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37話
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医師の診察が終了したのか、病室から出て行った。
看護師が入り口から顔を出し、もう入っても良いと言ってくれたので、遠慮なく入ると、しっかりと目が覚めているのか、虎太郎が来栖を目で追ってくる。
看護師が点滴を確認していたので、来栖は虎太郎に話しかけた。
「市原課長が、若奈のお母さんに連絡を取ったみたいだが、今日は来れないそうだ。明日になると言っていたらしい。心配しているようだから、後で連絡を入れておくといいよ‥」
「‥‥そうですか‥あり‥がとう‥ございます‥」
掠れた声で話すのを聞いていたのか、看護師が来栖に話しかけてきた。
「少し喉を潤した方が良いかもしれませんね。水が良いと思います。買ってきていただいても大丈夫ですよ。あと、今日から入院になりますから、必要な物があって‥ほとんどが下の売店で揃いますが‥若奈さんは、まだ動けないので、お願いできますか?」
看護師が一枚の紙を渡してきた。
入院のしおりと書いた紙には、必要な物が一通り記入されている。
歯ブラシやコップ、それにスリッパなど、結構沢山ある。
「はい、すぐに買ってきます」
そう言って立ち上がった来栖に、虎太郎は申し訳なさそうな顔をして、口を開きかけた。
そんな虎太郎にニコッと笑いかけると、来栖は病室を出て行った。
「クスクスッ‥若奈さん、辛い時や大変な時は、誰かに頼っても良いんじゃないですか?先程、先生も言っていたでしょ?ストレスを溜めるのは良くないですよって」
その看護師の言葉に、虎太郎は何も言えず小さく頷いた。
先程来た医師は、おそらく急性胃腸炎だと言った。
急激で過度なストレスが体に負担を掛けたのだろうと、思い当たる節が多すぎて、虎太郎は言い返すことが出来なかった。
「‥あの会社の人‥本当に心配してましたよ。若奈さんの事を、とても大切に思ってるんだと思います。ふふっ‥」
なんだか嬉しそうに言う看護師の意図は分からないが、自分を慰めてくれている事は理解できた。
「‥はい、すみません」
「謝らないで大丈夫です。私の仕事ですから‥」
ニコッと笑う看護師に、少し心が軽くなった気がした。
「あっ、そうだ。明日、親御さんが来られたら、ナースセンターに声を掛けて下さいね。手続きがありますから。お願いします」
そう言って、看護師はにこやかに病室から出て行った。
一人取り残された病室で、虎太郎は点滴が落ちる雫を見ていたが、いつの間にか重い瞼が閉じていった。
次に虎太郎が目を覚ますと、先程と全く同じシチュエーションで、自分は夢を見ていたのかと思った。
来栖が自分の頬を優しく撫でていたから。
「‥くるす‥しゅにん‥」
声が掠れて上手く声が出せない。
先程と同じように心配そうな顔をしていた来栖が、少し笑みを浮かべた。
「若奈‥気分はどうだ?‥喉が渇いただろ・・?」
優しく触れていた手が名残惜しそうに離れ、コクンと頷いた虎太郎の身体を支えながらゆっくりと起き上がらせると、ミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開け渡してくる。
手を伸ばし受け取ると、微笑んだ来栖が小さく頷く。
吐き気が怖いから、ゆっくりと口に運び、一口飲んでみる。
「‥大丈夫か?‥少しずつ飲むんだぞ」
コクンと頷き、もう一口飲んでみる。
「‥はい、ありがとうございます‥」
「ここに置いておくから、少しずつ飲むといい」
虎太郎が返したペットボトルをベッドサイドに置くと、再び虎太郎の身体を支えながら、またゆっくりと寝かせる。
そして虎太郎の頬に掛かった髪を、優しく梳いてあげる。
「ゆっくり眠ってろ。俺が傍にいるから‥」
その言葉に虎太郎はハッとする。
自分が病院に来てから、今まで汰久に何の連絡も入れてない事に気が付いた。
窓はカーテンが引かれ、外はすでに暗くなっている様だった。
「‥来栖主任、僕はもう大丈夫ですから‥ありがとうございました」
礼を言ってくる虎太郎に、来栖は眉をピクリと動かすと、再びベッドサイドの椅子に腰かける。
「‥若奈に伝言がある」
そう真剣な顔で言われ、虎太郎は頷く。
「市原課長が、お前の退職願は受け取っていないと‥提出したいのであれば自分で会社に来いって‥」
その言葉に、虎太郎の顔がクシャリと崩れる。
それは、泣きそうな‥何かを我慢しているような顔。
「‥‥っ‥」
「ど‥どうした?‥どこか痛いのか‥?‥若奈?」
来栖の言葉に、何度も首を横に振る。
そして点滴で拘束されていない手で顔を隠す姿に、心配な来栖はおろおろとするしかなかった。
「‥うっ‥ううっ‥‥」
「若奈‥泣くな‥俺、何も出来なくて‥ごめんな‥」
触れる事は許されるのだろうか‥そう思いながら虎太郎に触れていた。
眠っている虎太郎はこんなにも穏やかな顔なのに、目を覚ますと苦痛と闘っているように、眉を潜める。
そして今、自分が追い込んでさらに苦しめている虎太郎の姿に、自分の覚悟がグラグラと揺れる。
本当にこれで良いのか‥?その時、市原に言われた言葉が蘇ってくる。
今度はちゃんと‥手を掴み離さない‥。
抱き寄せる事も出来ず、来栖は点滴をしていて動かせない虎太郎の手をギュッと握っていた。
看護師が入り口から顔を出し、もう入っても良いと言ってくれたので、遠慮なく入ると、しっかりと目が覚めているのか、虎太郎が来栖を目で追ってくる。
看護師が点滴を確認していたので、来栖は虎太郎に話しかけた。
「市原課長が、若奈のお母さんに連絡を取ったみたいだが、今日は来れないそうだ。明日になると言っていたらしい。心配しているようだから、後で連絡を入れておくといいよ‥」
「‥‥そうですか‥あり‥がとう‥ございます‥」
掠れた声で話すのを聞いていたのか、看護師が来栖に話しかけてきた。
「少し喉を潤した方が良いかもしれませんね。水が良いと思います。買ってきていただいても大丈夫ですよ。あと、今日から入院になりますから、必要な物があって‥ほとんどが下の売店で揃いますが‥若奈さんは、まだ動けないので、お願いできますか?」
看護師が一枚の紙を渡してきた。
入院のしおりと書いた紙には、必要な物が一通り記入されている。
歯ブラシやコップ、それにスリッパなど、結構沢山ある。
「はい、すぐに買ってきます」
そう言って立ち上がった来栖に、虎太郎は申し訳なさそうな顔をして、口を開きかけた。
そんな虎太郎にニコッと笑いかけると、来栖は病室を出て行った。
「クスクスッ‥若奈さん、辛い時や大変な時は、誰かに頼っても良いんじゃないですか?先程、先生も言っていたでしょ?ストレスを溜めるのは良くないですよって」
その看護師の言葉に、虎太郎は何も言えず小さく頷いた。
先程来た医師は、おそらく急性胃腸炎だと言った。
急激で過度なストレスが体に負担を掛けたのだろうと、思い当たる節が多すぎて、虎太郎は言い返すことが出来なかった。
「‥あの会社の人‥本当に心配してましたよ。若奈さんの事を、とても大切に思ってるんだと思います。ふふっ‥」
なんだか嬉しそうに言う看護師の意図は分からないが、自分を慰めてくれている事は理解できた。
「‥はい、すみません」
「謝らないで大丈夫です。私の仕事ですから‥」
ニコッと笑う看護師に、少し心が軽くなった気がした。
「あっ、そうだ。明日、親御さんが来られたら、ナースセンターに声を掛けて下さいね。手続きがありますから。お願いします」
そう言って、看護師はにこやかに病室から出て行った。
一人取り残された病室で、虎太郎は点滴が落ちる雫を見ていたが、いつの間にか重い瞼が閉じていった。
次に虎太郎が目を覚ますと、先程と全く同じシチュエーションで、自分は夢を見ていたのかと思った。
来栖が自分の頬を優しく撫でていたから。
「‥くるす‥しゅにん‥」
声が掠れて上手く声が出せない。
先程と同じように心配そうな顔をしていた来栖が、少し笑みを浮かべた。
「若奈‥気分はどうだ?‥喉が渇いただろ・・?」
優しく触れていた手が名残惜しそうに離れ、コクンと頷いた虎太郎の身体を支えながらゆっくりと起き上がらせると、ミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開け渡してくる。
手を伸ばし受け取ると、微笑んだ来栖が小さく頷く。
吐き気が怖いから、ゆっくりと口に運び、一口飲んでみる。
「‥大丈夫か?‥少しずつ飲むんだぞ」
コクンと頷き、もう一口飲んでみる。
「‥はい、ありがとうございます‥」
「ここに置いておくから、少しずつ飲むといい」
虎太郎が返したペットボトルをベッドサイドに置くと、再び虎太郎の身体を支えながら、またゆっくりと寝かせる。
そして虎太郎の頬に掛かった髪を、優しく梳いてあげる。
「ゆっくり眠ってろ。俺が傍にいるから‥」
その言葉に虎太郎はハッとする。
自分が病院に来てから、今まで汰久に何の連絡も入れてない事に気が付いた。
窓はカーテンが引かれ、外はすでに暗くなっている様だった。
「‥来栖主任、僕はもう大丈夫ですから‥ありがとうございました」
礼を言ってくる虎太郎に、来栖は眉をピクリと動かすと、再びベッドサイドの椅子に腰かける。
「‥若奈に伝言がある」
そう真剣な顔で言われ、虎太郎は頷く。
「市原課長が、お前の退職願は受け取っていないと‥提出したいのであれば自分で会社に来いって‥」
その言葉に、虎太郎の顔がクシャリと崩れる。
それは、泣きそうな‥何かを我慢しているような顔。
「‥‥っ‥」
「ど‥どうした?‥どこか痛いのか‥?‥若奈?」
来栖の言葉に、何度も首を横に振る。
そして点滴で拘束されていない手で顔を隠す姿に、心配な来栖はおろおろとするしかなかった。
「‥うっ‥ううっ‥‥」
「若奈‥泣くな‥俺、何も出来なくて‥ごめんな‥」
触れる事は許されるのだろうか‥そう思いながら虎太郎に触れていた。
眠っている虎太郎はこんなにも穏やかな顔なのに、目を覚ますと苦痛と闘っているように、眉を潜める。
そして今、自分が追い込んでさらに苦しめている虎太郎の姿に、自分の覚悟がグラグラと揺れる。
本当にこれで良いのか‥?その時、市原に言われた言葉が蘇ってくる。
今度はちゃんと‥手を掴み離さない‥。
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