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第二章 バルバディア聖教国モンサラント・ダンジョン
2-55 知らなかった
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「なあ、先輩。
また神殿まで駆けっこしようぜ」
性懲りもなく、俺は先輩に戦いを挑んだ。
俺が殺されない系の分野で。
「ほう?」
毎朝恒例となっている、祈りの塔での散歩からの帰り道、俺の申し出に先輩はまた少し妙な顔をして俺を見た。
あれ、なんだろうな。
「ほら、このスキル・マグナムブースター。
いつもはブースト無しで頑張っているじゃない。
こいつで通常の能力を倍化して、それで先輩を振り切れないかなと思ってさ」
「そいつは面白い。
その半分が今のお前の正味という事か」
「じゃあ、行くぜー。ドン!」
そして結果から言うと、開始一メートルで、あっさりと先輩に捕まってしまった。
特に先輩が頑張った形跡がないにも関わらず。
「あれ? おっかしいなあ。
こんなはずじゃあなかったのに」
だが、先輩は溜息を一つ塔に向けて放つと、頭をかきつつ、こう言ってくれた。
「リクルよ。
お前はもう俺の力など、とうに抜いているのに気がつかんのか?
このレバレッジの怪物め」
「え、それはどういう事?」
何の話⁉
俺が先輩を追い抜いていただと。
そんな馬鹿な事があるのか?
「あれだけ鍛練で元となる素の能力を上げたのだから、それも当然の話よ。
レバレッジのスキルや基本スキルの上昇もあるのだしな。
その倍化の魔道具を、お前から俺に付け替えたとて、今ではその差は到底縮められぬわ」
「えー、マジで!」
そうなのか?
俺はこの踏破者と呼ばれ、半端な冒険者からは死神のように恐れられる先輩の力を、未だ測り切れないのだけれど。
「お前は力の使い方が無駄過ぎて、その力の殆どを有効に使えていないのだ」
「う、そいつは知らなかった。
えー……」
「お前は今、あまりにも急激に成長し過ぎているから、自分の力が今どれだけあるのかもわからんのだ。
それはレバレッジやブーストだけではなく、その大元となる自分自身の肉体や精神の力自体も影響しているのだから当然だろう。
そのあたりは経験の差、年季の違いというものだ」
「あー、そうかも。
みんなスパルタだからさあ。
俺って、あらゆるものが成長している最中なんですけど。
体もまだまだ成長期なんだしさ」
それから先輩はあらためて俺を値踏みする感じに見ている。
「お前、特に精神系の上昇が激しいだろう。
おそらく、その手のスキルがガンガン派生してきているのだな。
それはまたその時に出せる精神力により、お前が発揮できる力に何倍ものムラがある事も意味する」
「あ、バレてた?」
どうにもこうにも力が安定しないんだよ。
いざとなった時には糞力、馬鹿力が出せるんだけど。
「お前も薄々気がついているのだろうが、スキルがそういう方向に行くのは、おそらくここに封印されている邪神の影響を受けているのだ。
スキルを刻印した、お前の魂がそれに引っ張られているのだ。
そして、後はやはりあの盟主と関わったせいもあるのだろう」
「そうかあ、俺は邪神の脅威というか影響を心身共に強烈に感じているのか。
あ、ああうん、盟主の方は多分いろいろとあってね」
俺はきっと必ず盟主に出会う。
その運命を感じ、魂が引き摺られている気がするのだ。
「そして、それはお前らの教師もまた同じだ。
そして、あの一流の連中も邪神復活の可能性に怯えている。
聖女のパーティだからこそ邪神の怖さがわかるのだな。
だから、お前にも過剰なまでの鍛練を強いている。
誠に残念ながら、今は俺もお前を食っている場合ではないようだな」
「マジで⁉」
まさかの、先輩の俺を食わない宣言!?
でも『今は』と言ったような。
「その代わり、お前の鍛練はしばらく俺が預かる事にする。
あの連中に任せておくと、まったく違う方向に行く。
あれも必要な事ではあるのだがな。
もうこの件については聖女の了解は得てあるから安心しろ」
「根回し、早っ!」
もしかして先輩は、その話を切り出すタイミングを測っていた?
「今、お前を強化のために鍛練しても、使いこなせない無駄な力が増えて余計に混乱するだけだ。
しばらくは宝箱を捜しがてら、今ある力の使いこなしのみをやる」
「ううっ、さいですか」
こうして、俺はなんと、よりにもよって先輩から精神修行のような物を付けられるようになってしまった。
でももう屈辱だなんて言っていられるような状況ではないようだ。
また神殿まで駆けっこしようぜ」
性懲りもなく、俺は先輩に戦いを挑んだ。
俺が殺されない系の分野で。
「ほう?」
毎朝恒例となっている、祈りの塔での散歩からの帰り道、俺の申し出に先輩はまた少し妙な顔をして俺を見た。
あれ、なんだろうな。
「ほら、このスキル・マグナムブースター。
いつもはブースト無しで頑張っているじゃない。
こいつで通常の能力を倍化して、それで先輩を振り切れないかなと思ってさ」
「そいつは面白い。
その半分が今のお前の正味という事か」
「じゃあ、行くぜー。ドン!」
そして結果から言うと、開始一メートルで、あっさりと先輩に捕まってしまった。
特に先輩が頑張った形跡がないにも関わらず。
「あれ? おっかしいなあ。
こんなはずじゃあなかったのに」
だが、先輩は溜息を一つ塔に向けて放つと、頭をかきつつ、こう言ってくれた。
「リクルよ。
お前はもう俺の力など、とうに抜いているのに気がつかんのか?
このレバレッジの怪物め」
「え、それはどういう事?」
何の話⁉
俺が先輩を追い抜いていただと。
そんな馬鹿な事があるのか?
「あれだけ鍛練で元となる素の能力を上げたのだから、それも当然の話よ。
レバレッジのスキルや基本スキルの上昇もあるのだしな。
その倍化の魔道具を、お前から俺に付け替えたとて、今ではその差は到底縮められぬわ」
「えー、マジで!」
そうなのか?
俺はこの踏破者と呼ばれ、半端な冒険者からは死神のように恐れられる先輩の力を、未だ測り切れないのだけれど。
「お前は力の使い方が無駄過ぎて、その力の殆どを有効に使えていないのだ」
「う、そいつは知らなかった。
えー……」
「お前は今、あまりにも急激に成長し過ぎているから、自分の力が今どれだけあるのかもわからんのだ。
それはレバレッジやブーストだけではなく、その大元となる自分自身の肉体や精神の力自体も影響しているのだから当然だろう。
そのあたりは経験の差、年季の違いというものだ」
「あー、そうかも。
みんなスパルタだからさあ。
俺って、あらゆるものが成長している最中なんですけど。
体もまだまだ成長期なんだしさ」
それから先輩はあらためて俺を値踏みする感じに見ている。
「お前、特に精神系の上昇が激しいだろう。
おそらく、その手のスキルがガンガン派生してきているのだな。
それはまたその時に出せる精神力により、お前が発揮できる力に何倍ものムラがある事も意味する」
「あ、バレてた?」
どうにもこうにも力が安定しないんだよ。
いざとなった時には糞力、馬鹿力が出せるんだけど。
「お前も薄々気がついているのだろうが、スキルがそういう方向に行くのは、おそらくここに封印されている邪神の影響を受けているのだ。
スキルを刻印した、お前の魂がそれに引っ張られているのだ。
そして、後はやはりあの盟主と関わったせいもあるのだろう」
「そうかあ、俺は邪神の脅威というか影響を心身共に強烈に感じているのか。
あ、ああうん、盟主の方は多分いろいろとあってね」
俺はきっと必ず盟主に出会う。
その運命を感じ、魂が引き摺られている気がするのだ。
「そして、それはお前らの教師もまた同じだ。
そして、あの一流の連中も邪神復活の可能性に怯えている。
聖女のパーティだからこそ邪神の怖さがわかるのだな。
だから、お前にも過剰なまでの鍛練を強いている。
誠に残念ながら、今は俺もお前を食っている場合ではないようだな」
「マジで⁉」
まさかの、先輩の俺を食わない宣言!?
でも『今は』と言ったような。
「その代わり、お前の鍛練はしばらく俺が預かる事にする。
あの連中に任せておくと、まったく違う方向に行く。
あれも必要な事ではあるのだがな。
もうこの件については聖女の了解は得てあるから安心しろ」
「根回し、早っ!」
もしかして先輩は、その話を切り出すタイミングを測っていた?
「今、お前を強化のために鍛練しても、使いこなせない無駄な力が増えて余計に混乱するだけだ。
しばらくは宝箱を捜しがてら、今ある力の使いこなしのみをやる」
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でももう屈辱だなんて言っていられるような状況ではないようだ。
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