双甲伝-SOUKOUDEN-

野口てんぐ

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第七章 「忍び寄る影」

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夜の帳が降りる頃、月牙宮の門は、冷たい風にきしんでいた。
 月明かりが照らす石造りの回廊。その奥に、ポンとミク、そしてユエの三人の影が忍び込む。

「……こっち」
 ユエの声は囁きのように細く、だが迷いなく響いた。

 かつて兎一族の根城であり、今もなおその中心であるはずの“月牙宮”。
 だが、内部は思いのほか静かで、廃墟のような雰囲気すら漂わせていた。

 壁には古い刻印。月を象った兎の紋が無惨に削り取られている。
 まるで、誰かが“歴史そのもの”を封印しようとしているように見えた。

 ポンが足を止め、天井の高い円形の広間を見上げる。

「この場所……変だ。敵の本拠って感じがしない」

 ミクも頷く。「戦った痕も、気配も薄い。……ユエ、本当に“ここ”でいいの?」

 問いに答える代わりに、ユエはわずかに俯いた。だが、前へ進む足は止めなかった。


---

 突如、床が震えた。

 奥から、重い音が響いてくる。ずん、ずん、と大地を叩くような足音。
 次の瞬間、巨大な影が現れた。

「ここまで来たか。カメの子らよ……!」

 現れたのは、全身を金属の鎧で包んだような巨漢の兎。名を、**剛鉄(ごうてつ)**という。
 手には巨大な大槌。一振りすれば、石壁ごと敵を叩き潰す凶器だ。

「お前が……父の仇か……!?」
 ポンが叫ぶ。

 剛鉄は、不敵に笑った。

「父親……あの“甲羅打ちのカメ”か。懐かしいな。だが奴は、俺の手ではない。
 ……命令に従っただけの話だ」

 その言葉に、ポンの怒りが爆発する。

「“命令”で殺しただと……!!」

 剛鉄の部下たちが、四方から襲いかかる。
 ミクが駆け、手下の一人に甲羅を跳ね飛ばすようにぶつける。小柄ながら俊敏な動きで数人を引きつけた。

 ポンは正面から剛鉄とぶつかる。
 剛鉄の大槌が振り下ろされ、ポンの甲羅が火花を散らす。弾かれた衝撃で、ポンは壁に叩きつけられた。

 そこへミクが駆け戻る。

「兄ちゃん!!」

 二人の連携が光る。
 ポンの盾のような甲羅と、ミクの刃のような甲羅。ぶつかり合うたび、剛鉄の鎧に罅が走る。


---

「おもしろい……! だが、これで終わりだッ!!」

 怒り狂った剛鉄が大槌を地に叩きつけると、地面が割れ、瓦礫が吹き飛んだ。
 崩れた床により、ポンとミクが引き裂かれるように分断される。

「兄ちゃん――ッ!!」

 ミクの声が遠ざかる。

 ポンは剛鉄と一騎打ちを選ぶ。その場に残る覚悟を込めて立ち上がる。

「逃げろ、ミク。ユエ、…弟を頼む!」

 ミクは叫ぶ。「俺も、残る! 一緒に戦うんだ――!」

「……だからこそだ。お前が“守るべきもの”を間違うな」

 剛鉄が迫る中、ユエがミクの手を引く。
 二人は、割れた通路を駆け上がっていった。


---

 血を吐きながらも、ポンは立つ。

「……答えろ、剛鉄。なぜ夜白は俺たちの家族を殺した……?」

 剛鉄の目が一瞬、曇った。

「命令には、理由などいらぬ。だが……あの時、“例外”がいた」

「例外……?」

「女の子だ。泣きながら俺の前に立った。……あの目は……夜白とそっくりだった」

 ポンの目が見開かれる。

「!?!?……クララ……?」

 だが次の瞬間、剛鉄の大槌が再び振り上がる。
 返答は、それ以上なかった。


---

 甲羅を貫いたのは、大槌か、それとも真実か――

 闇の奥で崩れ落ちた瓦礫の下、
 ポンの甲羅が微かに、月明かりを反射していた。
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