逢魔が時の神隠し

ほの

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妖鬼山

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静寂を破ったのは、おじいさんの一言だった。

「洋子んとこの子か?」

驚いて顔をあげる。洋子とは僕の母親の名前だ。なぜこの人が知っているのか。

「こわいのう。そんな目で見やんでくれ。洋子はな、ここの常連客やったんや。」

なるほど。それにしても、どうやって僕が母の息子だと分かったのだろう。

「すみません。驚いてしまって、つい疑いの目で見てしまいました。洋子は僕の母です。なぜ気付いたんですか?」

「髪の色も、落ち着いた雰囲気も洋子によう似てる。子は親に似る言うのはホンマやってんなぁ。でも洋子より、あんたの方がべっぴんさんや。」

悪戯いたずらに笑いながら話す姿は、とても楽しそうで、母とこの人が親しい間柄であったことを察する。

「そういうことでしたか。母より綺麗かどうかは分かりませんが、お褒めいただきありがとうございます。お世辞でも嬉しいです。」

この顔は、そんなに母と似ているのだろうか。僕は、昔から、綺麗と表現されることが多かった。ミルクブラウン色の髪の毛。少し垂れ目がちな大きな目。色素が薄く、絹のような肌。その上、筋肉が付きにくく、身長も170に満たない。男なのに、男性的な魅力よりも、女性的な魅力の方が多いことは自分でも理解していた。母の遺伝子の影響だろうか。

「ほほほ。そんなに謙遜しやんでくれ。そうか、洋子の子はちゃんと産まれたんか。名前はなんて言うんや?」

「唯です。」

「唯か。ええ名前やのう。難しい出産やったって聞いとったからのう。元気に産まれたみたいで何よりや。洋子は元気か?」

「母さんは、出産の時に亡くなりました。」

僕は、母方のおばあちゃんに育てられた。昔、母のことが気になって、おばあちゃんに聞いたことがある。その際、母が亡くなったことを教えてもらった。母さんのことを話すおばあちゃんは、いつも苦しそうで、それ以来、母さんの話はしていない。だから、僕は、母さんについて詳しく知らない。顔すら分からないほどに。

「、、、そうか。やっぱりあかんかったか。」

おじいさんが苦しげにポツリと呟いた言葉に疑問が浮かぶ。母さんは昔から体が弱かったのだろうか。

「唯くん、気をつけや。これからの時間、あんたみたいなのは狙われる。」

おじいさんが続け様に発した言葉に、ますます疑問が大きくなる。僕が狙われる?女っぽい顔をしているからだろうか。でも、この辺りで、女性がストーカー被害を受けた、などという話は聞いたことがない。

「狙われるって誰にですか。」

僕の問いかけに、心底驚いたように、おじいさんの目が見開かれる。驚きたいのは僕の方だ。

「、、、、誰にって、、、唯くん、身内から何も聞かされとらんのか?」

「何のことを言ってるんです?」

話が読めない。しかし、おじいさんの、驚き、焦り、心配を含んだ表情に、ただ事ではない雰囲気を感じ取り、心臓がバクバクと音を立てる。話の続きを聞きたいような、聞きたくないような不思議な気持ちになった。

「唯くん。落ち着いて聞きなさい。君は、混じってるんだ。君のお父さんは――」

「はー!!!すっきりした!!トイレ行ったら、なんか腹減ってきたー!ラーメンもう一杯食おうかな。」

とんでもないタイミングで隼人が帰ってきたが、そんなことを気にしている余裕はない。僕の父が何だと言うのだ。僕が何だと言うのだ。話の続きが聞きたくて、おじいさんを見るが、もう話してくれる気は無さそうだった。無表情で麺の下ごしらえをしている。

「おーい、唯??大丈夫か?なんか顔色良くないぞ。」

大丈夫なはずがない。さっきの話が頭から離れない。しかし、おじいさんの様子的に、先程の話は、隼人がいると出来ないものなんだろう。それなら隼人に不思議に思われては行けない。

「なんでもないよ。」

心を占める焦りと不安を隠すように、笑顔を貼り付け、そう答えた。
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