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第六章「月を呪う兎の記憶」
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月牙宮――
甲羅谷の南、深い霧に包まれた渓谷に、かつて兎一族の本陣があった。今は誰も近寄らぬ廃宮。その闇に向かい、三つの影が歩を進める。ポン、ミク、そして白き外套をまとった兎――ユエ。
「月が満ちる夜だけ、わたしは“それ”になる。月の呪いを受けた呪兎(じゅと)。それが……わたしの正体よ」
ユエはぽつりと語る。澄んだ声に震えが混じる。
「月牙宮は、その呪いを生み出した場所。わたしの家。地獄の始まり……」
ミクが立ち止まり、ユエを見る。
「君は……敵じゃないのか?」
「敵よ。でも、兎一族もまた、わたしの敵なの。皮肉なものね」
◆ユエの記憶
かつての月牙宮――
純白の石造りの宮殿。月の巫女の血を引く者たちは、特別な術で鬼の力を抑え、戦士を育てていた。その一族の中でも異端とされたのが、ユエ。
「生まれたときから、私は“完全な鬼”だった。人の心を持ったまま、鬼としての力を宿す最初の存在。……父も母も、わたしを檻に閉じ込めたわ」
ある晩、月が真円に満ちた夜、ユエは自らの力で月牙宮を焼き尽くした。父母を含む一族の半数はその夜に死んだ。生き残ったのは、鬼を操る者たち――ユエに呪いを刻んだ張本人たちだった。
「だから、壊したい。兎一族も、呪いも、全部」
ユエの金の瞳に、深い絶望と誓いが燃えていた。
◆鬼化の苦悩
その夜も、月が満ちかけていた。ポンたちは廃宮の一室で野営していたが、深夜、異変が起こる。
――ガリッ
爪が岩を裂く音。白兎の姿は影と化し、血のような赤い月明かりに照らされていた。
「ミク、下がれ!!」
ポンが咄嗟に弟を庇う。
「ユエ、聞こえるか!戻れ!!」
だが、ユエの心はもはや届かない。鬼化した彼女の牙が、ミクの肩をかすめる――その瞬間、ミクの目が見開かれた。
「……泣いてる?」
鬼の面に覆われたユエの頬を、一筋の涙が流れていた。心はまだ――完全には堕ちていない。
ミクはその手を伸ばした。
「君は、僕らの仲間だ。……信じてる」
鬼の爪がミクに届く直前、ユエの体が震え、膝から崩れ落ちた。
「わたしを……殺して……」
震える声に、ポンは歯を食いしばった。
「お前を殺さない。共に戦え、ユエ。俺たちと一緒に、一族の呪いを断ち切ろう」
廃宮の静けさが戻った時、ユエは月明かりに背を向けていた。再び目を開けたとき、そこにいたのは、鬼ではなく、震える一人の兎だった。
甲羅谷の南、深い霧に包まれた渓谷に、かつて兎一族の本陣があった。今は誰も近寄らぬ廃宮。その闇に向かい、三つの影が歩を進める。ポン、ミク、そして白き外套をまとった兎――ユエ。
「月が満ちる夜だけ、わたしは“それ”になる。月の呪いを受けた呪兎(じゅと)。それが……わたしの正体よ」
ユエはぽつりと語る。澄んだ声に震えが混じる。
「月牙宮は、その呪いを生み出した場所。わたしの家。地獄の始まり……」
ミクが立ち止まり、ユエを見る。
「君は……敵じゃないのか?」
「敵よ。でも、兎一族もまた、わたしの敵なの。皮肉なものね」
◆ユエの記憶
かつての月牙宮――
純白の石造りの宮殿。月の巫女の血を引く者たちは、特別な術で鬼の力を抑え、戦士を育てていた。その一族の中でも異端とされたのが、ユエ。
「生まれたときから、私は“完全な鬼”だった。人の心を持ったまま、鬼としての力を宿す最初の存在。……父も母も、わたしを檻に閉じ込めたわ」
ある晩、月が真円に満ちた夜、ユエは自らの力で月牙宮を焼き尽くした。父母を含む一族の半数はその夜に死んだ。生き残ったのは、鬼を操る者たち――ユエに呪いを刻んだ張本人たちだった。
「だから、壊したい。兎一族も、呪いも、全部」
ユエの金の瞳に、深い絶望と誓いが燃えていた。
◆鬼化の苦悩
その夜も、月が満ちかけていた。ポンたちは廃宮の一室で野営していたが、深夜、異変が起こる。
――ガリッ
爪が岩を裂く音。白兎の姿は影と化し、血のような赤い月明かりに照らされていた。
「ミク、下がれ!!」
ポンが咄嗟に弟を庇う。
「ユエ、聞こえるか!戻れ!!」
だが、ユエの心はもはや届かない。鬼化した彼女の牙が、ミクの肩をかすめる――その瞬間、ミクの目が見開かれた。
「……泣いてる?」
鬼の面に覆われたユエの頬を、一筋の涙が流れていた。心はまだ――完全には堕ちていない。
ミクはその手を伸ばした。
「君は、僕らの仲間だ。……信じてる」
鬼の爪がミクに届く直前、ユエの体が震え、膝から崩れ落ちた。
「わたしを……殺して……」
震える声に、ポンは歯を食いしばった。
「お前を殺さない。共に戦え、ユエ。俺たちと一緒に、一族の呪いを断ち切ろう」
廃宮の静けさが戻った時、ユエは月明かりに背を向けていた。再び目を開けたとき、そこにいたのは、鬼ではなく、震える一人の兎だった。
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