自由を求める者と、自由を奪う者

影樹 ねこ丸

文字の大きさ
4 / 5
第一章 真実の壁

第4話 夢物語

しおりを挟む
 デウスは朦朧とした意識のなか、二人を探していた。
 フィンとメルリア。俺の大切な仲間だ。
 そして一室にたどり着いた。何故か、ここに来た。
 そう、運命的な何かを感じたのだ。

 中は綺麗で、ベッドがたくさん置いてあった。
 しかし、何故かなんの音もしなかった。
 背筋に冷たいものが走った。
 みんな死んでいる。まさか、ここにフィンとメルリアはいないだろう。
 俺は病室を見渡す。
 しかし、俺の目は二人の姿らしきものを捉えた。
 泣きたくなった。見たくなかった。
 近くまで行って、顔を確認した。
 間違いなく二人だった。

 「フィーン!メルリアーーー!!」

 デウスは泣き叫んだ。
 病室に張り裂けんばかりの音が響いた。

 「生きてるよ、ちゃんと」

 ん?なんだ?二人の声だ。
 急に目の前が、ぼやけた。
 それが涙のせいなのか、唐突になのかよくわからなかった。
 だが、次の瞬間。俺は病室のベッドの上に乗っていた。
 目を開けると、目の前にはフィンとメルリアがいた。
 頭に包帯を巻いて、顔中にも処置をしてあるが、俺はすぐにわかった。
 俺の仲間の、フィンとメルリアだった。

 「目を覚ましたか、デウス」
 「おぉ、ようやくお目覚め?」

 いつもの二人に俺は泣いてしまった。
 さっきの悪夢のせいでもあるだろうが、とにかく嬉し涙が止まらなかった。
 
 「ごめん、俺のせいで、こんな目に遭わせて。」
 「良いんだよ。俺は、デウスに着いていくって決めたんだ。」
 「私もよ!」

 今俺の顔は、幸せで溢れているだろう。
 涙でグチャグチャになっているだろう。
 
 「お前さ、夢の中で俺達の名前を呼んだだろ?」
 
 さっきの夢をしっかりと思い出せないが、二人の名前を叫んだんだ。
 悲しみのあまり。
 だが、今は嬉しすぎて叫びたくなった。

 「うん、多分。」
 「どんな夢を見てたの?」
 「教えねぇよ。」

 というか教える気にならなかった。
 今という時間を過ごせるなら、過去の夢など語らない。
 夢は心の中に閉まっておけばいい。
 たとえ悪夢でも、それも大事な夢なんだ。
 友情や絆を教えてくれた、大事な夢なのだから。

 その日はまだ3人とも入院して、次の日に退院することになった。
 もうすっかり元気になった。
 体も回復し、痛みも大分引いた。
 二人と楽しく会話していた。
 何も無く、殺風景な病室でも、この二人といれば乗り越えられる気がした。

 「まさかこの年で魔獣と戦うとはね。思いもしなかった」
 「しかもかなり大きかったね。十メートル以上あったよ?」
 「それに吹き飛ばされたんだぜ?でも生きてるんだ。俺たちは」
 「毎日の訓練のおかげかな。」
 「多分訓練をしてなかったら、今頃三途の川を渡ってるよ」
 「縁起でもないこと言わないの!」

 3人はこんな出来事さえも、楽しく語れた。
 死んでしまったら、何もできない。
 楽しく話すこともできない。
 けど、生きていれば、楽しむことができる。
 どんなことがあっても、死んではいけないのだ。

 「魔獣って強いけど、敗因は武器が弱かったせいだ」
 「そうだよな!騎士団の武器だったら、絶対勝ってた!」
 「言い訳は見苦しいからやめて」

 ふとした話で笑いが起きる。
 それが友達。それが仲間。

 「そういえば秘密結社は、今どうしてるの?」
 「今でもきちんと活動はしてるよ。」

 秘密結社の名は、《自由を求める者レーゼント・ヴァンスター》。まさにその名の通りだ。
 謎に包まれた魔獣の住む世界。
 その中で、秘密結社は、自由を求める。
 壁や魔獣に縛られた生活は、もう飽き飽きだ。
 魔獣を殲滅して、この世の中に、平和と自由をもたらすんだ。
 自分ならできる。俺ならできる。
 この世界を平和にできる!自由になれる!

 「なんかさ。世界って、良いことばかりじゃないよな。」
 「急にどうした?」

 フィンの言葉に驚いた。
 今、自分もそんなことを考えていたからだ。

 「お前らと過ごす日々は楽しいけど、それを踏みにじるように悪い日がやって来る。」
 「この前みたいな。」
 「まぁ、神様が決めたのかな?運命ってやつを。」
 「さぁな。そもそも神様なんてただの概念で、居るかも分からない。」
 
 確かに神様なんて、居るか分からない。
 何故なら誰も見たことが無いからだ。
 証明できるわけでもないし、確認できるわけでもない。
 昔の人が何かにすがりたくて、作っただけの空想の存在かもしれない。
 だけど、

 「俺は居ると思うな。神様が」

 二人がこちらを見た。

 「神様か分からないけど、人智を越えた何者かがこの世には存在するんだよ。それを人々は神様と言って、感謝したり、祈ったりする。全く無意味かもしれないのに。だけど、信じていればそれは、神様なんじゃないかな?実際に存在しなくても、この世に居る人類が神様を信じ続ける限り、神様は存在し続けると思うな。もしかしたら、運命という概念そのものが、神様っていうのかもしれない。運命を擬人化した存在かもしれない。」

 デウスの口からは到底出てこないはずの言葉だった。 

 「デウス...、頭でも打ったのか?」

 フィンは本気の顔で心配してくる。
 そんなに意外だったのか?
 ちょっと心外だぜ。

 「打ったけど、別にそんなことは普通に言うよ。」
 「でも今まで聞いたことなかったから。」
 「だからってそんなに驚かないでよ。」

 驚かれ過ぎて、こっちが驚いてしまった。
 その後は難しい話をしていた。
 この世界にはなんで魔獣が居るのか?
 人類が居るのか?
 何故魔獣と人類は戦わなければならないのか?
 俺たちは何故出逢ったのか?
 運命とはなんなのか?
 そんな話をしていたら、もう日が暮れていた。
 10歳がこんな難しい話をするなんて。
 
 「眠くなってきたね」
 「おい、まだ夕飯食ってねぇぞ!」
 「だって眠いんだもん」

 3人は食堂に行った。
 最初で最後の病院の食堂だ。
 メニューはかなり安くて、3人の小遣いで買うことができた。
 3人とも、唐揚げ定食を頼んだ。
 
 「うわぁ」
 「旨そうだなぁ」

 ほんのりと湯気が出て、香りを感じる。
 白いご飯に、唐揚げ。
 実に至極の一品だった。

 「美味しいぃ」
 「サクサクじゃん!」

 本当に美味しかった。
 今までで、こんなに美味しいものを食べたことがあっただろうか?
 3人が定食を食べていると。

 「デウス!」
 
 どこかからか、声が聞こえた。
 デウスは嫌な予感がした。

 「クーリ伯母さん。」
 
 3人はクーリの急な登場に驚いた。

 「何してるの!逃げ遅れて怪我をするなんて!馬鹿ですか‼」

 食堂中に声を響かせて怒鳴った。
 いつもは温厚な性格のため、3人とも言葉を失った。

 「まさかふざけてたんじゃないでしょうね?」
 「いやそれは違います。」
 「じゃあなんで逃げ遅れたの!」
 「逃げ遅れた人を、助けてたんだよ!」
 「そんなことを言って、信じると思いますか‼」

 もはやクーリには通じなかった。
 甥っ子を心配する気持ちと、叱る気持ちが合わさっている。
 
 「あのぉ」

 ピリッとした空気を切り裂くように、隣から声が割って入った。
 そこには、3人が助けようとした、じいさんだった。
 生きていて良かった。

 「なんですか?」
 「私はこの子達に助けてもらいました。この子達がいなかったら、私は今ここにいなかったでしょう。」
 「本当ですか?本当に、この子達ですか?」
 「はいそうです。瓦礫をどけてくれて、近づいてきた魔獣に勇敢に立ち向かっていました。」
 
 じいさんはそう言うと、俺達に礼を言った。
 ありがとう、と。一言。
 その一言が、温かく、とても重い言葉だった。
 俺達は、人を救ったんだ。
 さっきはクーリに主張したものの、今になって考えるとすごいことだ。
 自分達がしたこととは、まったく思えなかった。
 ニュースとかで耳にするような話だ。

 「そうですか。それは良かった。デウス、あなたは良い子ね。」

 クーリはいたたまれずに、デウスを褒めた。
 心の底から言ってるかは分からないが、そう言った。
 その日は一応病院で寝泊まりした。
 病室に戻ったら、ベッドに潜って話をした。

 「俺達があのじいさんを救ったんだよな。」
 「でも最終的には、騎士長が救ってくれたんだろ?」
 「いや、でもおじさんを救ったのは、私たちなんじゃない?」
 「ていうか、他にも救ったじゃん。瓦礫に潰されてた兄ちゃんとか。」
 「歩けなかった女の人とか、道が分からなかった婆さんとか。」
 「迷子の男の子もいたね。」

 やっぱり俺達は、人を救ったかもしれない。
 魔獣が侵入してきて、それを食い止めたわけではないが、人を助けたかもしれない。
 それが今、俺達にできることだったから。
 魔獣とは戦えないし、食い止められない。
 なら、少しでも多く人を助ければ良い。
 そう考えた。

 「もうそろそろ寝ようよ」
 「そうだな。眠いし」
 「おやすみ」

 3人は毛布をかぶり、布団をかぶせた。
 温かいベッドの中で、3人は夢の中に入っていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

処理中です...