7 / 16
出会い
・
しおりを挟む
「今日はあんがとな。腹大事にしろよ。じゃあな。」
「こちらこそ、ありがとう。帰ったらゆっくり寝ることにするよ。ばいばい。」
最寄りの駅で隼人と別れる。隼人がトイレから帰ってきてからのことは、正直よく覚えていない。ボーッとしすぎて、隼人に心配をかけた気がする。何があったのか聞いてくる隼人に、欲張ってラーメンのトッピングを増し増しにしたことが原因で腹痛を起こしたかもしれない、と嘘をついた。隼人が、疑い深くないというか、あまり詮索してこない、良い意味でも悪い意味でも、軽い性格で良かったと思う。ラーメン屋でのことを思い出しながら、駅のホームにあるベンチに腰を下ろして、財布からレシートを取り出す。レシートの裏には走り書きで、おじいさんからのメッセージが書かれてあった。
"近いうちにまた来なさい。唯くんが聞きたいことを、わしが知ってる範囲で全て話してあげよう"
「全て話してあげる、か。いったい何を知ってるんだろう。というか、僕本当に何も知らないんだな。」
何も知らない。お母さんのことも。お父さんのことも。自分の両親のことなのに、何も知らない。
「でも、今更知ったところでって感じだよね。雰囲気的に良くない話だろうし。」
ラーメン屋にいた時は、おじいさんの言っていることが気になって仕方なかった。早く話の続きが聞きたいと本気で思っていた。でも少し時間を置いて、冷静になって考えれば、別に知らなくてもいいんじゃないか、とも思う。世の中には知らなくていいこともたくさんあるのだ。仮に全てを知ったとして、その結果、何かに怯える状況になるのは御免だ。
「とりあえず、僕は何かと混じってて、狙われてるってことだよね。お父さんが別の国の人で、どっかのマフィアの隠し子だったりして。」
おじいさんの話を思い出しながら、変な妄想をしてみる。仮にもしそうなら、僕は確実に死亡コースだ。まあ、そんな漫画みたいな展開が起きるはずがないことは分かってる。
「それか、実は僕、獣人でした!とか?」
マフィアの隠し子設定でも無理があったのに、更にファンタジーな内容を思い付く自分がアホらしくて笑えてくる。
「あーーー、もう分かんないよ。こんなに悩むくらいなら、ちゃんと聞きに行った方がずっと楽だ。」
ウジウジしていても埒が明かない。おじいさんの所へ行って話を聞けば、この心のモヤモヤは消えてくれる。そんなことは分かってる。でも怖いんだ。聞いてしまえば何が良くないことが起こりそうな気がして。僕の平穏な暮らしが何かによって害されそうな気がして。
「ラーメン屋って確か20時までだよね。今日行くか。今17時だし。」
話は聞きたい。でも、明日になったら、話を聞くことに怖気付いて、ラーメン屋に足を運べなくなってしまう気がする。怖さよりも好奇心が勝ってる今なら、逃げずにちゃんと話を聞けるかもしれない。そう思ってベンチから腰を上げようとした時だった。
「、、ちゃん。お、、ちゃん。」
何処か遠くから小さい女の子の声がする。家族と散歩にでも来ているのだろうか。
「おに、、ちゃん。おにーちゃん。」
今度はさっきよりも明らかに近くから声が聞こえる。おかしい。声が聞こえてから、数秒ほどしか経っていないのに、急にこんなに近付けるわけが無い。誰を呼んでいるんだ?まさか僕か?
「おにーちゃん。聞こえてるんでしょ。返事してよ、綺麗なおにーちゃん。つまんない。」
冷や汗が止まらない。返事をしてはダメだ。僕の直感がそう叫んでる。走って逃げるべきか。それともこのままやり過ごすべきか。とはいっても、走ろうとしても腰が抜けてしまって、動けない。このままやり過ごすしかない。
あれから何分たっただろう。しばらくして声は聞こえなくなった。でも空気が重い。なんとも言えない独特な雰囲気が辺りを今でも包んでいる。元々ホラー映画などの類いのものは苦手なのだ。こんな状況の中で、正気でいられるはずがない。どうすればいいんだ。誰か助けて。
「おーい唯。お前まだ家帰ってなかったのかよ。そんなとこで何してんだ?」
我慢していた涙が溢れてくる。隼人だ。隼人の声だ。隼人がいる。今一番来て欲しかった人が目の前にいる。
「隼人、、!!!たすけて!!」
隼人なら助けてくれる、そう思って声を出した。女みたいだと虐められていた時も、同級生の男に襲われそうになった時も、助けてくれたのは、いつも隼人だった。だから目の前にいる存在を隼人だと信じて疑わなかった。でもきちんと考えれば、隼人がここにいる訳が無いと分かったはずだ。隼人は家に帰ったら、久しぶりに妹達と遊ぶと言っていた。もう隣町のショッピングモールにいる頃だろう。
「え、、。」
目の前にいたのは隼人ではなく、小さな角が生えた女の子だった。不気味なほどに笑っている。
「やっと返事してくれたね。綺麗なおにーちゃん。おにーちゃんの血は美味しいから、私たちの世界に連れて行ってあげようと思って。」
「私達の世界って、、、やだよ。」
「うーーん。拒否は出来ないよ。だっておにーちゃん、私の囁きに答えてくれたじゃん。詳しいことは向こうの世界で教えてあげる。いったん寝てていいよ。おやすみ。」
頭がくらくらする。視界がぼやける。この子の仕業だろうか。僕はいったいどうなるんだろう。死ぬのかな。どうせ死ぬのなら、お母さんやお父さんのことちゃんと知ってからが良かったな。意識を失う直前、ボンヤリとした頭でそう考えた。
「こちらこそ、ありがとう。帰ったらゆっくり寝ることにするよ。ばいばい。」
最寄りの駅で隼人と別れる。隼人がトイレから帰ってきてからのことは、正直よく覚えていない。ボーッとしすぎて、隼人に心配をかけた気がする。何があったのか聞いてくる隼人に、欲張ってラーメンのトッピングを増し増しにしたことが原因で腹痛を起こしたかもしれない、と嘘をついた。隼人が、疑い深くないというか、あまり詮索してこない、良い意味でも悪い意味でも、軽い性格で良かったと思う。ラーメン屋でのことを思い出しながら、駅のホームにあるベンチに腰を下ろして、財布からレシートを取り出す。レシートの裏には走り書きで、おじいさんからのメッセージが書かれてあった。
"近いうちにまた来なさい。唯くんが聞きたいことを、わしが知ってる範囲で全て話してあげよう"
「全て話してあげる、か。いったい何を知ってるんだろう。というか、僕本当に何も知らないんだな。」
何も知らない。お母さんのことも。お父さんのことも。自分の両親のことなのに、何も知らない。
「でも、今更知ったところでって感じだよね。雰囲気的に良くない話だろうし。」
ラーメン屋にいた時は、おじいさんの言っていることが気になって仕方なかった。早く話の続きが聞きたいと本気で思っていた。でも少し時間を置いて、冷静になって考えれば、別に知らなくてもいいんじゃないか、とも思う。世の中には知らなくていいこともたくさんあるのだ。仮に全てを知ったとして、その結果、何かに怯える状況になるのは御免だ。
「とりあえず、僕は何かと混じってて、狙われてるってことだよね。お父さんが別の国の人で、どっかのマフィアの隠し子だったりして。」
おじいさんの話を思い出しながら、変な妄想をしてみる。仮にもしそうなら、僕は確実に死亡コースだ。まあ、そんな漫画みたいな展開が起きるはずがないことは分かってる。
「それか、実は僕、獣人でした!とか?」
マフィアの隠し子設定でも無理があったのに、更にファンタジーな内容を思い付く自分がアホらしくて笑えてくる。
「あーーー、もう分かんないよ。こんなに悩むくらいなら、ちゃんと聞きに行った方がずっと楽だ。」
ウジウジしていても埒が明かない。おじいさんの所へ行って話を聞けば、この心のモヤモヤは消えてくれる。そんなことは分かってる。でも怖いんだ。聞いてしまえば何が良くないことが起こりそうな気がして。僕の平穏な暮らしが何かによって害されそうな気がして。
「ラーメン屋って確か20時までだよね。今日行くか。今17時だし。」
話は聞きたい。でも、明日になったら、話を聞くことに怖気付いて、ラーメン屋に足を運べなくなってしまう気がする。怖さよりも好奇心が勝ってる今なら、逃げずにちゃんと話を聞けるかもしれない。そう思ってベンチから腰を上げようとした時だった。
「、、ちゃん。お、、ちゃん。」
何処か遠くから小さい女の子の声がする。家族と散歩にでも来ているのだろうか。
「おに、、ちゃん。おにーちゃん。」
今度はさっきよりも明らかに近くから声が聞こえる。おかしい。声が聞こえてから、数秒ほどしか経っていないのに、急にこんなに近付けるわけが無い。誰を呼んでいるんだ?まさか僕か?
「おにーちゃん。聞こえてるんでしょ。返事してよ、綺麗なおにーちゃん。つまんない。」
冷や汗が止まらない。返事をしてはダメだ。僕の直感がそう叫んでる。走って逃げるべきか。それともこのままやり過ごすべきか。とはいっても、走ろうとしても腰が抜けてしまって、動けない。このままやり過ごすしかない。
あれから何分たっただろう。しばらくして声は聞こえなくなった。でも空気が重い。なんとも言えない独特な雰囲気が辺りを今でも包んでいる。元々ホラー映画などの類いのものは苦手なのだ。こんな状況の中で、正気でいられるはずがない。どうすればいいんだ。誰か助けて。
「おーい唯。お前まだ家帰ってなかったのかよ。そんなとこで何してんだ?」
我慢していた涙が溢れてくる。隼人だ。隼人の声だ。隼人がいる。今一番来て欲しかった人が目の前にいる。
「隼人、、!!!たすけて!!」
隼人なら助けてくれる、そう思って声を出した。女みたいだと虐められていた時も、同級生の男に襲われそうになった時も、助けてくれたのは、いつも隼人だった。だから目の前にいる存在を隼人だと信じて疑わなかった。でもきちんと考えれば、隼人がここにいる訳が無いと分かったはずだ。隼人は家に帰ったら、久しぶりに妹達と遊ぶと言っていた。もう隣町のショッピングモールにいる頃だろう。
「え、、。」
目の前にいたのは隼人ではなく、小さな角が生えた女の子だった。不気味なほどに笑っている。
「やっと返事してくれたね。綺麗なおにーちゃん。おにーちゃんの血は美味しいから、私たちの世界に連れて行ってあげようと思って。」
「私達の世界って、、、やだよ。」
「うーーん。拒否は出来ないよ。だっておにーちゃん、私の囁きに答えてくれたじゃん。詳しいことは向こうの世界で教えてあげる。いったん寝てていいよ。おやすみ。」
頭がくらくらする。視界がぼやける。この子の仕業だろうか。僕はいったいどうなるんだろう。死ぬのかな。どうせ死ぬのなら、お母さんやお父さんのことちゃんと知ってからが良かったな。意識を失う直前、ボンヤリとした頭でそう考えた。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる