愛に抗うまで

白樫 猫

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30話

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「そうそう、汰久はどうなんだ?新しい彼女でも出来たか?クスクスッ‥学生時代とは違って、好きなようには出来ないだろ?」

話に入ってきた慎之介が汰久に向かって聞いてくる。
その言葉に、虎太郎がギョッと慌てて汰久に視線を送った。

「‥なんだよ、人をタラシみたいに、俺は昔から一途だからな‥」
「どこがだよ!大学時代に何人泣かしたか、知らないとでも思ったのか?」

酔っ払っているのかゲラゲラと笑いながらふざけた事を言う慎之介に、汰久も反撃する。

「クスクスッ‥お前、それは自分の事だろ?俺と一緒にするなよ‥まぁ結局、お前は福岡に逃げたんだったな‥」
「なっ‥なんだって!!」
「だから、お前は逃げたって言ったんだよ!」

いつもの汰久のにこやかな顔は微塵もなく、その冷たい言葉に、その場が凍り付く。

「‥おい、汰久。何言ってんだよ」

虎太郎が汰久の腕を掴み、声を掛ける。
汰久がどうして怒っているのか分からないが、このままでは二人ともただでは済まなくなる。

「慎之介も落ち着け!」

立ち上がりそうな慎之介を抑えているのは、隣に座る健一だった。
先程までベロベロに酔っ払っていたはずなのに、酔いが醒めたのか青ざめた顔をして慎之介の体を抑えていた。

「‥悪い、言い過ぎた‥ごめん。慎之介」

汰久がその場の雰囲気に気が付き、先に頭を下げた。

「‥‥いや、俺も悪かった‥。なんかごめん」

素直に慎之介も頭を下げると、ホッとした空気が流れた。

「はい!喧嘩はお終い。まだまだ飲むぞー!!」

聡の掛声で、おー!!とみんなグラスを空けた。
虎太郎はいつもと何か違う汰久の様子に、胸がザワザワとしてしまう。

どれくらい時間が経ったのか、外はすでに真っ暗で、みんなソファでゴロゴロし始めた。

「‥‥うっ‥もうこれ以上は飲めない‥うっ‥気持ち悪い‥」

健一も再び酒を飲み始めていたようで、気持ち悪いとトイレにヨロヨロと走っていく。

「オイオイ‥大丈夫か?」

笑いながら健一の背を見送る聡も、すでに酔っているのかソファから立ち上がれないでいた。
虎太郎も、かなり飲み過ぎて体がフワフワとしており、このままソファで眠ってしまいそうになっていた。

「虎太郎?眠いのか?」

隣に座る汰久が、虎太郎を心配そうに覗いてくる。
同じように飲んでいたはずなのに、平然としている汰久に納得がいかず、思わず汰久の胸を押し返した。

「‥だ‥だい‥じょうぶら!!」

怒った顔をしているはずなのに、呂律も回っていない虎太郎を見て、汰久は両手で自分の顔を隠し、肩をブルブルと震わせ笑っている。

「‥‥くっ‥‥‥っ‥‥」

虎太郎が可愛くて仕方がない‥このまま押し倒して、体中を舐めまわしたい‥汰久は必死に堪えていた。

「なっ‥なんら!おまえ!‥わらってんな!!」

怒る虎太郎も可愛い。
そんな我慢を強いられている汰久の様子を、聡がジッと見ていた。

「あ~やばかった‥出したらスッキリした」

そう言いながらリビングに戻ってきた健一は、スッキリとした顔をしていた。

「‥もう寝る奴は、前と同じ部屋を用意してあるから、勝手に使ってくれ」
「じゃあ、俺らは先に部屋に行くわー」

聡の言葉に、健一がグデングデンになっている慎之介を支えながら2階へと上がって行く。

「ほら、ちゃんと歩けよ‥階段‥足上げて」

そんな声が聞こえてきた。

「じゃあ、俺も虎太郎を部屋に連れて行くよ‥ほら、虎太郎‥部屋に行くぞ」

汰久はそう声を掛けると、立ち上がりフラフラとしている虎太郎の身体を支え、階段を上がる。
本当なら抱き上げ連れて行きたいところだが、周りの目を気にする虎太郎が、それを明日知ってしまったら、怒ってしまうだろうと考え我慢していた。
以前も使った部屋に入ると、虎太郎の身体を抱き上げゆっくりとベッドに寝かせる。

「‥‥た‥汰久‥」

虎太郎をベッドに寝かせた瞬間に、ムニャムニャと汰久の名を呼びながら、目を瞑ってしまった。
あの時と同じ部屋に入り、汰久は半年前にタイムスリップしたような感覚になる。
あの時、自分は焦っていた。
自分の元を離れ、忘れられてしまう事に、そして、これ以上、友人として傍に居る事が、我慢できなかった。
眠っている虎太郎の顔は穏やかで、汰久は手を伸ばし頬に触れる。

「‥‥んっ‥‥っ‥‥」

髪を優しく梳くと、なまめかしい声が虎太郎の口から漏れる。

「‥虎太郎‥俺‥‥間違ってたか?」

答えてくれない事は分かっていたが、口に出さずにはいられなかった。
自分が間違っていた事はとうに気が付いていた。
自責の念が常に自分の心の中にある事は、自分が一番よく分かっていた。
汰久は顔を近づけると、互いの唇を合わる。
クチュリと舌を這わせると、虎太郎が反射的に唇を開く。

「‥んっ‥‥ふんっ‥‥ぁ‥」

歯止めが利かなくなり、奥深くへ舌を入れ歯列をなぞり上顎を刺激すると、唾液が零れ、口内の全てを吸い尽くすように貪る。

「‥ぁ‥‥んっ‥‥っ‥」

汰久の手が虎太郎のシャツの下から侵入し、身体を這いまわると、感じているのか身体がビクビクと震えだす。

「‥感じる?‥虎太郎‥」

その耳元で囁いた時、ハッと虎太郎が目を開いた。

「‥‥ぁ‥‥まっ‥待って」

愛撫される身体が反応を始めて、虎太郎は意識を取り戻した。
その瞬間、自分が今どこに居るのか思い出し、自分の上に跨っている汰久の胸をグイっと押し返した。
周りをキョロキョロと見渡している虎太郎に、汰久が声を掛ける。

「‥どうしたの?‥虎太郎?」

汰久の声に一気に記憶が鮮明になる。
半年前のあの忌まわしい記憶が‥。

「‥た‥く‥‥ごめん‥‥ここじゃ、嫌だ‥」

押し返された汰久は、虎太郎の身体を解放した。
虎太郎もまた、あの時の事を思い出しているのだと感じ、汰久は胸が苦しくなる。
自分がやってしまった事なのに、自分が苦しむなんて‥そんな権利などないと、汰久は立ち上がる。

「ごめん‥ゆっくり休んで。俺は、リビングに行くから‥」

汰久はそう言って、部屋を出て行った。
汰久の顔を見て苦しめてしまったと感じてはいたが、それを引き留める事は出来なかった。
どうしても、この部屋の記憶が虎太郎を捉えて離さない。
ここから自分の人生が変わったのだ‥許せるはずもない。

「‥‥‥うっ‥‥っ‥」

泣きたくなるほどの虚無感を感じ、改めて思うのは、自分は空っぽになってしまった‥‥という事。


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