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理由4 冤罪をかけるから
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再び頭を上げたベレナがさらに続ける。
「それに、マテルジ殿下からの理由のない叱責にはホトホト嫌になりましたわ」
「「まあ! 何を叱責されましたの?(されたのですか?)」」
「わたくし、女子生徒のみなさんから相談をされておりましたの」
「「何の相談ですの(ですか)?」」
「スザンヌ様が婚約者のいる男子生徒と懇意になさっていることについてですわ。なんと十人の皆様に相談されましたのよ」
十人と聞いて、男子三人はスザンヌを見た。スザンヌはブンブンと首を振った。
「「そんなにたくさんの悩んでいらっしゃる方がいらっしゃったのですか?」」
「ええ。ですが、わたくしが個人的にお呼び立てすると問題になるかもしれないですわよね。ですから、学園長様がお立ち会いの元で、スザンヌ様にご注意申し上げましたの」
これは、野次馬からもコクリコクリと同意が入った。
「その翌日、学園長様が集会をお開きになり、皆さんに注意してくださいましたわ」
『学園の推奨する身分を超えた付き合いと、立場を超えた付き合いは違います。婚約者などお相手がいる立場の者は、キチンと踏まえて行動しなさい。それは、成人であるか未成年であるかではなく、常識人であるかどうかですよ』
学園長は男子生徒へ苦言を呈した。
「常識人である方々は、反省なさったようですのにね」
ナナリーの言葉にテーブルにいる男子三人に視線が集まる。失笑したのは常識人であった男子生徒かもしれない。
「ですのに、さらに、翌日、マテルジ殿下がわたくしの元へいらして、『スザンヌへのイジメは許さない。悪口を止めろ』とおっしゃいましたのよ。
わたくし、びっくりしてしまいましたわ」
「「ですわねぇ(ですねぇ)!」」
「学園長様を交えてのお話でもこれでは、わたくし、怖くて怖くて」
ベレナが目尻にハンカチを当てた。マテルジが、慌てて聞き返す。
「な、何が怖いというのだっ!」
「「「冤罪を掛けられることですよっ」」」
マテルジはグッと詰まる。
「それなら、わたくしも、怖く感じておりますわ」
ジゼーヌは腕を抱きしめ、ブルッと震えた。マテルジの隣のライジーノが目を見開いた。
「「ああ、先月のあれですね」」
「ええ、ご覧になっていた方は多かったですものね。
まさか、ご自分で踏んで破いてしまったものを、たまたま近くにいたわたくしの責任にするなど、誰が予想できましょうか?」
スザンヌが廊下で自分で教科書を落とし、それを踏みすべって破いた。その際、『ジゼーヌ様、ひどいですぅ』と泣き、ライジーノが飛んできた。ライジーノは、誰の意見も聞かず、まくし立ててジゼーヌを責め立てる。ライジーノは後で他の男子生徒から説明されたにも関わらず、『それでもジゼーヌが悪い』と言い切っていた。
「「証人が何人もいましたのに、ねぇ……」」
ライジーノは視線を落として冷や汗をハンカチで拭った。
「見間違うことはあるぞ……」
ライジーノを庇うためなのかマテルジが震えた声で言い訳する。
「あら? 見間違えだと理解してらっしゃいますの? 見間違えしたかもしれない相手。その者の話を聞かずに罪を着せることを何というかご存知ですか?」
べレナがマテルジに小首を傾げて質問した。マテルジは目を泳がせる。
「「「思い込みの冤罪というのですよ」」」
マテルジとライジーノが仰け反った。
「私なんて、先週、怪我を負わされたうえに、人殺しと言われましたよ」
ナナリーが包帯の巻かれた左手をすぅと上げた。
「「あれはないですわねぇ!」」
サバルが顔を青くする。どんな理由があったにせよ、ナナリーに怪我をさせた自覚はあるのだ。
「まさか、階段を駆け下りてきた人を受け止めろと言われるとは思いませんでした」
「「はぁ。本当に……」」
その日、階段を勢いよく駆け下りたきたスザンヌは、他の生徒をヒョイヒョイと避けながら駆け下り、最後の下から三段目にいたナナリーにだけは突撃した。
運動神経のよいナナリーは、ぶつかられる前に、手摺に手をかけ軽くいなし、階段脇の廊下へとの華麗に着地した。ナナリーに避けられたスザンヌは、三段ばかり転げ落ちた。下はふかふかの絨毯だ。音などほとんどしない。
数メートル離れていたサバルは、スザンヌを避けたナナリーに駆け寄り「なぜ、スザンヌを受け止めなかったのだ。この人殺し!」と責め立てたのだ。その際、ナナリーの肩を思いっきり突き飛ばし、ナナリーは階段の壁にぶつかった。壁なのでものすごい音がした。ナナリーは反射的に壁に手を翳してしまい左手首に怪我を負った。
「それも、『廊下も階段も走るな』と、何度も先生方に注意されていたスザンヌ様ですよ」
「「そちらの注意をしていただきたいですわよね」」
「さらに他の生徒を避けることができるのに、なぜ私にだけぶつかろうとなさったのでしょうか?」
「「本当に不思議ですわねぇ??」」
「ご、誤解が生じてしまっただけであろう?」
マテルジが慌てて言い訳をする。
「そうですわね。
婚約者であるはずのわたくしたちの話には一切耳をお貸しになりませんものね?
誤解も生じてしまうでしょうね。
それによって冤罪がかけられることも…………ありえるのでしょうね」
べレナの肯定に、野次馬たちは男たち三人の聞く気のない態度を知っているので、呆れ笑いで頭を左右に振っている。
「どんなに目撃している方が沢山いらしても、他の方の話をお聞きにならない……
えっ? 普通、そんな人って……います??」
ナナリーは男たち三人の行動を肯定しようとしたが、絶句する。
「ナナリー様。目の前にいらっしゃいますわ……三人も……」
「「「「ブフッ!!!」」」」
ジゼーヌのフォローに野次馬も我慢できずに吹き出した。
その雰囲気にマテルジであってもこれ以上は何も言えなってしまった。
「「「無理にでもお話を聞いていただくようなことができなくて申し訳ありません」」」
謝る立場が逆のはずだが、頭を下げているのはご令嬢たちである。男たち三人の悪辣ぶりが尚更強調される。
「「「ですので、婚約を解消してくださいませ。
卒業後の進路を変更することを望んでいます」」」
ご令嬢三人はまた頭を下げた。この三組は卒業一年以内に婚姻が決まっていた。
観衆はクスクス笑ったり、コソコソ話したり、ザワザワしながら、男子三人の様子を見ていた。
三人は目を泳がせながら、逃げ場を探しているようだった。スザンヌが交互にテーブルの上にある三人の意識を自分に向けようと必死になっている。
「それに、マテルジ殿下からの理由のない叱責にはホトホト嫌になりましたわ」
「「まあ! 何を叱責されましたの?(されたのですか?)」」
「わたくし、女子生徒のみなさんから相談をされておりましたの」
「「何の相談ですの(ですか)?」」
「スザンヌ様が婚約者のいる男子生徒と懇意になさっていることについてですわ。なんと十人の皆様に相談されましたのよ」
十人と聞いて、男子三人はスザンヌを見た。スザンヌはブンブンと首を振った。
「「そんなにたくさんの悩んでいらっしゃる方がいらっしゃったのですか?」」
「ええ。ですが、わたくしが個人的にお呼び立てすると問題になるかもしれないですわよね。ですから、学園長様がお立ち会いの元で、スザンヌ様にご注意申し上げましたの」
これは、野次馬からもコクリコクリと同意が入った。
「その翌日、学園長様が集会をお開きになり、皆さんに注意してくださいましたわ」
『学園の推奨する身分を超えた付き合いと、立場を超えた付き合いは違います。婚約者などお相手がいる立場の者は、キチンと踏まえて行動しなさい。それは、成人であるか未成年であるかではなく、常識人であるかどうかですよ』
学園長は男子生徒へ苦言を呈した。
「常識人である方々は、反省なさったようですのにね」
ナナリーの言葉にテーブルにいる男子三人に視線が集まる。失笑したのは常識人であった男子生徒かもしれない。
「ですのに、さらに、翌日、マテルジ殿下がわたくしの元へいらして、『スザンヌへのイジメは許さない。悪口を止めろ』とおっしゃいましたのよ。
わたくし、びっくりしてしまいましたわ」
「「ですわねぇ(ですねぇ)!」」
「学園長様を交えてのお話でもこれでは、わたくし、怖くて怖くて」
ベレナが目尻にハンカチを当てた。マテルジが、慌てて聞き返す。
「な、何が怖いというのだっ!」
「「「冤罪を掛けられることですよっ」」」
マテルジはグッと詰まる。
「それなら、わたくしも、怖く感じておりますわ」
ジゼーヌは腕を抱きしめ、ブルッと震えた。マテルジの隣のライジーノが目を見開いた。
「「ああ、先月のあれですね」」
「ええ、ご覧になっていた方は多かったですものね。
まさか、ご自分で踏んで破いてしまったものを、たまたま近くにいたわたくしの責任にするなど、誰が予想できましょうか?」
スザンヌが廊下で自分で教科書を落とし、それを踏みすべって破いた。その際、『ジゼーヌ様、ひどいですぅ』と泣き、ライジーノが飛んできた。ライジーノは、誰の意見も聞かず、まくし立ててジゼーヌを責め立てる。ライジーノは後で他の男子生徒から説明されたにも関わらず、『それでもジゼーヌが悪い』と言い切っていた。
「「証人が何人もいましたのに、ねぇ……」」
ライジーノは視線を落として冷や汗をハンカチで拭った。
「見間違うことはあるぞ……」
ライジーノを庇うためなのかマテルジが震えた声で言い訳する。
「あら? 見間違えだと理解してらっしゃいますの? 見間違えしたかもしれない相手。その者の話を聞かずに罪を着せることを何というかご存知ですか?」
べレナがマテルジに小首を傾げて質問した。マテルジは目を泳がせる。
「「「思い込みの冤罪というのですよ」」」
マテルジとライジーノが仰け反った。
「私なんて、先週、怪我を負わされたうえに、人殺しと言われましたよ」
ナナリーが包帯の巻かれた左手をすぅと上げた。
「「あれはないですわねぇ!」」
サバルが顔を青くする。どんな理由があったにせよ、ナナリーに怪我をさせた自覚はあるのだ。
「まさか、階段を駆け下りてきた人を受け止めろと言われるとは思いませんでした」
「「はぁ。本当に……」」
その日、階段を勢いよく駆け下りたきたスザンヌは、他の生徒をヒョイヒョイと避けながら駆け下り、最後の下から三段目にいたナナリーにだけは突撃した。
運動神経のよいナナリーは、ぶつかられる前に、手摺に手をかけ軽くいなし、階段脇の廊下へとの華麗に着地した。ナナリーに避けられたスザンヌは、三段ばかり転げ落ちた。下はふかふかの絨毯だ。音などほとんどしない。
数メートル離れていたサバルは、スザンヌを避けたナナリーに駆け寄り「なぜ、スザンヌを受け止めなかったのだ。この人殺し!」と責め立てたのだ。その際、ナナリーの肩を思いっきり突き飛ばし、ナナリーは階段の壁にぶつかった。壁なのでものすごい音がした。ナナリーは反射的に壁に手を翳してしまい左手首に怪我を負った。
「それも、『廊下も階段も走るな』と、何度も先生方に注意されていたスザンヌ様ですよ」
「「そちらの注意をしていただきたいですわよね」」
「さらに他の生徒を避けることができるのに、なぜ私にだけぶつかろうとなさったのでしょうか?」
「「本当に不思議ですわねぇ??」」
「ご、誤解が生じてしまっただけであろう?」
マテルジが慌てて言い訳をする。
「そうですわね。
婚約者であるはずのわたくしたちの話には一切耳をお貸しになりませんものね?
誤解も生じてしまうでしょうね。
それによって冤罪がかけられることも…………ありえるのでしょうね」
べレナの肯定に、野次馬たちは男たち三人の聞く気のない態度を知っているので、呆れ笑いで頭を左右に振っている。
「どんなに目撃している方が沢山いらしても、他の方の話をお聞きにならない……
えっ? 普通、そんな人って……います??」
ナナリーは男たち三人の行動を肯定しようとしたが、絶句する。
「ナナリー様。目の前にいらっしゃいますわ……三人も……」
「「「「ブフッ!!!」」」」
ジゼーヌのフォローに野次馬も我慢できずに吹き出した。
その雰囲気にマテルジであってもこれ以上は何も言えなってしまった。
「「「無理にでもお話を聞いていただくようなことができなくて申し訳ありません」」」
謝る立場が逆のはずだが、頭を下げているのはご令嬢たちである。男たち三人の悪辣ぶりが尚更強調される。
「「「ですので、婚約を解消してくださいませ。
卒業後の進路を変更することを望んでいます」」」
ご令嬢三人はまた頭を下げた。この三組は卒業一年以内に婚姻が決まっていた。
観衆はクスクス笑ったり、コソコソ話したり、ザワザワしながら、男子三人の様子を見ていた。
三人は目を泳がせながら、逃げ場を探しているようだった。スザンヌが交互にテーブルの上にある三人の意識を自分に向けようと必死になっている。
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