飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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花を貪る胡蝶は蜘蛛の網にかかる

11話

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優紫の部屋を出ると、神代の後ろから葉月が小声で話しかける。

「なに?その後悔って‥もうなんか分かったのか?」

自分だけ何も分からず、取り残されている感覚になっている葉月に、神代は本当に嫌そうに眉間に皴を寄せ、口をへの字に曲げる。

「はぁ~分かる訳ないだろ?‥ほら次、行くぞ‥」

完全にバカにされているような気分になり、腹立たしくて葉月は持っていたペンで神代の背中をグイグイ通した。

「‥‥イッ‥痛い!なんだよ!!」

再びギラリと睨みつけた神代に、少し気が晴れたのか葉月がニコッと笑いかけた。

「はぁ~ここの2階は面倒だ‥一度1階に降りて、今度は向こう側の2階に行くぞ」

神代は玄関ロビーの吹き抜け越しに見える、向こう側の2階の廊下を指さした。
なんとも面倒な設計だ。


コンコンとノックすると、しばらく間があり返事があった。

「神代です。入っても良いですか?」

再び間があり、中から小さな声で、はい‥と聞こえたので、神代はカチャリとドアを開けた。
女の子らしいフワッとする甘い香りが鼻を掠める。
机と本棚とベッド‥白を基調とした女の子らしい部屋の造りに、神代は先程の優紫の部屋と違い、ジロジロと眺めることなく部屋の中へと入っていく。

「体調はどうですか?少しお話を聞かせてもらいたいのですか?」

奥にあるベッドに腰掛けている少女は、本当に儚くお人形さんの様な雰囲気で、いつになく丁寧な神代に、少女はコクンと頷いた。

「学校生活はどうですか‥?」
「‥ええ、楽しく通っております」
「そうですか、バイオリンを習っていると、お聞きしましたが、学業との両立は大変ではないですか?」

そう言いながら、神代の視線は机の隣に飾ってある、バイオリンを弾いている凜乃の写真を見ていた。

「いいえ、大丈夫です‥」
「バイオリンは、いつから習っているのですか?」
「‥5歳から」
「ずいぶん早くから‥何故、バイオリンを?」
「‥叔母が‥母の妹が、バイオリン奏者で‥その影響で‥」
「そうでしたか‥毎日、練習されているのですか?」
「‥ええ」
「では、入院されている時は、練習できなくて困りましたね‥」
「‥‥はい」

会話が続かない様だ。
最低限の返事は返ってくるが、それ以上の話はしない。

「思い出したくないかもしれませんが、あの火災の時の話を聞いても‥?」

神代の言葉を聞いた時、膝の上に置かれていた凜乃の手に力が入る。

「‥はい。‥あの日は日曜で、毎週日曜はレッスンの日で、本当はバイオリンの先生のお宅へ出かける予定だったんです。だけど、先生の都合が悪く、レッスンが急遽お休みに‥なので、離れの防音室で練習をしておりました‥16時頃だったか、少し休憩を取ろうと扉を開くと、アトリエの方から煙が出ているのが見えました。‥‥驚いて、もし叔父さんが中に居たら‥そう思い、アトリエの中に‥‥」

語られていた唇は重く閉じられてしまった。

「中に、誰か居たんですか‥?」
「分かりません‥思い出せないのです‥」

不安に揺れている瞳が、神代の顔をジッと見つめる。

「あなたは優紫さんに助けられたと聞きました。その事は覚えていますか?」
「いいえ、私が覚えているのは‥目を覚ましたら、母が手を握っていて‥病院のベッドの上でした。そこで初めて優紫に助けられたと聞きました‥」
「お父さんが、アトリエに居たのも‥?」

無遠慮な言葉に、葉月が思わず神代の頭を手帳ではたく。

「‥イッテ‥」
「ごめんなさい。こいつ‥躾がなってなくて‥」

葉月の言葉に、一度目を丸くした凜乃がクスクスと笑い始める。

「‥躾って‥クスクスッ‥」

キッと睨みつけている神代を無視して、葉月は、その可愛いお人形さんの様な笑い顔を見ていた。

「‥では、話を変えます。玲華さんから話を少し聞きましたが、1年程前から体調が優れないとか‥何か、そのきっかけとかありますか?」

微笑んでいた凜乃の顔から、サーッと血の気が引く音がする様に、顔色が変わっていく。

「‥大丈夫ですか?」

ピタリと表情が止まり、思わず葉月が声を掛ける。

「‥はい。‥思い当たる事はありません。ただ‥最近は落ち着いてきていますので‥」

再び凜乃の手にギュッと力が入る。

「そうですか‥それは良かった。あまり無理はなされないで下さいね‥」
「‥ありがとうございます」

その言葉を聞いて、神代と葉月は部屋を出た。
出た所で葉月が神代を睨みつける。

「まったく、なんであんなデリカシーのない事が言える訳?」

小声で話しているつもりなのか、所々に声に感情が乗る。

「‥はぁ~すみませんね。デリカシーとやらが無くて‥」

葉月は、悪びれず言う神代が小憎らしく思うが、諦める様に大きな溜息を付いた。

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