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第二章 はずれスキルの冒険者
2-62 うどん会議の意外な客人
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俺は調理場に、市場で買い込んだいろいろな物を並べながらボヤいた。
「しまったな、スープの試作をするんだったらフォミオを連れてくるんだった。あれこれと仕事を頼んであるんで、そっちもやらせているんだよな。あいつのスキルは調合だから、うまくやってくれたかもしれないのに」
「うどんのスープって、スキルで調合するものだったのです⁇」
薬師丸嬢の疑問はもっともなのだが、何しろ日本料理の大元となる肝心の醤油に相当する物がないのだ。
「ああ、これだけ日本人の女の子がいるんでいいかと思ってあいつは置いてきたんだが、あまり必要な材料がない時にインチキするのなら、フォミオのスキルが生きるんじゃないかなと」
「ガルムとか、ニョクマムとかの魚醤的な調味料があればと思うんだけど、誰か見なかった?」
泉が建設的な意見を出してくれたが、俺もそいつには懐疑的なのだ。何故なら。
「ああ、魚自体を市場でも見かけないのよね。ここ内陸国家だから」
「そうなんだよな。魚も探しに行かせようとしているくらいなので。俺や泉が海洋沿岸国家まで探しに行くのもありなんだが、ちと手間がかかるな。いっそ、うちの商人をその方面に送り込むか」
「そっちの国の商業ギルドで訊いてみるのはどう?」
「ああ、法衣さん、冴えてる。さすがは魔法使いだけあるな」
「うーん、ありがとう? でも魔女がうどんを煮込むのもシュールな絵だわ。料理は得意なんだけど、うどんもスープも手作りした事はないわね」
「まあ、普通は買って来れば済むしね」
だが、坪根濔さんが実に建設的な提案をしてくれた。
「あたし、知り合いでうどん作って食っている人を知ってるよ」
「え、そんな人がいたの? それを早く言ってくださいよ。勇者の人ですよね」
それがあのヤンキーどもなんかだったらどうするかな。その時はザムザとゲンダスを出して親睦を深めていただくとするか?
「ああそうよ。泉ちゃん、彼を呼んできて」
「ああ、あの人かあ。そういや料理が得意だって言っていたような気が。じゃあちょっと行ってきます」
うちの彼女は玄関へ行くのももどかしいらしく、窓から靴をつっかけて飛び出していった。
そういや、王都の靴を見るのを忘れてた。靴屋のブートンへの御土産にしてもいいと思ったのだし。
「今度そのうちに御馳走してくれるって話してたんだよね。まだ研究中で人に出せるようなものじゃないと言っていたんだけど」
「へえ、誰なんだろうな」
「それは俺だ。久しいな、ハズレの」
「うわあ、ビックリした。連れてくるの早っ、というか、あんただったのかあ」
そのまるで時代劇風の語り方で挨拶をくれた方は、泉に抱き抱えられて窓から入ってきた(なんとなく拉致っぽく)、紛れもなくあの国護のおっさんだった。
「ああ、麦野。本当に久しぶりだな、元気していたか? 今そこを歩いていたら、いきなり青山に掴まってこのザマだ。
緊急事態だというから、そのままついてきたのだが、これは一体何事だ、何の集まりなんだ。そして、青山。頼むから靴は脱ぎたいんで強引に連れこもうとするのはよせ。ここは靴を脱いで寛げるようになっている特別なスペースじゃないか」
俺は思わず笑ってしまった。泉のこういうところがまた好きなんだ。似た者カップルとは、まさに俺達の事さ。
「あっはっは、国護のおっさん、おめでとう。勇者女子会へようこそ、おっさんの女子力が異世界で見事に認められたぜ」
「なんだ、そりゃあ。しかし、麦野。お前今までどこにいたんだ。あの時は庇えなくて悪かったな。おっさん達の中には結構あの時の事を気にしていた連中もいてな、時々酒を飲みながらお前の事を話していたもんだ。あと、陽彩の小僧がお前の事を物凄く気にしていたぞ」
俺は驚いてしまった。そんなに男衆が俺のようなハズレ者の事を気にしてくれていたとは。
「気にするなよ、おっさん。あんただってスライディング膝付きを披露しないといけないくらいマズイ状況だったんじゃないか。しかし、あの陽彩君が何故俺の事を?」
だが、国護のおっさんは苦笑しながら俺の肩をどついた。
「何故ってお前。元々、他の人間はあの子の巻き添えを食って召喚されたようなもんじゃないか。それをお前、一人だけあんなところに置き去りにされたんだ。
あの子はまだ子供で、しかも大人しい性格の奴だしな。城を去る時から、お前の事を見て真っ青になっていたぞ。馬車の中でもずっと俯いちまっていて。
今でも時々、お前の事を捜せないか、俺に相談しにくるんだ」
俺は思わず胸が詰まってしまった。まさか、勇者陽彩本人がそのように俺の心配をしてくれていただなんて。
「そうかあ、そうだよな。みんな同じ人間なんだものな、そう思ってくれたっておかしくはないよな。だが心配するなと伝えてやってくれ。
俺は元気で、うどんを作っていたってよ。ああ、ちなみに俺は今青山と付き合ってるんだ。おっさんも、こっちの子とよろしくやってるんだろ。もうあんたって、女子の間では大評判なんだぜ」
「はっはっは、俺はモテるからなあ。そうか、それはよかった。あいつもこれで肩の荷が一つ下りるだろう」
おっさんの豪快な笑いは、この面子の表情も同じく零れるような笑みで象っていってくれるのだった。
「しまったな、スープの試作をするんだったらフォミオを連れてくるんだった。あれこれと仕事を頼んであるんで、そっちもやらせているんだよな。あいつのスキルは調合だから、うまくやってくれたかもしれないのに」
「うどんのスープって、スキルで調合するものだったのです⁇」
薬師丸嬢の疑問はもっともなのだが、何しろ日本料理の大元となる肝心の醤油に相当する物がないのだ。
「ああ、これだけ日本人の女の子がいるんでいいかと思ってあいつは置いてきたんだが、あまり必要な材料がない時にインチキするのなら、フォミオのスキルが生きるんじゃないかなと」
「ガルムとか、ニョクマムとかの魚醤的な調味料があればと思うんだけど、誰か見なかった?」
泉が建設的な意見を出してくれたが、俺もそいつには懐疑的なのだ。何故なら。
「ああ、魚自体を市場でも見かけないのよね。ここ内陸国家だから」
「そうなんだよな。魚も探しに行かせようとしているくらいなので。俺や泉が海洋沿岸国家まで探しに行くのもありなんだが、ちと手間がかかるな。いっそ、うちの商人をその方面に送り込むか」
「そっちの国の商業ギルドで訊いてみるのはどう?」
「ああ、法衣さん、冴えてる。さすがは魔法使いだけあるな」
「うーん、ありがとう? でも魔女がうどんを煮込むのもシュールな絵だわ。料理は得意なんだけど、うどんもスープも手作りした事はないわね」
「まあ、普通は買って来れば済むしね」
だが、坪根濔さんが実に建設的な提案をしてくれた。
「あたし、知り合いでうどん作って食っている人を知ってるよ」
「え、そんな人がいたの? それを早く言ってくださいよ。勇者の人ですよね」
それがあのヤンキーどもなんかだったらどうするかな。その時はザムザとゲンダスを出して親睦を深めていただくとするか?
「ああそうよ。泉ちゃん、彼を呼んできて」
「ああ、あの人かあ。そういや料理が得意だって言っていたような気が。じゃあちょっと行ってきます」
うちの彼女は玄関へ行くのももどかしいらしく、窓から靴をつっかけて飛び出していった。
そういや、王都の靴を見るのを忘れてた。靴屋のブートンへの御土産にしてもいいと思ったのだし。
「今度そのうちに御馳走してくれるって話してたんだよね。まだ研究中で人に出せるようなものじゃないと言っていたんだけど」
「へえ、誰なんだろうな」
「それは俺だ。久しいな、ハズレの」
「うわあ、ビックリした。連れてくるの早っ、というか、あんただったのかあ」
そのまるで時代劇風の語り方で挨拶をくれた方は、泉に抱き抱えられて窓から入ってきた(なんとなく拉致っぽく)、紛れもなくあの国護のおっさんだった。
「ああ、麦野。本当に久しぶりだな、元気していたか? 今そこを歩いていたら、いきなり青山に掴まってこのザマだ。
緊急事態だというから、そのままついてきたのだが、これは一体何事だ、何の集まりなんだ。そして、青山。頼むから靴は脱ぎたいんで強引に連れこもうとするのはよせ。ここは靴を脱いで寛げるようになっている特別なスペースじゃないか」
俺は思わず笑ってしまった。泉のこういうところがまた好きなんだ。似た者カップルとは、まさに俺達の事さ。
「あっはっは、国護のおっさん、おめでとう。勇者女子会へようこそ、おっさんの女子力が異世界で見事に認められたぜ」
「なんだ、そりゃあ。しかし、麦野。お前今までどこにいたんだ。あの時は庇えなくて悪かったな。おっさん達の中には結構あの時の事を気にしていた連中もいてな、時々酒を飲みながらお前の事を話していたもんだ。あと、陽彩の小僧がお前の事を物凄く気にしていたぞ」
俺は驚いてしまった。そんなに男衆が俺のようなハズレ者の事を気にしてくれていたとは。
「気にするなよ、おっさん。あんただってスライディング膝付きを披露しないといけないくらいマズイ状況だったんじゃないか。しかし、あの陽彩君が何故俺の事を?」
だが、国護のおっさんは苦笑しながら俺の肩をどついた。
「何故ってお前。元々、他の人間はあの子の巻き添えを食って召喚されたようなもんじゃないか。それをお前、一人だけあんなところに置き去りにされたんだ。
あの子はまだ子供で、しかも大人しい性格の奴だしな。城を去る時から、お前の事を見て真っ青になっていたぞ。馬車の中でもずっと俯いちまっていて。
今でも時々、お前の事を捜せないか、俺に相談しにくるんだ」
俺は思わず胸が詰まってしまった。まさか、勇者陽彩本人がそのように俺の心配をしてくれていただなんて。
「そうかあ、そうだよな。みんな同じ人間なんだものな、そう思ってくれたっておかしくはないよな。だが心配するなと伝えてやってくれ。
俺は元気で、うどんを作っていたってよ。ああ、ちなみに俺は今青山と付き合ってるんだ。おっさんも、こっちの子とよろしくやってるんだろ。もうあんたって、女子の間では大評判なんだぜ」
「はっはっは、俺はモテるからなあ。そうか、それはよかった。あいつもこれで肩の荷が一つ下りるだろう」
おっさんの豪快な笑いは、この面子の表情も同じく零れるような笑みで象っていってくれるのだった。
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