愛に抗うまで

白樫 猫

文字の大きさ
33 / 58

33話

しおりを挟む
みんなに別れを告げると、二人でポルシェに乗り込み出発した。
しばらく無言のまま運転していた汰久が声を掛ける。

「‥虎太郎、なんかあった?」

今朝から様子がおかしいのは、すぐに分った。
だけど何があったのか全く分からない。
おかしいと言えば、聡の態度も少しおかしかった。
自分が何かしてしまったのか、それとも自分が知らない間に、何か言われたのか、そんな事を汰久は考えていた。

「‥ううん。昨日、飲み過ぎたから、ちょっと体調が悪いだけ‥ごめん」

その言葉が嘘だとすぐに分る。
だけど汰久は、それ以上聞くことが出来なくなった。

「そっか‥無理しないで。着くまで寝てていいよ」
「‥うん、ありがとう」

虎太郎は瞳を閉じた。
混乱している頭の中を、休めたかった。
どうせなら昨夜の事も、忘れてしまえたら‥自分は自分らしくいれるのだろうか‥。

いつの間にか深く眠っていたようで、マンションに着いたと汰久に起こされるまで気が付かなかった。
虎太郎が車を降り、荷物を持つと、ひょいっと汰久に取られた。

「俺が持つから、ほら、早く部屋に入って」

マンションに入り部屋に行くと、問答無用でベッドに押し込まれた。

「ちょっ‥ちょっと、大丈夫だって‥」
「ダメだ、本当に顔色が悪いから、寝てて。後は俺がやるから‥」

汰久の心配症にふふっと笑いが出て、その顔を見て汰久が優しく微笑む。

「いいな、寝てろよー」

そう言いながら寝室を出ると、汰久は持ち帰ったバックを開き中から洗濯物を出す。
自分の荷物が終わると、次は虎太郎の荷物を開く。
中身を出していると、一番奥に薄手のアウターが入っていた。

「‥?こんなの持って行ったか?」

荷物は一緒に準備をしていたから、分かるはずだし、今まで虎太郎がこれを着ていたのを見たことが無い。
そう思いながらアウターを広げてみると、虎太郎のサイズよりもワンサイズ大きかった。

「‥誰のだ?」

間違えて誰かのを持って来てしまったのか?いや、荷物はずっと部屋に置いてあった。
誰かのモノを間違えるはずはない。
汰久の不安な気持ちがドクンドクンと心臓を打ち鳴らす。
広げたアウターから微かに漂う匂いをクンクンと嗅いでみる。
この匂い‥知ってる‥あの時、遅くに帰ってきた時の、虎太郎の匂いと同じ‥。
気が付いた瞬間、アウターをビリビリに引き千切りたい衝動を抑えると、それを床に投げつけた。
怒りで眩暈がしそうになる。
汰久の衝動的な怒りが収まるまで、しばらく時間がかかった。
平静を装いながら、汰久は寝室へ向かった。

「‥虎太郎?」

眠っているのか目を瞑っていた虎太郎が、汰久の声に瞳を開く。

「‥ん?‥なに?」

虎太郎はそう聞き返しながら、汰久に視線を送り、その汰久の手に握り締められている物が見えた瞬間、血の気が引いていく。
来栖のアウターを、そのままバックに入れ、忘れていた。

「‥これ、誰の‥?」

冷たく言い放つ汰久に、虎太郎の視線が泳ぐ。

「あっ‥それ、聡に借りたんだった‥‥返すの忘れて‥バックにしまっちゃった‥‥」

ハハッと引き攣った笑いをしながら答えた虎太郎に、冷静に汰久が問い掛ける。

「いつ?いつ借りたの?‥虎太郎、昨日はすぐ寝たよね?」
「えっ‥あっ‥夜‥にトイレに行った時‥そう、寒いだろって‥‥」

自分でもこんな言い訳通用しない事は百も承知だ、だけど、他に言いようがなかった。

「そう、昨日の夜、一度起きたんだね‥虎太郎」
「う‥うん、トイレにね‥あっ‥だけどすぐ寝たよ」
「そっか、じゃあ聡に連絡しなきゃね。持って帰ってごめんって」
「ぼ‥僕がしとくから‥大丈夫」
「そう、じゃあ、お願いね。そうそう、これ‥なんか臭うから‥洗っていい?」

冷ややかに言う汰久の言葉に、虎太郎は頷くしか出来なかった。

汰久は寝室を出ると、キッチン行きそのまま手に持っているアウターをゴミ箱へ投げ捨てた。

「‥クソッ!」

汰久は、来栖に自分達の行為を見られてから、虎太郎の気持ちが自分に向けられていると感じていた。
だから、あの脅しに使った映像が消えてしまっても、そんなものが無くても虎太郎が傍に居てくれると信じていた。
それなのに、自分の知らないところで、知らない事が起こっている。
今、目の前に虎太郎がいたとしても、いつ居なくなるか分からない不安が、汰久の中でどんどん膨れ上がってくる。

夜中に喉が渇いて目が覚めた虎太郎は、汰久を起さないようにベッドを出ると、キッチンへ行き冷蔵庫から水を出し喉を潤した。
ふと何かが目の端に入り視線を向けると、ゴミ箱から黒いものがはみ出ていた。
その見覚えのあるものに、そっとゴミ箱を開くと、来栖のアウターが投げ込まれていた。

「‥‥っ‥ぁぁ‥‥」

それを見た瞬間、胸が張り裂けそうになる。
あの時の優しさと一緒に、自分の感情までも捨てられてしまった感覚。
ガクッと膝から崩れ落ち、アウターを手に取るとそれを抱き締めた。
どれくらいそうしていただろうか、ふと我に返ると虎太郎は、それをまたゴミ箱へと戻した。
そして何事もなかったかのように寝室へ戻って行った。
汰久はよく眠っていた。
その隣に滑り込むように入ると、虎太郎は目を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

【R18+BL】空に月が輝く時

hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。 そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。 告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。 ★BL小説&R18です。

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...