自由を求める者と、自由を奪う者

影樹 ねこ丸

文字の大きさ
3 / 5
第一章 真実の壁

第3話 トラウマ

しおりを挟む
 デウスたちは順調に瓦礫を片していった。
 だが、魔獣も迫ってきている。
 鈍感な魔獣なら気づかないかもしれないが、どんな魔獣だかも分からない。

 「もう少しだ!ペースあげていくぞ」
 「おお!」

 数少ない瓦礫を片した。
 そしてほとんど無くなったら、老人を引っ張って脱け出した。
 救助成功だ。

 「ドスン‼」

 しかし、目と鼻の先には、大きな魔獣が立っていた。
 壁を壊した魔獣よりはでかくないが、十分な威圧を感じる。
 
 「ヤバイ」
 「間に合わなかった...‼」

 この距離で逃げても、追い付かれて喰われるだけだ。
 一気に足が重くなった。
 目の前には歩けない老人がいる。
 三人で運んでやっとのことだ。
 そんな速度じゃ、一瞬で追い付かれる。
 まただ!また前と同じように、足が動かない。
 
 「デウス!行くぞ!」
 「今、やるしかない...!」

 一瞬二人が何を言っているのか、分からなくなった。
 かなりパニックしているのか、何をすればいいのかさっぱりだった。
 頭の中は真っ白で、もう死んでしまう、としか思えなかった。
 二人が何かを叫んでいる。必死に。
 なんでそんなに必死なんだ?どうせ死ぬんだ。

 「デウス!このまま喰われるのを待つのか⁉」
 「今までやって来たことはなんなの?」

 ハッとした。
 成長したつもりだった。
 だけど実際は、していなかったんだ。
 まだ子どものまんまだった。公園で遊んでいるような、子どものままだったんだ。
 自分は強くなったと思いたかったから、毎日訓練をしていた。
 誰かに甘えたかったから、仲間を作った。
 所詮はこんなものだ。俺は、幼稚だった。
 
 「デウス!」
 「ごめん。もう無理だよ」
 「無理じゃないよ!私たちならやれる」
 「何をだよ。あんな怪物倒せんのかよ?こんなチビ三人が。俺たちがやってたことは、遊びだったんだ」
 「何を言ってるんだ?お前は誰だ?デウス!思い出せよ!志を」
 「なんだよそれ。わかんない」

 二人の顔が歪むのがわかった。
 そして俺の視界も歪んだ。
 世界が歪んだ。もう終わりなんだ。

 「お前はそういうやつだったんだ。」
 「いいよ。私たちだけでやる。」
 
 二人は魔獣の元に走っていった。
 俺はそれをただ見ているだけだった。 
 10歳の子ども二人が立ち向かったところで、傷ひとつ付けられない。
 「何を言ってるんだ?お前は誰だ?」俺は誰なんだろう?
 フィンに言われて、自分でも分からない自分に、呆れていた。
 二人は鉄の棒を持って、向かっていた。
 その時。
 二人は一瞬にして、吹き飛ばされた。
 俺の手前まで転がってきた。
 顔は血だらけだ。
 また俺のせいで、死ぬのか?
 目の前で俺は、大事な人を失うのか?
 母さんの時みたいに...!
 みんな俺の前から消えていくのか...?

 「なんでだよ!お前らまで死ぬなよ!もう大事な人は失いたくないんだよ!
 父さんが殺されて、母さんも殺されて。お前らまで死なないでくれ。お前らがいなかったら、俺はどうすればいいんだよ!」
 「デウス。お前は、...生きるんだ...死ぬんじゃない...だから、早く...逃げろ」

 フィンは口を開いた。その口からは、戯れ言が飛び出してきた。
 すると、俺の目からは大粒の涙が飛び出してきた。
 ただの仲間じゃない。大事な仲間なんだ!見捨てるわけにはいかないんだ!

 「ありがとうフィン。でも俺は逃げないよ。」
 「デウス。どうか、...死なないで」

 メルリアからもそう言われた。

 「ならお前らも死ぬなよ!俺はお前らと一緒に生きたいんだよ!死ぬ時くらい、自分で決めさせてくれ。」

 もう俺の心は決まっていた。
 涙を拭い、デウスは立ち上がった。

 「ごめんなじいさん。俺らじゃ救えなかった。」

 聞こえてるか分からないが、一応そう言った。
 そして、魔獣と対峙した。
 威圧を感じたが、俺は走った。
 
 “フィン、メルリア。俺を置いていくなよ。ずっと一緒にいるって、約束しただろ?”

 デウスは魔獣に向かって、鉄の棒を振りかぶった。
 鉄の棒は思いっきり、魔獣の脳天を打ち付けた。
 「ガン!」と音がして、かなりの手応えを感じた。
 だが、
 俺の体は急に後ろに吹き飛んだ。
 魔獣はびくともせずに、手で俺を叩いた。
 やっぱ敵わなかった。

 “ごめん。フィン、メルリア。俺のせいでこんなことになって。俺を恨んでもかなわない。本当にごめん。”

 デウスはゆっくりと目を閉じた。
 フィンとメルリアと一緒に死ねるなら、本望だ。
 デウスは暗闇の中にいざなわれた。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 がしかし、デウスは目を覚ました。
 悪夢のようなものを見ていた気がする。
 全身は汗でぐっしょりと濡れていた。
 もしかして夢だったのだろうか?というか、夢であってほしい。
 良くは思い出せないが、フィンとメルリアとデウスが死んでしまったのだ。
 だけど今こうして、目を覚ましている。
 ここは天国なのだろうか?
 周りを見回したが、そこはどうやら病室のようだった。
 頭に痛みが走った。
 どうやらさっきの出来事は本当のようだ。
 なら何故ここにいるのだろうか?

 「ようやく目を覚ましたねぇ」

 白い服を着た女性が立っていた。
 看護師なのだろうか?

 「ここはどこ?」
 「病院だよ」
 「なんでここに?」
 「騎士長が見つけてくれたのよ。」
 「騎士長?」
 「そうよ。騎士団で最強と名高い、ルヴィア騎士長にね。」

 あのルヴィア騎士長が?俺を?
 そうだ!
 二人は!

 「あの、ここにもう二人子どもが来てませんか?」 
 「もう二人?」

 もしかして。二人は死んでしまったのか?
 また俺だけ助かったのか?
 俺だけ置いていかれたのか?

 「あぁ、あの二人ね。まだ起きてないけど、生きてはいるよ。」
 「良かったぁ」

 安心したら、また体にドッと疲れがのし掛かった。
 全身がかなり痛む。まぁ魔獣に吹き飛ばされたら、そうなるな。
 そしてデウスはまた眠りに着いた。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 次に目を覚ましたのは、夜だった。
 辺りは暗く、微かなライトの光が見える程度だった。
 俺のせいでこんな目に遭ったけど、死んでないなら良かった。
 二人は一生一緒に生きていく、大事な仲間だ。
 また仲間として受け入れてくれるだろうか?
 それとももう、仲間では無いと言われるだろうか?
 不安が込み上げた。
 眠れなかった。

 そして日が昇るまで、デウスは起きていた。
 早く二人に会いたかった。
 不安は抱えていても、会いたかった。


 今回の襲撃は被害が多かった。
 小さな救助隊のおかげで、二十数名の命は助かった。
 がしかし、今回は前の襲撃よりも大きなもののため、被害はかなり深刻だった。
 しかも、七つ目の壁を突破され、六つ目の壁に後退したのに、またしても後退することになった。
 今我々が居住できるのは、五つの壁の中だけだ。
 領土にして、四分の一を失い、人口は、十分の一を失った。
 騎士団も奮闘したが、やはり退けることはできなかった。
 今回の戦いで、人類の脳裏に焼き付いたのは、

 “人類は魔獣に勝てない”

 ということだった。
 圧倒的な差を見せつけられ、もはや希望すらも失っていた。
 
 だが、デウスはまだだった。
 一瞬消えかけた炎だが、再び炎は心に灯っていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

処理中です...