アークトゥルスの花束

11

「……オウスケには、まだ少し……伝えるのは早いかな」
「───そうかもしれないね」



　どれだけ相手を識っていても。───それでもふとした瞬間、識らない貌が覗くのだ。



「『わかった気がした』瞬間が、ほんの少しでも多くあればいいと。───ずっと願える相手と出会えたのなら、わたしはそれが幸いだと思う」



「───うん」



　うん。
　ほんとうに、───そうだ。



「───愛情の形なんて、ひとつじゃない」



　彼女が、微笑った。



　銀の指輪をそっと、金の指輪の隣に供えて。



「───やさしいものであれば、それでいいと願うんだ」



　想うにはまだ確信に至らなくて。
　けれど、そうであってほしいと願う。



　───ひとが聞いたら何故、と笑ってしまうものでもいい。
　───あたたかく、やさしいものであったらそれでいい。



「───手紙は、秋のものだね」
　封筒の片隅に示された日付を見て、彼女は言った。
「でも、指輪の月は春だ。……どうして、春だったんだろうね。春を待たずとも贈れたかもしれないのに───ううん、贈れなかったのかな……」
「……それは俺にもわかるかな」
「え？」



　きょとんと瞬く彼女の深い深い色をした眼。
　薄紅の世界を背景に、陽に当たりふわりと不思議に色を染める髪。



　ひとの心はミステリーだけれど。
　どれだけ一緒にいても、───ふと覗かせる識らない貌が、きっとあるけれど。



　でも、これだけはわかる気がした。



　───桜吹雪を見上げる君の、陽の光に透ける髪の色がとても綺麗だったから。



　───理由なんて、それで十分じゃないか。










　〈　アークトゥルスの花束　アークトゥルスの守りびと　〉