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第三章 時を埋める季節

3-53 配給タイム

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 ここはビトーの花の都ホテルの、俺が取ったいつもの貴賓室だ。

 いろいろと思惑があって、勇者達も全員ここに泊まらせた。

 そこに朝から王都の勇者を全員集めてある。
 今から大切な要件があるのだ。

「おーい、みんな、配給の時間だ。

 まずこのアイテムは、俺の力でもこれ以上の数は多分作れないというほどの貴重品だから絶対に無くさないようにな」

 そして、例の鉱石をカムフラージュしたペンダントに入れた物を配った。

 ミスリルの鎖で首からかけて、金具で絞ってはずれにくくできる代物だ。

 王都で買った、目立ちにくい既製品だった。

 俺が中身を開けて、鉱石を見せてやると感嘆の声が幾つも上がった。

「うわ、これって勇者専用の一個しかないはずの、今回取ってきた特殊アイテムだよね。

 麦野さん、こんな物まで作れちゃったんだ」

 薬師丸聖名は殊勝な事を言って恐縮していたが、残りの女子高生のメンツは貰って当然モードだった。

「もうちょっと可愛い容れ物が欲しかったよね」

「しょうがないよ、この鉱石の形に合わせたものなんだから」

「そいつは我慢しな。

 入れ物があんまりでかくても邪魔になるし、精製して小型化するのも無理なんだ。

 この鉱石は、その鉱石としての混じり具合なんかがいいらしくてな。

 それも効果を生み出すためのシステムになっているんだ。

 大精霊が十体も集まって無理押しで作ったと言う代物で、人間なんかにどうこうできるものじゃない。

 強引に同じ物を作れたのさえ僥倖なんだから。

 それに、あまり目立つ容れ物に入れておいて見つかると将軍に取り上げられるかもしれないぞ」

「はーい、我慢しまーす」

 可愛い子ばっかりだから、男からの貢ぎ物は慣れてるっていう感じなのかねえ。

 まあ別にいいんだけどな、俺は彼女達に貢いでいるわけじゃないし。

「それにしても、よくそんな御大層な物が作れてしまいましたね」

 斎藤さんも感心して胸元にかけたペンダントを救い上げた。

 ペンダントというよりも立体ロケットというのに近いか。

 しかも、こいつは各自の魔力紋で蓋をロックできる優れ物の魔道具なのだ。

「ああ、ノームのダンジョンで、ダンジョンとノーム自身の力をありったけ吸い取って作り上げたくらいのものだから、もう代わりが手に入らなくてね。

 うちの眷属にも一部にしか行き渡らないほどの代物さ」

「いいの、そんな凄い物を貰っちゃって」

 坪根濔大先生は、さすがに女子の中では年長なだけあってそう言ってくれたが、俺は手の平をヒラヒラさせて肯定の意を表した。

「ああ、別に構わないさ。
 とりあえず、ここにいるみんなの分だけだな。
 王様には内緒にしておいてくれ。

 姐御、これは本来なら一個しかない時はデバフ担当のあんたが持つべきものなのさ。

 王国はまったくわかっていない」

 兵士の力を少々強化したって、ザムザのような特種スキル持ちや、ミールのようなくそ頑丈な魔獣が相手では所詮は焼け石に水なのだ。

 あの時もデバフがかかると、かなり甲殻が柔らかくなって、あの硬いデカブツでもガンガンに削り放題だった。

「ああ、まあこういう事よね。

 あたしらも実際にやりあってみて実感してるのよねえ。

 人間を少々強くして熊みたいにしても魔人や魔獣には勝てないけど、相手が熊レベルと言わないまでも、強力な魔物程度に落ちたなら人間にもチャンスはあると」

「そういう事さ。
 王国は最初に指定勇者陽彩のスキルに感激し過ぎて目が曇っている。

 というよりも自分の力を過信し過ぎている。

 勇者のブーストさえあれば、自分達でも魔王軍に勝てるという盲信、いや妄信だ。

 というか、もしかしたら、あまりにも負け過ぎて自信を無くした結果の裏返しでそうなっているのかもしれない。

 元々、それで勇者召喚に走ったんだから」

 どちらかというと戦を客観的に見ている、女の子勇者達も同意してくれた。

「そうかもね、あいつらって結構空元気の気合だけで戦を進めようとするし。

 勇者の使い方なかもそう。
 佳人ちゃんの時も、あたしらのミールの時もさ」

「旧式の、こういう剣と槍が中心の軍隊じゃ、結構ありがちの話なのかな~」

 俺は頭の後ろで腕を組んで、お気に入りのクッションにポフンっと体を投げ出した。

 他の連中も適当にリラックスした姿勢でめいめいが寛いでいる。

 気張ったってなるようにしかならないしな。

「実際に魔王軍の幹部と戦ってきた俺が言うんだから間違いねえや。

 まだ非常に強力だという四天王に出会ってもいないのに、あれだけ敵が強力なんだから、まったくマジで敵わねえよ。

 まあ四天王は魔王とその拠点を守っているから魔王城から滅多な事じゃ出てこないんだろうけどな」

 いずれやりあう相手だから、はあえて言わなかった。

 この面子というか、勇者全体でも魔人魔獣とまともにやりあって倒した経験があり、これからも単独で倒せそうなのは、俺と宗篤姉妹のはぐれ勇者だけだろう。

 他の人もこの鉱石を手にして、果たしてやりあえるのかどうか、俺にもよくわからない。

 日頃、王都の勇者と行動を共にしていないので、戦闘力を持つ者も実際にどれくらいの力があるのかよくわからないのだ。

 この前の王都戦でも、俺が行った時にはもうやられてしまっていたし、その後は俺の眷属が戦闘を全て引き継いだので、その辺りの考察ははさっぱりだ。
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