逢魔が時の神隠し

ほの

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妖鬼山

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「おいしい。」

「うまい!」

僕と隼人の声が重なる。こんな美味しいラーメンを食べたのは、生まれて初めかもしれない。

「気に入ってくれたか。若い子っちゅうのは、おるだけで、活気が溢れていいもんやのう。」

ラーメンを作ってくれた、おじいさん。この店は、このおじいさんが1人で切り盛りしてくれているらしい。

隼人が連れてきてくれたラーメン屋は客が数人入るか入らないかくらいのこじんまりとした店だった。人見知りな僕にとっては、ありがたい空間だ。

「じいさん!このラーメン美味すぎる!!天才かよ!!!おれ、絶対また来るわ!」

初対面の人に対していきなりタメ口を聞くのは、如何いかがなものかと思ったが、興奮を抑えきれない隼人の気持ちがわからなくもない。このラーメンは美味しすぎる。

「ほほほ。そうか、そうか。なら、そっちの、彼女さんも連れて、また来ておくれ。」

おじいさんの言葉に頬が引き攣る。女に間違われることは初めてではない。だから、もうなんとも思わない。ただ隼人の彼女だと思われているという事実が、心の底から嫌だった。

「彼女じゃありません。しかも男です。」

満面の笑みを作って否定する。隣で、隼人がクスクス笑っているのが癇に障るが、気にしない。

「ほう!そうやったんか!あまりにも綺麗なもんで、間違えてしもた。申し訳ない。」

「大丈夫です。よく間違われるので。」

深々と頭を下げて謝罪されると、逆に申し訳なくなってくるのでやめて欲しい。

「はははは!笑いこらえてたけどもう無理!お前、これで間違われるの何回目だよ!しかも俺の彼女って!!あーー!笑える!」

空気を読まず、バカ笑いしている隼人に嫌気がさす。お調子者とは、きっと、こういう人の事を言うのだろう。

「あーー、おもしれえ!食うだけ食って、笑うだけ笑ったら、トイレ行きたくなってきた。じいさん、トイレ借りてもいい?」

「もちろんじゃよ。店の突き当たりにある。行っといで。」

「さんきゅー、じいさん!唯、俺ちょっと行ってくるわ!」

「行ってらっしゃい。」

マシンガンのように話し続けていた隼人がいなくなって、急に静かになってしまった。さっきまで隼人の煩さに頭を抱えていたはずなのに、今は早く帰ってきてくれと願っている。おかしなものだ。「人の有難みは、いなくなって初めて気付く」とよく言うが、こういう事なのかもしれない。

静まり返った空間に、なんとも言えない気まずさを感じながらラーメンを啜った。
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