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28話
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前日に、汰久が父親の車を借りてくるとは言っていたが、朝マンションの前に空色のポルシェ911が停まっているのを見て、虎太郎は言葉を失った。
「た‥汰久?‥‥車っ‥これ?」
「ああ、ごめん。これしか空いてなくて‥」
申し訳なさそうに言う汰久に、虎太郎は頭が取れるかと思うほど、ブンブンと横に振る。
見たこともない高級車に近づき、車の周りを一周する。
「うわ~凄いなぁ~こんな近くで本物を見れるなんて‥凄い」
喜びはしゃいでいる姿を、汰久は愛おしそうに眺め微笑みを浮かべている。
「はい、虎太郎乗って。今日中に着かなくなるよ」
そう言って助手席のドアを開けてくれる汰久に、虎太郎は笑顔を向けると乗り込んだ。
汰久が運転席に乗り込み、エンジンを掛けると、独特のエンジン音が振動し、動き出した瞬間にゾワッと体が車体と一体化する感覚に陥る。
虎太郎はしばらくこのエンジン音との一体化を感じていたが、どうしても我慢できず口を開くことになる。
「‥もしかして‥汰久の家って、お金持ちなの?」
ずっと疑問に思っていた。
元のマンションもそうだし、今のマンションも分譲で、このポルシェ911。
あっさりと決まりそうなアメリカ移住に、どう考えても一般家庭ではない。
うすうす感じていたとはいえ、今日、確信に変わった。
「‥少しね」
眉に皴を寄せた顔をした汰久を見て、虎太郎は急に不安になる。
「汰久は、伊藤食品のアメリカ支社で働くの?」
「‥ああ、そうなるかな」
アメリカ行きの話を聞いた時に、汰久は会社に移動願を出したと話していた。
そもそも1年目の社員が、移動願を出したとしても、本来なら叶えられないのが普通。
だが、汰久にはそれが可能になるという事は、伊藤食品に伊藤汰久‥前からうっすらと感じていた事。
「僕は、一緒にアメリカに行って、どうすれば良いの?向こうで仕事を探せば見つかるかな‥」
アメリカに行こうといわれ、あまり深く考えもせずに返事をしたが、自分の身の振り方を考えれば考えるほど、不安が湧き上がってくる。
日常会話程度なら英語も話せるが、仕事の専門的な会話になると少し不安になる。
こんな自分が向こうへ行っても通用するのだろうか?
「いいじゃん。見つからなければ、今みたいに家にいれば、向こうに行っても、俺がいるから安心して。それに、数年経ったら、戻ってこようよ」
汰久はそう言って、虎太郎の手を握り締めた。
「‥うん」
虎太郎の気持ちが大きく揺れる。
本当にいいのだろうか‥このまま決断して。
ギュッと握り締めた汰久の手を、握り返せない自分がいた。
「それと、虎太郎。話を合わせておかないと。俺達の関係は皆に知られたくないだろ?」
虎太郎は大きく頷いた。
こんな関係、出来れば誰にも知られたくない。
虎太郎の顔を見て、一瞬だが汰久の顔が曇った気がした。
「だから、とりあえずアメリカに行くことは言わないでおこう。俺達は、今まで通り働いていて、偶然、仕事で再会したって事にしておこう」
「‥うん、わかった」
今の状況を考えると、汰久の言う通りにするのが一番いいと思う。
だが、虎太郎は自分を偽る事で、どんどん自分が変わっていってしまうような気がして、怖くなり窓から流れる景色へ目をやった。
「た‥汰久?‥‥車っ‥これ?」
「ああ、ごめん。これしか空いてなくて‥」
申し訳なさそうに言う汰久に、虎太郎は頭が取れるかと思うほど、ブンブンと横に振る。
見たこともない高級車に近づき、車の周りを一周する。
「うわ~凄いなぁ~こんな近くで本物を見れるなんて‥凄い」
喜びはしゃいでいる姿を、汰久は愛おしそうに眺め微笑みを浮かべている。
「はい、虎太郎乗って。今日中に着かなくなるよ」
そう言って助手席のドアを開けてくれる汰久に、虎太郎は笑顔を向けると乗り込んだ。
汰久が運転席に乗り込み、エンジンを掛けると、独特のエンジン音が振動し、動き出した瞬間にゾワッと体が車体と一体化する感覚に陥る。
虎太郎はしばらくこのエンジン音との一体化を感じていたが、どうしても我慢できず口を開くことになる。
「‥もしかして‥汰久の家って、お金持ちなの?」
ずっと疑問に思っていた。
元のマンションもそうだし、今のマンションも分譲で、このポルシェ911。
あっさりと決まりそうなアメリカ移住に、どう考えても一般家庭ではない。
うすうす感じていたとはいえ、今日、確信に変わった。
「‥少しね」
眉に皴を寄せた顔をした汰久を見て、虎太郎は急に不安になる。
「汰久は、伊藤食品のアメリカ支社で働くの?」
「‥ああ、そうなるかな」
アメリカ行きの話を聞いた時に、汰久は会社に移動願を出したと話していた。
そもそも1年目の社員が、移動願を出したとしても、本来なら叶えられないのが普通。
だが、汰久にはそれが可能になるという事は、伊藤食品に伊藤汰久‥前からうっすらと感じていた事。
「僕は、一緒にアメリカに行って、どうすれば良いの?向こうで仕事を探せば見つかるかな‥」
アメリカに行こうといわれ、あまり深く考えもせずに返事をしたが、自分の身の振り方を考えれば考えるほど、不安が湧き上がってくる。
日常会話程度なら英語も話せるが、仕事の専門的な会話になると少し不安になる。
こんな自分が向こうへ行っても通用するのだろうか?
「いいじゃん。見つからなければ、今みたいに家にいれば、向こうに行っても、俺がいるから安心して。それに、数年経ったら、戻ってこようよ」
汰久はそう言って、虎太郎の手を握り締めた。
「‥うん」
虎太郎の気持ちが大きく揺れる。
本当にいいのだろうか‥このまま決断して。
ギュッと握り締めた汰久の手を、握り返せない自分がいた。
「それと、虎太郎。話を合わせておかないと。俺達の関係は皆に知られたくないだろ?」
虎太郎は大きく頷いた。
こんな関係、出来れば誰にも知られたくない。
虎太郎の顔を見て、一瞬だが汰久の顔が曇った気がした。
「だから、とりあえずアメリカに行くことは言わないでおこう。俺達は、今まで通り働いていて、偶然、仕事で再会したって事にしておこう」
「‥うん、わかった」
今の状況を考えると、汰久の言う通りにするのが一番いいと思う。
だが、虎太郎は自分を偽る事で、どんどん自分が変わっていってしまうような気がして、怖くなり窓から流れる景色へ目をやった。
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