愛に抗うまで

白樫 猫

文字の大きさ
55 / 58

55話

しおりを挟む
来栖のマンションに着くと、お互いに意識しすぎてギクシャクとなり、虎太郎も緊張しているのか繋いだ手が汗ばんでいる。
来栖も、こんなに緊張するなんて今まで一度もなかった事で、ドキドキしている自分が可笑しく思わず笑ってしまう。

「クスッ‥ごめん。なんか可笑しくって‥」

緊張が一気に解け、虎太郎も引き攣った顔がホッとしたような笑顔になる。
来栖がリビングでコートを脱ぐとニット越しに逞しい背中があらわれ、虎太郎は思わず見とれてしまう。

「シャワー浴びる?それとも何か飲む?」

虎太郎の脱いだ上着も受け取り、ハンガーに掛けてくれている来栖が聞いてくる。

「‥シャワー借ります」

このままだと、自分から抱き付いてしまいそうになり、虎太郎は浴室へと向かう。

「じゃあ、着替え出しとくから」

後ろから声を掛けると、虎太郎が返事をしながら浴室へと消えていき、来栖は脱力しながらソファにドサッと座り頭を抱え込んだ。

「‥くっそ‥可愛すぎる‥」

先程から、虎太郎の視線に気が付いていた。
タクシーに乗った時も、自分がコートを脱いだ時も、視線を感じるが、振り向くと目を逸らし頬を赤らめる。
なんだ、あの可愛い生き物は‥。

「平常心だ‥平常心‥」

呪文の様に唱え、心を落ち着かせる。


虎太郎がシャワーから出ると、来栖が用意してくれていたパジャマを着る。
すると自分のサイズにピッタリで、来栖が事前に用意してくれていた事に嬉しくなった。
先程のドキドキが少し収まった気がするが、それでも緊張は薄れない。

「シャワーありがとうございます‥それと、このパジャマ‥ありがとうございます」

ソファに座っていた来栖が振り向くと、頬を赤らめた虎太郎が、パジャマの裾をモジモジと握り締め立っている姿に、胸がキュンと音を立てる。

「ああ、ピッタリで良かった。じゃあ、俺も入ってこようかな‥」

そっけなく返事を返してしまうが、どうにも正面から虎太郎の事を見れない。

「これ、虎太郎がこないだ気に入っていたお酒、用意してあるけど、飲むか?」

来栖が指さした方を見ると、以前、眠れなくなった時に作ってくれた蜂蜜入りのブランデーが置いてあった。

「あっ、美味しいやつ‥飲みます」

嬉しそうな虎太郎に、来栖も微笑むと、自分が持っていたグラスをテーブルに置き、浴室へと向かった。


シャワーを浴びリビングに戻ると、虎太郎がグラスを両手で持ちチビチビと口に運んでいた。
先程より頬が赤くなっているのは、酔っているのだろう。

「どう?美味しい?」
「はい。何杯でもいけちゃいそうです」
「クスッ‥好きなだけ飲んでいいけど‥寝ちゃダメだよ‥」

来栖がウィンクをしながら口にした言葉に、虎太郎が耳まで赤くなり口をパクパクさせた。

「ねっ‥寝ません‥」

来栖は虎太郎に近づき、虎太郎の手からグラスを取りテーブルに置くと、息が掛かるくらいまで顔を近づけ鼻先で触れ合う。

「‥虎太郎‥好きだよ」

優しく触れる唇がチュッと音を鳴らし、何度も啄む様な口づけを虎太郎の顔中に落としていく。

「‥んっ‥‥はぁ‥‥」

もどかしいくらい優しいキスで、蕩けそうな顔をした虎太郎が来栖の首に腕を回すと、自分から強請っているように、身体を密着させる。
来栖の口づけが頬から耳に移動し、首筋に熱い吐息が掛かると、それだけで身体に痺れる感覚が走り、思わず声が漏れる。

「‥‥ぁ‥っ‥‥」
「‥‥ベッドに行く?」

来栖が耳元で囁くと、虎太郎は来栖の肩に顔を埋めながら小さく頷いた。
ひょいっと来栖に抱えられると、虎太郎の腕がギュッと来栖の首にしがみ付く。
寝室まで運ばれると、虎太郎はベッドに優しく降ろされた。
横たわる虎太郎の隣に来栖が腰掛けると、虎太郎の頬に触れ優しく撫でる。
その瞳には優しさが溢れ、虎太郎は涙が出そうになる。

「‥虎太郎‥俺はいくらでも待てるし、無理強いはしたくない‥だから、もし怖かったり止めて欲しかったら、ちゃんと言って欲しい‥分かった?」

傷付けないように優しく伝えてくる来栖に、虎太郎は目の奥が熱くなる。

「怖くないよ‥来栖主任‥大好き」

そう言って伸ばされた手が来栖の頬に触れると、引き寄せられるように顔が近づき口づけを交わす。
受け入れる唇からは吐息が漏れ、絡めとられる舌が艶かしく蠢く。
唇の隙間から唾液が漏れ、甘い声と湿った音が響いていく。
来栖の手が虎太郎のパジャマをゆっくりと剥ぎ取り、露になった白い肌に手を這わすと、まるで別の生き物のように身体を波打たせる。
離した唇から銀の糸が引き、虎太郎の舌が名残惜しそうに差し出され、荒い呼吸が唇に触れると、来栖の下半身がズンと重く痺れる。

――俺‥ヤバいかも‥。

潤んだ瞳で見つめられると、まるで魔法を掛けられた様に夢中になり虎太郎の唇に吸い付き、誘われるがまま唇を押し開き口内を弄る。

「‥‥んぁ‥‥はぁ‥‥」

途切れ途切れの熱く湿った吐息が漏れ、来栖の手が撓る身体の小さな突起に触れると、またビクッと身体が反応する。
ゆっくりと壊れ物に触れる様に、優しく時間をかけて愛撫していく。
虎太郎は、来栖の手に翻弄されるように、まるで自分の身体がオーブンに入れられたチーズの様に蕩けていくのを感じていた。
虎太郎のグズグズに蕩け切った身体の中心にある昂ぶりは、まだ一度も触れられていないのに、もうすでに限界を迎えようとしている。
すると来栖が自分の昂ぶりをグイッと虎太郎に押し付けてきた。
すでに成長しているそれは、雄々しく存在感を放っており、虎太郎は自分と同じ思いに嬉しくなる。
薄っすらと開いた瞳から見えるのは、来栖の欲情を含んだ瞳で、その瞳を見た瞬間に、自分の腹の奥にある秘部がドクンドクンと波打ち始める。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

処理中です...