13 / 18
13
しおりを挟む
王家は資産はあっても自由にできる私財は思いの外少ないのである。つまり使えるのはほぼ貯蓄金だけだ。
両陛下も王子達もこれまで金の亡者でもなかったし贅沢も好んでいなかったので、私財の貯蓄より国へ還元をしてきたことがまさかの仇となった。
だが、それを愚痴るような王家ではない。ため息を吐きたくなるのは赦してやってほしい。
「さらに、奴ら三家――令息たちの家――は恐らく領地を手放すことになろう。パワーバランスを考えれば王家も購入せねばなるまい。現金で、な」
資産は増えどもそれが現金になり元に戻るのはいつになるかわからない。誰ともなく何度もため息が漏れる。
「陛下が仰る『慎ましやかな生活』が解消されるまで、陛下の引退は認めませんからね」
第一王子は全てを受け入れ国王陛下に軽口を叩いた。
「ワシに働いて返せと申すのか? 人使いの荒い息子だ」
国王陛下もやれやれとパフォーマンスをする。
「陛下は剣もお強いのです。国王を退かれて騎士団へ属されることも一興ですよ」
ニヤニヤとする第一王子に国王陛下がやれやれの手付きのまま固まり嫌そうな顔を向けたが、すぐに腕を胸の前で組み胸を張る。
「ふんっ! まだまだ国王として働けるわいっ! それも親の責任ならば取らねばならぬだろうな」
「よろしくお願いします」
「チッ!」
第一王子がニヤリと笑うと国王陛下が舌打ちした。
「後継者は妻が優秀な場合でもよいとしておりますから、彼女たち――婚約破棄になった令嬢三人――は引く手数多でしょうね」
宰相は令嬢四人を思い浮かべた。
「そうだな。ロンゼ公爵令嬢は後継者として間違いないのだから、彼女もまた釣書が殺到するであろう。
令嬢たちが不幸になることがなさそうだというのが、唯一の救いだな」
国王陛下と第一王子は「ふぅ」と息を吐き出して胸を撫で下ろした。宰相も小さく頷いて微笑した。
「父上」
「ん?」
第一王子が国王陛下を『父』と呼ぶのは数年ぶりだ。顔には出さないが国王陛下は腹の下に力を入れた。
「あれにとっては廃籍はよかったと思いますよ」
「なぜだ?」
「幼き頃よりあれはいつも眉間にシワを寄せておりました。まわりの評価が耳に入ったのでしょう。我ら兄弟がどんなに気にするなと言っても、いや、気にするなと言うほど頑なになりました」
「……そうか」
「ロンゼ公爵令嬢との婚約がなり王家から離れると決まった時はしばらくの間は穏やかであったのですが、ロンゼ公爵令嬢が大変優秀であるとの噂を耳にしていくと、再び顔を強張らせるようになっておりました」
「それは気が付かなかったな」
「ええ。メイドたちに諭され、父上母上の前では懸命に取り繕っておりましたから」
「何を諭されておったのだ?」
「父上母上は陛下であるということです」
「正論であり矛盾論であり不可避論か」
「我ら兄弟にも鍛錬場でしかそのような姿を見せませんでした。まるですべてを壊したいと望んでいるかのようでした。
あれはここ――王城や王宮――ではいつでも必死で辛かったのではないかと思います」
「だが、それを理由として赦すわけにはいかぬ」
「はい。ですから廃籍でよかったと」
国王陛下は目を伏せた。第一王子と宰相はお茶を手にして、国王陛下の一筋の涙を見なかったことにした。
両陛下も王子達もこれまで金の亡者でもなかったし贅沢も好んでいなかったので、私財の貯蓄より国へ還元をしてきたことがまさかの仇となった。
だが、それを愚痴るような王家ではない。ため息を吐きたくなるのは赦してやってほしい。
「さらに、奴ら三家――令息たちの家――は恐らく領地を手放すことになろう。パワーバランスを考えれば王家も購入せねばなるまい。現金で、な」
資産は増えどもそれが現金になり元に戻るのはいつになるかわからない。誰ともなく何度もため息が漏れる。
「陛下が仰る『慎ましやかな生活』が解消されるまで、陛下の引退は認めませんからね」
第一王子は全てを受け入れ国王陛下に軽口を叩いた。
「ワシに働いて返せと申すのか? 人使いの荒い息子だ」
国王陛下もやれやれとパフォーマンスをする。
「陛下は剣もお強いのです。国王を退かれて騎士団へ属されることも一興ですよ」
ニヤニヤとする第一王子に国王陛下がやれやれの手付きのまま固まり嫌そうな顔を向けたが、すぐに腕を胸の前で組み胸を張る。
「ふんっ! まだまだ国王として働けるわいっ! それも親の責任ならば取らねばならぬだろうな」
「よろしくお願いします」
「チッ!」
第一王子がニヤリと笑うと国王陛下が舌打ちした。
「後継者は妻が優秀な場合でもよいとしておりますから、彼女たち――婚約破棄になった令嬢三人――は引く手数多でしょうね」
宰相は令嬢四人を思い浮かべた。
「そうだな。ロンゼ公爵令嬢は後継者として間違いないのだから、彼女もまた釣書が殺到するであろう。
令嬢たちが不幸になることがなさそうだというのが、唯一の救いだな」
国王陛下と第一王子は「ふぅ」と息を吐き出して胸を撫で下ろした。宰相も小さく頷いて微笑した。
「父上」
「ん?」
第一王子が国王陛下を『父』と呼ぶのは数年ぶりだ。顔には出さないが国王陛下は腹の下に力を入れた。
「あれにとっては廃籍はよかったと思いますよ」
「なぜだ?」
「幼き頃よりあれはいつも眉間にシワを寄せておりました。まわりの評価が耳に入ったのでしょう。我ら兄弟がどんなに気にするなと言っても、いや、気にするなと言うほど頑なになりました」
「……そうか」
「ロンゼ公爵令嬢との婚約がなり王家から離れると決まった時はしばらくの間は穏やかであったのですが、ロンゼ公爵令嬢が大変優秀であるとの噂を耳にしていくと、再び顔を強張らせるようになっておりました」
「それは気が付かなかったな」
「ええ。メイドたちに諭され、父上母上の前では懸命に取り繕っておりましたから」
「何を諭されておったのだ?」
「父上母上は陛下であるということです」
「正論であり矛盾論であり不可避論か」
「我ら兄弟にも鍛錬場でしかそのような姿を見せませんでした。まるですべてを壊したいと望んでいるかのようでした。
あれはここ――王城や王宮――ではいつでも必死で辛かったのではないかと思います」
「だが、それを理由として赦すわけにはいかぬ」
「はい。ですから廃籍でよかったと」
国王陛下は目を伏せた。第一王子と宰相はお茶を手にして、国王陛下の一筋の涙を見なかったことにした。
448
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は断罪の舞台で笑う
由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。
しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。
聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。
だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。
追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。
冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。
そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。
暴かれる真実。崩壊する虚構。
“悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
お姉さまに挑むなんて、あなた正気でいらっしゃるの?
中崎実
ファンタジー
若き伯爵家当主リオネーラには、異母妹が二人いる。
殊にかわいがっている末妹で気鋭の若手画家・リファと、市中で生きるしっかり者のサーラだ。
入り婿だったのに母を裏切って庶子を作った父や、母の死後に父の正妻に収まった継母とは仲良くする気もないが、妹たちとはうまくやっている。
そんな日々の中、暗愚な父が連れてきた自称「婚約者」が突然、『婚約破棄』を申し出てきたが……
※第2章の投稿開始後にタイトル変更の予定です
※カクヨムにも同タイトル作品を掲載しています(アルファポリスでの公開は数時間~半日ほど早めです)
甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。
そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。
しかしその婚約は、すぐに破談となる。
ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。
メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。
ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。
その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる