逢魔が時の神隠し

ほの

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出会い

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「今日はあんがとな。腹大事にしろよ。じゃあな。」

「こちらこそ、ありがとう。帰ったらゆっくり寝ることにするよ。ばいばい。」

最寄りの駅で隼人と別れる。隼人がトイレから帰ってきてからのことは、正直よく覚えていない。ボーッとしすぎて、隼人に心配をかけた気がする。何があったのか聞いてくる隼人に、欲張ってラーメンのトッピングを増し増しにしたことが原因で腹痛を起こしたかもしれない、と嘘をついた。隼人が、疑い深くないというか、あまり詮索してこない、良い意味でも悪い意味でも、軽い性格で良かったと思う。ラーメン屋でのことを思い出しながら、駅のホームにあるベンチに腰を下ろして、財布からレシートを取り出す。レシートの裏には走り書きで、おじいさんからのメッセージが書かれてあった。

"近いうちにまた来なさい。唯くんが聞きたいことを、わしが知ってる範囲で全て話してあげよう"

「全て話してあげる、か。いったい何を知ってるんだろう。というか、僕本当に何も知らないんだな。」

何も知らない。お母さんのことも。お父さんのことも。自分の両親のことなのに、何も知らない。

「でも、今更知ったところでって感じだよね。雰囲気的に良くない話だろうし。」

ラーメン屋にいた時は、おじいさんの言っていることが気になって仕方なかった。早く話の続きが聞きたいと本気で思っていた。でも少し時間を置いて、冷静になって考えれば、別に知らなくてもいいんじゃないか、とも思う。世の中には知らなくていいこともたくさんあるのだ。仮に全てを知ったとして、その結果、何かに怯える状況になるのは御免だ。

「とりあえず、僕は何かと混じってて、狙われてるってことだよね。お父さんが別の国の人で、どっかのマフィアの隠し子だったりして。」

おじいさんの話を思い出しながら、変な妄想をしてみる。仮にもしそうなら、僕は確実に死亡コースだ。まあ、そんな漫画みたいな展開が起きるはずがないことは分かってる。

「それか、実は僕、獣人でした!とか?」

マフィアの隠し子設定でも無理があったのに、更にファンタジーな内容を思い付く自分がアホらしくて笑えてくる。

「あーーー、もう分かんないよ。こんなに悩むくらいなら、ちゃんと聞きに行った方がずっと楽だ。」

ウジウジしていても埒が明かない。おじいさんの所へ行って話を聞けば、この心のモヤモヤは消えてくれる。そんなことは分かってる。でも怖いんだ。聞いてしまえば何が良くないことが起こりそうな気がして。僕の平穏な暮らしが何かによって害されそうな気がして。

「ラーメン屋って確か20時までだよね。今日行くか。今17時だし。」

話は聞きたい。でも、明日になったら、話を聞くことに怖気付いて、ラーメン屋に足を運べなくなってしまう気がする。怖さよりも好奇心が勝ってる今なら、逃げずにちゃんと話を聞けるかもしれない。そう思ってベンチから腰を上げようとした時だった。

「、、ちゃん。お、、ちゃん。」

何処か遠くから小さい女の子の声がする。家族と散歩にでも来ているのだろうか。

「おに、、ちゃん。おにーちゃん。」

今度はさっきよりも明らかに近くから声が聞こえる。おかしい。声が聞こえてから、数秒ほどしか経っていないのに、急にこんなに近付けるわけが無い。誰を呼んでいるんだ?まさか僕か?

「おにーちゃん。聞こえてるんでしょ。返事してよ、綺麗なおにーちゃん。つまんない。」

冷や汗が止まらない。返事をしてはダメだ。僕の直感がそう叫んでる。走って逃げるべきか。それともこのままやり過ごすべきか。とはいっても、走ろうとしても腰が抜けてしまって、動けない。このままやり過ごすしかない。

あれから何分たっただろう。しばらくして声は聞こえなくなった。でも空気が重い。なんとも言えない独特な雰囲気が辺りを今でも包んでいる。元々ホラー映画などの類いのものは苦手なのだ。こんな状況の中で、正気でいられるはずがない。どうすればいいんだ。誰か助けて。

「おーい唯。お前まだ家帰ってなかったのかよ。そんなとこで何してんだ?」

我慢していた涙が溢れてくる。隼人だ。隼人の声だ。隼人がいる。今一番来て欲しかった人が目の前にいる。

「隼人、、!!!たすけて!!」

隼人なら助けてくれる、そう思って声を出した。女みたいだと虐められていた時も、同級生の男に襲われそうになった時も、助けてくれたのは、いつも隼人だった。だから目の前にいる存在を隼人だと信じて疑わなかった。でもきちんと考えれば、隼人がここにいる訳が無いと分かったはずだ。隼人は家に帰ったら、久しぶりに妹達と遊ぶと言っていた。もう隣町のショッピングモールにいる頃だろう。

「え、、。」

目の前にいたのは隼人ではなく、小さな角が生えた女の子だった。不気味なほどに笑っている。

「やっと返事してくれたね。綺麗なおにーちゃん。おにーちゃんの血は美味しいから、私たちの世界に連れて行ってあげようと思って。」

「私達の世界って、、、やだよ。」

「うーーん。拒否は出来ないよ。だっておにーちゃん、私の囁きに答えてくれたじゃん。詳しいことは向こうの世界で教えてあげる。いったん寝てていいよ。おやすみ。」

頭がくらくらする。視界がぼやける。この子の仕業だろうか。僕はいったいどうなるんだろう。死ぬのかな。どうせ死ぬのなら、お母さんやお父さんのことちゃんと知ってからが良かったな。意識を失う直前、ボンヤリとした頭でそう考えた。

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