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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

32 卒業式

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 学園に残った4人は、難なく卒業を迎えることができることとなった。
 春、卒業式は隣国ピッツォーネ王国の次期王太子が視察においでになることとなり、例年になく、豪華な卒業式となり、それに伴い、式の後に行われる卒業パーティーも豪華であった。
 卒業パーティーのファーストダンスは、隣国の次期王太子と次期王太子妃が務めるとあって、高位貴族たちはこぞってやってきた。まさか高位貴族たちは、手ぶらでは来ないので、学園には多額の寄付が集まった。

 そんなことは自分たちには関係ないと4人はダンスに興じていた。4人は、卒業後すぐに『ビアータの家』に行くことを決めている。だから、ドレスとタキシードで踊ることなど、もう最後になることだろう。それを惜しいとは思わないが、今を楽しみたいのは、本音であった。

「ビアータ、キレイだよ」

 アルフレードは珍しく饒舌にビアータを褒めた。

「ふふふ、こんなにドレスの似合わない肌の色をしているのに?」

 ビアータはあまりに饒舌すぎるそれをお世辞だととって、笑顔でお茶目に返した。

「そんなビアータが大好きなんだから、仕方ないだろう?」

 アルフレードの今までにない言葉に、ビアータは、ステップを間違えて、アルフレードの足を踏んだ。

「きゃあ!アル!ごめんなさい!」

「ん?今なんかあった?」

 素知らぬ顔で踊りを続けるアルフレードがとっても頼もしかった。

 コルネリオとサンドラも楽しそうに見つめ合って踊っていた。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝、学園前の馬車寄せに4人を迎えに来たのは、デルフィーノの箱馬車だった。アルフレードも、昨日のうちに用意した幌馬車の馭者をしている。デルフィーノは、昨日の卒業式と卒業パーティーに参加していたのだ。奥さんのクレオリアも一緒だった。クレオリアとビアータの挨拶は昨日のうちに終わっており、クレオリアは、一目でビアータを気に入ってしまっていた。

「ビアータ、サンドラ、早く乗って!荷物は男共に任せておけばいいのよっ!」

「「はーい!」」

「ここにいると邪魔になるから、先に行くぞ。1日目の宿はわかるな?」

 デルフィーノがアルフレードに大きな声で確認を入れた。

「ああ、わかったよ。また後で」

 卒業生で溢れかえる馬車寄せと通りのことを考えると、1台でも出てしまった方がいい。残ったアルフレードとコルネリオは、4人分の荷物を幌馬車に積むと、二人で馭者台に座った。

「アルフレード!コルネリオ!幸せになっ!ビアータさんによろしく!」

 Cクラスの仲間が声をかけてくれた。

「ああ、ありがとう!」

「元気でなぁ!」

 この後も、学園を出るまでにたくさん声をかかけられた。
 王都を出るまでに随分と時間がかかってしまった。約束の宿まで、少し飛ばす。

「コルたちは、どうする予定?」

 手綱を持ったアルフレードは飛ばしているので、コルネリオを見る余裕はない。

「実家に着いてからは、アルたちと別行動だな。サンドラの実家に行ってから、あちら(『ビアータの家』)に戻るよ」

 コルネリオも馭者台に括られた綱を握りしめていた。

「うん、それがいいよ。僕も、『ビアータの家』へ戻る前に、ビアータの実家に行くつもりさ」

「結婚の挨拶には行ったのか?」

「うん、婚約した次の週に二人で行ってきたよ。まあ、結婚っていっても、教会に届け出すだけだし」

「だな。俺たちもそうする予定だ。そうだ、一緒に教会行こうぜ。リノも誘ってさ!結婚の日が数日遅れても問題ないだろう?」

「そうだね。じゃあ、とりあえず、『ビアータの家』に集まってからにしようか。3組一緒に教会へ行けるなんて嬉しいな」

「そうだな。アルがプロポーズされてたときはこんなこと想像もしてなかったよな」

 その日の晩に、ビアータとサンドラにその事を伝えると、二人とも賛成してくれた。

〰️ 〰️ 〰️

 3日後昼過ぎ、ファーゴ子爵領都に着いた一行は、いつものようにファーゴ子爵邸……ではなく、宿屋へ赴いた。

「コルネリオとサンドラは、これに乗ってお屋敷へ行きな」

 デルフィーノは、幌馬車から、馬を離して、コルネリオに手綱を渡した。

「え?みなさんは?」

 コルネリオは手綱を受け取りながらもキョロキョロとした。

「俺たちはここに泊まる。なぁに、明日はそちらに行くから、安心しなっ!」

 コルネリオとサンドラは、追い出されるように馬に乗せられ、見送られた。

「明日も忙しいわ。私たちも中で休みましょう」

 クレオリアが誘ってくれたが、ビアータがどうしていいかわからず、立ち止まる。昨日までは、サンドラと同室だったのだ。今夜はどうしたらいいのだろうか?

「ハァーハッハッ!ビアータは可愛いなぁ!大丈夫だ。今日のところはクレオリアと寝てくれ、な」

 デルフィーノは笑い飛ばしたが、ビアータは、真っ赤になって俯いた。後から気がついたアルフレードも、頭をかきながら、赤い顔をして違う方を見ていた。

 各部屋に荷物を置いて、デルフィーノとアルフレードの部屋でお茶をしていた。

 『コンコンコン』

「おっ、やっと着いたか」

 デルフィーノがドアを開けると、そこには、べニートとロマーナがいた。

「兄さん!どうしたの?」

 アルフレードはびっくりしてドアへと向かった。ビアータも口をパカンと開けていた。

「ハハハ!仕事を辞めてきたぞ!」

「で、でも、隣国の王太子ご夫妻がいらっしゃっていたのでは?」

 べニートの都合はロマーナから聞いていた。

「そのご夫妻も明日には王都を出るから、3日くらい、俺がいなくてもどうにかなるさっ。なるように、シフトを調整してきた。実質、俺は休暇中だ!そのために、1月から、無休で働いたからな」

 べニートは胸を張っていた。

「職権乱用だろう、それ。すごいね」

「そういうわけだからっ!アル!俺を雇ってくれ!」

 頭を下げるべニートをアルフレードは困り顔で見つめた。そしてゆっくりと説明する。

「給料はほぼないよ?」

「わかってる」

 頭を下げたままべニートは返事をした。

「何をやらされるかもわからないよ?」

「わかってる」

「兄さんを頼りにしちゃうよ?」

「っっ!わかってる」

 アルフレードはべニートに抱きついた。

「ありがとう!兄さん!」

 クレオリアが立ち上がって歩き、抱き合うべニートとアルフレードの頭を思いっきり叩いた。
 『パーン』『パーン』

「デカイのがっ!邪魔だっ!」

 クレオリアは、べニートの後ろにいた小さな女性の腕を引っ張った。そして、声が裏返る。

「ロマーナ!馬は大変だったでしょう!さぁ、座って!」

 3脚しかない椅子には、女性陣が座った。

「お義母さん、先日は、来ていただいてありがとうございました」

「もう!何を言っているのっ!美味しいご飯、ありがとうねっ!」

 クレオリアは満面笑みをロマーナに向けた。

「ふふふ、喜んでもらえたなら、よかったです。ビアータちゃん、卒業おめでとう!」

「べニートお義兄様も、ロマーナお義姉様も、ビアータって呼んでください」

 ビアータは小首を傾げて可愛らしくおねだりした。本人に可愛らしくしているつもりはない。

「かあ!いつも可愛いなぁ、義妹はっ!じゃあ、俺らのことも、ニト兄、ロマ姉って呼んでくれよ」

「ニト兄さん、ロマ姉さん」

 ビアータは、それぞれの目を見て、名前を呼んだ。

「ふふ、嬉しいわ、ビアータ」

 その後、食堂では、アルフレードとビアータに初めてのワインが振る舞われ、6人で、楽しい夕餉となった。

〰️ 〰️ 〰️

 翌朝、6人は食堂で朝食をとった。みんなが立ち上がる。

「さぁて!ビアータ、部屋に戻りましょう!ロマーナもこっちの部屋よう!」

 クレオリアが、ビアータの背を押し、ロマーナの手を引いて、部屋に向かった。

「お前たちも支度だな」

 デルフィーノがアルフレードとべニートの肩をポンポンと叩いた。

「え?俺も?」

 不思議がるべニート。『パーン』デルフィーノは、何も言わずにべニートの頭を叩いた。

 クレオリアとビアータが昨夜泊まった部屋に女性3人がいた。

「さぁ!二人とも、着替えてちょうだいっ!」

 そう言って、クレオリアが開いたクローゼットには、白色に近いクリーム色のドレスが2着飾られていた。

「お義母さん!私っ!」

 ロマーナは、口に手を当てて驚いていた。ビアータもあ然としている。

「わかっているわ。でも、ここまできたら、覚悟なさいっ!ふふふ」

 ロマーナは、泣き出してクレオリアに抱きついた。小さなロマーナは、クレオリアの腕に抱かれ、ロマーナは、クレオリアの胸で泣いた。

「うちにお嫁に来てくれてありがとう、ロマーナ」

 ビアータも、もらい泣きしていた。

「やだわっ!二人とも!そんな顔で行くつもりなのっ!もう泣くのはおわりよっ!」

 そう言うクレオリアの頬にも涙が伝っていた。

〰️ 

 二人の支度も終わり、クレオリアも決して派手ではないドレスに着替えた。階下に行くと、すでに支度を終えた男3人が食堂で待っていた。

 そして、その後ろには、ビアータの家族がいた。

「お父様!お母様!」

 ビアータは、父親の胸に飛び込んだ。

「ビアータ、卒業おめでとう!よく頑張ったね」

「おめでとう。ビアータ、とってもキレイよ」

 母親はビアータの後ろから頭を撫でた。

「ほんと、孫にも衣装だな」

「何言ってるの!ビアータは、ずっと可愛いわっ!」

「お兄様もお姉様もありがとう!会えて嬉しいわ!」

 二人は昔からこの調子なのだ。ビアータは、アルフレードを兄と姉に紹介した。

「アル君、ビアータみたいなお転婆でいいのか?」

「だからっ!ビアータはそこが可愛いのよっ!」

 兄がからかい、姉がフォローするいつもの三人のスタイルだった。
 

「よぉし、じゃあ行こうか!」

 デルフィーノの掛け声でみんなが箱馬車に乗り込んだ。2台の箱馬車で向かったのは、ファーゴ子爵邸だった。
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