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19.エピローグ
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「やった!」
「ええ、やったわね!」
空中にて、僕が拳を天に突きあげると、お姉ちゃんも微笑んだ。
「……あのね、ルド君……」
不意に真剣な表情になったお姉ちゃんが、意を決して言葉を紡ぐ。
「さっきは、酷いこと言ってごめんなさい!」
頭を下げるお姉ちゃん。
「ルド君はずっと私のことを信じてくれていたのに、私はそんなルド君を裏切って、傷付けてしまったわ……」
声を震わせるお姉ちゃんに、僕は。
「ううん! 僕気にしてないよ!」
笑みを浮かべた。
「え? でも……」
「だって、お姉ちゃんは、命懸けで僕を庇ってくれたもん! お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!」
僕が抱き着くと、お姉ちゃんは躊躇いながらも、そっと抱き締め返してくれた。
「……私こそ、今まで何度も助けてくれてありがとうね、ルド君」
太陽の光が、まるで僕らを祝福してくれているかのように優しく降り注いだ。
※―※―※
「しぶといわね……生命力だけは流石と言ったところかしら」
オースバーグ王国外れの荒野へと舞い降りると、ヴィンスさんと勇者パーティーのみんなは、辛うじて生きていた。
シュウキさん、ハラトさん、ムネナオさんがまず地面に激突、その上にヴィンスさんが落ちる形となったらしい。打ち所が良かったのか、運良く全員生き残っている。
「うう……」
「ぐぅ……」
ただ、高空から落ちたこともあり(ヴィンスさんは聖魔剣で身体を貫かれていたし)、皆、呻き声を上げ、虫の息だ。
「本当、仕方が無いわね。ルド君、申し訳ないけど、このバカ王子を治してもらえるかしら? こんなんでも、私の弟なの」
「うん、もちろん! シュウキさんたちと一緒に治そうと思ってた!」
「神さま、お願いします!」と、僕は〝お祈り〟で、四人の怪我を完治させた。
「お!? おおおお! ケツが痛くねぇ! ぐすっ」
「ドハハハハ! 俺もだ! 痛みどころか、ケツに一切の違和感もない! 爽快だ! ぐすっ」
「ワタシもです! 臀部の痛みが無くなるだけで、こんなにも気分が違うのですね……ぐすっ」
よく分からないけど、シュウキさん、ハラトさん、ムネナオさんは、感極まって涙ぐんでいる。
「てめぇがやったのか、クソガキ!」
「えっと、僕はただ〝お祈り〟しただけだよ。治してくれたのは、神さまなんだ」
「あ? 神さまだぁ? てめぇがその〝お祈り〟とやらをしなければ、俺様たちの怪我は治らなかったってことだろうが?」
「まぁ、それはそうだけど」
僕の答えに、シュウキさんは、目線を逸らしながらぶっきらぼうに言った。
「クソガ――いや、ルド。……ありがとよ。てめぇのおかげで、助かった」
「!」
思い掛けない言葉に、僕は思わず目を見開く。
「ドハハハハ! ありがとな、ルド!」
「恩人です! 感謝します!」
ハラトさんとムネナオさんも続く。
「あとよ。その……〝無能ポーター〟とか言って悪かったな。四天王と、更には魔王まで倒しちまったんだろ? てめぇはスゲーよ」
「!!!」
ずっと……
ずっと欲しかった言葉を、やっと聞けた……!
「嬉しい! シュウキさん、ありがとう!」
「チッ! 礼を言われるようなことは何もしてねぇよ」
プイッと顔を背けるシュウキさん。
「良かったわね、ルド君」
「うん!」
お姉ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。
「どこまでも甘いな、マリア! その甘さが命取りだ!」
突如、ヴィンスさんがお姉ちゃんに向けて手を翳す。
「『精神操作』!」
右手の中指に嵌められた深紅の指輪が怪しく光り輝く。
「今すぐ自殺しろ! これで王位は俺のものだ! フハハハハハハ!」
「王位が誰のものだって?」
「なっ!? 馬鹿な!? 何故自殺しない!?」
「どうやら、今の私のレベルだと、その魔導具は太刀打ち出来ないみたいね。魔王を倒したことで、私はLV 500に上がっているから」
「はぁ!? ご、500だと!?」
「そうよ。あ、ルド君! ルド君は、LV 1000になってるわよ!」
「わ~い! やった~!」
攻撃しようにも、聖魔剣は聖剣に変化した上でお姉ちゃんのものとなっているヴィンスさんは、仕方が無いので拳を握り締め、特攻して来た。
「うおおおおお! 死ねえええええぼごばっ!?」
が、お姉ちゃんのデコピン一発で吹っ飛ぶ。
「馬鹿ね、あなたは王族ってだけで、肉体も戦闘能力も平々凡々なのよ? 魔王によってモンスター化していた時だったらまだしも、人間の姿に戻った今、LV 500の私に勝てる訳ないでしょ?」
「ぐっ! くそっ!」と、ふらつきながら立ち上がったヴィンスさんは、尚もお姉ちゃんを睨み付ける。
「その根性だけは認めてあげるわ。まぁ、捻くれ過ぎて害しかない根性だけど」
お姉ちゃんは、「どうしたものかしら。う~ん……」と、俯いて思考する。
「あ! 僕良いこと思い付いた! 早速やってみるね! 神さま、お願いします!」
僕は、ヴィンスさんに向けてとある〝お祈り〟をした。
「! 『拒絶』!」
嫌な予感がしたのか、ヴィンスさんの左手中指に嵌められた翡翠の指輪が光り輝くが。
「無駄よ。ルド君の〝お祈り〟を止められる者なんて、この世に存在しないわ」
〝お祈り〟は、無事に発動した。
「……ん? 何だ、何も起こらないじゃないか! ハッ! 驚かせやがって! ただのこけおどし――」
ジョババババババ
「なんじゃこりゃあああああああ!?」
ヴィンスさんの股間から、勢い良くオシッコが噴出。
「えっとね、それは、〝頭の中で誰かを殺したいって思っただけで、自動的にオシッコがドバドバ流れ出る〟という呪いだよ!」
「『呪いだよ!』じゃねぇよ! 何ポップにエグいことやってるんだ、貴様!?」
「あ、あと、オムツとかしても無駄だよ! そのオシッコは服を貫通するから! それと、あんまりオシッコが流れ過ぎると、身体の中の水分が足りなくなって死んじゃうから、気を付けてね!」
にっこり笑う僕に、ヴィンスさんは、青褪めて。
「魔王よりも魔王じゃねぇかこのガキいいいいいいいいいいいいいい!」
力一杯叫んだ。
※―※―※
その後、お姉ちゃんが、「勇者パーティーにも今のをやった方が良いんじゃないかしら?」と提案してくれて、僕が「でも、シュウキさんたちは、もうヒドイことはしないと思うよ?」と躊躇していると、他でもないシュウキさんたち自身が言った。
「いや、人間ってのはそう簡単に変われるもんじゃねぇ。そこの〝ションベン王子〟を見てれば、分かるだろ?」
「誰が〝ションベン王子〟だ、誰が! うぐっ! 止まらない! し、死ぬうううう!」
「だから、俺様たちにも同じのを掛けるべきだ」
「ドハハハハ! そうだな!」
「……クックック……。確かに、ワタシはまた貴方の命を狙うかもしれませんよ?」
「そこまで言うなら、分かった!」と、僕はシュウキさんたちにも同じ〝お祈り〟をしたけど、彼らは誰も、オシッコが服を貫通したりはしなかった。
※―※―※
「お姉ちゃん、僕、どうしても、あの女の子を生き返らせたい!」
僕は、魔王に喰われた女の子が恐怖で泣き叫ぶ顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
「そうね……良いと思うわ。でも、生き返らせるだなんて、出来るの?」
「分かんない。でも、やってみる!」
「神さま、お願いします! あの女の子を生き返らせて下さい!」と、僕がお願いすると。
「あれ……? あたし、何でこんなところに……? パパとママと一緒に家でご飯食べてて……あれ、それから何があったんだっけ?」
「!」
布の服を着たあの女の子が、目の前に現れた。
どうやら、生き返らせると、喰われる少し前からの記憶が失われるらしい。
良かった!
生きながら喰われた記憶なんて、一生トラウマになっちゃうし。
「じゃあ、あの女の子と同じように魔王に喰われた他の人たちも!」
僕が〝お祈り〟すると、〝同じように〟という条件指定によって、あの少女と同時期に魔王に喰われた人々が、次々と現れた。
すごい!
嬉しくなって興奮した僕は、「じゃあ、次は、今まで魔王に殺された――」と、調子に乗って他の人たちも生き返らせようとしたんだけど。
「待って、ルド君!」
「え?」
「今、魔王に殺された人たちを〝全員〟生き返らせようとしたわよね?」
「うん。ダメなの?」
「そうすると、千年前に魔王が封印される前に殺された人たちも、全員生き返っちゃうわよ?」
「そしたら、みんなハッピー!」
「……本当にそうかしら?」
お姉ちゃんは、真剣な表情で、「ものすごく大勢の人たちが、もし今生き返ったら、実は問題が起こるのよ。一体、どんな問題が起こると思う?」と、質問した。
「う~んと。……あ! 食べ物が足りなくなる?」
「そうね。恐らく、そのせいでたくさんの人が死ぬわ。せっかく生き返ったのにね」
「そんな!」
「他にも問題はあるわ。何だと思う?」
「……住む場所も足りなくなる。あと、服とかも」
「そう。今の社会って、この人数だから成り立ってるのよ。急激に増えると、崩壊しちゃうわ」
僕は、殺された人たち全員をただ生き返らせれば良いと考えていたけど、物事はそう単純ではないみたいだ。
「分かった。でも、あと二人だけ、生き返らせたいんだ。リンジーちゃんのお父さんとお母さん!」
砂漠の村で出会った黒髪セミロングヘアの褐色少女を思い出す。
彼女の両親は、雨を降らせてもらうための生贄として、四天王の一人に捧げられて、殺されてしまった。
「それくらいなら、良いと思うわ」
「良かった! じゃあ、やってみる!」
「神さま、お願いします!」と、僕が〝お祈り〟すると、遠く離れたリンジーちゃんの村で、彼女の両親が生き返ったのが分かった。
「お、お父さん! お、お母さん!」
「「リンジー!」」
泣きながら抱き締め合う三人の映像が、頭の中に流れる。
「ぐすっ……良かった……!」
思わず僕も涙が溢れてくる。
「でも、リンジーちゃんとか、僕の知ってる子だけは幸せになって欲しいって思うのは、僕のワガママなのかな? ヒイキなのかな?」
お姉ちゃんは、「それで良いのよ。〝全人類を平等に救い、平等に幸せにする〟なんて、不可能なんだから」と答えると、言葉を継いだ。
「私たちに出来ることは、目の前の人を救うこと、幸せにすること。一生懸命頑張っても、そのくらいしか出来ないわ」
「でも、お姉ちゃんは女王さまになって、多くの人たちを救って、幸せにするんだよね?」
「それも、〝自分の国〟の中の話よ。他の国の人たちまでは救えない。でも、それで良いのよ。世界中の人たちが、目の前の人を救いたい、幸せにしたいって思って、すぐ傍にいる人に優しく接してあげたら、どうなる?」
「みんな幸せになる!」
「そう。そうして、初めて成し遂げられるのよ。〝全人類が幸せになる〟っていうことがね」
そう説くお姉ちゃんの顔は、既に、慈しみに溢れた女王さまだった。
※―※―※
「女王さま、万歳!」
「「「「「万歳!」」」」」
その後、お姉ちゃんの誕生日の日に、戴冠式が行われた。
「わぁ~! カッコイイ!」
ティアラを被ったお姉ちゃんは、ずっと赤く染めていた髪を、金髪に戻していた。
物腰柔らかな中にも凛とした雰囲気があって、すごく格好良かったし綺麗だった!
※―※―※
「お姉ちゃん、すごく格好良かった! 綺麗だった! ううん、あの時だけじゃない! 今もずっと!」
「くすっ。ありがとう、ルド君」
お姉ちゃんのほっぺが赤くなる。
僕らは、荒野に来ていた。
僕とお姉ちゃんの二人きりだ。
ちなみに、お姉ちゃんはLV 500なので、「この世界に私を倒せるような人間なんて、そうそういやしないわ」ということで、女王さまなのに護衛もなく一人で来ている。
「……行くのね」
「うん、元の世界に戻るんだ! 元の世界のお姉ちゃんに会いたいから!」
お姉ちゃんが寂しそうな顔をする。
僕も寂しい。
でも、元の世界のお姉ちゃんに会いたい!
「じゃあ、お姉ちゃん、僕、行くね!」
「……分かったわ。ルド君。今まで本当にありがとう。私と出会ってくれてありがとう」
「僕も、ありがとう! お姉ちゃんに出会えて良かった! うっ……ぐすっ……」
泣いちゃ駄目だ!
泣き虫は卒業するって決めたんだから!
でも、見ると、お姉ちゃんも目に涙を浮かべてる……
僕は、未練を振り払うかのように、頭をプルプル振る。
「じゃあね、お姉ちゃん! バイバイ!」
僕は、〝お祈り〟した。
「神さま、お願いします! 僕を元の世界に戻してください!」
でも。
「あれ……? 神さま、お願いします! 僕を元の世界に戻してください!」
何度試しても、何も起きなかった。
「……そんな……! ……元の世界のお姉ちゃんには、もう二度と会えないんだ……」
「……ルド君……」
悲しくて涙が出てきちゃう。
「……うっ……ぐすっ……お姉ちゃん……」
と、その時。
「ああもう。私が常に冷やしてないと、貴方、地表を燃やしちゃうでしょ? 本当、世話が掛かるんですから」
「悪いな」
突如、二人の人物が眼前に現れた。
何の前触れもなく。
空間転移魔法を使ったような形跡もなく、魔導具すら持っていない。
全身が銀色で、妙齢の美しい女性と、身体そのものが炎で形成されており、長い髪の毛も炎で出来ている(が、全身を銀色に煌めく魔力で包まれている)、整った顔立ちの男性だ。
ドクン
僕はこの二人と会ったことがある?
いや、それどころか、〝よく知っている〟。
何故なら、彼らは――
「名乗るのが遅くなったな。我は〝太陽〟だ」
「私は〝月〟です」
太陽と月――の分身が、自己紹介した。
「え? 〝お日様〟と〝お月さま〟?」
「〝お日様〟ですって。可愛いじゃないですか」
「からかうのはよせ」
何が起きているのか分からず、口をパクパクさせる僕とお姉ちゃんには構わず、お日様とお月さまは話を続ける。
「元いた世界に戻りたいのだろう?」
「え、うん! 戻りたい! おじさん、出来るの?」
「……おじさん……」
何故かショックを受けるお日様。
「あはは! そりゃそうよ。おじさんどころか、その年齢じゃお爺ちゃんって言われてもおかしくないわよ。ルド、だったわね。悪いけど、この人のことは太陽――か、もしくは〝お日様〟と呼んであげて」
「うん、分かった! 〝お日様〟、出来るの?」
「うむ。たとえ〝星〟であっても、異世界間を行き来する力など持っていない。だが、我は別だ。我ならば、異世界転移も可能だ」
「本当!? やった! ありがとう!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいると、お姉ちゃんが問いを投げ掛けた。
「疑う訳じゃないですが、どうしてそんなに親身になって下さるんですか?」
お日様は、「うむ」と答えた。
「この九ヶ月の間、面白いものを見せてもらった礼だ。あと、面白いものも喰わせてもらったからな」
どうやら、僕らの旅と冒険の内容、そして魔王を食べたことが良かったらしい。
「そう、それで……納得しました。お答え頂きましてありがとうございます」と、お姉ちゃんが丁寧にお礼を述べる。
「じゃあ、お姉ちゃん! 今度こそ行くね!」
僕の言葉に、お姉ちゃんが声を震わせる。
「そ、そうよね……これで、本当のお姉さんに会えるんだものね……」
目に涙を浮かべるお姉ちゃんに、僕も泣きそうになる。
けど!
僕はグッと堪えて、叫んだ。
「僕、〝責任〟取るから!」
「え!? 責任って――」
「お姉ちゃんが――僕が元々いた世界のお姉ちゃんが言っていたんだ。『もし女の子とチューすることがあったら、責任を取らなきゃダメよ?』って」
「ルド君……! 気付いてたの!?」
「うん!」
ダンジョンで出会った瞬間のことが脳裏を過ぎる。
「でも、勿論、それだけじゃないよ。お姉ちゃんのことを本気で好きだから! 僕がそうしたいから、そうするんだ!」
「!」
「だから、僕、またこの世界に戻ってきて、責任取って結婚するから! 〝マリア〟さん!」
「!!!」
お姉ちゃんの目から涙が溢れる。
「で、でも……ルド君はまだ幼いし、〝ルド君の好き〟と、〝私の好き〟は違うかも……」
不安に揺れる瞳に、尚も僕が語り掛けようとすると、お日様が援護射撃してくれた。
「ふむ。安心するが良い。まだ小さな少年ではあるが、本気で貴様のことを想っているぞ。〝姉〟ではなく、〝一人の女〟としてだ」
「!」
お姉ちゃんの頬を涙が伝う。
想いが通じ合ったんだ!
嬉しい!
「お日様、元の世界のお姉ちゃんに会った後、またこの世界に戻ってきたいんだ! お願いしても良い?」
「良いだろう。色々と面白いものを見せてもらったからな」
「やった! ありがとう!」
僕は、〝お祈り〟でフワリと浮き上がると、お姉ちゃんに近付いて。
「マリアさん。大好き!」
「んっ!」
唇を重ねた。
ダンジョンの時とは違って、今度は自分の意思で。
「私も!」
もう一度唇を触れ合わせた後。
「マリアさん、またね! 僕、また戻ってくるから! そしたら、僕と結婚してください!」
「ええ! 待ってるわ!」
ブンブンと手を振る中、僕は浮き上がり。
――眩い光に呑み込まれた。
※―※―※
数年後。
「「「「「ギャアアアアアア!」」」」」
「っと、こんなところかしら。今日はこのくらいにしておきましょう」
夜な夜な一人で王宮を抜け出し、聖剣片手にモンスターの残党狩りをしている妙齢の女性の背後から、僕は声を掛ける。
「こんな月夜に、こんな荒野で、貴方のような美しい女性が一人でいては、僕のような男にナンパされてしまいますよ?」
振り返った彼女の金色の髪がふわりと揺れて、月光に照らされ輝く。
「余計なお世話よ。悪いけど、私が結婚する相手は、もう決まって――」
綺麗な瞳が、僕を見て大きく見開かれ、聖剣が地面に落ちる。
「遅くなってごめんね」
「……本当よ。でも、ちゃんと戻ってきてくれたから、許してあげる」
彼女が背伸びをすると、僕らの唇が重なった。
―完―
※ ※ ※ ※ ※ ※
(※最後までお読みいただきありがとうございます! お餅ミトコンドリアです。
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もし宜しければこちらも応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
「ええ、やったわね!」
空中にて、僕が拳を天に突きあげると、お姉ちゃんも微笑んだ。
「……あのね、ルド君……」
不意に真剣な表情になったお姉ちゃんが、意を決して言葉を紡ぐ。
「さっきは、酷いこと言ってごめんなさい!」
頭を下げるお姉ちゃん。
「ルド君はずっと私のことを信じてくれていたのに、私はそんなルド君を裏切って、傷付けてしまったわ……」
声を震わせるお姉ちゃんに、僕は。
「ううん! 僕気にしてないよ!」
笑みを浮かべた。
「え? でも……」
「だって、お姉ちゃんは、命懸けで僕を庇ってくれたもん! お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!」
僕が抱き着くと、お姉ちゃんは躊躇いながらも、そっと抱き締め返してくれた。
「……私こそ、今まで何度も助けてくれてありがとうね、ルド君」
太陽の光が、まるで僕らを祝福してくれているかのように優しく降り注いだ。
※―※―※
「しぶといわね……生命力だけは流石と言ったところかしら」
オースバーグ王国外れの荒野へと舞い降りると、ヴィンスさんと勇者パーティーのみんなは、辛うじて生きていた。
シュウキさん、ハラトさん、ムネナオさんがまず地面に激突、その上にヴィンスさんが落ちる形となったらしい。打ち所が良かったのか、運良く全員生き残っている。
「うう……」
「ぐぅ……」
ただ、高空から落ちたこともあり(ヴィンスさんは聖魔剣で身体を貫かれていたし)、皆、呻き声を上げ、虫の息だ。
「本当、仕方が無いわね。ルド君、申し訳ないけど、このバカ王子を治してもらえるかしら? こんなんでも、私の弟なの」
「うん、もちろん! シュウキさんたちと一緒に治そうと思ってた!」
「神さま、お願いします!」と、僕は〝お祈り〟で、四人の怪我を完治させた。
「お!? おおおお! ケツが痛くねぇ! ぐすっ」
「ドハハハハ! 俺もだ! 痛みどころか、ケツに一切の違和感もない! 爽快だ! ぐすっ」
「ワタシもです! 臀部の痛みが無くなるだけで、こんなにも気分が違うのですね……ぐすっ」
よく分からないけど、シュウキさん、ハラトさん、ムネナオさんは、感極まって涙ぐんでいる。
「てめぇがやったのか、クソガキ!」
「えっと、僕はただ〝お祈り〟しただけだよ。治してくれたのは、神さまなんだ」
「あ? 神さまだぁ? てめぇがその〝お祈り〟とやらをしなければ、俺様たちの怪我は治らなかったってことだろうが?」
「まぁ、それはそうだけど」
僕の答えに、シュウキさんは、目線を逸らしながらぶっきらぼうに言った。
「クソガ――いや、ルド。……ありがとよ。てめぇのおかげで、助かった」
「!」
思い掛けない言葉に、僕は思わず目を見開く。
「ドハハハハ! ありがとな、ルド!」
「恩人です! 感謝します!」
ハラトさんとムネナオさんも続く。
「あとよ。その……〝無能ポーター〟とか言って悪かったな。四天王と、更には魔王まで倒しちまったんだろ? てめぇはスゲーよ」
「!!!」
ずっと……
ずっと欲しかった言葉を、やっと聞けた……!
「嬉しい! シュウキさん、ありがとう!」
「チッ! 礼を言われるようなことは何もしてねぇよ」
プイッと顔を背けるシュウキさん。
「良かったわね、ルド君」
「うん!」
お姉ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。
「どこまでも甘いな、マリア! その甘さが命取りだ!」
突如、ヴィンスさんがお姉ちゃんに向けて手を翳す。
「『精神操作』!」
右手の中指に嵌められた深紅の指輪が怪しく光り輝く。
「今すぐ自殺しろ! これで王位は俺のものだ! フハハハハハハ!」
「王位が誰のものだって?」
「なっ!? 馬鹿な!? 何故自殺しない!?」
「どうやら、今の私のレベルだと、その魔導具は太刀打ち出来ないみたいね。魔王を倒したことで、私はLV 500に上がっているから」
「はぁ!? ご、500だと!?」
「そうよ。あ、ルド君! ルド君は、LV 1000になってるわよ!」
「わ~い! やった~!」
攻撃しようにも、聖魔剣は聖剣に変化した上でお姉ちゃんのものとなっているヴィンスさんは、仕方が無いので拳を握り締め、特攻して来た。
「うおおおおお! 死ねえええええぼごばっ!?」
が、お姉ちゃんのデコピン一発で吹っ飛ぶ。
「馬鹿ね、あなたは王族ってだけで、肉体も戦闘能力も平々凡々なのよ? 魔王によってモンスター化していた時だったらまだしも、人間の姿に戻った今、LV 500の私に勝てる訳ないでしょ?」
「ぐっ! くそっ!」と、ふらつきながら立ち上がったヴィンスさんは、尚もお姉ちゃんを睨み付ける。
「その根性だけは認めてあげるわ。まぁ、捻くれ過ぎて害しかない根性だけど」
お姉ちゃんは、「どうしたものかしら。う~ん……」と、俯いて思考する。
「あ! 僕良いこと思い付いた! 早速やってみるね! 神さま、お願いします!」
僕は、ヴィンスさんに向けてとある〝お祈り〟をした。
「! 『拒絶』!」
嫌な予感がしたのか、ヴィンスさんの左手中指に嵌められた翡翠の指輪が光り輝くが。
「無駄よ。ルド君の〝お祈り〟を止められる者なんて、この世に存在しないわ」
〝お祈り〟は、無事に発動した。
「……ん? 何だ、何も起こらないじゃないか! ハッ! 驚かせやがって! ただのこけおどし――」
ジョババババババ
「なんじゃこりゃあああああああ!?」
ヴィンスさんの股間から、勢い良くオシッコが噴出。
「えっとね、それは、〝頭の中で誰かを殺したいって思っただけで、自動的にオシッコがドバドバ流れ出る〟という呪いだよ!」
「『呪いだよ!』じゃねぇよ! 何ポップにエグいことやってるんだ、貴様!?」
「あ、あと、オムツとかしても無駄だよ! そのオシッコは服を貫通するから! それと、あんまりオシッコが流れ過ぎると、身体の中の水分が足りなくなって死んじゃうから、気を付けてね!」
にっこり笑う僕に、ヴィンスさんは、青褪めて。
「魔王よりも魔王じゃねぇかこのガキいいいいいいいいいいいいいい!」
力一杯叫んだ。
※―※―※
その後、お姉ちゃんが、「勇者パーティーにも今のをやった方が良いんじゃないかしら?」と提案してくれて、僕が「でも、シュウキさんたちは、もうヒドイことはしないと思うよ?」と躊躇していると、他でもないシュウキさんたち自身が言った。
「いや、人間ってのはそう簡単に変われるもんじゃねぇ。そこの〝ションベン王子〟を見てれば、分かるだろ?」
「誰が〝ションベン王子〟だ、誰が! うぐっ! 止まらない! し、死ぬうううう!」
「だから、俺様たちにも同じのを掛けるべきだ」
「ドハハハハ! そうだな!」
「……クックック……。確かに、ワタシはまた貴方の命を狙うかもしれませんよ?」
「そこまで言うなら、分かった!」と、僕はシュウキさんたちにも同じ〝お祈り〟をしたけど、彼らは誰も、オシッコが服を貫通したりはしなかった。
※―※―※
「お姉ちゃん、僕、どうしても、あの女の子を生き返らせたい!」
僕は、魔王に喰われた女の子が恐怖で泣き叫ぶ顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
「そうね……良いと思うわ。でも、生き返らせるだなんて、出来るの?」
「分かんない。でも、やってみる!」
「神さま、お願いします! あの女の子を生き返らせて下さい!」と、僕がお願いすると。
「あれ……? あたし、何でこんなところに……? パパとママと一緒に家でご飯食べてて……あれ、それから何があったんだっけ?」
「!」
布の服を着たあの女の子が、目の前に現れた。
どうやら、生き返らせると、喰われる少し前からの記憶が失われるらしい。
良かった!
生きながら喰われた記憶なんて、一生トラウマになっちゃうし。
「じゃあ、あの女の子と同じように魔王に喰われた他の人たちも!」
僕が〝お祈り〟すると、〝同じように〟という条件指定によって、あの少女と同時期に魔王に喰われた人々が、次々と現れた。
すごい!
嬉しくなって興奮した僕は、「じゃあ、次は、今まで魔王に殺された――」と、調子に乗って他の人たちも生き返らせようとしたんだけど。
「待って、ルド君!」
「え?」
「今、魔王に殺された人たちを〝全員〟生き返らせようとしたわよね?」
「うん。ダメなの?」
「そうすると、千年前に魔王が封印される前に殺された人たちも、全員生き返っちゃうわよ?」
「そしたら、みんなハッピー!」
「……本当にそうかしら?」
お姉ちゃんは、真剣な表情で、「ものすごく大勢の人たちが、もし今生き返ったら、実は問題が起こるのよ。一体、どんな問題が起こると思う?」と、質問した。
「う~んと。……あ! 食べ物が足りなくなる?」
「そうね。恐らく、そのせいでたくさんの人が死ぬわ。せっかく生き返ったのにね」
「そんな!」
「他にも問題はあるわ。何だと思う?」
「……住む場所も足りなくなる。あと、服とかも」
「そう。今の社会って、この人数だから成り立ってるのよ。急激に増えると、崩壊しちゃうわ」
僕は、殺された人たち全員をただ生き返らせれば良いと考えていたけど、物事はそう単純ではないみたいだ。
「分かった。でも、あと二人だけ、生き返らせたいんだ。リンジーちゃんのお父さんとお母さん!」
砂漠の村で出会った黒髪セミロングヘアの褐色少女を思い出す。
彼女の両親は、雨を降らせてもらうための生贄として、四天王の一人に捧げられて、殺されてしまった。
「それくらいなら、良いと思うわ」
「良かった! じゃあ、やってみる!」
「神さま、お願いします!」と、僕が〝お祈り〟すると、遠く離れたリンジーちゃんの村で、彼女の両親が生き返ったのが分かった。
「お、お父さん! お、お母さん!」
「「リンジー!」」
泣きながら抱き締め合う三人の映像が、頭の中に流れる。
「ぐすっ……良かった……!」
思わず僕も涙が溢れてくる。
「でも、リンジーちゃんとか、僕の知ってる子だけは幸せになって欲しいって思うのは、僕のワガママなのかな? ヒイキなのかな?」
お姉ちゃんは、「それで良いのよ。〝全人類を平等に救い、平等に幸せにする〟なんて、不可能なんだから」と答えると、言葉を継いだ。
「私たちに出来ることは、目の前の人を救うこと、幸せにすること。一生懸命頑張っても、そのくらいしか出来ないわ」
「でも、お姉ちゃんは女王さまになって、多くの人たちを救って、幸せにするんだよね?」
「それも、〝自分の国〟の中の話よ。他の国の人たちまでは救えない。でも、それで良いのよ。世界中の人たちが、目の前の人を救いたい、幸せにしたいって思って、すぐ傍にいる人に優しく接してあげたら、どうなる?」
「みんな幸せになる!」
「そう。そうして、初めて成し遂げられるのよ。〝全人類が幸せになる〟っていうことがね」
そう説くお姉ちゃんの顔は、既に、慈しみに溢れた女王さまだった。
※―※―※
「女王さま、万歳!」
「「「「「万歳!」」」」」
その後、お姉ちゃんの誕生日の日に、戴冠式が行われた。
「わぁ~! カッコイイ!」
ティアラを被ったお姉ちゃんは、ずっと赤く染めていた髪を、金髪に戻していた。
物腰柔らかな中にも凛とした雰囲気があって、すごく格好良かったし綺麗だった!
※―※―※
「お姉ちゃん、すごく格好良かった! 綺麗だった! ううん、あの時だけじゃない! 今もずっと!」
「くすっ。ありがとう、ルド君」
お姉ちゃんのほっぺが赤くなる。
僕らは、荒野に来ていた。
僕とお姉ちゃんの二人きりだ。
ちなみに、お姉ちゃんはLV 500なので、「この世界に私を倒せるような人間なんて、そうそういやしないわ」ということで、女王さまなのに護衛もなく一人で来ている。
「……行くのね」
「うん、元の世界に戻るんだ! 元の世界のお姉ちゃんに会いたいから!」
お姉ちゃんが寂しそうな顔をする。
僕も寂しい。
でも、元の世界のお姉ちゃんに会いたい!
「じゃあ、お姉ちゃん、僕、行くね!」
「……分かったわ。ルド君。今まで本当にありがとう。私と出会ってくれてありがとう」
「僕も、ありがとう! お姉ちゃんに出会えて良かった! うっ……ぐすっ……」
泣いちゃ駄目だ!
泣き虫は卒業するって決めたんだから!
でも、見ると、お姉ちゃんも目に涙を浮かべてる……
僕は、未練を振り払うかのように、頭をプルプル振る。
「じゃあね、お姉ちゃん! バイバイ!」
僕は、〝お祈り〟した。
「神さま、お願いします! 僕を元の世界に戻してください!」
でも。
「あれ……? 神さま、お願いします! 僕を元の世界に戻してください!」
何度試しても、何も起きなかった。
「……そんな……! ……元の世界のお姉ちゃんには、もう二度と会えないんだ……」
「……ルド君……」
悲しくて涙が出てきちゃう。
「……うっ……ぐすっ……お姉ちゃん……」
と、その時。
「ああもう。私が常に冷やしてないと、貴方、地表を燃やしちゃうでしょ? 本当、世話が掛かるんですから」
「悪いな」
突如、二人の人物が眼前に現れた。
何の前触れもなく。
空間転移魔法を使ったような形跡もなく、魔導具すら持っていない。
全身が銀色で、妙齢の美しい女性と、身体そのものが炎で形成されており、長い髪の毛も炎で出来ている(が、全身を銀色に煌めく魔力で包まれている)、整った顔立ちの男性だ。
ドクン
僕はこの二人と会ったことがある?
いや、それどころか、〝よく知っている〟。
何故なら、彼らは――
「名乗るのが遅くなったな。我は〝太陽〟だ」
「私は〝月〟です」
太陽と月――の分身が、自己紹介した。
「え? 〝お日様〟と〝お月さま〟?」
「〝お日様〟ですって。可愛いじゃないですか」
「からかうのはよせ」
何が起きているのか分からず、口をパクパクさせる僕とお姉ちゃんには構わず、お日様とお月さまは話を続ける。
「元いた世界に戻りたいのだろう?」
「え、うん! 戻りたい! おじさん、出来るの?」
「……おじさん……」
何故かショックを受けるお日様。
「あはは! そりゃそうよ。おじさんどころか、その年齢じゃお爺ちゃんって言われてもおかしくないわよ。ルド、だったわね。悪いけど、この人のことは太陽――か、もしくは〝お日様〟と呼んであげて」
「うん、分かった! 〝お日様〟、出来るの?」
「うむ。たとえ〝星〟であっても、異世界間を行き来する力など持っていない。だが、我は別だ。我ならば、異世界転移も可能だ」
「本当!? やった! ありがとう!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいると、お姉ちゃんが問いを投げ掛けた。
「疑う訳じゃないですが、どうしてそんなに親身になって下さるんですか?」
お日様は、「うむ」と答えた。
「この九ヶ月の間、面白いものを見せてもらった礼だ。あと、面白いものも喰わせてもらったからな」
どうやら、僕らの旅と冒険の内容、そして魔王を食べたことが良かったらしい。
「そう、それで……納得しました。お答え頂きましてありがとうございます」と、お姉ちゃんが丁寧にお礼を述べる。
「じゃあ、お姉ちゃん! 今度こそ行くね!」
僕の言葉に、お姉ちゃんが声を震わせる。
「そ、そうよね……これで、本当のお姉さんに会えるんだものね……」
目に涙を浮かべるお姉ちゃんに、僕も泣きそうになる。
けど!
僕はグッと堪えて、叫んだ。
「僕、〝責任〟取るから!」
「え!? 責任って――」
「お姉ちゃんが――僕が元々いた世界のお姉ちゃんが言っていたんだ。『もし女の子とチューすることがあったら、責任を取らなきゃダメよ?』って」
「ルド君……! 気付いてたの!?」
「うん!」
ダンジョンで出会った瞬間のことが脳裏を過ぎる。
「でも、勿論、それだけじゃないよ。お姉ちゃんのことを本気で好きだから! 僕がそうしたいから、そうするんだ!」
「!」
「だから、僕、またこの世界に戻ってきて、責任取って結婚するから! 〝マリア〟さん!」
「!!!」
お姉ちゃんの目から涙が溢れる。
「で、でも……ルド君はまだ幼いし、〝ルド君の好き〟と、〝私の好き〟は違うかも……」
不安に揺れる瞳に、尚も僕が語り掛けようとすると、お日様が援護射撃してくれた。
「ふむ。安心するが良い。まだ小さな少年ではあるが、本気で貴様のことを想っているぞ。〝姉〟ではなく、〝一人の女〟としてだ」
「!」
お姉ちゃんの頬を涙が伝う。
想いが通じ合ったんだ!
嬉しい!
「お日様、元の世界のお姉ちゃんに会った後、またこの世界に戻ってきたいんだ! お願いしても良い?」
「良いだろう。色々と面白いものを見せてもらったからな」
「やった! ありがとう!」
僕は、〝お祈り〟でフワリと浮き上がると、お姉ちゃんに近付いて。
「マリアさん。大好き!」
「んっ!」
唇を重ねた。
ダンジョンの時とは違って、今度は自分の意思で。
「私も!」
もう一度唇を触れ合わせた後。
「マリアさん、またね! 僕、また戻ってくるから! そしたら、僕と結婚してください!」
「ええ! 待ってるわ!」
ブンブンと手を振る中、僕は浮き上がり。
――眩い光に呑み込まれた。
※―※―※
数年後。
「「「「「ギャアアアアアア!」」」」」
「っと、こんなところかしら。今日はこのくらいにしておきましょう」
夜な夜な一人で王宮を抜け出し、聖剣片手にモンスターの残党狩りをしている妙齢の女性の背後から、僕は声を掛ける。
「こんな月夜に、こんな荒野で、貴方のような美しい女性が一人でいては、僕のような男にナンパされてしまいますよ?」
振り返った彼女の金色の髪がふわりと揺れて、月光に照らされ輝く。
「余計なお世話よ。悪いけど、私が結婚する相手は、もう決まって――」
綺麗な瞳が、僕を見て大きく見開かれ、聖剣が地面に落ちる。
「遅くなってごめんね」
「……本当よ。でも、ちゃんと戻ってきてくれたから、許してあげる」
彼女が背伸びをすると、僕らの唇が重なった。
―完―
※ ※ ※ ※ ※ ※
(※最後までお読みいただきありがとうございます! お餅ミトコンドリアです。
実は以下の作品でも、第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
【「え、良いの? あれ、トカゲじゃなくてドラゴンだよ?」ドラゴンが存在しない異世界で「トカゲしか召喚出来ない無能は要らない」と勇者パーティーから追放されたドラゴン召喚士の少年が無自覚ざまぁする話】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/547765216/458981690
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