91 / 169
第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-4 扉を捜せ
しおりを挟む
「いや、大変有意義なお話でした。
ですが、ここのダンジョンに登場する扉は、そういう物とは違うようです」
マイアは優雅に素晴らしい絵付けの陶器のカップでお茶を啜りながら、ここの扉に関しての話をしてくれた。
「というと?」
「ラビワンにあるミミック入りの宝箱のように明確な障害としての目的で設置されている物とは異なるような。
なんといいますか、よくわからない正体不明の物なのですよ。
だからこそ調査したいのです」
ラビワンの扉だって、相当に凶悪なんだが。
だが、俺の思考を読んだかの如くに先輩は楽しそうに言った。
またしても話の腰が折られてしまったのだが、マイアさんも興味深そうに聞いていた。
この人も昔は踏破者の進路が希望だったのだろうか?
「リクル、ラビワンの最終関門の扉は鍵がかかっていてな。
その鍵が、数多の扉のどこかに隠されている。
そこを突破できぬ柔な者に最後の試練は受けられない」
まるで、俺に早くそれを受けてこいとでも言っているかのようだ。
「へ、誰かさんのお蔭で、俺もあのダンジョンから指名手配中なんだろう?
まだ一人で中層まで行った事さえないよ」
「じゃあ、向こうに帰ったら一緒に潜るか?
久しぶりにダンジョンコアの面でも拝みに行くか。
くっくっく、どんな顔で迎えてくれる事やら」
「先輩、あんたって人は!」
そういや、こいつと一緒に行けば、俺でもラビワンに潜れるかもしれないのだった。
ラビワンの協会でもそう言われた気がするな。
先輩は通常ならば管理魔物にも嫌われているほど狂った奴なんだった。
あれを見つけ出して魔核を抉り出そうとしていたのだから。
でも、俺の強さを魔物との戦闘を通して測りながら、ついでに自ら俺をスパルタに鍛えるつもりなのに違いない。
俺にとって真に一番危険な魔物とはこの先輩なのだから。
二人っきりでいる時に先輩に殺戮スイッチが入ったら文字通り死ぬほどヤバイ。
その時は、また管理魔物でも呼び出すしかないのか。
今度は向こうも凄い奴を出してくる気なのに違いない。
「リクル、その扉の中にいるトラップ魔物は素材が凄くてな。
狩る度に戦果を親父に送っておいたら、そのうちにいつのまにか伯爵になっていた。
金も無茶苦茶に貯まったしなあ」
「なんか話が凄すぎて、初めてあんたの事を羨ましいと思った」
「リクル、冒険者はソロでも特に問題はないぞ。
俺などは最初からずっとソロでやっている」
「あんたは規格外過ぎて参考にならないんだよ!」
きっとダンジョンコアも、平素はこの怪物を迂闊に刺激しないようにしていたものに違いない。
「ちなみに、うちのパーティも踏破は楽にやれるだろうが、お前らみたいにダンジョンから排撃されるようになっておると真面に鍛練が出来なくなるのでな。
聖女様が鍛錬できないと民が不安がるので踏破はできぬ。
用もないのに、このダンジョンにいては却って不安がられるし」
「はいはい。
邪神だってぶっとばす方々ですものね!」
「あはは、お話をここの扉に戻しましょうか。
それは何というか、別のダンジョンに繋がっていると言われているのです」
「別の?」
「はい、別のダンジョンというか、扉の中が違う世界であるとでもいうのか。
そこは遺跡の力が一部まだ生きているのではないかとも言われております。
あるいは、昔から存在する世界、扉なのではないかとも」
「ほお、そいつは遺跡区に出現するのか」
あ、ヤバイ。
先輩が興味を持ち出したみたいだ。
そういう時って碌な事がなさそう。
「はい、そうです。
ですが、はっきりした事は不明なのです。
例の武具は、そこで発見される事が多いのですわ。
通常に宝箱の中から湧くような物とは異なり、素晴らしい武具なのだそうです」
「そして、その別の世界に強い奴がいるから、多くの冒険者が帰ってこないのだと?」
ほら、そんな先輩好みの話をするから、その気になっているみたいだし。
「わかりません。
もしそうだとしたら、出会ったら誰も帰ってこないのだろうし、古代魔法文明の罠だという可能性もあります。
生きて戻ってきた人達は、武具などを『拾った』というのです。
はっきりとは判明していないのですが、おそらく本来それを手に入れた人達は……」
「た、棚ぼた!」
「その通りなのではないかと思います。
それで、あれこれと不明なもので、よければ調査をと。
とにかく今の状態では冒険者の損耗が激しくて話にならないのです。
既に、ここの来年度の予算などにも影響が出始めていますし」
「うちの親父も、そっちの話も含めてという事で、俺に勅命を出したというわけだな」
そして姐御がマイアに訊き返した。
「その扉、前からあったと言う訳ではないのだな」
「はい、それこそ今の噂の通りに二~三週間ほど前から出だした訳ですが」
「なるほどな。
どの道、今回の我々の目的である魔法武具探索を果たそうと思うのなら、調査も兼ねて、その扉とやらを捜す他はないというわけだな」
「そうなります。
私一人ではさすがに扉の探索は無理なのでねえ。
見つけるまでは可能かもしれないですが、その後が。
あと、そうそう。
扉の外でも武具は発見され、また冒険者の死体も見つかる事があります」
「え、それはどういう事?」
「中にいた何者かが、扉の外へお宝を持ち出した冒険者を追いかけてきたものか、あるいはそいつが扉の中から這い出して通常通りにも徘徊しているものか」
「それも、ここ最近の話なのだな」
「その通りです。
もしや、邪神の封印が解けかけており、その配下の者が現れ出しているのかという説を唱える者もおりましてね。
聖女猊下、前回の封印の際にそのような兆候はございませんでしたか。
記録を見てもよくわからなくて」
「ふむ、マイアの意見は正しい。
邪神の出現の予兆は様々であると言われていてな。
それは一言で言い表すのならば混沌。
故に人は今のような状況に不安を抱くのだ。
マイアの言う扉の調査こそが、その民達の抱く不安の解消につながるのかもしれんな。
それは最優先しよう」
あ、先輩が凄く嬉しそう。
冒険者、しかも上級さえ易々と葬るらしい怪物探しなのだから。
それは念願だった玩具をもらえる事が決まった子供の笑顔だよ。
ですが、ここのダンジョンに登場する扉は、そういう物とは違うようです」
マイアは優雅に素晴らしい絵付けの陶器のカップでお茶を啜りながら、ここの扉に関しての話をしてくれた。
「というと?」
「ラビワンにあるミミック入りの宝箱のように明確な障害としての目的で設置されている物とは異なるような。
なんといいますか、よくわからない正体不明の物なのですよ。
だからこそ調査したいのです」
ラビワンの扉だって、相当に凶悪なんだが。
だが、俺の思考を読んだかの如くに先輩は楽しそうに言った。
またしても話の腰が折られてしまったのだが、マイアさんも興味深そうに聞いていた。
この人も昔は踏破者の進路が希望だったのだろうか?
「リクル、ラビワンの最終関門の扉は鍵がかかっていてな。
その鍵が、数多の扉のどこかに隠されている。
そこを突破できぬ柔な者に最後の試練は受けられない」
まるで、俺に早くそれを受けてこいとでも言っているかのようだ。
「へ、誰かさんのお蔭で、俺もあのダンジョンから指名手配中なんだろう?
まだ一人で中層まで行った事さえないよ」
「じゃあ、向こうに帰ったら一緒に潜るか?
久しぶりにダンジョンコアの面でも拝みに行くか。
くっくっく、どんな顔で迎えてくれる事やら」
「先輩、あんたって人は!」
そういや、こいつと一緒に行けば、俺でもラビワンに潜れるかもしれないのだった。
ラビワンの協会でもそう言われた気がするな。
先輩は通常ならば管理魔物にも嫌われているほど狂った奴なんだった。
あれを見つけ出して魔核を抉り出そうとしていたのだから。
でも、俺の強さを魔物との戦闘を通して測りながら、ついでに自ら俺をスパルタに鍛えるつもりなのに違いない。
俺にとって真に一番危険な魔物とはこの先輩なのだから。
二人っきりでいる時に先輩に殺戮スイッチが入ったら文字通り死ぬほどヤバイ。
その時は、また管理魔物でも呼び出すしかないのか。
今度は向こうも凄い奴を出してくる気なのに違いない。
「リクル、その扉の中にいるトラップ魔物は素材が凄くてな。
狩る度に戦果を親父に送っておいたら、そのうちにいつのまにか伯爵になっていた。
金も無茶苦茶に貯まったしなあ」
「なんか話が凄すぎて、初めてあんたの事を羨ましいと思った」
「リクル、冒険者はソロでも特に問題はないぞ。
俺などは最初からずっとソロでやっている」
「あんたは規格外過ぎて参考にならないんだよ!」
きっとダンジョンコアも、平素はこの怪物を迂闊に刺激しないようにしていたものに違いない。
「ちなみに、うちのパーティも踏破は楽にやれるだろうが、お前らみたいにダンジョンから排撃されるようになっておると真面に鍛練が出来なくなるのでな。
聖女様が鍛錬できないと民が不安がるので踏破はできぬ。
用もないのに、このダンジョンにいては却って不安がられるし」
「はいはい。
邪神だってぶっとばす方々ですものね!」
「あはは、お話をここの扉に戻しましょうか。
それは何というか、別のダンジョンに繋がっていると言われているのです」
「別の?」
「はい、別のダンジョンというか、扉の中が違う世界であるとでもいうのか。
そこは遺跡の力が一部まだ生きているのではないかとも言われております。
あるいは、昔から存在する世界、扉なのではないかとも」
「ほお、そいつは遺跡区に出現するのか」
あ、ヤバイ。
先輩が興味を持ち出したみたいだ。
そういう時って碌な事がなさそう。
「はい、そうです。
ですが、はっきりした事は不明なのです。
例の武具は、そこで発見される事が多いのですわ。
通常に宝箱の中から湧くような物とは異なり、素晴らしい武具なのだそうです」
「そして、その別の世界に強い奴がいるから、多くの冒険者が帰ってこないのだと?」
ほら、そんな先輩好みの話をするから、その気になっているみたいだし。
「わかりません。
もしそうだとしたら、出会ったら誰も帰ってこないのだろうし、古代魔法文明の罠だという可能性もあります。
生きて戻ってきた人達は、武具などを『拾った』というのです。
はっきりとは判明していないのですが、おそらく本来それを手に入れた人達は……」
「た、棚ぼた!」
「その通りなのではないかと思います。
それで、あれこれと不明なもので、よければ調査をと。
とにかく今の状態では冒険者の損耗が激しくて話にならないのです。
既に、ここの来年度の予算などにも影響が出始めていますし」
「うちの親父も、そっちの話も含めてという事で、俺に勅命を出したというわけだな」
そして姐御がマイアに訊き返した。
「その扉、前からあったと言う訳ではないのだな」
「はい、それこそ今の噂の通りに二~三週間ほど前から出だした訳ですが」
「なるほどな。
どの道、今回の我々の目的である魔法武具探索を果たそうと思うのなら、調査も兼ねて、その扉とやらを捜す他はないというわけだな」
「そうなります。
私一人ではさすがに扉の探索は無理なのでねえ。
見つけるまでは可能かもしれないですが、その後が。
あと、そうそう。
扉の外でも武具は発見され、また冒険者の死体も見つかる事があります」
「え、それはどういう事?」
「中にいた何者かが、扉の外へお宝を持ち出した冒険者を追いかけてきたものか、あるいはそいつが扉の中から這い出して通常通りにも徘徊しているものか」
「それも、ここ最近の話なのだな」
「その通りです。
もしや、邪神の封印が解けかけており、その配下の者が現れ出しているのかという説を唱える者もおりましてね。
聖女猊下、前回の封印の際にそのような兆候はございませんでしたか。
記録を見てもよくわからなくて」
「ふむ、マイアの意見は正しい。
邪神の出現の予兆は様々であると言われていてな。
それは一言で言い表すのならば混沌。
故に人は今のような状況に不安を抱くのだ。
マイアの言う扉の調査こそが、その民達の抱く不安の解消につながるのかもしれんな。
それは最優先しよう」
あ、先輩が凄く嬉しそう。
冒険者、しかも上級さえ易々と葬るらしい怪物探しなのだから。
それは念願だった玩具をもらえる事が決まった子供の笑顔だよ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる