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災難5 返事の保留
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「まあ! 素敵ねぇ!」
翌日、大きな薔薇の花束を持って現れたギバルタを見て、ソチアンダ侯爵夫人は感嘆の声を上げた。ギバルタの服装は騎士団の正装で、いつもは乱雑に下ろされている髪もすっきりと後ろに撫で付けられている。
「コホン! ギバルタ殿。ユリティナはいつも四阿におる」
「ありがとうございます。お時間を少々いただきます」
「うむ。頼んだよ」
「はっ!」
「では、ご夫人方はこちらへどうぞ」
執事に応接室に案内されたのは、メヘンレンド侯爵夫人とアーニャだ。アーニャは何度かこちらでお茶をしているので、ソチアンダ侯爵夫人と親しげに挨拶し話をしている。
〰️ 〰️
ギバルタはいつもユリティナとお茶を楽しんでいる四阿へ向かった。
『カツン』という靴の音に気がついたユリティナは、ギバルタの方を振り返る。いつもと違うギバルタの姿を見て笑顔で頬を染めた。しかし、ハッとしたような表情をして、目線を下げた。それは少しだけ悲しそうに見える。
ギバルタは一瞬見た笑顔で舞い上がり、その後の様子にショックを覚えた。しかし、引き下がることはユリティナに愛を乞うことなく諦めることになるので、心に気合いを入れ直す。
ユリティナの元まで行くと、戸惑うことなく跪く。
「ユリティナ嬢。図々しいと思われるかもしれませんが、どうか私と婚姻してください」
ユリティナはギュッと目を瞑る。覚悟を決めてギバルタを真っ直ぐに見た。
「ギバルタ様。とりあえずお座りいただけますか?」
ギバルタが先に視線を外した。顔は白くなっている。
「わかりました……」
ギバルタはどんな断り文句を言われても受け入れるつもりでいたのに、いざ断られそうだとなるとショックが隠せなかった。
少し離れたところにいたメイドたちは、ギバルタが空いている椅子に花束を置きいつもの椅子に座るのを確認するとお茶の用意をするためにサッと来た。メイドたちがお茶の用意をしている間、二人は視線を合わすことなく、おしゃべりもしなかった。
メイドたちはいつもと違う二人の雰囲気に不安になったが、『今日はユリティナに任せるように』とソチアンダ侯爵から言いつかっていた。お茶を淹れるとその場を離れる。
「いただきましょう……」
ユリティナの言葉にギバルタは自分がショックで動けなくなった失態を犯していることに気がついた。
『ウデルタとのことがあったのだ。メヘンレンド侯爵家のことを憎んでいて当然だ。玉砕上等と思っていたはずなのに、情けない……』
ギバルタは一つ大きく息を吐き、お茶を一口飲んだ。
「いつものことですが、こちらの紅茶は本当に美味しいですね」
「ありがとうございます」
ユリティナは自嘲気味に微笑んだ。二人はそっとカップを置いた。
「ギバルタ様。わたくし、ウデルタ様とのことをもう一度考えてみましたの」
「はい」
「どうやら、わたくしは口煩い性格のようなのです」
「は……い……???」
ユリティナにウデルタまたはメヘンレンド侯爵家への罵詈雑言を浴びせられると思っていたギバルタは首を傾げた。
「ウデルタ様といつ頃からすれ違うようになったかを思い出してみましたのよ。恐らくですが、わたくしがウデルタ様へ『お勉強は進んでいらっしゃいますか?』と訊ねてから、チグハグになったのではないかと思います」
「はぁ??」
ギバルタはまだユリティナの意図が読めない。
「わたくしとしては、一緒にお勉強いたしましょうとお誘いするつもりでいたのですが、ウデルタ様は『僕が君より成績が悪いことを馬鹿にしているの?』とおっしゃいました」
「はあ!!??」
突拍子もないウデルタの受け答えを知り、ギバルタは思わず突拍子もない声を上げた。
「あの馬鹿はユリティナ嬢のお力に嫉妬したのですかっ!?」
「嫉妬なのでしょうか? それはわかりませんが……」
学園はAからFの成績順クラス分けがされる。ユリティナもウデルタも学術ではAクラスではあったが、ユリティナはクラス内でも上位十人に入り、ウデルタは下位であった。
「あとは、男女別の授業の後に、『どんなことをなさいましたの?』とお聞きしたら、『僕ができないことが嬉しいの?』とお怒りになりましたわ」
ウデルタは武術科目の授業はCクラスだ。武術は男子だけなので三クラス(AクラスからCクラス)しかない。女子は淑女科目として三クラス(DクラスからFクラス)となっている。つまり、ウデルタは武術では最下位クラスということだ。
「我が家はウデルタ様の武術の腕前は問題にしておりません。わたくしとしましては、話題の一つのつもりだったのです」
男女分けの授業なのだから、ユリティナが男子の授業の内容を知るわけがない。ウデルタにとっては、『文官の家に婿入り』することになっているのに、武術が苦手なことはコンプレックスになっているのだろう。
「それは八つ当たりじゃないですか……」
「そうなのですか? わたくしはお怒りになった理由が解らず、背を向けるウデルタ様を呼び止めることができませんでした……」
「そんなことをする必要はありません!」
ギバルタはユリティナを悩ませていたウデルタを憎く思い始めた。
翌日、大きな薔薇の花束を持って現れたギバルタを見て、ソチアンダ侯爵夫人は感嘆の声を上げた。ギバルタの服装は騎士団の正装で、いつもは乱雑に下ろされている髪もすっきりと後ろに撫で付けられている。
「コホン! ギバルタ殿。ユリティナはいつも四阿におる」
「ありがとうございます。お時間を少々いただきます」
「うむ。頼んだよ」
「はっ!」
「では、ご夫人方はこちらへどうぞ」
執事に応接室に案内されたのは、メヘンレンド侯爵夫人とアーニャだ。アーニャは何度かこちらでお茶をしているので、ソチアンダ侯爵夫人と親しげに挨拶し話をしている。
〰️ 〰️
ギバルタはいつもユリティナとお茶を楽しんでいる四阿へ向かった。
『カツン』という靴の音に気がついたユリティナは、ギバルタの方を振り返る。いつもと違うギバルタの姿を見て笑顔で頬を染めた。しかし、ハッとしたような表情をして、目線を下げた。それは少しだけ悲しそうに見える。
ギバルタは一瞬見た笑顔で舞い上がり、その後の様子にショックを覚えた。しかし、引き下がることはユリティナに愛を乞うことなく諦めることになるので、心に気合いを入れ直す。
ユリティナの元まで行くと、戸惑うことなく跪く。
「ユリティナ嬢。図々しいと思われるかもしれませんが、どうか私と婚姻してください」
ユリティナはギュッと目を瞑る。覚悟を決めてギバルタを真っ直ぐに見た。
「ギバルタ様。とりあえずお座りいただけますか?」
ギバルタが先に視線を外した。顔は白くなっている。
「わかりました……」
ギバルタはどんな断り文句を言われても受け入れるつもりでいたのに、いざ断られそうだとなるとショックが隠せなかった。
少し離れたところにいたメイドたちは、ギバルタが空いている椅子に花束を置きいつもの椅子に座るのを確認するとお茶の用意をするためにサッと来た。メイドたちがお茶の用意をしている間、二人は視線を合わすことなく、おしゃべりもしなかった。
メイドたちはいつもと違う二人の雰囲気に不安になったが、『今日はユリティナに任せるように』とソチアンダ侯爵から言いつかっていた。お茶を淹れるとその場を離れる。
「いただきましょう……」
ユリティナの言葉にギバルタは自分がショックで動けなくなった失態を犯していることに気がついた。
『ウデルタとのことがあったのだ。メヘンレンド侯爵家のことを憎んでいて当然だ。玉砕上等と思っていたはずなのに、情けない……』
ギバルタは一つ大きく息を吐き、お茶を一口飲んだ。
「いつものことですが、こちらの紅茶は本当に美味しいですね」
「ありがとうございます」
ユリティナは自嘲気味に微笑んだ。二人はそっとカップを置いた。
「ギバルタ様。わたくし、ウデルタ様とのことをもう一度考えてみましたの」
「はい」
「どうやら、わたくしは口煩い性格のようなのです」
「は……い……???」
ユリティナにウデルタまたはメヘンレンド侯爵家への罵詈雑言を浴びせられると思っていたギバルタは首を傾げた。
「ウデルタ様といつ頃からすれ違うようになったかを思い出してみましたのよ。恐らくですが、わたくしがウデルタ様へ『お勉強は進んでいらっしゃいますか?』と訊ねてから、チグハグになったのではないかと思います」
「はぁ??」
ギバルタはまだユリティナの意図が読めない。
「わたくしとしては、一緒にお勉強いたしましょうとお誘いするつもりでいたのですが、ウデルタ様は『僕が君より成績が悪いことを馬鹿にしているの?』とおっしゃいました」
「はあ!!??」
突拍子もないウデルタの受け答えを知り、ギバルタは思わず突拍子もない声を上げた。
「あの馬鹿はユリティナ嬢のお力に嫉妬したのですかっ!?」
「嫉妬なのでしょうか? それはわかりませんが……」
学園はAからFの成績順クラス分けがされる。ユリティナもウデルタも学術ではAクラスではあったが、ユリティナはクラス内でも上位十人に入り、ウデルタは下位であった。
「あとは、男女別の授業の後に、『どんなことをなさいましたの?』とお聞きしたら、『僕ができないことが嬉しいの?』とお怒りになりましたわ」
ウデルタは武術科目の授業はCクラスだ。武術は男子だけなので三クラス(AクラスからCクラス)しかない。女子は淑女科目として三クラス(DクラスからFクラス)となっている。つまり、ウデルタは武術では最下位クラスということだ。
「我が家はウデルタ様の武術の腕前は問題にしておりません。わたくしとしましては、話題の一つのつもりだったのです」
男女分けの授業なのだから、ユリティナが男子の授業の内容を知るわけがない。ウデルタにとっては、『文官の家に婿入り』することになっているのに、武術が苦手なことはコンプレックスになっているのだろう。
「それは八つ当たりじゃないですか……」
「そうなのですか? わたくしはお怒りになった理由が解らず、背を向けるウデルタ様を呼び止めることができませんでした……」
「そんなことをする必要はありません!」
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