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しおりを挟むそっと彼女が取り出した銀の指輪。華奢な指には合わないサイズの指輪。
「これを見た時、思ったんだ。───女性にしてはサイズが大きいなって」
そう───だ。自分も思った。
彼女の指にはまるっきり合わないサイズの指輪だと。
「でもひとによって指の太さはまちまちだから、とも思った。でもくのじいからおじいさんの───旦那さんの名前を聞いて、どちらもイニシャルはKだとわかってから、可能性は考えてた」
そう。───自分は先入観があった。
今生きているのはカヨコさんなのだから、これはカヨコさんの指輪なのだと。
シズメさんという男性がいたと知り、自然とこれはシズメさんから贈られたカヨコさんへの指輪なのだと思っていた。
───でも。
「ともりの言う通り、昔は……地域的にも結婚は個人というより家と家のものという面が今よりも大きかったと思う。幼馴染みで仲良くしていただろうし、駄目な理由の方がなかったんだと思う」
仲が良かった。───そう、自分だってオウスケに言った。
愛情の種類は、ひとつではないと。
「愛していたと思うよ。愛し合っていたと思う。だからこそ子宝にも恵まれた」
愛していた。───家族として。
好いていた。───家族として。
駄目じゃない。悪くなんかない。それのなにが、どうしていけないというんだ。
「でも。───恋し合っていたのは、きっと、違う二人だったんだ」
今よりももっと価値観が定めれれていた時代。
日本だってまだ、婚姻などの法が整っていない。
戦後のあの時代に。
───男性同士の想いが誰かに気付かれてしまったら。
「『匿った』んだ。カヨコさんが、かのひとたちの想いを。───幼馴染みの三人の中で」
カヨコさんは。───全てを受け入れていたのだろう。
今までも。───これからも、ずっと。
「ひとが聞いたらそれは幸せでないかもしれない。でも───」
でも。
わかる。───わかる。
「「本当に幸せでなければ、あんなにやさしいまなざしにはならない」」
重なった声。
重なった想い。
───かつての三人の、匿い匿われた想い。
誰も悪くなかった。
シズメさんも。ケイスケさんも。カヨコさんも。
今は亡き祖父のことを慮った、オウスケ少年も。
「好きだけど一緒にはいられなかった。好きだけど一緒にはなれなかった」
───それでも。
「それでも。───生きていてくれさえしたら」
想いをそっと匿って。
三人の幼馴染みは、───激動の時代を生きた。
あのやさしい少年へと続く路を。
「───……」
仏壇の前に置かれた、金色の指輪。
カヨコさんが贈った、ケイスケさんの指輪。
「───オウスケが、言ってた」
ふと甦った、……先程の会話。
「カヨコさんが、桜を見上げながら左手で銀の指輪を握っていたって……」
その手の中には。───三人、いたのだろう。
大切な三人が、いたのだろう。
───許されない恋をしました。
───話せるのは、貴女だけです。
死んでいればあきらめられた。
叶わない想いを伝えず抱き続けられた。
「───叶ったんだね。───生きて、また会えたから」
奇跡が重なり戦場を生き延びた。───二人とも。
桜の故郷に帰った二人。花けぶる愛おしい場所に帰れた二人。
待っていた、───ひとり。
「三人は。───選んだんだ」
誰が許せなかったのだろう。
誰が許さなかったのだろう。
誰が、───匿ってくれたのだろう。
想いをすべて匿って。───三人この地で生きていた。
この薄紅の世界で、生きていた。
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