暴虐の果て

たじ

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第20話

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11月12日

私は恋人のマキと砂浜を歩いている。
こちらに打ち寄せてくる波が、真夏の太陽に照らされてキラキラと光を放ち輝いている。

すると突然、奇声を上げて正面から走ってきた灰色のパーカー姿の男が右手に持った包丁で、私の隣を穏やかな笑みを浮かべながら歩いていたマキの胸の真ん中辺りをブスリと突き刺した。

胸から血をだらだらと流したマキはそれでも穏やかな笑みを浮かべたまま、

「ここから逃げるの。何も考えてはダメ。いいわね?」

と、私に言った後、サラサラと砂になってその場に崩れ落ちた。

私の頭はカッと熱くなって何も考えられなくなる。私の目頭から大粒の涙が零れては砂浜に落ちた。

パーカーのフードを目深に被った男の顔は逆光のせいで良く見えない。

「……ケケケケケケケケ…………。」

マキを刺した包丁から彼女の血液をポタポタと落としたまま、不気味な笑い声を漏らしている男の顔が段々と、ハッキリしてくる。


…………驚くべきことに、男の顔は私の顔と瓜二つだった……。


T刑務所の独房では先日違法薬物の所持・使用の罪で逮捕収監された男ーー3126番ーーがしゃっくりをあげながら目元に両手を当てて大粒の涙を止めどなく流していた。

「……マキっっ!マキぃぃっーーーーー!!」

男の泣き叫ぶ声が刑務所内に木霊する。

3126番が逮捕時所持していた薬物は既存の覚醒剤と未知の薬物が混じり合ったものだった。

その未知の薬物の分析が科捜研では行われていたが、どうやら何かの魚類から抽出したらしいということ以外、一体誰がいつどうやって何の目的で作り出したものなのかは分かっていない。

……ともあれT刑務所内では3126番は単なるヤク中で、ありもしない妄想を垂れ流しているだけだ、と皆思っていた。

やがて、驚愕の真実が明るみに出るまでは。


     ◆  ◆  ◆  ◆

11月12日

………………………ここは?

目を覚ますと私は元の監禁されていた殺風景な部屋に連れ戻されていた。

うつ伏せに横になっていた床から両手をついて立ち上がると部屋を見回す。

パソコンに表示されていた質問に答え、上に上がっていたはずの壁は元通りに下ろされていた。

ふとパソコンの置かれた机の片隅に小さな紙片が置かれてあるのに気づく。

私はその紙片を机から取り上げて素早く目を通した。

そこにはただ一言、

"おかえりなさい♡"、と汚い殴り書きで書かれていた。

「……くそっっ!!人を馬鹿にしやがってっ!!」

思わず罵倒の言葉が私の口からついて出る。

頭痛と吐き気に襲われて気を失う前に、犯人であろう男の顔を見たはずだが頭が靄がかかったように何故か思い出せない。

嘘のように激しい頭痛と吐き気が治まっていることを考えると、どうやら犯人がまた私に例の薬を投与したのだろう。

男の顔が思い出せないのは多分、そのせいだ。

どうにも頭がフラフラしてうまく働かないので椅子に座り込んで両目を閉じた。

…………やがて私は深い眠りに落ちていった。

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