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朝這い事件がありしばらくの間リリアーヌがセイバーナ殿にしつこく迫っていたが、セイバーナ殿は元々真面目で誠実な男なのでそれを受け入れる素振りはなかった。
二ヶ月後、リリアーヌに妊娠を仄めかされるまでは……。
王家にもリリアーヌが妊娠しているかもしれないという情報は入った。しかし、もう一つの情報も同時に入ったのだ。
「対象者B――テリワド――が対象者D――リリアーヌ――に避妊薬を飲ませていたはずなのですが」
「うむ。報告は受けている。して、その効能は?」
「Bの家のものでしたら高い効能であると思われます」
「調べておけ」
「はっ!」
「王妃には後で落ち着いて話そうと思う。とにかくエトリアを呼んでまいれ」
国王陛下はため息を漏らしながら指示した。
国王陛下とエトリアは向かい合って座り、僕は国王陛下の後ろに立った。僕はエトリアの付き人だが、今日はエトリアの目を見たかった。
このような状況で立会を許されるほどの付き人もなかなかいないとは思うが、国王陛下も僕に何も言わなかった。
「例の小娘が妊娠したかもしれぬそうだ」
エトリアは一瞬目を見開いた。だが、表情を変えたのは一瞬だけだった。
「そうですか。その子を後継者にはできないかもしれませんが、わたくしたちの養子にすればよろしいことですわ」
「はあ………………。お前というやつは……」
国王陛下はテーブルに付きそうなほど項垂れた。エトリアは小首を傾げる。
「少しは自分のことをだなぁ……」
顔を上げた国王陛下はエトリアの様子を見て言葉を止めた。
エトリアは困ったように笑っていた。
「わたくしは国民が安寧の生活を送ることを望んでおり、わたくしの婚姻はそのための手段の一つであるに過ぎないのです」
僕はエトリアの悲しい考え方に対して必死に顔を顰めることを止めた。
「どこで教育を間違えたのか……。もっとわがままな娘になってほしかったよ」
「陛下。わたくしはこの国の王女です」
エトリアが国王陛下を『お父様』ではなく『陛下』と呼ぶときは絶対に譲る意思がないことを表している。
なので、意思ではなく、理詰めで説得していくしかない。そして、僕の経験上、国王陛下はエトリアを説得する手順を踏んでいる。
「だがな、その子はセイバーナの子であるとは限らない」
「え!?」
エトリアは先程より大きく目を見開く。
「小娘は学園だけで二十名ほどと肉体関係となっておる。さらにはいかがわしい舞踏会にも行っているようだ」
エトリアは眉を寄せて思案していた。このような時どうするかなど、指針はこれまでにない。
「誰のお子かも解らぬ者を公爵家で受け入れるわけには参りませんし、ましてや、わたくしの伴侶でもない者の子を王家の血筋であるわたくしが育てるわけにはまいりませんよね」
「そうだな。それがまかり通ったら、妊娠したかもしれぬ女性がとにかくセイバーナを押し倒して責任を取らせ、間接的に王家と姻戚となるというバカらしいことが続出するだろうな。
いや、押し倒さずとも、セイバーナを眠らせてしまい、やったことにすることもある」
「もしや……」
「ああ。セイバーナは己の性欲に負けて実際に手を出してしまったが、手を出さずともやったと思わせるには十分な状況を作られていたようだ」
「そこまでして、わたくしに自分の子を育てさせたかったのですか?」
「いや、お前とセイバーナの婚約破棄を望んでいるようだ」
「そうですか。望みの通りにするのは少しばかり癪ですが、致し方ありませんね。
しかし、その裏にある目的は達成させませんよ」
エトリアもリリアーヌが公爵夫人になりたがっているということは見抜いていた。
「そうだな。詳しい調査と証拠固めをするゆえ、セイバーナへの婚約破棄は一週間ほど待ってくれ」
「わかりましたわ。
先程のお話ですが、わたくしのお友達の元婚約者たちもその二十名ほどの中に含まれるのでしょうか?」
「もちろんだ。それこそ、率先しているし、小娘が複数人としていることも知っている」
「っ! それなのに、未だにわたくしのお友達を貶めておりますのね……」
エトリアが冷たい顔をした。自分のことは冷静で無表情なくせに、友人たちのことになると感情を抑えられないとは。
エトリアらしいが、自分をもっと大切にしてほしいと心から思った。
エトリアはエトリアの友人たちの話をしてから部屋をあとにした。
二ヶ月後、リリアーヌに妊娠を仄めかされるまでは……。
王家にもリリアーヌが妊娠しているかもしれないという情報は入った。しかし、もう一つの情報も同時に入ったのだ。
「対象者B――テリワド――が対象者D――リリアーヌ――に避妊薬を飲ませていたはずなのですが」
「うむ。報告は受けている。して、その効能は?」
「Bの家のものでしたら高い効能であると思われます」
「調べておけ」
「はっ!」
「王妃には後で落ち着いて話そうと思う。とにかくエトリアを呼んでまいれ」
国王陛下はため息を漏らしながら指示した。
国王陛下とエトリアは向かい合って座り、僕は国王陛下の後ろに立った。僕はエトリアの付き人だが、今日はエトリアの目を見たかった。
このような状況で立会を許されるほどの付き人もなかなかいないとは思うが、国王陛下も僕に何も言わなかった。
「例の小娘が妊娠したかもしれぬそうだ」
エトリアは一瞬目を見開いた。だが、表情を変えたのは一瞬だけだった。
「そうですか。その子を後継者にはできないかもしれませんが、わたくしたちの養子にすればよろしいことですわ」
「はあ………………。お前というやつは……」
国王陛下はテーブルに付きそうなほど項垂れた。エトリアは小首を傾げる。
「少しは自分のことをだなぁ……」
顔を上げた国王陛下はエトリアの様子を見て言葉を止めた。
エトリアは困ったように笑っていた。
「わたくしは国民が安寧の生活を送ることを望んでおり、わたくしの婚姻はそのための手段の一つであるに過ぎないのです」
僕はエトリアの悲しい考え方に対して必死に顔を顰めることを止めた。
「どこで教育を間違えたのか……。もっとわがままな娘になってほしかったよ」
「陛下。わたくしはこの国の王女です」
エトリアが国王陛下を『お父様』ではなく『陛下』と呼ぶときは絶対に譲る意思がないことを表している。
なので、意思ではなく、理詰めで説得していくしかない。そして、僕の経験上、国王陛下はエトリアを説得する手順を踏んでいる。
「だがな、その子はセイバーナの子であるとは限らない」
「え!?」
エトリアは先程より大きく目を見開く。
「小娘は学園だけで二十名ほどと肉体関係となっておる。さらにはいかがわしい舞踏会にも行っているようだ」
エトリアは眉を寄せて思案していた。このような時どうするかなど、指針はこれまでにない。
「誰のお子かも解らぬ者を公爵家で受け入れるわけには参りませんし、ましてや、わたくしの伴侶でもない者の子を王家の血筋であるわたくしが育てるわけにはまいりませんよね」
「そうだな。それがまかり通ったら、妊娠したかもしれぬ女性がとにかくセイバーナを押し倒して責任を取らせ、間接的に王家と姻戚となるというバカらしいことが続出するだろうな。
いや、押し倒さずとも、セイバーナを眠らせてしまい、やったことにすることもある」
「もしや……」
「ああ。セイバーナは己の性欲に負けて実際に手を出してしまったが、手を出さずともやったと思わせるには十分な状況を作られていたようだ」
「そこまでして、わたくしに自分の子を育てさせたかったのですか?」
「いや、お前とセイバーナの婚約破棄を望んでいるようだ」
「そうですか。望みの通りにするのは少しばかり癪ですが、致し方ありませんね。
しかし、その裏にある目的は達成させませんよ」
エトリアもリリアーヌが公爵夫人になりたがっているということは見抜いていた。
「そうだな。詳しい調査と証拠固めをするゆえ、セイバーナへの婚約破棄は一週間ほど待ってくれ」
「わかりましたわ。
先程のお話ですが、わたくしのお友達の元婚約者たちもその二十名ほどの中に含まれるのでしょうか?」
「もちろんだ。それこそ、率先しているし、小娘が複数人としていることも知っている」
「っ! それなのに、未だにわたくしのお友達を貶めておりますのね……」
エトリアが冷たい顔をした。自分のことは冷静で無表情なくせに、友人たちのことになると感情を抑えられないとは。
エトリアらしいが、自分をもっと大切にしてほしいと心から思った。
エトリアはエトリアの友人たちの話をしてから部屋をあとにした。
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