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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

33 結婚式と披露宴

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 ビアータたちがファーゴ子爵邸に到着したときには、すでに中庭に、たくさんの人がいた。それぞれに挨拶と紹介をしていく。そうして、しばらく、歓談していると、もう一台馬車が到着した。馭者にはルーデジオが座っていた。出てきたのは、中年の女性と、ファブリノとリリアーナだった。リリアーナは、ビアータたちとお揃いのドレスを着ていた。
 ファブリノは、その中年女性モニカを母親だと、紹介した。

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 遡ること、1週間前、箱馬車2台と幌馬車2台とが、アイマーロ公爵州マルデラ男爵領の孤児院の前に止まっていた。

「モニカさん、こちらは、国や州から支援を受けている教会ではありませんね」

 つまり、モニカは、派遣された正式なシスターではないということだ。

「ええ、ファブリノのためにと、あの人が始めた教会ですので」

 モニカは、罰則でもあるのかもしれないと常々思っていたので、ひっそりとやってきたのだ。州長にでも知られたら、子供たちは行き場を無くしてしまうかもしれない。モニカにとって、それが1番怖いことだった。

「と、いうことは、ここが無くなっても、問題ないということですね」

 ルーデジオはニコニコしてそう言った。シスターモニカはとてもショックを受けた。

「そ、そんなっ!子供たちに、どうしろって言うのですかっ?あの子たちは行く場所がありません!」

「ええ、ですから、あなたも含めて、全員で『ビアータの家』に引っ越しをしましょう!」

「かあさん!一緒に行こう!子供たちも、一緒に!」

 シスターモニカは、泣いて感謝した。そして、その日のうちに12人の子供たち、6歳から11歳の子供たちとともに、『ビアータの家』へ引っ越したのだった。

 今、子供たちは本館に、シスターモニカは旧棟に住んでいる。


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「それから、俺の父さんだよ!」

 ファブリノが紹介したのは、ルーデジオである。

「「「えーー!」」」

 ルーデジオが照れているので、本当だろう。だが、みんなは、違う誤解をしていた。ファブリノの母親のような存在のモニカと、ルーデジオが結婚をしたから、ルーデジオがファブリノの父親のような存在になったと思ったのだ。
 だが、この誤解は数年後本当になる。「嘘から出た真」とはまさにこれのことであろう。

 4組が揃ったことを確認したファーゴ子爵は、みんなを中庭奥の芝生に案内した。そこには、説教台と長椅子が並んでいた。

 ファーゴ子爵が説教台の隣で司会を務める。神父が説教台の前に立った。

「では、アルフレード、ビアータ、前へ」

 ファーゴ子爵の言葉で、アルフレードとビアータが腕を組んで、神父の前の右側に立つ。

「では、べニート、ロマーナ、前へ」

 ここから、誓いの言葉、そして、誓いのキス。家族に見守られながら、永遠の愛を誓った。二組が後方の長椅子に座る。

「では、ファブリノ、リリアーナ、前へ」

 次に

「では、コルネリオ、サンドラ、前へ」

 こうして、4組の結婚が、神父によって認められた。
 ファーゴ子爵は、その隣に、テーブルと軽食を用意してくれており、4組の新郎新婦とその家族たちで、お祝いの会を楽しんだ。

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 翌日、ファーゴ子爵邸を出発したのだが、なぜか、昨日の参加者全員がそれぞれの移動手段で、『ビアータの家』を目指していた。

「ま、まさか、みんな?」

 ビアータはびっくりしてアルフレードの顔を見た。

「そうみたいだね。アハハ」

 アルフレードも笑顔も微妙だ。

「それは、そうよっ!みんな、あなたたちがやってること、見てみたいって思うのよ!」

「私もとっても楽しみだわぁ」

 クレオリアとロマーナは楽しみにしているのはよくわかるほど、ニコニコしていた。

「アル、どこに泊まっていただくの?」

 ビアータの心配はむしろそれだけだ。食料ならきっと困っていないはずだから。

「心配しないで、ビアータ。いざとなったら、男共で野営でもするからさっ!」

「え?何、それっ?楽しそう!」

 アルフレードの提案にビアータが飛びついた。

「ビアータ!私達も幌馬車で寝ましょうよ!」

「えー!楽しそう!」

「ホントにステキなお嬢さんたちねぇ!あんたたち、女を見る目だけは、お父さんに似たのねぇ!」

 『バンバンバン』
 クレオリアは、隣に座るアルフレードの腕を叩いて喜んでいた。野営も幌馬車泊まりも楽しめる女性であることは、ルケッティ子爵家にとって、喜ばしいことなのだ。

 その日の夜、ビアータの言葉は冗談ではなくなり、大人数すぎて宿に入り切らなかったので、若者たちは、宿の馬車置き場で野営となった。女の子(ロマーナを含めて)4人は、幌馬車2台に分かれて寝て、男4人は、箱馬車で足を曲げて寝るよりマシだと、焚き火の周りで寝ることにした。コソコソと話し声は、深夜まで止むことはなかった。


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 早朝、日の出とともに出発した。ビアータとアルフレードは、箱馬車の馭者台に座っている。サンドラとコルネリオも、ファーゴ子爵たちが乗る箱馬車の馭者台に座っている。先頭を走るのは、ルーデジオで、今日はかなりペースが早い。このペースなら、昼前には付きそうだ。

 関所を通過してから45分、道が左右に分かれて、左には野いちごの森、右には『ビアータの家々』が並ぶ。

「アル!あれ見て!小麦畑の向こう!」

 ビアータが指を指したところには二人にとって見慣れないものが建っていた。

「あの、白い建物は何だろう?」

「3つも建っているわよ」
 
 本館の道を挟んだ南側に、ビアータたちが見たことのない建物が、3つ建てられていた。1つは真っ白だ。
 後ろの馬車の馭者台でも、サンドラとコルネリオが、何やら言っている。
 それらに、どんどん近くなる。

「教会よ!真っ白の建物は教会だわっ!まあ!なんてステキなの」

 ビアータは大興奮だった。アルフレードも勢いよく頷いていた。

「教会ができると一気に村のようになるね。すっごいなぁ!!」

「あと2つは何かしら?」

 本館の前に到着すると、みんなが揃っていた。ビアータが顔を知らない子供たちもいた。
 ビアータとアルフレードが降り立つと、顔を知ってる子供たちが、二人の腕を引いて、ビアータたちが知らない建物へと連れて行かれた。後ろには、サンドラとコルネリオも同じように引っ張られていた。

 一件目の家の前には、ジャンたちがいた。

「ビアータさん、アルさん、おかえりなさい」

「「「「おかえりなさーい!」」」」

 かわいい笑顔たちがジャンに続く。

「「ただいま」」

 二人も自然に笑顔になる。

「これ、びっくりしましたか?」

 ジャンがイタズラっ子みたいに聞いた。

「もちろんだよ!ここは何に使う予定の建物なんだい?」

 アルフレードは建物を見上げて感心していた。 

「ここは、ビアータさんとアルさんの家です!」

 ビアータがよろめき、アルフレードが支えた。アルフレードも目が真ん丸だ。

「う、うそ…」

「お隣は、サンドラさんとコルさんのお家なのよ。そして、あの教会の裏がお家になっているでしょう?あそこは、リリアーナさんとリノさんのお家なのよ」

 メリナがジャンの説明に補足した。

「俺たちも、お前たちと一緒に使おうと思ってさ、まだ引っ越ししてないんだ」

 ファブリノが後ろから声をかけてきた。

「リノ!これ………」

 アルフレードは泣きそうな顔でファブリノを見た。

「俺だけじゃないぞ。これをたった2ヶ月で建てたんだ。みんなの力だぞ!」

 ビアータは、すでに涙が止まらない。向こうの家の前では、泣いているサンドラの背中をリリアーナが擦っている。

「みんな、ありがとう!ビアータは、感動しすぎて、喋れないみたいだ。本当に嬉しいよ」

 そういうアルフレードの声も詰まっていた。
 ビアータは、泣きながら『コクンコクン』と何度も頷いた。

「これは、立派な村になったものだなぁ」

「ねぇ!あの丸太小屋からこんなふうになるなんて!ビアータ、みなさんに感謝しなくては、ね」

 ビアータの両親も驚きを隠せない。ビアータは、母親に抱きしめられ、その胸の中で、何度も頷いていた。

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「では、家のお披露目は、こんなもんで終わります!みんな!竈の前に集合だぁ!」

「「「はーい!」」」

 ジャンの指示で子供たちが本館の前へと走り出した。

 またしても、ビアータとアルフレードとサンドラとコルネリオは、引っ張られて、連れてこられたのは、解体体験で使ったバーベキュー広場。テーブルとベンチ、レンガで作られた外竈も数が増えていた。さらに、食堂室からも、テーブルや椅子が出されていた。

 みんな、それぞれ座ったり、竈の用意をしている。
 みんなの方を向いて立っているテラとウルバの間に、3組が並ぶ。

「それでは、はじめるよう!」

「テラ、ちょっと待ってくれ。アル!」

 ファブリノがアルフレードに目配せをした。

「ああ!兄さん!こっちへ!」

 みんなの後方にいたべニートとロマーナを呼ぶ。デルフィーノに押されて、二人は3組に並んだ。

「みんな、俺の兄さんとそのお嫁さんだ。ニト兄さん、ロマ姉さん、だよ。今日から、ここの住人だ。
兄さん、どうぞ」

「えっと、これからいろいろと教えてほしい。仲良くしてくれ!」

 みんなが、歓声と拍手で迎えた。

「では、改めて、アルさん、どうぞ!」

 ウルバが仕切り直した。
 アルフレード、コルネリオ、そしてファブリノの挨拶した。隣にはもちろん、それぞれの妻が手を握り笑顔で立っている。

 そして、大披露宴は始まった。
 『ビアータの家』のみんなと、家族に見守られた披露宴は、とても幸せな時間だった。

 子供たちを寝床に押し込んだ後も、大人たちの宴会は続いていた。子供たちは、こうしてお腹いっぱいになり、さらには大人たちの笑い声を子守唄に寝られることに、安堵と幸福を感じていた。


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「ねぇ、ビアータ、そ、そのぉ、僕にプロポーズしてくれて、ありがとう」

 アルフレードは、新しい木の匂いがする部屋で、月明かりの中、体を少し丸めて、ビアータを抱きしめた。暗くて見えないが、きっと顔を赤らめているだろう。ビアータは、そんな夫が可愛らしくてしかたなかった。ビアータは、大好きな背中をギュッと抱きしめた。

「アル、私の目の前に現れてくれて、ありがとう」

 ビアータは、アルフレードの胸から少しだけ離れて顔をあげた。月明かりでドアに映る影が、静かに重なった。
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