【完結】お義姉様が悪役令嬢?わたくしがヒロインの親友?そんなお話は存じあげません

宇水涼麻

文字の大きさ
1 / 57

1 幼き双子

しおりを挟む
「このクズバカール!! よくもやってくださいましたわね!」

 綺羅びやかな会場に透き通る声にはそぐわぬ悪態が響きその声の方向に周囲が注目する。
 階段の一番上から声を発したのは大変に美しい女神で本日の主役の一人であることを証明するかのような艶めく黄緑色の髪をハーフアップにしている。瞳と同じ色の金色のドレスを纏い離れた階段下からでも豪奢な衣装だとわかる。

「本当に信じられませんわっ!」
「アリサ」

 隣に立つ薄紫色の髪をした青年が怒り狂いそうな女神を諭すように優しく名前を呼んだ。

「みなさんが女神の降臨をお待ちですよ。そろそろ参りましょう」

 深い紫の瞳はアリサへの愛情たっぷりに細められ優雅にエスコートの手を伸ばした。アリサは気品溢れる仕草でその手に自分の手を重ねる。
 二人が螺旋階段をゆっくりと降りてくる姿は艶やかで神々しく誰もが言葉を失っていた。


 〰 〰 〰

 アリサ・オルクスはプリュムリーナ王国にあるオルクス公爵家に待望の長女として生まれ落ちた。蝶よ花よと可愛がられ幸せに暮らしていた。

 ただ一点を除いては……。

 アリサにはアリサよりほんのすこぉしだけ早く生まれた兄ズバニールがいるのだ。
 
 双子は波長が合い仲良くいろいろと類似することも多いというのが通例であるが二人は全くそのようなことはなかった。そもそも性別が違うのだからと家族や使用人は考えている。容姿にも違いがあり二人とも大層美形なのは間違いないが、ズバニールは深緑の髪に黄色が強い茶の眼でアリサは黄緑の髪に輝く金色の瞳である。

 だが一箇所だけそっくりなものがあった。

 それは『気に入るもの』である。

 母親を取り合って喧嘩するのは日常茶飯事。時にはおもちゃを取り合い時にはケーキを取り合い時には花を取り合い挙句の果てにはメイドを取り合った。さすがにメイドは半分にしたり同じものを用意したりはできないのでそのメイドを母親専属にして二人とは極力顔を合わせないようにすることにしたほどである。

 そんな二人の元に一人の女の子が現れた。乗馬服のような格好をした女の子が振り返るとカールのかかったオレンジ色の髪のポニーテールがポインと揺れる。二人に気がつくと笑顔を弾けさせた。
 女の子は手を振りながら二人の元へ走ってくると元気に挨拶してくる。

「二人ともはじめまして。メイロッテ・コンティよ。二人に会えてとってもうれしいわ」

 お陽さまのような温かみのある吊りがちの紅色の瞳を笑顔でこれでもかと垂れさせるとアリサの右手とズバニールの左手をとり両手で包み込むように握った手はとても温かかった。

「お話に聞いていた通り二人とも本当に美しい翡翠色の髪だからすぐにわかったわ。ズバニール様が少し濃いめのお色なのね」

 その直後、一人は鼻血を出して倒れ一人は顔を赤くして手を振り払い踵を返して走り出した。

 共通点は二人ともメイロッテを一目で気に入ったというところだ。

 一ヶ月後。コンティ辺境伯令嬢メイロッテはズバニールの婚約者になりズバニールの勝ち誇った顔をアリサは苦々しく睨む。 

 時は十数年経ち二人が貴族学園を卒業するまで約半年となった。
 二人の誕生日を祝うパーティーが王都にあるオルクス公爵邸で昼食前から開催されることになり招待された人々はみな綺羅びやかな装いでオルクス公爵邸へ集合していく。

 オルクス公爵家の威厳を表すかのような大廊下にはいかにも高価そうな調度品や家具が並んでいる。見た目からすべすべで座り心地の良さそうなカウチソファーの横には木彫りの脚が施されたテーブルがそここに置かれているがすべて異なるセットであるにも関わらず統一感があるという誠にセンスの良い空間である。

『ここってまだロビーからの廊下だよね?』

 そう思ったのは一人や二人ではない。

「お疲れになりましたらこちらのお席もお使いくだいませ」

 それに気がついたメイドは隙かさず説明を入れる。

 廊下を進むと耳心地のいい音楽がはっきりと聞こえてくる。 
 大人数の楽団が奏でる素晴らしい音色に引き寄せられて大きく開け放たれた大扉をくぐり会場へと足を踏み入れれば豪華な華花で彩られたダンスホールに大きなシャンデリアが五つもキラキラと輝いている。
 
 招待された同年代の貴族子女たちは自分たちの家との違いに目を見開いてあっけにとられながらも目に焼き付けようとキョロキョロと見回した。

「壁際には軽食やドリンクがございます。あちらの扉の奥には多少お食事もご用意させていただいておりますので是非お召し上がりください」

 昼食を食べずに来いと招待されているので気合を入れて空腹で来たが会場の雰囲気にすでにお腹がいっぱいになりつつある子女たちがキョロキョロしながらメイドの話に頷く。

 こうして次々に案内されて来た子女たちは時間が経ち友人とおしゃべりをして緊張さえ解れれば自分の空腹にも気が付く。自然に食べ物へと足が進むとオルクス公爵家の豪勢な料理に驚き味に驚く。

『多少のお料理とメイドは言っていたがこれが多少なら本当の豪華はどんなものなのだ?』

 苦しくなるほどのウエストを強調するドレスを着てきてしまったご令嬢は後悔するほどであった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?

水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」 ここは裁判所。 今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。 さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう? 私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。 本当に裁かれるべき人達? 試してお待ちください…。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

処理中です...