でも、身体は動かず。
眼前に迫った聖魔剣が。
貫いた。
「がはっ!」
僕を庇ったお姉ちゃんの身体を。
「お姉ちゃん!!!」
気付くと催眠術が解けていて、僕は倒れたお姉ちゃんを抱き起こす。
「なんで……!? 僕のことを大っ嫌いって言ったのに!」
「……そうよ……! ……嫌いよ……! ……あなたなんて……大嫌い……!」
お姉ちゃんの口とお腹から、大量の血が流れ出す。
「……本気で……裏切る……つもり……だったのに……泣いてる……あなたを……見たら……咄嗟に……身体が……動いちゃった……じゃない……!」
苦し気に、お姉ちゃんは言葉を紡いだ。
「……もう誰も……信じないって……決めたのに……。……他者は皆……〝敵〟か〝駒〟の……どちらかだって……。……叩き潰すか……利用するかの……二択だって……思ってたのに……!」
お姉ちゃんが、声を震わせながら僕を見つめる。
「……あなたは……どこまでも……純粋で……人を疑うことを知らなくて……。……ずっとあなたを……良いように利用し続けていた……私のことも……優しいとか言って……笑顔を向けてきて……。……全部あなたのせいよ……。……私は……おかしくなってしまった……あれだけ固く決意したのに……また人を……信じてしまった……。……〝信じたい〟と……思ってしまった……」
お姉ちゃんが、血で真っ赤に濡れた手で、僕の頬に触れる。
「……絶対的な強者に……なろうとしてたのに……あなたのせいで……また私は……弱くなってしまった……。……全部……全部あなたのせいよ……。……だから……あなたなんて……大嫌い……!」
「……お姉ちゃん……」
お姉ちゃんは、震える手で、貫かれたお腹の少し上――胸元から、何かを取り出した。
「あっ! それは――」
以前僕があげた花かんむりだった。
「……良かった……無事だったわ……。……あなたは……大嫌いだけど……この花かんむりだけは……好き……。……あの時……〝永遠に枯れないように〟って……〝お祈り〟してもらったから……絶対に……枯れないのよね……本当……あなたの……〝お祈り〟は……すごい……のね……ルド……く……ん……」
お姉ちゃんの声が徐々に小さくなって、呼吸も弱くなり、瞳から光が失われていく。
「……お姉ちゃん……? ……お姉ちゃん……! ……お姉ちゃん……!!」
揺さ振りながら必死に語り掛けても、お姉ちゃんは反応しない。
「愚かな女じゃのう。〝手駒〟と呼んだ相手を庇うなどと。まぁ、どちらにしろ、小童を殺した後は、その女も殺すつもりじゃったがのう。魔王が約束など守る訳ないのじゃ。フハハハハハハハハハ!」
少しずつ冷たくなっていくお姉ちゃんの身体をギュッと抱き締める。
こんなの絶対にイヤだ!
イヤだ! イヤだ!! イヤだ!!!
イヤだあああああああ!!!
「お姉ちゃん!!! うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
泣きながら叫ぶと。
「何じゃ!?」
僕の身体から眩い光が放出された。
光は、お姉ちゃんを優しく包み込む。
一際明るく輝くと。
「……あれ? 私、生きてる……?」
「お姉ちゃん! うわあああん!」
お姉ちゃんが、目を覚ました。
見ると、聖魔剣は抜けて、傷口は完治している。
「死んじゃうかと思った! お姉ちゃん! お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!! うわあああん!!!!」
「くすっ。大丈夫。私は生きてるわ。治してくれてありがとうね、ルド君」
お姉ちゃんが優しく抱き締め返してくれる。
「はぁ。もう一度致命傷を与えなければならぬとは、面倒くさいのう。中途半端なダメージではなく、きちんと〝殺し切らねば〟ならんのう」
魔王が手を翳すと、床に転がっていた聖魔剣がスーッと浮き上がる。
「させない!」
飛び掛かった僕は、聖魔剣の柄の部分を持って、動きを止めようとする。
「無駄じゃ。世界一の膂力を持つ者であろうと、その聖魔剣の動きを封じることなど出来ん……って、あれ? もしかして、封じられちゃってる?」
「うんしょ! うんしょ!」
「ま、まぁ良い。ククク。まさか、聖剣に注ぎ込まれた儂の魔力を剥がそうとしておるのか? 無駄じゃ。洗脳された人間と違い、剣は、致命傷を与えるなどの方法での解除が出来ん。そもそも、仮にそのような行為が出来たとしても、儂が〝千年間〟掛けてじっくりと、とことん魔力を注ぎ込んだのじゃ。それをこんな短時間で剥がすことなど、誰にも出来な――」
「取れたあああああああ!」
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