双甲伝-SOUKOUDEN-

野口てんぐ

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第十一章「封ノ間」

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重く、湿った空気が満ちる地下の回廊。
かつて宮であったはずのその場所は、今や封印された“何か”を抱え込む、厳粛な墓場のような静けさに包まれていた。

先を行くのは斬月。
その背中に続くポンとミクは、足を止めることなく奥へ奥へと進む。
月牙宮の最奥――“封の間”と呼ばれる禁域へ。

「この先に……クララが?」

ミクが低く呟くと、斬月は頷いた。

「夜白の言葉が真実ならばな。巫女の血筋――それは代々、月の“災い”をその身に封じる役目を負ってきた。
クララもまた、“月の呪い”の器とされた可能性が高い」

「……器……だって?」

ポンの声が鋭くなった。

「そんなもんのために……あいつが閉じ込められてたってのか!」

その怒りは、かつて自分たちが家族を奪われたあの日と重なっていた。

斬月は、立ち止まる。

「感情で斬れば、取り返しがつかなくなるぞ。――封の間は、“選びし者”の覚悟を試す場だ。お前たち二人で、行け」

そう言って、斬月は扉の前で一歩退いた。

巨大な石の扉に手をかけるポンとミク。
二匹の兄弟が力を合わせると、重厚な音と共に扉がゆっくりと開かれた。

中には、白銀の結界に包まれた円形の広間があった。
その中心に――一人の小さなカメが、まるで眠るように横たわっている。

「……クララ……!」

ミクが駆け寄ろうとするが、足が止まる。
空気が――違う。

「待て、ミク……これは――!」

ポンが警告するより早く、クララの身体から月光のような淡い輝きが立ち上った。

「――“月の呪い”だ」

声がした。
それは、クララの口からではなかった。

クララの影が――にじむように広がり、やがて別の“何か”の形を取る。

「我は……夜の淵より来たりし、封じられしもの。
千年の間、巫女の血を受け継ぎ、器を変え、こうして目覚めの刻を待っていた」

その“影”は、月光に照らされると同時に人の形に変じた。
けれど顔はなく、ただ黒い甲羅だけが不気味に浮かび上がる。

「このままでは、クララの身は……」

ミクの瞳に、覚悟の色が宿る。

「兄ちゃん。俺は、“斬る”よ。
――この呪いを、クララから解き放つ。たとえそれが……命を懸けることでも」

ポンが隣で頷いた。

「行こう。……クララの“未来”は、俺たちが守る」

兄弟が構えた。
ミクの手には、受け継いだ“甲羅刀”。
ポンの背には、父の形見である“黒甲羅”が光っていた。

影が襲いかかる。
封の間に、静寂と咆哮が交錯する。

そして――決断の刃が振り下ろされる、その時が来た。
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