幻影の彼方~青春の狭間に枯れゆく決断~

nnsmost

文字の大きさ
13 / 18
四章-水野輝サイド-

幻影の始まり

しおりを挟む
 病室の薄暗い光の中で、輝はゆっくりと意識を取り戻し、目を開ける。ベッドの隣に座る人影を見て、彼の表情に疑問が浮かぶ。
「君は誰?」
彼の声は細く、しかしはっきりとした不安が含まれている。

 隣に座っていたのは白玖だったが、輝には彼女の顔が全く認識できず、見慣れたはずのその顔がぼやけて見える。病室の扉が開き、看護師らしき人物が入ってくるが、その人の顔も同じく認識できない。彼女は静かに輝のバイタルをチェックしながら、
「どうですか、少しは楽になりましたか?」
と優しく問う。だが輝にはその声が誰のものかさえ分からない。白玖は輝の問いに少し驚くが、すぐに笑顔を浮かべて答える。
「さっきの冗談だよね? 輝、私だよ、白玖。」

 輝は彼女の声に心を落ち着けるが、顔が見えないことの混乱は解消されない。
「白玖真剣になりすぎ、冗談だよ。びっくりした?」
輝は不安を隠し、笑いを交えて白玖に返す。彼の心の中では混乱と不安が渦巻いていたが、その事実を白玖に悟られたくなかった。この一言で、一瞬の間、病室には軽やかな空気が流れる。

 白玖は一瞬戸惑いながらも、輝の言葉に安堵する。
「もう洒落にならないからそういう冗談。」
彼女は彼のジョークに心から笑い、その笑顔が輝に少しの安心を与える。

 しかし、輝にとっては、彼女の顔が認識できない現実が続いている。彼は心の中で自問自答を続ける。なぜ顔が見えないのか、これは何の症状なのか。その答えを求め、彼は医師に相談を決意するが、それを白玖には言えずにいる。

「そろそろ検査の時間だね。」
看護師が再び部屋に入ってきて告げる。輝は彼女の顔をじっと見ようとするが、やはり認識できず、ただその声に従うしかなかった。

 白玖は輝が検査室に向かうのを見送りながら、彼の冗談が本当に冗談だったのか、少し心配になる。彼女は輝が何かを隠しているのではないかと感じ取り、彼の戻りを静かに待つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...