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11 それぞれの罰
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男たち4人は食べ物による魅了魔法にかかっていた。そう言われて、マリンたちは黙って考えていた。ジュナールとキリナートはマリンたちの気持ちが決まるまで待った。
「それは『バニラ様に対してのお気持ち』だけのお話ですわよね?」
マリンは静かな、しかし、しっかりとした口調でジュナールの目をしっかりと見て問うた。
「そうだね。多少気分を高揚させられているだろうけど、彼女への気持ち以外は捻じ曲げられたりするものではないよ。
ああ、彼女を守るために周りに攻撃的になることはあるかな」
ジュナールは苦笑いを返した。
「そうですのね。わたくしが悪口を言ったと勘違いなされたのは、それのせいかもしれませんわね」
「そうだね」
「ですが、最後には反省だけはなさっていたようですわね」
4人が嫌々ながらも復縁を望んだことには、学園での態度を知る者から見ると、違和感があった。
「ああ、3日ほど前から生徒会室にメイドを付かせて、彼らに余計な物は食べさせないようにしていたんだ。あまり露骨だとバニラ嬢ひいてはドルジーノ男爵に悟られるから、0にはできなかったけどね。魅了が薄まっていたんだと思うよ」
「そうでしたのね。魅了魔法がなければ反省しキチンと考えられるのかもしれませんわね」
マリンは一度目を閉じた。フッと息を吐く。
「しかしながら…………」
マリンは多少躊躇があるようだ。
「うん」
ジュナールが『聞くよ』というように、マリンを促した。
「サイドリウス殿下のご自分への甘さは、サイドリウス殿下自身の問題だということですわね。
……国王であろうと、完璧である必要はないのかもしれませんわ……」
マリンが詰まっても誰も急かしたりはしない。
「でも、国を、民を、背負っていくのですから、完璧を求めて努力することを止めてはいけないと思いますの。
完璧でないことへの弊害は、王族ではなく民たちにいくのですもの」
ジュナールは眩しそうにマリンを見た。まだ学園の2年生であるマリンは、サイドリウスよりも王族としての覚悟と判断力を持っていた。それは、マリンが完璧を求めて学習し歩んできたことの証であった。
「アリトン様が女を道具だと思っていたことも、裁判官としての判断力が欠落していることも、アリトン様の本質ですわね」
マリンの言葉を受けて、エマはアリトンの本質について述べて肩を落とした。
「ティス様がマザコンなのも、気持ち悪いのも、そのままってことですよね」
シルビアがかわいい舌をペロリと出して『気持ち悪い』と言った。
「ビリードもそうですわね。わたくしへの劣等感や公爵としての意識の無さは、バニラ様へのお気持ちとは別のものですわ。まあ、それは父がすでに判断なさっていることですわね」
キリナートは4人の顔を思い出して、肘をテーブルにつけてがっくりと頭を落とした。
そして、マリンがはっきりと告げた。
「バニラ様へのお気持ちだけで、婚約破棄を決断したわけではありませんわ」
「わたくしもです」
「わたくしも」
ジュナールは諦め顔で息を吐いた。だが、彼らを守るべき事柄も、気持ちも持ち合わせていなかった。ただ、国として将来有望だと考えていた若者がいなくなった事実だけが気がかりだった。まあ、その分年寄りたちに長い期間頑張ってもらえばいいだけなのだ。
「わかった。それでね、国王陛下のご判断でみなさんは婚約白紙となったよ。
男どもに破棄してやったって形でもいいけど、ね。
噂なんて勝手なものだ。彎曲されてしまうかもしれない。
それなら『白紙』となれば問題も少なくなるだろうという陛下のお考えだよ」
ジュナールに言われて3人はやっと自分たちの汚点になることだったと理解した。昨日の今日でそこまで考えることはできていなかったのだ。
「賠償金については各々の当主たちが話し合っている。次の婚約者探しについては王家も含めて全面的に協力するので、安心してほしい」
ジュナールとともにキリナートも3人に頭を下げた。キリナートの後ろに控えているバルザリドもしかり。
「なっ! ジュナール様、キリナート様、お止めくださいませ。本当に困ります」
マリンにそう言われ、エマとシルビアを見ると二人はアワアワとして、顔を青くしていた。
「すまない。これは、王家に少しでも携わる者として、非公開な席でしかできないことなのだ。爵位など気にされることはない」
ジュナールは簡単に言うが、マリンもエマとシルビアも小さく頷くことしかできなかった。
キリナートとジュナールは騎士団団長の子息である。そして、騎士団団長は現国王陛下の弟で、大公閣下であるのだ。大公家子息に頭を下げられるなど本来ならありえない。
〰️ 〰️
一週間後にはそれぞれの処分が決まった。
サイドリウスは、王意に背き婚約者ひいては未来の王妃をすげ替えようとしたことは、反逆の意志有りと思われることもある。国王と王子の意思が分かれていると思われるのは付け入るスキを与えることになるのだ。
国内外にそのように勘ぐられる前に、王位継承権剥奪の上去勢手術を施されて、子爵領が与えられ一代子爵となった。領地を出ることを禁止される契約魔法がかけられている。
こうして、国王の威厳と力を見せつけた。
サイドリウスが連れて行く共は、メイド二人と執事が一人。メイドと執事は2年の交代勤務だ。子爵として国から与えられる経費は、人件費と自分を含めた食費雑費で消えてしまう。
与えられた北の土地は一般の男爵より小さい。特産物もなく若者は他領地へ流れ人も減る一方で、年々枯れていく領地である。サイドリウス本人も子を成せないので発展は難しいかもしれない。
アリトンは、王意に背いたが何かできるほどの力も人脈もないと判断された。しかし、文官としての力量もないと判断されたのだ。なので書庫整理係として王宮勤務となった。
王家の判断とは別に、ガルバーブ侯爵殿はアリトンを許せなかったようだ。アリトンはガルバーブ侯爵家を廃嫡され、貴族籍も抜かれ、去勢手術を施されたうえに、平民とされた。
平民としての勤務である。平民文官用の寮の小さな部屋住になった。
父であった侯爵閣下には『いつ仕事を辞めてもいい』と言われているが、市井にて一人で生きるような気概はないようだ。
ユーティスは王意に背いただけでなく、国王ではなく戦果を男爵令嬢に捧げると喧伝してしまった。父親であるダイムーニ魔法師団長はそれを重く見た。
父親によって学園を退学させられた。しかし、あまりの魔力の強さに放逐もできず、父親の直訴により、王家の塔にて幽閉させることになった。一日八時間、魔力を魔石に注ぎ込む作業を命じられた。
生涯家族に会うことは禁止されその家族には母親も当然含まれていた。二ヶ月後に発狂し自害した。「かあさま、かあさま」と毎日泣いていたと報告が上がっている。
ビリードはナタローナ公爵領地及び王都への立ち入り禁止を魔法契約させられた。当然、王都にある学園へは通えない。そして、荷物1つで領地の門外へと出され、行方はわかっていない。その門から近くの町までは徒歩で三日ほどだ。美男子のビリードが一人でいたらどうなるのだろうか。また、途中には魔物の森もある。
そして、バニラは斬首刑となった。
魅了魔法に関することはどんなことでも斬首刑となることは、この国では常識であった。
ドルジーノ男爵家の裏の森に隠された温室には魅了魔法に近い効果のある花が栽培されていた。
卒業パーティーでジュナールがキリナートに言った『あちらは片付いた』とは、ドルジーノ男爵家の家宅捜索と一族郎党捕縛のことであった。
男爵家に携わる者は全員が自白魔法に掛けられ、少しでもその花に携わっている者は斬首刑となった。男爵夫妻は当然斬首刑であった。
「羽振りのいい子爵家のボンボンでよかったのにっ!」
ドルジーノ男爵が苦々しく隣に転がったバニラの頭につばを吐いた。そして、自分の頭も転がった。
「それは『バニラ様に対してのお気持ち』だけのお話ですわよね?」
マリンは静かな、しかし、しっかりとした口調でジュナールの目をしっかりと見て問うた。
「そうだね。多少気分を高揚させられているだろうけど、彼女への気持ち以外は捻じ曲げられたりするものではないよ。
ああ、彼女を守るために周りに攻撃的になることはあるかな」
ジュナールは苦笑いを返した。
「そうですのね。わたくしが悪口を言ったと勘違いなされたのは、それのせいかもしれませんわね」
「そうだね」
「ですが、最後には反省だけはなさっていたようですわね」
4人が嫌々ながらも復縁を望んだことには、学園での態度を知る者から見ると、違和感があった。
「ああ、3日ほど前から生徒会室にメイドを付かせて、彼らに余計な物は食べさせないようにしていたんだ。あまり露骨だとバニラ嬢ひいてはドルジーノ男爵に悟られるから、0にはできなかったけどね。魅了が薄まっていたんだと思うよ」
「そうでしたのね。魅了魔法がなければ反省しキチンと考えられるのかもしれませんわね」
マリンは一度目を閉じた。フッと息を吐く。
「しかしながら…………」
マリンは多少躊躇があるようだ。
「うん」
ジュナールが『聞くよ』というように、マリンを促した。
「サイドリウス殿下のご自分への甘さは、サイドリウス殿下自身の問題だということですわね。
……国王であろうと、完璧である必要はないのかもしれませんわ……」
マリンが詰まっても誰も急かしたりはしない。
「でも、国を、民を、背負っていくのですから、完璧を求めて努力することを止めてはいけないと思いますの。
完璧でないことへの弊害は、王族ではなく民たちにいくのですもの」
ジュナールは眩しそうにマリンを見た。まだ学園の2年生であるマリンは、サイドリウスよりも王族としての覚悟と判断力を持っていた。それは、マリンが完璧を求めて学習し歩んできたことの証であった。
「アリトン様が女を道具だと思っていたことも、裁判官としての判断力が欠落していることも、アリトン様の本質ですわね」
マリンの言葉を受けて、エマはアリトンの本質について述べて肩を落とした。
「ティス様がマザコンなのも、気持ち悪いのも、そのままってことですよね」
シルビアがかわいい舌をペロリと出して『気持ち悪い』と言った。
「ビリードもそうですわね。わたくしへの劣等感や公爵としての意識の無さは、バニラ様へのお気持ちとは別のものですわ。まあ、それは父がすでに判断なさっていることですわね」
キリナートは4人の顔を思い出して、肘をテーブルにつけてがっくりと頭を落とした。
そして、マリンがはっきりと告げた。
「バニラ様へのお気持ちだけで、婚約破棄を決断したわけではありませんわ」
「わたくしもです」
「わたくしも」
ジュナールは諦め顔で息を吐いた。だが、彼らを守るべき事柄も、気持ちも持ち合わせていなかった。ただ、国として将来有望だと考えていた若者がいなくなった事実だけが気がかりだった。まあ、その分年寄りたちに長い期間頑張ってもらえばいいだけなのだ。
「わかった。それでね、国王陛下のご判断でみなさんは婚約白紙となったよ。
男どもに破棄してやったって形でもいいけど、ね。
噂なんて勝手なものだ。彎曲されてしまうかもしれない。
それなら『白紙』となれば問題も少なくなるだろうという陛下のお考えだよ」
ジュナールに言われて3人はやっと自分たちの汚点になることだったと理解した。昨日の今日でそこまで考えることはできていなかったのだ。
「賠償金については各々の当主たちが話し合っている。次の婚約者探しについては王家も含めて全面的に協力するので、安心してほしい」
ジュナールとともにキリナートも3人に頭を下げた。キリナートの後ろに控えているバルザリドもしかり。
「なっ! ジュナール様、キリナート様、お止めくださいませ。本当に困ります」
マリンにそう言われ、エマとシルビアを見ると二人はアワアワとして、顔を青くしていた。
「すまない。これは、王家に少しでも携わる者として、非公開な席でしかできないことなのだ。爵位など気にされることはない」
ジュナールは簡単に言うが、マリンもエマとシルビアも小さく頷くことしかできなかった。
キリナートとジュナールは騎士団団長の子息である。そして、騎士団団長は現国王陛下の弟で、大公閣下であるのだ。大公家子息に頭を下げられるなど本来ならありえない。
〰️ 〰️
一週間後にはそれぞれの処分が決まった。
サイドリウスは、王意に背き婚約者ひいては未来の王妃をすげ替えようとしたことは、反逆の意志有りと思われることもある。国王と王子の意思が分かれていると思われるのは付け入るスキを与えることになるのだ。
国内外にそのように勘ぐられる前に、王位継承権剥奪の上去勢手術を施されて、子爵領が与えられ一代子爵となった。領地を出ることを禁止される契約魔法がかけられている。
こうして、国王の威厳と力を見せつけた。
サイドリウスが連れて行く共は、メイド二人と執事が一人。メイドと執事は2年の交代勤務だ。子爵として国から与えられる経費は、人件費と自分を含めた食費雑費で消えてしまう。
与えられた北の土地は一般の男爵より小さい。特産物もなく若者は他領地へ流れ人も減る一方で、年々枯れていく領地である。サイドリウス本人も子を成せないので発展は難しいかもしれない。
アリトンは、王意に背いたが何かできるほどの力も人脈もないと判断された。しかし、文官としての力量もないと判断されたのだ。なので書庫整理係として王宮勤務となった。
王家の判断とは別に、ガルバーブ侯爵殿はアリトンを許せなかったようだ。アリトンはガルバーブ侯爵家を廃嫡され、貴族籍も抜かれ、去勢手術を施されたうえに、平民とされた。
平民としての勤務である。平民文官用の寮の小さな部屋住になった。
父であった侯爵閣下には『いつ仕事を辞めてもいい』と言われているが、市井にて一人で生きるような気概はないようだ。
ユーティスは王意に背いただけでなく、国王ではなく戦果を男爵令嬢に捧げると喧伝してしまった。父親であるダイムーニ魔法師団長はそれを重く見た。
父親によって学園を退学させられた。しかし、あまりの魔力の強さに放逐もできず、父親の直訴により、王家の塔にて幽閉させることになった。一日八時間、魔力を魔石に注ぎ込む作業を命じられた。
生涯家族に会うことは禁止されその家族には母親も当然含まれていた。二ヶ月後に発狂し自害した。「かあさま、かあさま」と毎日泣いていたと報告が上がっている。
ビリードはナタローナ公爵領地及び王都への立ち入り禁止を魔法契約させられた。当然、王都にある学園へは通えない。そして、荷物1つで領地の門外へと出され、行方はわかっていない。その門から近くの町までは徒歩で三日ほどだ。美男子のビリードが一人でいたらどうなるのだろうか。また、途中には魔物の森もある。
そして、バニラは斬首刑となった。
魅了魔法に関することはどんなことでも斬首刑となることは、この国では常識であった。
ドルジーノ男爵家の裏の森に隠された温室には魅了魔法に近い効果のある花が栽培されていた。
卒業パーティーでジュナールがキリナートに言った『あちらは片付いた』とは、ドルジーノ男爵家の家宅捜索と一族郎党捕縛のことであった。
男爵家に携わる者は全員が自白魔法に掛けられ、少しでもその花に携わっている者は斬首刑となった。男爵夫妻は当然斬首刑であった。
「羽振りのいい子爵家のボンボンでよかったのにっ!」
ドルジーノ男爵が苦々しく隣に転がったバニラの頭につばを吐いた。そして、自分の頭も転がった。
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