【完結】お義姉様が悪役令嬢?わたくしがヒロインの親友?そんなお話は存じあげません

宇水涼麻

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53 カイザーの決意

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 カイザーがつまみに手を伸ばしている間に執事長コリアドルはグラスを下げ水の入ったコップを差し出した。渋り顔をしたカイザーであったが時間帯は承知しているのでしかたなく文句は口にしなかった。

「こうしてズバニール坊ちゃまのご将来に展望を見いだせますのも、旦那様が女性後継者承認法案の成立にお力を注がれたからでございます。本当にお疲れ様でございました」

「うむ……。苦渋の決断ではあったが領民を思えばアリサがオルクス公爵家を後継すべきだと思ったからな。ズバニールが少しでもアリサの言葉に耳を傾けるようなら話は違ったが……」

「お二人のお心が通われないことは幼き頃からのことでございますから……」

「男爵領で学んでくれることを願っているよ」

「左様でございますね」

「ワイドン公爵が進んで賛同してくださったから予想より早くに法案が決議できてよかったよ」

「その法案提出にご無理をなされたのではないのですか?」

「ワシとしてはアリサが第一王子殿下の婚約者となった場合に備えていたから大したことではなかったさ」

 コリアドルが一瞬固まった。それを見たカイザーはいたずらが成功したかのようにニヤリと笑った。

〰 〰 〰

 カイザー・オルクスは日々悩んでいた。オルクス公爵家には長男と長女がいるが能力が違いすぎるのだ。
 だが、現法では長男がいる以上、長男が家督を引き継ぐ以外にはない。

「ズバニールはなぜここまで努力嫌いになってしまったのだ?」

 常々頭を悩ませていたカイザーだが後継者指名するべき年齢が遠のくことはない。
 ズバニールのこともアリサのことも同様に愛している。二人には同等の教育を施すように計らってきたし、金も掛けてきた。だが、優秀に成長したのはアリサだけだった。

「ズバニールに能力がないとは思えない。家庭教師たちもそう言っている。だが、なぜかやる気を見せず、すぐに家庭教師を首にする始末だ」

 母親オルクス公爵夫人に委ねていた部分も多いのは確かであるが、カイザーもことあるごとにズバニールの説得をしてきた。

 だが、もうそろそろカイザーが腹を括るときだ。

『息子可愛さで領民を飢えさせるわけにはいかない。だが、アリサを補佐にしたとして、ズバニールがアリサの指示を聞くとは思えない。
…………公爵でなくとも父親でいることはできる』
 

 決意を固めたカイザーが女性後継者承認法案を国王に提出すると国王は苦々しい顔をした。

「これは早急過ぎではないか? もう少し女性の社会貢献の場を増やし女性が働くことに理解を深めさせ、その上でやるべきだとワシは考えるが」

 国王陛下の執務机の前に立つカイザーの方に書類をポンと投げる。

「本来はそれがよろしいということは重々承知しておりますが、学園の卒業と同時に後継者として発表する慣わしのある現状でありますので我が家としてはかなり切迫した状況であります。
先日、第一王子殿下が伯爵令嬢を婚約者にと望み、王妃陛下も前向きだとお聞きしました。その伯爵令嬢の仕事ぶりが認められ婚約者となる今は好機であると考えます」

 カチャリと音がして二人はそちらに目を向けた。ノックもせずに入室して来た者がいた。
 
「陛下。わたくしもオルクス公爵のお話に加えてくださいませ」

 笑顔の王妃陛下に国王陛下は背筋が伸び、恭しく頭を下げたオルクス公爵は心の中でガッツポーズをした。

 三人はソファに移り、王妃陛下がカイザーが提出した法案案を読む。
 しばらくして王妃陛下がそっとテーブルに置いた。

「これはキャリーナが王太子妃になる際にも大きな後ろ盾となる法案でしょう。能力を重要視するという見本になりますから。未来の我が国に希望があると示す素晴らしいものだと思いますわ」

「ワシもそれはわかっている。だがな、時期が尚早ではないかと思っているのだ」

「このタイミングを逃せばキャリーナへの誹謗中傷を少なくさせることが難しくなります。
伯爵令嬢の王太子妃と女性領主を同時に進めることで女性の立場向上が格段によくなります」

 それから国王陛下と王妃陛下であれこれと話をしているのはカイザーはじっと聞いていた。初めこそ押していた王妃陛下だったが国王陛下の「いつかはやるべき法案だとはわかっている」という言葉に自分が引くことを考え始めた様子であった。

「オルクス公爵。決してこの法案を闇にすることはない。まずは女性の地位向上のためにアリサに王城勤務をさせるのはどうだ? アリサの能力を知れば女性に対する意見も随分と変わることだろう」

「……そうですか。では、我らは公爵位を返上し国外へ移住したいと思います」

「え?」
「は? なぜそうなる?」

 寝耳に水、青天の霹靂。虚を突かれた発言に両陛下は目を丸くした。
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