自由を求める者と、自由を奪う者

影樹 ねこ丸

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第一章 真実の壁

第2話 あの日から

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 あの日から四年が経った。
 デウスは10歳。
 近くの広場に毎日通い、友達と仲良く遊んだりしている。
 だが、今でも野望は忘れてはいない。
 あの出来事があったからか、周りの子どもよりは大人だった。
 
 両親を失ってからは、伯母の元で育った。
 伯母は前から優しくしてくれていて、今では唯一の親族だ。
 伯母の名は、クーリ・ウェイド。
 クーリは料理やらなんやら、家事全般をやってくれた。
 両親を失って、同情してくれているのだろうか?
 至れり尽くせりなのは悪いと思い、手伝いはしっかりとしている。
 今では自分の朝食なら、自分で作れるほどになった。

 そんなこんなでクーリに育ててもらい、今に至る。
 仲良しな友達は、メルリア・クァルアと、フィン・イダヴェータ。
 みんな将来は騎士団を目指し、魔獣を倒そうと志している。
 だが本当は、秘密結社の仲間である。
 秘密結社に入りながらも、騎士団に所属し、不正を暴こうとしている。
 結果は人類の味方だが、敵のような存在になるだろう。
 バレたら罵声を浴びされるに違いない。
 本当は、人類のためにしていることなのに。
 しかし、その事を分かっていても、二人は同意してくれた。
 もし二人が親などにバラしたら、とんでもないことになるが、二人はそんなことはしなかった。
 デウスと思考が同類の子どもだった。

 この三人は毎日を共に過ごし、泊まりに来ることもあった。
 フィンとデウスは男だが、メルリアは女だった。
 男勝りな一面もあり、フィンとデウスも格闘で負けることがあった。
 そんなメルリアも女子な一面もある。
 シャイだし、好きな人もいるらしい。
 なんだかよく分からない人なんだよなぁ...。

 フィンは文武両道で、学問も修め、運動もできる。
 雑学や魔獣の知識が豊富で、その上運動神経も良い。
 有能過ぎるが故に、前までは差別をされていた。
 それをデウスが救ったのだ。
 それからはデウスと仲良くなり、メルリアとも馴れていった。

 「この駄菓子屋は最高だなぁ」
 「そうだねぇ」
 「たくさんあるし、安いし、美味しい!完璧じゃん」

 いつもの駄菓子屋で、遊んでいた。
 子どもとは思えないが、近くの山道を走ったり、棒を振る練習。
 肉体トレーニングなど、遊びとは到底思えないことを一日やった後に、駄菓子屋で休憩。
 これが至福の一時。
 なんとも落ち着く駄菓子屋で、疲れきった体を休ませる。
 駄菓子を口に運びながら、今日の反省を行う。

 「もう少し体力を上げた方が良いかなぁ」
 「魔獣と戦うには持久力が必要だからね」
 「体のしなやかさもつけるために、ストレッチとか、体操とかもやってみようよ」
 「いいねぇ!さすがフィン!」
 「体幹も強くした方がいいと思うな」
 「そうだね。魔獣にもし吹き飛ばされても、動じないくらいの体幹を鍛えないとね」
 「まだまだやることはいっぱいあるねぇ」

 そんなこんなで日が暮れかけてきた。
 最後にみんなで氷菓子を食べて、体をクールダウンさせた。

 「美味いなぁ」
 「暑い日には、欠かせないね!」

 氷菓子はみんな大好きだった。訓練終わりは、特に美味しく感じる。
 口の中が一気に冷えて、気持ちいい。
 頭の中も冷めて、訓練は終わったんだ、というか気分になる。
 がしかし、

 「ドガーン!」

 激しい轟音と、大地の揺れを感じた。
 またしても、壁は破壊された。
 おそらく壁内に魔獣が入ってきているだろう。
 氷菓子を捨てて、デウスたちは外に出た。
 するとそこには、前とは違う魔獣が見えた。
 巨大なのには変わり無いが、この前の紫黒い魔獣とは違い、ゴーレムのようだった。
 守りは固く、攻撃力も高そうな魔獣だ。
 
 「よしお前ら、行くぞ」
 「「おう!」」

 恐怖で足が震えたが、その足は前とは違って、前へ前へと進んでいる。
 しかも魔獣に向かって。
 二人も一緒に向かった。
 10歳の子どもが向かったところで、なんの助けにもならない。
 分かっていた。分かっていたのだが、向かわなければならないと思った。
 運命的な何かを感じた。
 トレーニングで鍛えた脚で、三人は戦場に向かった。

 壁の破損部分が転がり落ちている。
 地面の揺れも大きく感じる。

 「た...けて...さい...!たすけてください...!」
 
 遠くから声が聞こえる。
 三人は顔を見合わせ、声が聞こえる方へ向かった。
 壁の欠片が転がっていて、走りにくかったが、三人は身軽に越えていく。
 
 「助けてください!!」
 
 その声はさっきとは違って、鮮明に聞こえた。
 そして姿も捉えた。

 「大丈夫ですか⁉」

 その人は声を聞いて一瞬喜びを見せたが、子どもだと分かりかなり驚いていた。
 瓦礫に下敷きにされて、身動きが取れないようだ。

 「君たちは、何故ここにいる?」
 「魔獣を倒すためです!」
 「君たちは子どもだぞ!子どもが敵う相手じゃないんだ!」

 泣くように叫んでいるその人を見て、可哀想な気持ちになった。
 この人は魔獣を倒そうと思っていない。
 静かに穏便に過ごせればいい。そう思っている。
 三人は協力して瓦礫を片付け始めた。
 その人にもなるべく脱け出そうとしてもらい、頑張って瓦礫を動かした。
 そして数十秒で、その人は脱け出した。

 「ありがとう!恩に着るよ。お礼に、避難場所まで連れてってあげるよ。」

 その人は脚を負傷していたが、なんとか歩けるようだった。
 
 「おぉい、ルキア!」
 「おぉ!イークウェス!良かった、お前も無事か。」
 「どうしたんだ?」
 「瓦礫の下敷きになって、この子達に助けてもらったんだ。」
 「ルキアを救ってくれてありがとな!」

 三人は頭を下げた。
 良いことをしたのだと思った。
 俺たちは魔獣を倒したい。けど今できるのは、こんなことだけだ。
 でも、それでも人が幸せになるのなら。
 それはそれで良いのではないだろうか。

 「お前ら!町の住民の避難を」
 「わかってる。今俺も言おうとしたところ。」
 「私も」

 三人の意見が一致した。
 今俺たちにできることを、見つけたのだ。
 三人は瓦礫まみれで、魔獣が迫る町を走り抜けた。
 助けを求める声が聞こえる方へ、くまなく捜索をした。
 人を助けるために、一人でも多く。

 かなり魔獣が迫ってきている。
 怪我して歩けない人や、道がふさがって通れない人など、約二十人の住民の避難を補助できた。
 そのあとも、避難場所までの道のりなどを説明したり、荷物運びを手伝ったりした。
 俺たちがやれることは、やりきった。
 
 「助けてくれ」

 三人も避難しようと思った時。
 微かにその声が聞こえた。
 行ってみると、そこには一人の老人がいた。
 老人も瓦礫の下敷きになっていた。
 さっきよりは少なめだったが、老人が潰されている。
 体力の無い老人は、死亡確率が高い。
 三人は老人の元に駆け寄った。

 「大丈夫ですか?」
 「あぁ、なんとか」
 「いま瓦礫をどけるので、待っててくださいね。」

 老人は頷き、静かに待っていた。
 三人はせっせと瓦礫をどけた。
 このペースなら、すぐに片付けられそうだ。
 だが、その喜びを踏みにじるかのように、遠くから音が聞こえた。

 「ズシン、ズシン!」

 魔獣の足音だ。
 今は遠いだろうが、老人を救えない。
 三人は自分達の無力さを知った。
 魔獣が迫ってきたら、逃げ出したくなってしまう。
 目の前には苦しそうな老人が倒れている。
 三人は顔を見合わせた。
 全員心は決まっているようだ。

 「よし、作業を続けよう」
 「おう」

 ズシンズシンという音が、段々大きくなっている。
 このペースだったら、ギリギリ間に合うかどうかだ。
 間に合っても、逃げ切れるだろうか?
 そんなことどうでもいい。
 さっさと片してしまおう!
 
 
 
 

 
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