愛に抗うまで

白樫 猫

文字の大きさ
29 / 58

29話

しおりを挟む
軽井沢の街中を軽快に走り、見覚えのある道を曲がると、鶴木聡の別荘が見えてきた。

「あっ‥あれだな‥」

別荘はあの時と変わらず、立派な佇まいの大きな屋根ですぐに分った。
近づくと庭にすでに2台の車が止まっていた。
汰久もその隣にポルシェを駐車すると、二人で荷物を下ろし玄関へと進む。
虎太郎は、そこから庭に目を向けウッドデッキを見ると、あの時、みんなで座り見上げた夜空を思い出した。
あの時は、楽しかった‥。
ふとそんな感情がよぎり、虎太郎は頭を振った。

「‥ん?どうかした?」
「‥いや‥なんでもない」

汰久に心を見透かされたような気がして、虎太郎は無理に笑顔を向ける。
インターホンを押すと、中からドアが開きみんなが出迎えてくれた。

「ああ!久しぶり~」
「お前ら元気だったか?」
「連絡もなしで、白状もん!」
「元気そうじゃん!」

4人ともが一斉に話し出し、なんと返事をしていいのか迷ってしまい、不思議とみんなで顔を見合せ笑い出す。

「クックッ‥お前ら、しゃべり過ぎだ!クスクスッ‥落ち着けよ」
「ハハハッ‥だな。まぁ、入れよ。積もる話もいっぱいあるからさ」

聡の言葉に、笑いながらリビングへ入っていくと、前回と全く変わらない風景がそこにはあった。
リビングには大きなソファとテーブルがあり、テーブルの上にはすでに豪華な料理が並び、リビングの薪ストーブは、すでに火が付き室内は温かくなっていた。
10月とはいえ日が暮れると軽井沢はもう寒い。

「お前ら、早かったな」

汰久の言葉に、みんなが顔を見合わせる。

「ああ、俺は鍵開けで蓮と一緒に早めに来たけど、慎之介と健一はさっき着いたばっかりだ。今回は買出しも料理も面倒だから、デリバリーを頼んだぜ、もう来てるから、乾杯しよーぜ!」

聡はそう言うと、用意してあるシャンパンクーラーからシャンパンを取り出し、栓を開ける。
ポンと音を立て開けられたシャンパンを、みんなのグラスへ注いでいく。

「では、みんなとの再会と、我らが蓮の結婚を祝って‥」
「かんぱ~い!!蓮、おめでとう!」

一斉に声を上げ、蓮の祝いの言葉を口にすると、照れながら蓮はありがとうとグラスを上げた。
シャンパンに口をつけ、みんなの顔を眺めていると、一気に自分が大学時代に戻った感覚になる。
みんなも同じ気持ちなのか、すぐに話し出し、数カ月のブランクも何も感じさせない。
話題の中心は蓮の結婚話で、どこで出会ったのか、どうやって付き合い始めたのかと、質問攻めになっていた。
その後は、みんなのそれぞれの近況報告。
みんな新入社員として頑張って仕事しているようで、悩みはほとんと同じだった。
それぞれの道で頑張っている様子に、虎太郎の胸がズキンと痛みを発する。

「ほんとに凄いよな~あの、新開美沙希だろ?羨ましいぞ!この野郎!」

飲み始めて1時間も経たないのに、すでに酔いが回っているのか、先程から同じ話を何度もしているのは、吉沢健一だ。

「はいはい、お前はもうジュースにしとけ」

そう言って健一のグラスをジュースに取り換えているのは、福岡に就職した慎之介だ。

「そうそう、汰久。お前、あの車で来たって事は、もう隠すの止めたのか‥?」

汰久にワインを注ぎながら、聡が小声で聞いているのが隣に座っている虎太郎にも聞こえてきた。

「あっ‥いや‥」
「‥なになに?汰久の隠し事~?ダメだよ、隠し事は、良くない‥早く白状しちゃいなさい!」

聞こえていたのか強引に会話に入ってくるのは、酔いの回っている健一。

「クスクスッ‥お前は飲み過ぎだぞ~」

笑いながらそう答えた汰久は、話題が逸れてほっとした顔をしていた。

「ところで、お前ら二人はよく会ってんの?」

聡が、汰久と虎太郎の顔を交互に見ながらそう聞いてくる。

「‥あっ‥うん。たまたま会社の取引先に、汰久がいて‥‥ホント驚いたんだよ」

虎太郎の言葉に、へぇ~と納得の顔をして頷いていた。

「虎太郎は、え~と、大島食品?の営業だっけ?」
「そ‥そう」
「大島食品って、大手だろ~やっぱ営業は大変?」
「う‥うん。まぁ大変と言えば大変かな‥。だけど、職場の人が皆いい人ばかりで、ちゃんと教育してくれるから、安心して仕事が出来るし、やりがいがあるよ」

話ながら、来栖と一緒に過ごした日々が頭の中に溢れてくる。

「そっか、いい職場みたいだな。お前がそんな笑顔になるなんて‥ふふっ‥」

聡にそう言われ、自分が笑みを浮かべている事に気が付き、ハッと横にいる汰久を見ると、汰久がスッと目を逸らした。

「そ‥そんなお前はどうなんだよ‥聡の方が大変だろ?後継者教育なんだから‥」

慌てて話題を変えるように、聡に話を向ける。

「いや~そうでもないよ。後継者って言ったって、父親はまだまだ元気だし、俺はまだ下っ端で、平社員。まずは会社に慣れろってさ。まぁ、俺の事は社長の息子だってバレてるから、気は使われているのかな‥ハハッ・・」
「そっか、まぁ気は使うだろうな‥」

虎太郎がそう返すと、聡がチラリと汰久を見た。
その視線に気が付いて、虎太郎も汰久に目を向けると、汰久は虎太郎を見てニコッと微笑んだ。
この笑顔は、何かを誤魔化そうとしている顔だ‥そんな事を考え虎太郎も笑みを返した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

処理中です...