7 / 15
第七章 「忍び寄る影」
しおりを挟む
夜の帳が降りる頃、月牙宮の門は、冷たい風にきしんでいた。
月明かりが照らす石造りの回廊。その奥に、ポンとミク、そしてユエの三人の影が忍び込む。
「……こっち」
ユエの声は囁きのように細く、だが迷いなく響いた。
かつて兎一族の根城であり、今もなおその中心であるはずの“月牙宮”。
だが、内部は思いのほか静かで、廃墟のような雰囲気すら漂わせていた。
壁には古い刻印。月を象った兎の紋が無惨に削り取られている。
まるで、誰かが“歴史そのもの”を封印しようとしているように見えた。
ポンが足を止め、天井の高い円形の広間を見上げる。
「この場所……変だ。敵の本拠って感じがしない」
ミクも頷く。「戦った痕も、気配も薄い。……ユエ、本当に“ここ”でいいの?」
問いに答える代わりに、ユエはわずかに俯いた。だが、前へ進む足は止めなかった。
---
突如、床が震えた。
奥から、重い音が響いてくる。ずん、ずん、と大地を叩くような足音。
次の瞬間、巨大な影が現れた。
「ここまで来たか。カメの子らよ……!」
現れたのは、全身を金属の鎧で包んだような巨漢の兎。名を、**剛鉄(ごうてつ)**という。
手には巨大な大槌。一振りすれば、石壁ごと敵を叩き潰す凶器だ。
「お前が……父の仇か……!?」
ポンが叫ぶ。
剛鉄は、不敵に笑った。
「父親……あの“甲羅打ちのカメ”か。懐かしいな。だが奴は、俺の手ではない。
……命令に従っただけの話だ」
その言葉に、ポンの怒りが爆発する。
「“命令”で殺しただと……!!」
剛鉄の部下たちが、四方から襲いかかる。
ミクが駆け、手下の一人に甲羅を跳ね飛ばすようにぶつける。小柄ながら俊敏な動きで数人を引きつけた。
ポンは正面から剛鉄とぶつかる。
剛鉄の大槌が振り下ろされ、ポンの甲羅が火花を散らす。弾かれた衝撃で、ポンは壁に叩きつけられた。
そこへミクが駆け戻る。
「兄ちゃん!!」
二人の連携が光る。
ポンの盾のような甲羅と、ミクの刃のような甲羅。ぶつかり合うたび、剛鉄の鎧に罅が走る。
---
「おもしろい……! だが、これで終わりだッ!!」
怒り狂った剛鉄が大槌を地に叩きつけると、地面が割れ、瓦礫が吹き飛んだ。
崩れた床により、ポンとミクが引き裂かれるように分断される。
「兄ちゃん――ッ!!」
ミクの声が遠ざかる。
ポンは剛鉄と一騎打ちを選ぶ。その場に残る覚悟を込めて立ち上がる。
「逃げろ、ミク。ユエ、…弟を頼む!」
ミクは叫ぶ。「俺も、残る! 一緒に戦うんだ――!」
「……だからこそだ。お前が“守るべきもの”を間違うな」
剛鉄が迫る中、ユエがミクの手を引く。
二人は、割れた通路を駆け上がっていった。
---
血を吐きながらも、ポンは立つ。
「……答えろ、剛鉄。なぜ夜白は俺たちの家族を殺した……?」
剛鉄の目が一瞬、曇った。
「命令には、理由などいらぬ。だが……あの時、“例外”がいた」
「例外……?」
「女の子だ。泣きながら俺の前に立った。……あの目は……夜白とそっくりだった」
ポンの目が見開かれる。
「!?!?……クララ……?」
だが次の瞬間、剛鉄の大槌が再び振り上がる。
返答は、それ以上なかった。
---
甲羅を貫いたのは、大槌か、それとも真実か――
闇の奥で崩れ落ちた瓦礫の下、
ポンの甲羅が微かに、月明かりを反射していた。
月明かりが照らす石造りの回廊。その奥に、ポンとミク、そしてユエの三人の影が忍び込む。
「……こっち」
ユエの声は囁きのように細く、だが迷いなく響いた。
かつて兎一族の根城であり、今もなおその中心であるはずの“月牙宮”。
だが、内部は思いのほか静かで、廃墟のような雰囲気すら漂わせていた。
壁には古い刻印。月を象った兎の紋が無惨に削り取られている。
まるで、誰かが“歴史そのもの”を封印しようとしているように見えた。
ポンが足を止め、天井の高い円形の広間を見上げる。
「この場所……変だ。敵の本拠って感じがしない」
ミクも頷く。「戦った痕も、気配も薄い。……ユエ、本当に“ここ”でいいの?」
問いに答える代わりに、ユエはわずかに俯いた。だが、前へ進む足は止めなかった。
---
突如、床が震えた。
奥から、重い音が響いてくる。ずん、ずん、と大地を叩くような足音。
次の瞬間、巨大な影が現れた。
「ここまで来たか。カメの子らよ……!」
現れたのは、全身を金属の鎧で包んだような巨漢の兎。名を、**剛鉄(ごうてつ)**という。
手には巨大な大槌。一振りすれば、石壁ごと敵を叩き潰す凶器だ。
「お前が……父の仇か……!?」
ポンが叫ぶ。
剛鉄は、不敵に笑った。
「父親……あの“甲羅打ちのカメ”か。懐かしいな。だが奴は、俺の手ではない。
……命令に従っただけの話だ」
その言葉に、ポンの怒りが爆発する。
「“命令”で殺しただと……!!」
剛鉄の部下たちが、四方から襲いかかる。
ミクが駆け、手下の一人に甲羅を跳ね飛ばすようにぶつける。小柄ながら俊敏な動きで数人を引きつけた。
ポンは正面から剛鉄とぶつかる。
剛鉄の大槌が振り下ろされ、ポンの甲羅が火花を散らす。弾かれた衝撃で、ポンは壁に叩きつけられた。
そこへミクが駆け戻る。
「兄ちゃん!!」
二人の連携が光る。
ポンの盾のような甲羅と、ミクの刃のような甲羅。ぶつかり合うたび、剛鉄の鎧に罅が走る。
---
「おもしろい……! だが、これで終わりだッ!!」
怒り狂った剛鉄が大槌を地に叩きつけると、地面が割れ、瓦礫が吹き飛んだ。
崩れた床により、ポンとミクが引き裂かれるように分断される。
「兄ちゃん――ッ!!」
ミクの声が遠ざかる。
ポンは剛鉄と一騎打ちを選ぶ。その場に残る覚悟を込めて立ち上がる。
「逃げろ、ミク。ユエ、…弟を頼む!」
ミクは叫ぶ。「俺も、残る! 一緒に戦うんだ――!」
「……だからこそだ。お前が“守るべきもの”を間違うな」
剛鉄が迫る中、ユエがミクの手を引く。
二人は、割れた通路を駆け上がっていった。
---
血を吐きながらも、ポンは立つ。
「……答えろ、剛鉄。なぜ夜白は俺たちの家族を殺した……?」
剛鉄の目が一瞬、曇った。
「命令には、理由などいらぬ。だが……あの時、“例外”がいた」
「例外……?」
「女の子だ。泣きながら俺の前に立った。……あの目は……夜白とそっくりだった」
ポンの目が見開かれる。
「!?!?……クララ……?」
だが次の瞬間、剛鉄の大槌が再び振り上がる。
返答は、それ以上なかった。
---
甲羅を貫いたのは、大槌か、それとも真実か――
闇の奥で崩れ落ちた瓦礫の下、
ポンの甲羅が微かに、月明かりを反射していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる