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第四章「はじまりの血、失われた月夜」
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夜が来るのが、こんなにも恐ろしいと思ったのは初めてだった。
任務初日。
ポンとミクは、甲羅谷を離れて三日目の晩、森を越えた“月映の関”にたどり着いた。そこはかつて、兎族との境界線とされた静かな峠で、今はもう見張りもいない。すべてが過去の遺物になっていた。
「兄ちゃん、ここ……何か変だ」
月明かりに照らされた古びた鳥居。その奥に、なぜか血のような臭いが漂っていた。
「……ミク、気を張れ。来るぞ」
ポンが言った瞬間、竹林の影から、何かが飛び出した。
白い影――。
そして、冷たい風が二匹の頬を切った。
「斬った、のか……?」
ミクの声は震えていた。だが、斬ったのは彼らではない。
目の前に立っていたのは、一匹の白兎。
白銀の羽織、凍てついた眼差し。そして、その手には血の滴る刃。
「おまえたち……誰だ」
低く、凛とした声。女だった。
「俺たちは、甲羅谷のポンとミク……仇を討つため、お前たち兎一族を――」
「ならば、斬れ」
少女は静かに言った。
「この身が“鬼”であるうちに」
そのとき、空に雲がかかり、月が陰った。
白兎の気配が一変する。まるで闇そのもののように、冷たい“鬼の気”が吹き出す。
「兄ちゃん、こいつ、ただの兎じゃない……!」
「わかってる。でも……逃げない」
ポンは足を踏み出した。
そして始まった、“初めての斬り合い”。
刃が交わり、甲羅が弾き、血が飛び散る。
白兎は言った。
「私は“ユエ”。月夜にだけ、鬼になる――そんな呪いの兎よ」
ポンの甲羅に刃が届く寸前、ミクが飛び込んだ。
渾身の一撃がユエの腕を弾く。
「ポン兄ちゃんに、指一本触れさせるかよッ!」
一瞬の隙。その間に、ユエは距離をとり、息を整える。
その目に浮かんでいたのは……涙だった。
「ならば……次の月夜までに、強くなれ」
そう言い残し、彼女は闇に溶けるように姿を消した。
静寂だけが、月映の関に残った。
任務初日。
ポンとミクは、甲羅谷を離れて三日目の晩、森を越えた“月映の関”にたどり着いた。そこはかつて、兎族との境界線とされた静かな峠で、今はもう見張りもいない。すべてが過去の遺物になっていた。
「兄ちゃん、ここ……何か変だ」
月明かりに照らされた古びた鳥居。その奥に、なぜか血のような臭いが漂っていた。
「……ミク、気を張れ。来るぞ」
ポンが言った瞬間、竹林の影から、何かが飛び出した。
白い影――。
そして、冷たい風が二匹の頬を切った。
「斬った、のか……?」
ミクの声は震えていた。だが、斬ったのは彼らではない。
目の前に立っていたのは、一匹の白兎。
白銀の羽織、凍てついた眼差し。そして、その手には血の滴る刃。
「おまえたち……誰だ」
低く、凛とした声。女だった。
「俺たちは、甲羅谷のポンとミク……仇を討つため、お前たち兎一族を――」
「ならば、斬れ」
少女は静かに言った。
「この身が“鬼”であるうちに」
そのとき、空に雲がかかり、月が陰った。
白兎の気配が一変する。まるで闇そのもののように、冷たい“鬼の気”が吹き出す。
「兄ちゃん、こいつ、ただの兎じゃない……!」
「わかってる。でも……逃げない」
ポンは足を踏み出した。
そして始まった、“初めての斬り合い”。
刃が交わり、甲羅が弾き、血が飛び散る。
白兎は言った。
「私は“ユエ”。月夜にだけ、鬼になる――そんな呪いの兎よ」
ポンの甲羅に刃が届く寸前、ミクが飛び込んだ。
渾身の一撃がユエの腕を弾く。
「ポン兄ちゃんに、指一本触れさせるかよッ!」
一瞬の隙。その間に、ユエは距離をとり、息を整える。
その目に浮かんでいたのは……涙だった。
「ならば……次の月夜までに、強くなれ」
そう言い残し、彼女は闇に溶けるように姿を消した。
静寂だけが、月映の関に残った。
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