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33話
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みんなに別れを告げると、二人でポルシェに乗り込み出発した。
しばらく無言のまま運転していた汰久が声を掛ける。
「‥虎太郎、なんかあった?」
今朝から様子がおかしいのは、すぐに分った。
だけど何があったのか全く分からない。
おかしいと言えば、聡の態度も少しおかしかった。
自分が何かしてしまったのか、それとも自分が知らない間に、何か言われたのか、そんな事を汰久は考えていた。
「‥ううん。昨日、飲み過ぎたから、ちょっと体調が悪いだけ‥ごめん」
その言葉が嘘だとすぐに分る。
だけど汰久は、それ以上聞くことが出来なくなった。
「そっか‥無理しないで。着くまで寝てていいよ」
「‥うん、ありがとう」
虎太郎は瞳を閉じた。
混乱している頭の中を、休めたかった。
どうせなら昨夜の事も、忘れてしまえたら‥自分は自分らしくいれるのだろうか‥。
いつの間にか深く眠っていたようで、マンションに着いたと汰久に起こされるまで気が付かなかった。
虎太郎が車を降り、荷物を持つと、ひょいっと汰久に取られた。
「俺が持つから、ほら、早く部屋に入って」
マンションに入り部屋に行くと、問答無用でベッドに押し込まれた。
「ちょっ‥ちょっと、大丈夫だって‥」
「ダメだ、本当に顔色が悪いから、寝てて。後は俺がやるから‥」
汰久の心配症にふふっと笑いが出て、その顔を見て汰久が優しく微笑む。
「いいな、寝てろよー」
そう言いながら寝室を出ると、汰久は持ち帰ったバックを開き中から洗濯物を出す。
自分の荷物が終わると、次は虎太郎の荷物を開く。
中身を出していると、一番奥に薄手のアウターが入っていた。
「‥?こんなの持って行ったか?」
荷物は一緒に準備をしていたから、分かるはずだし、今まで虎太郎がこれを着ていたのを見たことが無い。
そう思いながらアウターを広げてみると、虎太郎のサイズよりもワンサイズ大きかった。
「‥誰のだ?」
間違えて誰かのを持って来てしまったのか?いや、荷物はずっと部屋に置いてあった。
誰かのモノを間違えるはずはない。
汰久の不安な気持ちがドクンドクンと心臓を打ち鳴らす。
広げたアウターから微かに漂う匂いをクンクンと嗅いでみる。
この匂い‥知ってる‥あの時、遅くに帰ってきた時の、虎太郎の匂いと同じ‥。
気が付いた瞬間、アウターをビリビリに引き千切りたい衝動を抑えると、それを床に投げつけた。
怒りで眩暈がしそうになる。
汰久の衝動的な怒りが収まるまで、しばらく時間がかかった。
平静を装いながら、汰久は寝室へ向かった。
「‥虎太郎?」
眠っているのか目を瞑っていた虎太郎が、汰久の声に瞳を開く。
「‥ん?‥なに?」
虎太郎はそう聞き返しながら、汰久に視線を送り、その汰久の手に握り締められている物が見えた瞬間、血の気が引いていく。
来栖のアウターを、そのままバックに入れ、忘れていた。
「‥これ、誰の‥?」
冷たく言い放つ汰久に、虎太郎の視線が泳ぐ。
「あっ‥それ、聡に借りたんだった‥‥返すの忘れて‥バックにしまっちゃった‥‥」
ハハッと引き攣った笑いをしながら答えた虎太郎に、冷静に汰久が問い掛ける。
「いつ?いつ借りたの?‥虎太郎、昨日はすぐ寝たよね?」
「えっ‥あっ‥夜‥にトイレに行った時‥そう、寒いだろって‥‥」
自分でもこんな言い訳通用しない事は百も承知だ、だけど、他に言いようがなかった。
「そう、昨日の夜、一度起きたんだね‥虎太郎」
「う‥うん、トイレにね‥あっ‥だけどすぐ寝たよ」
「そっか、じゃあ聡に連絡しなきゃね。持って帰ってごめんって」
「ぼ‥僕がしとくから‥大丈夫」
「そう、じゃあ、お願いね。そうそう、これ‥なんか臭うから‥洗っていい?」
冷ややかに言う汰久の言葉に、虎太郎は頷くしか出来なかった。
汰久は寝室を出ると、キッチン行きそのまま手に持っているアウターをゴミ箱へ投げ捨てた。
「‥クソッ!」
汰久は、来栖に自分達の行為を見られてから、虎太郎の気持ちが自分に向けられていると感じていた。
だから、あの脅しに使った映像が消えてしまっても、そんなものが無くても虎太郎が傍に居てくれると信じていた。
それなのに、自分の知らないところで、知らない事が起こっている。
今、目の前に虎太郎がいたとしても、いつ居なくなるか分からない不安が、汰久の中でどんどん膨れ上がってくる。
夜中に喉が渇いて目が覚めた虎太郎は、汰久を起さないようにベッドを出ると、キッチンへ行き冷蔵庫から水を出し喉を潤した。
ふと何かが目の端に入り視線を向けると、ゴミ箱から黒いものがはみ出ていた。
その見覚えのあるものに、そっとゴミ箱を開くと、来栖のアウターが投げ込まれていた。
「‥‥っ‥ぁぁ‥‥」
それを見た瞬間、胸が張り裂けそうになる。
あの時の優しさと一緒に、自分の感情までも捨てられてしまった感覚。
ガクッと膝から崩れ落ち、アウターを手に取るとそれを抱き締めた。
どれくらいそうしていただろうか、ふと我に返ると虎太郎は、それをまたゴミ箱へと戻した。
そして何事もなかったかのように寝室へ戻って行った。
汰久はよく眠っていた。
その隣に滑り込むように入ると、虎太郎は目を閉じた。
しばらく無言のまま運転していた汰久が声を掛ける。
「‥虎太郎、なんかあった?」
今朝から様子がおかしいのは、すぐに分った。
だけど何があったのか全く分からない。
おかしいと言えば、聡の態度も少しおかしかった。
自分が何かしてしまったのか、それとも自分が知らない間に、何か言われたのか、そんな事を汰久は考えていた。
「‥ううん。昨日、飲み過ぎたから、ちょっと体調が悪いだけ‥ごめん」
その言葉が嘘だとすぐに分る。
だけど汰久は、それ以上聞くことが出来なくなった。
「そっか‥無理しないで。着くまで寝てていいよ」
「‥うん、ありがとう」
虎太郎は瞳を閉じた。
混乱している頭の中を、休めたかった。
どうせなら昨夜の事も、忘れてしまえたら‥自分は自分らしくいれるのだろうか‥。
いつの間にか深く眠っていたようで、マンションに着いたと汰久に起こされるまで気が付かなかった。
虎太郎が車を降り、荷物を持つと、ひょいっと汰久に取られた。
「俺が持つから、ほら、早く部屋に入って」
マンションに入り部屋に行くと、問答無用でベッドに押し込まれた。
「ちょっ‥ちょっと、大丈夫だって‥」
「ダメだ、本当に顔色が悪いから、寝てて。後は俺がやるから‥」
汰久の心配症にふふっと笑いが出て、その顔を見て汰久が優しく微笑む。
「いいな、寝てろよー」
そう言いながら寝室を出ると、汰久は持ち帰ったバックを開き中から洗濯物を出す。
自分の荷物が終わると、次は虎太郎の荷物を開く。
中身を出していると、一番奥に薄手のアウターが入っていた。
「‥?こんなの持って行ったか?」
荷物は一緒に準備をしていたから、分かるはずだし、今まで虎太郎がこれを着ていたのを見たことが無い。
そう思いながらアウターを広げてみると、虎太郎のサイズよりもワンサイズ大きかった。
「‥誰のだ?」
間違えて誰かのを持って来てしまったのか?いや、荷物はずっと部屋に置いてあった。
誰かのモノを間違えるはずはない。
汰久の不安な気持ちがドクンドクンと心臓を打ち鳴らす。
広げたアウターから微かに漂う匂いをクンクンと嗅いでみる。
この匂い‥知ってる‥あの時、遅くに帰ってきた時の、虎太郎の匂いと同じ‥。
気が付いた瞬間、アウターをビリビリに引き千切りたい衝動を抑えると、それを床に投げつけた。
怒りで眩暈がしそうになる。
汰久の衝動的な怒りが収まるまで、しばらく時間がかかった。
平静を装いながら、汰久は寝室へ向かった。
「‥虎太郎?」
眠っているのか目を瞑っていた虎太郎が、汰久の声に瞳を開く。
「‥ん?‥なに?」
虎太郎はそう聞き返しながら、汰久に視線を送り、その汰久の手に握り締められている物が見えた瞬間、血の気が引いていく。
来栖のアウターを、そのままバックに入れ、忘れていた。
「‥これ、誰の‥?」
冷たく言い放つ汰久に、虎太郎の視線が泳ぐ。
「あっ‥それ、聡に借りたんだった‥‥返すの忘れて‥バックにしまっちゃった‥‥」
ハハッと引き攣った笑いをしながら答えた虎太郎に、冷静に汰久が問い掛ける。
「いつ?いつ借りたの?‥虎太郎、昨日はすぐ寝たよね?」
「えっ‥あっ‥夜‥にトイレに行った時‥そう、寒いだろって‥‥」
自分でもこんな言い訳通用しない事は百も承知だ、だけど、他に言いようがなかった。
「そう、昨日の夜、一度起きたんだね‥虎太郎」
「う‥うん、トイレにね‥あっ‥だけどすぐ寝たよ」
「そっか、じゃあ聡に連絡しなきゃね。持って帰ってごめんって」
「ぼ‥僕がしとくから‥大丈夫」
「そう、じゃあ、お願いね。そうそう、これ‥なんか臭うから‥洗っていい?」
冷ややかに言う汰久の言葉に、虎太郎は頷くしか出来なかった。
汰久は寝室を出ると、キッチン行きそのまま手に持っているアウターをゴミ箱へ投げ捨てた。
「‥クソッ!」
汰久は、来栖に自分達の行為を見られてから、虎太郎の気持ちが自分に向けられていると感じていた。
だから、あの脅しに使った映像が消えてしまっても、そんなものが無くても虎太郎が傍に居てくれると信じていた。
それなのに、自分の知らないところで、知らない事が起こっている。
今、目の前に虎太郎がいたとしても、いつ居なくなるか分からない不安が、汰久の中でどんどん膨れ上がってくる。
夜中に喉が渇いて目が覚めた虎太郎は、汰久を起さないようにベッドを出ると、キッチンへ行き冷蔵庫から水を出し喉を潤した。
ふと何かが目の端に入り視線を向けると、ゴミ箱から黒いものがはみ出ていた。
その見覚えのあるものに、そっとゴミ箱を開くと、来栖のアウターが投げ込まれていた。
「‥‥っ‥ぁぁ‥‥」
それを見た瞬間、胸が張り裂けそうになる。
あの時の優しさと一緒に、自分の感情までも捨てられてしまった感覚。
ガクッと膝から崩れ落ち、アウターを手に取るとそれを抱き締めた。
どれくらいそうしていただろうか、ふと我に返ると虎太郎は、それをまたゴミ箱へと戻した。
そして何事もなかったかのように寝室へ戻って行った。
汰久はよく眠っていた。
その隣に滑り込むように入ると、虎太郎は目を閉じた。
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